Semua Bab 家族みんな、妹だけを愛してる: Bab 1 - Bab 10

11 Bab

第1話

私と早瀬愼吾(はやせ しんご)は七年付き合って、ようやく結婚することになった。ドレッサーの前に座り、三度もファンデーションを重ねて、やっと青白くやつれた顔を隠した。その時、背後から足音が聞こえ、鏡の中に母・小林鈴美(こばやし すずみ)の姿が映る。「千暁」私は一瞬、背筋が凍りついた。無理やり立ち上がって、彼女にとってつけたような笑顔を向ける。「お母さん、もう来てたんだ」だけど鈴美は突然、ナイフを取り出し、自分の首元に押し当てて、私に懇願した。「ねえ、千暁の結婚式、百萌に譲ってくれない?占い師がね、百萌の病気は喜び事があれば良くなるって言ってたの。百萌はずっと愼吾のことが好きだった。彼と結婚すれば、きっとよくなるから……」鈴美は私が断るのを恐れてか、ナイフの先で首筋を切り、血がにじんできた。脅すように言う。「もし譲らないなら、ここで死んでやる。そうしたら、千暁の結婚もぶち壊しだよ」頭が真っ白になった。信じられない。「百萌が欲しいものは、何だって私が譲らなきゃいけないの?私の肝臓も、結婚式も、ウエディングドレスも、指輪も、果ては私の恋人までも?」「そうよ!」鈴美は食い気味に言い切った。「もし洋司おじさんがいなかったら、私たち家族はとっくに路頭に迷ってたのよ。千暁、百萌には借りがあるのよ」鈴美が尾田洋司(おだ ようじ)と再婚している。私と兄・小林滉一(こばやし こういち)を尾田家に連れてきてから、このセリフは耳にタコができるほど聞かされてきた。私は尾田百萌(おだ ももえ)に借りがある、と。小さい頃から、何でも百萌に譲ってきた。母と兄の愛情も。私が好きなオモチャやワンピースも。試験の成績すらも。今、私に残ったのは愼吾だけなのに。どうして、それまで奪われなきゃいけないの?私は、必死に自分の声を探した。やっとの思いで口を開く。「もし、譲らなかったら?」鈴美は驚いたように固まった。私が拒むなんて、思ってもなかったのだろう。その瞬間、滉一がドレッサーのドアを蹴破って入ってきた。冷たい顔で部屋に入ってきて、鈴美の手からナイフを奪い取ると、私の顔を思い切り平手打ちした。「千暁、お前は本当に恩知らずだな!誰がお母さんにそんな口をきいていいって許したんだ?た
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第2話

彼女は結局、無理やり私からウェディングドレスを奪った。「百萌は最近すごく痩せちゃって、このドレス着られるか心配だわ。もっと早くから千暁に食事制限させればよかったのに」そんなことを口走りながら、彼女はウェディングドレスを抱えて、百萌のもとへと駆けていった。その時になって、滉一はやっと私の手を無造作に振り払った。私の骨ばった手首を見て、一瞬驚いた表情を浮かべる。「千暁、なんでそんなに痩せたんだ?」鼻の奥がツンと痛む。二年前、私は百萌と同じ交通事故に遭った。それからというもの、鈴美は毎日百萌のために、あの手この手で料理を作り続けた。百萌が残したものだけが、私の分だった。私と百萌の好みはまるで違う。百萌が好きなものは、私の苦手なものばかり。私が少しでも嫌そうな顔をすれば、鈴美は泣きながら「どんなに大変か分かる?」と訴えてくる。結局、私は無理やり数口だけ飲み込むしかなかった。あの時からだ。私は拒食症になった。急激に痩せていった私を、誰も気に留めなかった。家族も、みんな百萌のことばかり。あのウェディングドレス、百萌が着るにはかなり厳しいんじゃないか。私は小さく笑って答える。「それが、お兄ちゃんに何の関係があるの?百萌が元気なら、それでいいでしょう。私みたいな人間、死んだらみんな気が楽になるのに」「いい加減にしろ!」滉一は苛立ったようにドアを強く閉めて出ていった。去り際に、捨て台詞を残す。「この件は愼吾も同意してる。もう騒ぐな。ここで大人しくしてろ。二人の結婚式を邪魔するな」自嘲の笑みが漏れる。そうか、私は愼吾さえも、引き止められなかったんだ。すると、再び部屋のドアが開く。鈴美が満面の笑みで、ピンク色のドレスを持って入ってきた。「千暁、百萌は、まだブライズメイドが足りないのよ。これに着替えてちょうだい。それから、その顔の花嫁メイクも落としなさい。百萌の邪魔になるでしょ?」私が動かないでいると、鈴美は自分の手で私にドレスを着せ始める。その間も、式の段取りを一方的に言い聞かせてくる。「あとで愼吾をじっと見たりしないでよ。あの人はもう妹の旦那になるんだから、ちゃんと距離を取りなさい」滑稽だ。私が避けなきゃいけないなんて。つい、声を出して笑ってし
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第3話

