「……事故った」志帆と太一は慌てて店を飛び出した。本来なら美穂も同行すべき場面だが、彼女の頭の中は今、詩織への復讐計画でいっぱいだ。会計を済ませてから追いかけるという適当な理由をでっち上げ、二人を先に行かせた。太一が車を回しに行っている間、志帆はエントランスで待っていた。そこで偶然、見覚えのある人物を目撃する。篠宮賢だ。彼にしては珍しく早足で、服装もどこかラフだった。いつもなら一分の隙もなく整えられている髪も、心なしか乱れているように見える。志帆は声をかけようとしたが、自分の状況を思い出して口をつぐんだ。賢は脇目も振らずに歩き去り、あっという間に視界から消えてしまった。ちょうど太一の車が到着し、志帆はすぐに乗り込むと、事故現場へと急行させた。二人が現場に到着した時には、柊也はすでに救急車に乗せられていた。愛車のシルバーのマイバッハは歩道の石像に激突し、横転して見るも無残な姿を晒している。フロント部分はひどくひしゃげていた。周囲では警察官が交通整理に追われ、騒然としている。志帆と太一は、救急車の後を追って病院へ向かった。病院で医師の説明を聞くと、怪我の状態は思ったよりも深刻だった。額の眉骨の上あたりをガラス片で深く切り裂いており、縫合が必要だという。その他にも全身に打撲や擦り傷を負っている。それでも命に別状はないと聞き、志帆は心の底から安堵のため息をついた。柊也の処置に付き添っていると、美穂から状況確認の電話が入った。志帆は手短に状況を伝えた。近くに人がいるため、あえて詩織の名前は出さず、暗黙の了解で会話を進める。美穂もその意図を察し、電話を切った直後にメッセージを送ってきた。【江崎詩織は、久坂智也に連れて行かれたわ】志帆はその文字を見て動きを止めた。【どうして久坂さんがそこに?】【こっちが聞きたいくらいよ!】美穂の文面からは苛立ちが滲み出ていた。完璧な計画だったはずなのに、土壇場で邪魔が入ってしまったのだ。わざわざ外部から男を調達してまで、詩織を「男遊びの激しい乱れた女」に仕立て上げようとしたのに。柊也や周囲の人間たちに幻滅させ、彼女を社会的に抹殺する絶好のチャンスだった。それなのに、突然現れた久坂智也のせいで、すべてが水の泡だ。これまでの苦労
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