帰国した初日。桐谷枝里子(きりたに えりこ)は、婚約者の西原越也(にしはら えつや)が心を込めて用意した帰国祝いの宴で、彼の愛人――江川詩織(えかわ しおり)と初めて顔を合わせた。半分ほど開いている個室の扉から覗くと、一人の少女の姿が目に入った。彼女の頬にはかすかな赤が差し、怯えたように視線を揺らしている。色褪せたシャツを身にまとい、熟れた白桃のような瑞々しさと甘さを放つ――一口かじれば甘汁が溢れそうな、魅惑的な雰囲気だった。少女は取り囲んだ男たちに無理やり酒を飲まされている。一杯あおられるたび、男たちは得意げに笑い、「一杯は二十万だ、もう一杯いけ!」と下品な声をあげた。五年ぶりに見る顔ぶれだが、彼らは相変わらず放蕩と傲慢さを隠そうともしない。枝里子の胸の奥に、不快感がじわりと広がる。彼女が扉に手をかけたそのとき――背後でエレベーターの扉が開き、二時間も遅れて越也が現れた。上質なシルクのダークシャツを着こなし、急ぎ足に歩み寄ってくる。上がり気味の目尻がうっすらと赤く、乱れた髪と呼吸が、急いできたことを物語っていた。彼は枝里子を見つけるなり、ぱっと笑みを浮かべ、すぐに彼女の肩に自分の上着を掛けた。「遅くなってごめん、枝里子。こんな薄着で……風邪ひいたらどうするんだ?」枝里子の腰に腕を回し、越也は甘い声で囁く。だが、彼の視線が個室の奥へと流れた瞬間、腕が一瞬だけ固くなったのを枝里子は見逃さなかった。越也の視線の先では、少女が咳き込みながら涙をこぼしていた。だが、越也の姿を見ると、彼女はすぐに手で涙を拭い取った。その横顔は計算された美しさをまとい、枝里子が事前に調べた通り、詩織は見た目のように「無垢」ではなかった。個室の中では、タチの悪いからかいが続いていた。若い男の一人が、少女の顎を指先で持ち上げ、鼻で笑う。「桐谷さんが帰ってきた以上、越也さんがお前を捨てるに決まってる。お前はな、所詮桐谷さんがいない間の代用品にすぎないんだぞ」別の男が下品に続ける。「とはいえ、二年も越也さんのそばにいたんだろ?越也さんに土下座すれば、情けで小遣いくらいはもらえるんじゃねえの?」その瞬間、腰を抱く越也の腕に力がこもり、枝里子は痛みに顔をしかめた。すぐに彼は軽く咳払いし、何事もなかったように枝里
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