待つ、だって?私にそんな時間なんて、もう残されてない。バッグの中の健康診断の結果をぎゅっと握りしめて、ぐしゃぐしゃに丸めて、そのままゴミ箱に放り投げた。もういいや、どうせ誰も気にしない。私はただ、静かに消えてしまえばいい。私が死ねば、全部百萌のものになる。私が死ねば、きっとみんな満足して、幸せになれるんだろう。二年前、私が百萌をコンテスト会場まで送っていく途中、交差点で口論になった。私は厳しく言った。「ここは左折禁止の車線だ」でも百萌は、私が近道を使わなかったのは、彼女への嫉妬で、わざと大会に遅刻させようとしているのだと決めつけてきた。だから、突然狂ったようにハンドルを奪おうとした。そのせいで、対向車と正面衝突した。鈴美と滉一が到着したとき、事情も聞かずに私を責め立てた。鈴美は唾を飛ばしながら叫んだ。「どうしてこんな運転をしたの?見てごらん、百萌の足がどれだけ酷いことになったか分かってるの?彼女はダンサーになる子なのよ!なんで怪我したのがあんたじゃないの!」滉一は冷たい顔で言った。「千暁、お前はなんて悪意の塊なんだ。百萌を殺したいのか?」そう言い捨てて、私には見向きもせず、慌てて百萌を抱えて救急車に乗り込んで行った。私はただ、遠ざかる救急車を見つめて、言いたかった。私も怪我をしているの、右腕が動かない、頭もすごく痛い……でも分かってた。私が口を開けば、返ってくるのはきっと、「そんな小さな怪我で、なんて大袈裟なの!」その一言だけだって。あの事故のあと、百萌の足には、三センチの傷跡が残った。私は、腕が粉砕骨折して、頭も十二針縫った。百萌は、その消えない三センチの傷跡のせいでうつになった。鈴美は毎日、彼女のために手を変え品を変え栄養食を作った。滉一はちょくちょくプレゼントを買って、彼女を慰めていた。私は一人、自分の部屋で孤独に過ごしていた。腕にはボルト、頭は包帯でぐるぐる巻き。鈴美が百萌のために作ったご飯の、余り物を食べながら。そのころ、鈴美はよく言っていた。「千暁、感謝の気持ちを忘れちゃダメよ。洋司おじさんがいなかったら、あんたはご飯も食べられないんだから」今、私はようやく死ねる。もう、彼らの施しに頼らなくていい。私は式場の隅で、私が選んだ
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第4話

