もし離婚することになっても、素羽は司野との縁が完全に切れる前に、どうしても芳枝の命を繋いでおかなければならなかった。夏輝は率直に告げる。「正直、簡単な話じゃない。でも、絶対に無理ってわけでもない。ただ、少し時間がかかる」「須藤家が北町でどれだけの地位か、わかってます?」素羽が念を押すと、夏輝は微笑んで返した。「心配するな。彼は俺に手出しはできないさ」夏輝は本来、港町出身だったが、須藤家とてあちらでは無力なわけではない。清人が選んだ弁護士だけあって、只者ではなかった。素羽は昔から、清人が普通の家柄じゃないと感じていたが、それは間違いではなかった。類は友を呼ぶ。結局、人は自分と同じ階層の者としか交わらないものだ。素羽はそれ以上深入りせず、グラスを持ち上げた。「この件、どうかお願いします」夏輝は素羽の隣にいる清人を横目で見て、にやりと笑みを浮かべ、グラスを軽く合わせた。それが承諾の合図だった。素羽は途中でトイレに立った。個室には二人の男だけが残る。夏輝はからかうように言った。「これが清人が高額で俺に依頼させた理由か?」彼は素羽に嘘は言わない。司野は確かにそう簡単に自分には手を出せない。だが、もし清人が間に入らなければ、そもそもこの依頼を受けることさえなかっただろう。手は出せないが、わざわざ厄介ごとを背負い込む必要もない。「まさか、清人がそういう趣味とは思わなかったな」離婚間近とはいえ、まだ人妻だ。清人は鋭い視線を送るが、夏輝は動じず、さらに続ける。「まだ何も言ってないのに、もう庇うのか?」「彼女の前で変なことを言うな」夏輝は笑みを浮かべたまま、何も言い返さなかった。司野はもう三日も家に帰っていなかった。冷え切った部屋を見て、心は虚しさに包まれるが、次第にそれにも慣れてきた。彼が美宜と一緒にいるかどうかなんて、もうどうでもいい。シャワーを浴びて、眠る。翌朝、仕事へ向かう。だが、そんな日常は突然終わりを告げる。仕事場に着いて間もなく、病院から電話が入る。芳枝が倒れたというのだ。素羽は真っ青になり、慌てて病院へ駆けつけた。到着した時、芳枝はまだ意識が戻っていなかった。「どうしてこんなことに……」素羽は急いで看護師に事情を尋ねる。看護師は責任を感じているのか、知っている限り
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