芳枝はあわてて言った。「そんなに大変なの?素羽、こっちはもう平気だから、司野くんの点滴につきそってあげて」「でも、先におばあちゃんを病室まで……」だが、芳枝は首を振って、「いいのよ、すぐそこだもの。一人で戻れるから、素羽は旦那さんのそばにいてあげなさい」と、ぐいっと背中を押してきた。「……」点滴室。看護師が注意を促す。「この点滴は眠くなりやすいですから、ご家族の方はよく様子を見ていてください。何かあればすぐ呼んでくださいね」看護師は女二人に男一人を見て、どうにも違和感を覚えるらしい。「家族」の美宜がすぐに返事をする。「はい、分かりました」看護師だけじゃない。素羽もどこか落ち着かない。昨夜のあの光景が、まだ脳裏に焼き付いていて、今も胸の奥がざわつく。素羽は口を開いた。「ここはもう人がいるから、私は先に行くね」このまま二人の仲睦まじい様子なんて、見ていられない。そのとき、司野の視線がふいに彼女のうなじの赤い痕をとらえた。目を細めて聞く。「昨夜、どこに行ってた?」その声に、素羽の足が止まる。司野の顔は探るような色を浮かべている。どうやら昨晩のことは、まったく覚えていないらしい。素羽は平然を装う。「楓華のところに行ってたの」だが、司野はしつこく食い下がる。「自分が既婚者だってこと、忘れてないよな?夜中に帰らないって、須藤家の評判を考えたことある?」その言葉に、素羽は思わず笑ってしまう。自分のことは棚に上げて、何たるダブルスタンダード!美宜が取りなすように言う。「司野さん、そんな言い方しなくても……素羽さんにも事情があったんじゃない?夜に出なきゃいけない用事だったのかも」司野の顔がさらに暗くなる。「そんなに人に言えないことなのか?わざわざ夜中に会いに行くなんて」素羽の顔が引きつる。彼の言いたいことなんて、痛いほどわかる。目の前に美宜がいるっていうのに、これ見よがしに含みを持たせる――自分への配慮なんて、これっぽっちもない。素羽は堪えきれずに、「司野、私はあなたが考えてるような人間じゃない!」と声を荒げた。本当に、よこしまなのはそっちのほうだから!司野は冷たく応じる。「そうだといい」そう言って視線を外し、目を閉じて休息をとるふりをする。素羽の胸には、飲み込めない怒りがくすぶり続けてい
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