「千暁、あの夜、ちゃんと避妊はしたはずだよな」愼吾が躊躇いがちに口を開く。私は一瞬きょとんとして、すぐに彼の真意を理解した。彼は、この子どもが自分の子じゃないって疑ってるんだ。私はその言葉に、静かに微笑んでから、喉を整える。「そうだよ。子どもは愼吾のじゃない」私があっさり認めたことに、愼吾は予想外だったのか、怒りで顔を真っ赤にする。彼は私を睨みつけて、詰め寄る。「じゃあ、誰のなんだ?」「関係ないだろう?義弟さん」愼吾の表情はますます暗くなる。「千暁、お前、自分を大事にしないのか?お前の家族が百萌ばかり可愛がるって文句言うけどさ、自分のことちゃんと見てみろよ。どこが彼女より勝ってるんだ?」「そう。じゃあ、みんなで百萌のこと好きになればいいじゃない」私がそう言い放つと、愼吾は怒りで我を忘れ、私の手首を掴んで吐き捨てる。「教えろ、その男は誰だ!」しまいには滉一までが言う。「千暁、はっきりしろよ。俺たちでそのクズ野郎を懲らしめてやる!」思わず、私はぷっと吹き出してしまった。「私、妊娠なんてしてないよ。実は……もう末期の病気なんだ……」滉一は思い切り私の頬を叩いた。「百萌に肝臓をあげたくないからって、そんな嘘までつくのか!百萌がこんな目にあったのはお前のせいだろ!なんて性根が腐ってるんだ!」私は、まるで冤罪だと心の中で叫んでいた。百萌は、うつ病でこっそりタバコや酒に手を出し始め、一年前の健康診断で肝臓に異常が見つかった。適合する肝臓が必要になり、家族みんなで血液検査を受けることに。私も、滉一も、洋司も、そして百萌も、みんなA型だった。百萌には「3人の候補者」がいるってわけ。その日、鈴美と滉一、そして洋司が、私を市内で一番有名なレストランに連れていってくれた。おしゃれな名前の料理をいくつも注文して。けど、料理が運ばれてきて初めて気づいた。どれもこれも、全部百萌の好物ばかり。私の苦手な調味料が、全皿に入ってる。それでも鈴美は、私に料理をよそいながらこう言う。「百萌の好み、つい慣れちゃっててね。辛いの苦手なら、唐辛子だけどければいいのよ」私は唇をかみしめて、箸をきつく握りしめ、鈴美を見つめる。けど、言葉は出なかった。鈴美が言う。
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第5話

私は火照った顔を手で覆った。しばらく沈黙した後、絶望的な気持ちで鈴美を見つめる。「わかった。百萌に肝臓を提供するよ」私の返事を聞いた瞬間、鈴美は満面の笑みを浮かべた。百萌の世話をしたくて仕方がない様子を隠しきれず、すぐさま店員を呼んで言った。「すみません、ここの料理、全部もう一度温め直してもらえますか?それと、全部持ち帰りでお願いします」そう言いながら、ぶつぶつと言う。「百萌はこのお店の料理が大好きなんだから」私は苦笑いを浮かべるしかなかった。百萌はこういう高級レストランが大好きらしいけど、私にとってはここが初めてだった。まるで田舎者みたいに、メニューの名前ひとつひとつが新鮮に聞こえる。やがて、店員が料理を丁寧に包んで持ってきた。滉一と鈴美、それに洋司も同時に席を立つ。百萌が空腹になるのを心配しているのか、私に余計な言葉は一つもかけず、三人はそのまま個室を出て行った。私はぽつんと広いテーブルに取り残され、胸の中に溢れる寂しさや悔しさを誰にもぶつけることができなかった。思い返せば十年前。父がまだ生きていた頃は、鈴美も滉一も私をとても可愛がってくれていた。私は鶏モモが好きだったけど、滉一はいつも「自分はあんまり好きじゃないんだ」と言って、自分の分を私によそってくれた。雨の日は、滉一がわざわざ学校まで迎えに来てくれて、私をおんぶして帰ってくれた。私がトラブルを起こした時も、誰よりも早く駆けつけて助けてくれた。私が嬉しい時は一緒に笑ってくれて、悲しい時はどんな手を使ってでも私を元気づけてくれた。この幸せが永遠に続くと、私は信じて疑わなかった。それなのに、十年前、父は工事現場で事故に遭い、帰らぬ人となった。鈴美は私と滉一を連れて、洋司と再婚した。本来なら私のものであったはずの愛情は、跡形もなく消えてしまった。父の死と母の急な再婚がきっかけで、私はだんだん口数が少なくなり、以前のような明るさも消えてしまった。鈴美も滉一も、もう私が悲しい時に慰めてくれることはなかった。代わりに現れたのが、百萌だった。彼女は鈴美や滉一の前では、愛らしくて素直で、まるで天使のように振る舞っていた。でも二人がいない時は、わざと父の悲しい死をネタにして私を挑発し、私が感情を爆発させるとすぐ
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第6話

