清水苑に戻った千鶴たちは、玄関をくぐるなり家の様子がおかしいことに気づいた。海人は通りがかった使用人を呼び止め、尋ねた。「母さんは?」「海人様」使用人は慌てた様子で答えた。「奥様が突然倒れられまして、旦那様も救急車で一緒に病院へ向かわれました」「どこの病院だ?」彰人と海人の声が重なった。千鶴も眉をひそめた。「喧嘩でもしたの?」このところ真里奈の体調は以前よりずっと良くなったはずだ。突然倒れるなんて考えにくい。一番可能性が高いのは、淳平が千遥の件でまた真里奈と揉め、彼女を怒らせて気絶させたことだろう。使用人はどちらの質問に先に答えるべきか迷ったようだが、少し考えを整理してから口を開いた。「喧嘩はしておりません。夕食の時も普段通りでした。奥様は食後、裏庭でリハビリをされている最中に倒れられたのです」そして、彰人と海人に向き直り、「搬送先は黒川総合病院です」と告げた。黒川グループ傘下の病院だ。どの診療科にも業界トップクラスの名医が揃っている。「すぐ父さんに電話して、状況を聞いて」千鶴は氷のように冷たい表情で彰人に指示を出すと、かけたばかりの上着を掴んで病院へ向かおうとして、その手は止めず、使用人に問いかけた。「母さんが倒れた時、桃子は何をしてたんだ?」「あの方は……」使用人は記憶を辿り、ためらいがちに答えた。「今夜は旦那様とご一緒のお戻りで、監禁を続けるという指示もありませんでした。奥様が倒れられた時、ちょうど裏庭に行っていたようです」「分かった」千鶴がドアを開けて車に近づくと、電話を終えた彰人が駆け寄ってきた。「母さんはもう目を覚ました。血圧も正常のようです。ただ、ひたすらごちゃんのことを心配して聞いているみたいです」清水苑の中でも、梨花が拉致されたことを知る者はほとんどいない。淳平は千遥の件では判断を誤ったが、長年連れ添った真里奈のことに関しては一度も不注意な真似をしたことがない。口を滑らせるとは思えなかった。千鶴は目を細め、車に乗り込みながら、一緒に乗ろうとした海人を制止した。「彰人とで病院へ行くわ。あなたは家に残って」海人が尋ねる。「俺が残って何するんですか?」「夜のうちに桃子を原口家へ放り込んで」千鶴はそう言い捨てると、海人が意味を理解
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