素羽は、自分の魅力を最大限に引き出せる服に着替え、香水をひと吹きしてから、果物の盛り合わせを手に書斎の扉をノックした。司野は物音に気づいても顔を上げなかった。この家で彼の書斎に入れるのは、素羽だけだからだ。彼が書斎で仕事をしていると、素羽はコーヒーか果物を届けてくるのが日常で、司野もすっかり慣れていた。最後の書類にサインを終え、ようやく司野は顔を上げた。「家には使用人もいるんだ、わざわざ持ってこなくても……」言い終える前に、予想外の顔が目に入り、司野の眉間がわずかに寄った。「お前か?」果物を持っていたのは、素羽ではなく、祐佳だった。祐佳は、場の空気を読んですぐに素羽を理由に使う。「お姉さん、足が悪いから、私が代わりに持ってきたの」その言葉を聞いても、司野はすぐには眉を緩めなかった。何か思案するように、目に影が差す。「そこに置いて、もう下がってくれ」冷たい声に、祐佳は逆らえず、素直に果物を置いて退出した。正直、彼が怖い。今まで出会ったチャラい金持ちの二世とは格が違う。司野は本物のビジネスマンで、彼女の父親よりも遥かに威厳がある。本当は、素羽がいなければ、司野と関わろうなんて思わなかった。だって、江原家と須藤家じゃ、次元が違うから。でも、素羽みたいな「出来損ない」でも司野に嫁げるなら、自分だって――そう思った瞬間、心がざわつく。「お義兄さん」祐佳はもう少し自分の魅力をアピールしようとしたが、司野の冷たい視線に撃沈した。「何か用か?」喉を掴まれたように声が詰まり、祐佳は無理に笑顔を作った。「い、いえ、何でもない。お義兄さん、お仕事頑張って。私はお姉さんのところに行くね」そう言うと、そそくさと書斎を出て行った。扉が閉まった瞬間、思わず息を吐き出す。背中には冷や汗。怖すぎる。本当に、自分は司野を誘惑し続けるつもりなんだろうか?物音で素羽が気配に気づく。祐佳の様子を見て、内心「また失敗したな」とすぐ分かった。寝る時間になり、素羽は風呂に入ってからベッドに入った。まだ眠りにつく前、寝室のドアが開き、聞き慣れた足音がする。司野が先にクローゼットへ行き、次にバスルームへ。ほどなくして、水の音が静かに響いた。司野のシャワーは早い。数分もしないうちに済ませ、ベッドの布団がめくれ
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