かつては私を一番可愛がってくれた滉一でさえ、尾田家に来てからは、血の繋がりもないあの妹ばかりを贔屓するようになった。時には私のことを「嫉妬深い、心が狭い」と責めることさえある。全部百萌のために。学校に通っていた頃、百萌はよく「歩けないよ」と滉一に甘えていた。すると滉一は、迷うことなくしゃがみこんで、優しいまなざしで「おいで」と背中を差し出す。私はと言えば、二人に押し付けられたランドセルを抱え、ぽつんと後ろからついていくだけ。目に涙をいっぱい溜めて。尾田家に来てからは、滉一の背中は、もう私の居場所じゃなくなったんだ。あの頃を思い出す。百萌はいつも、鈴美や滉一のいないところで私に自慢してきた。「ねえお姉ちゃん、お母さんもお兄ちゃんも、全然お姉ちゃんのこと好きじゃないって気づいてる?この家に、お姉ちゃんなんていらないよ」見下すように私を一瞥すると、彼女はすぐ滉一の腕にしがみついて甘えだす。「お兄ちゃん、お散歩行きたい」私は滉一を見て、ほんの少し前まで私の宿題を見てほしいと頼んでいたことを思い出す。その時の滉一は、眉をひそめて冷たく「今、忙しい」とだけ言って、私を突き放した。でも、百萌が「お散歩」と言えば、即座に「うん」と頷いて彼女と出かけてしまう。二人が去るとき、百萌は振り返って舌をぺろっと出す。「お兄ちゃんは私のものだよ」と宣言しているみたいだった。その瞬間、私は悟った。もう、兄も母も、私には帰ってこないのだと。「それでは、新婦のお姉様にご登壇いただき、新郎新婦に祝福のお言葉をいただきましょう!」司会者の高らかな声が、私を現実に引き戻す。会場中の視線が一斉に私に集まる。私は百萌と愼吾を見つめる。誰も、こんな役目が私に回ってくるなんて、教えてくれなかったのに。呆然としている私に、百萌は無邪気な笑顔を向けながらささやく。「お姉ちゃん、愼吾のこと好きなの知ってるよ。でも、愼吾が好きなのはずっと私だけ。他のものなら全部譲ってあげる。でも、愼吾だけは絶対譲らない。だから、もうこれ以上、愼吾を奪おうとしないでね?」彼女の声には、誰が聞いても分かる裏の意味が込められていた。その瞬間、会場のざわめきが私に向く。「略奪女」なんて罵りの声さえ聞こえる。だけど、鈴美も滉一も、誰一人
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第7話

百萌は愼吾の言葉を聞いた瞬間、彼を突き飛ばして、狂ったように叫び声をあげた。愼吾は百萌をぎゅっと抱きしめて、優しくあやそうとする。洋司はすぐさま駆けつけてきて、作り笑いを浮かべながら言う。「千暁、百萌の病状はまだ安定していないんだ。もう少し待ってくれないか?彼女の体調が良くなったら、おじさんが必ず千暁と愼吾の結婚式を盛大にやり直してやるよ」私は何か言おうとした。すると、鈴美が歩いてきて、かつて怪我をした私の腕を強く引っ張った。「千暁、洋司おじさんは実の娘のように大事にしてくれているんだよ。百萌は妹なんだよ。どうしてもう少し待てないの?どうしてわざわざ百萌を刺激するの?」鈴美の手が私の腕を締め付け、腹の痛みが増す。これまで我慢してきた全ての屈辱が胸に溢れた。涙が目にたまり、とうとう口を開いた。「お母さんの目にも心にも、百萌しかいないの?私がお母さんの本当の娘だって、覚えてる?」鈴美は一瞬ためらい、渋々私の腕を離した。「どうして最近、そんなにワガママばかり言うの?なんでも百萌と張り合って!忘れないで。今食べてるものも使ってるものも、全部洋司おじさんが与えてくれたものよ。恩返ししろとは言わない。でも感謝の気持ちは持ちなさい!」鈴美はそう言い放つと、私を睨みつけて、百萌の元へ向かった。そして声色を一変させ、優しい声で囁く。「百萌、怖くないよ。お母さんがついてるから、絶対にお姉ちゃんに愼吾を奪われたりしないからね」私は服の裾をぎゅっと握りしめ、涙をこらえた。その時、滉一がやってきて、鈴美が百萌を慰める声を聞いた。何も事情を聞かず、私の前にやってきて、またあの骨折した腕を強く掴んだ。歯を食いしばりながら怒鳴る。「千暁、お前男に飢えてるのか?どうして愼吾を百萌と取り合うんだ!愼吾がいなきゃ、お前は死ぬのか?」彼は私を突き飛ばして、百萌を慰めに行った。私は痛みに耐えきれず、その場に倒れ込んだ。私は彼ら一人一人を見つめた。その憎しみのこもった顔が、次々と脳裏に浮かぶ。心ない罵声が耳にこびりつく。熱い涙を必死にこらえた。私は気づいた。この瞬間、愼吾との関係は完全に終わったのだと。母や兄との家族の縁も、もう戻ることはないのだと。私は彼らを見つめ、声を震わせな
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第8話

