信行は冷たく言い放った。「その開発は水谷さんが取り仕切っている。何かあるならあいつに直接言え。そちらで上手くやるはずだ」電話の向こうで、由美の声が途端に暗く沈み、すがりつくような、恨み言めいた響きに変わった。「どうしてそんなに冷たくするの?私、変な意味で言ったんじゃないわ。ただの友人として接することすら、もう許されないの?それに、真琴ちゃんだって……」由美が「真琴」という名を出した瞬間、彼女の言葉が途切れるのを待つことなく、信行は無言で通話を切った。今や、彼と内海家との間に結ばれた距離は、他の取引先と何ら変わらない。単なる仕事上の繋がりに過ぎず、特別扱いすることなどあり得ないし、かといって不当に冷遇する義理もなかった。彼が線を引いた最初の半年間、由美も何度か騒ぎを起こし、あてつけのように病院へ担ぎ込まれる狂言めいた真似もした。だが、信行は一切取り合わなかった。誰も構ってくれないと悟ったのか、その後は彼女もすっかり息災になり、ここ二年間は病院の世話になることもなくなっていた。……午後六時。紗友里がすっかりしおれ果てた様子で帰宅した。魂が抜けたように長椅子に倒れ込み、抱き枕を胸に抱え込みながら愚痴をこぼす。「ホテルで丸一日張り込んでたのに、あのお嬢様は一歩も降りてこないのよ!ホテルの人に部屋番号と連絡先を聞いても、『特別な客分ですのでお教えできません、片桐家のお嬢様であろうと例外ではありません』だってさ」そう言うと、彼女は鼻で笑って毒づいた。「西脇のお嬢様は、片桐の人間よりずっと鼻が高いみたいね」そこへ美雲が夕食の皿を手に、台所から姿を見せた。「上へ行って、信行をご飯に呼んできなさい」母親の言いつけに、紗友里は抱き枕を投げ捨てると、重い足取りで二階へと向かった。その夜、信行は自分の住まいには帰らず、本宅で夜を明かした。ここには、真琴にまつわる数え切れないほどの、美しい思い出が息づいているからだ。祐斗の裏付け調査で不審な点が見当たらなかった以上、信行はこの件をそれ以上掘り下げることはしなかった。紗友里のように毎日待ち伏せするような真似はもってのほかだ。彼女の生活を踏み荒らすような真似はしなかった。何しろ、彼女はあくまで「西脇茉琴」であり、「辻本真琴」ではないのだから。木曜日。ア
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