ここから先、この場所のすべては、もう私には関係ない。尾田家を出て、私は車を走らせ、愼吾との新居へ向かった。新居の中は、すべてがペアグッズで揃っていた。私の分だけを、全部丁寧に荷造りして持ち出す。ウェディングドレス姿のツーショット写真も。彼の分の写真は、全部切り取って残してきた。お腹の痛みは、どんどん頻繁に、そして強くなっていく。もう、残された時間はわずか。だから私は、蒼の湖(あおのこ)に行ってみたくなった。昔、友達がよく私の耳元で話してくれた。「蒼の湖は空が青くて、水は澄みきって綺麗だよ。毎日、たくさんのカモメたちが湖面で遊んでいるんだ。ここのエビは格別に美味しいよ。エビ好きの千暁なら、絶対に外せない。蒼の湖の陽射しはとても暖かい。どんなに冷えた心も、きっと溶かしてくれるんだ」私は今まで、こんなふうにどこかへ行きたいと強く思ったことはなかった。たぶん、彼が語った蒼の湖が、あまりにも素敵すぎたからだろう。車に乗り込み、携帯の連絡先を開く。七年間一度も連絡しなかったあの番号――青木哲也(あおき てつや)。少しだけ迷って、電話をかけた。コール音が鳴った瞬間、すぐに出た。「もしもし、千暁?」鼻の奥がつんとする。「哲也、蒼の湖がどんなに美しいかって、いつも言ってたよね。私、あんまり信じてなかったんだ。 だから、自分の目で確かめに行くことにした」「蒼の湖に来るの?千暁、どうしたんだ?何かあったのか?」「別に。ただ、哲也が言ってるのは本当かどうか、見てみたくて」車は空港に置き去りにして、愼吾の電話番号を残して、私は飛行機に乗った。哲也と会うのは七年ぶり。再会した彼は、やっぱり太陽みたいに明るくて、ハンサムだった。肌はさらに白く、顔立ちもよりシャープになっている。きっと、ずっと蒼の湖にいたからだろう。彼の瞳は、あの湖みたいに澄んでいて、きれいで、まっすぐだった。哲也は大きな歩幅で私に駆け寄ってきた。抱きしめようと腕を広げかけて……でも、愼吾とのことを思い出したのか、ふいに手を下ろして。そして、優しく微笑んだ。「千暁、蒼の湖へようこそ」民宿に向かう車の中、哲也は私をじっと見つめて、不思議そうに言った。「愼吾はどうしてお前をこんなに痩せさせたん
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第9話

大学一年生のとき、私は愼吾と出会った。ある日、彼と哲也、二人そろって学校の門の前で私に告白してきた。私は一瞬も迷わず、愼吾を選んだ。そのあと、哲也は転校してしまった。転校したばかりの頃、彼はよく私にメッセージを送ってきた。【蒼の湖は本当に綺麗だよ。いつか一緒に遊びに来ない?】だけど、愼吾は嫉妬深くて、私が哲也に返信することを許さなかった。だから、哲也と自然と連絡を取らなくなった。彼と最後にやりとりしたときのこと、今でもよく覚えている。彼が送ってきたメッセージは――【千暁専用の番号、永遠に変わらない】私は思わず、彼を見つめながら言った。「これからは煙草、控えて。肝臓によくないから」百萌は煙草が原因で肝臓を悪くした。鈴美と滉一は彼女を救うため、私に無理やり肝臓を半分以上あげさせた。もしそんなことがなければ、私は肝臓がんにもならなかったし、病院にも間に合わず、末期になることもなかったのに。哲也はズボンのポケットから煙草とライターを取り出し、ごみ箱に放り投げた。「わかった。もう吸わない」少し間をおいて、彼が聞いてきた。「愼吾は、このこと知ってるの?」「彼に知る資格なんてないよ」「じゃあ、千暁のお母さんとお兄さんは?」私は唇をぎゅっと噛み、鼻の奥がツンと痛む。「もう、あの二人は私の母でも兄でもない。もういいよ、彼らの話は。そういえば、蒼の湖のエビが美味しいって言ってたよね?食べてみたい」哲也は私を蒼の湖の美味しいエビを食べに連れて行ってくれた。蒼の湖の青い空と、澄んだ緑の湖水も見せてくれた。有名な湖の中心の小島まで、船で一緒に行った。島には小さくて可愛い鳥がたくさんいた。西部諸島ほどじゃないけど、それでもすごく綺麗だった。私はお気に入りの淡い水色のワンピースを着て、哲也にたくさん写真を撮ってもらった。その中で一番気に入ったものを選んで、彼に渡した。「哲也、ひとつお願いがあるんだけど……私が死んだら、この写真を遺影にしてくれる?」哲也の目が、また赤くなった。そのとき、突然お腹に激痛が走って、全身汗まみれになった。私の様子に驚いた哲也は、慌てて私を抱きかかえ、船に乗せてくれた。船頭さんの漕ぐスピードが遅いと、哲也はイラついて、ずっと船頭さんのことを罵
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第10話

スマホの着信表示を見て、しばらく迷った末に通話ボタンを押した。「千暁、この数日どこにいるのよ!百萌が肝臓ガン再発して入院したの。後でまた千暁の肝臓が必要になるかもしれないって。早く帰ってきなさい!それと、愼吾がくれた結納金、返しておきなさい。百萌の入院費に使うから」私が何も言う間もなく、電話は一方的に切られてしまった。哲也がノックしたとき、私はこっそり涙を拭っていた。彼は私がまた体調を崩したのかと思ったのか、心配そうに近づいてきた。私は首を振り、そんなことないよ、と目で合図した。それから、彼に一枚のキャッシュカードを差し出した。「哲也、またちょっと頼みたいことがあるの。この紙に書いてある口座に、四百四十万円振り込んでくれる?名義は早瀬愼吾。一年前にもらった結納金が四百万円。余った四十万円は利子ってことで」残ったお金は、全部洋司の口座に振り込んでもらった。夜、寝ようとしたときだった。またお腹が痛みだした。体を丸めて耐えていると、スマホの着信が鳴った。滉一からだった。唇を噛みしめて、なんとか電話に出る。「千暁、百萌の容態があまり良くないんだ。愼吾から離れてくれないか?もう勘違いさせたくないんだ、彼女を……」私は滉一の言葉を遮った。「お兄ちゃん、わかったよ。もうみんなの前から消える。誰にも見つからない場所へ行くから。十年前、私を妹だと思ってくれてありがとう」滉一の声が急に焦りだす。「千暁、今どこにいるんだ?そんなこと言って、どういう意味だ?」私は苦笑して答えた。「もし来世があるなら、もう二度とあなたたちと会いたくない」スマホが手から滑り落ち、目の前がグラグラ揺れる。私はそのまま床に倒れ込んだ。スマホの向こうで、滉一が必死に私の名前を呼んでいる。でも、もう聞こえなかった。次に目を開けたとき、周りはぼんやり霞んでいた。分かっている。私の病状は、また悪化したのだと。外から、哲也と滉一の声が聞こえる。どうやら、二人は揉めているようだった。少しして、二人が部屋に入ってきた。「千暁」滉一の声が聞こえ、私は思わず身をすくめる。「私の肝臓はもう使えないの。どうしてそこまで私を追い詰めるの。お願いだから、他の人探してよ……せめて、遺体だけはちゃ
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