こはるは、絡み合う俺とヒナの腕から視線を外し、自分の足元を見つめる。地面に落ちた自分の影が、やけに小さく見えた。「わたし、ゼミの準備があるから、もう行くね! じゃあね、ユウくん、ヒナちゃん!」 そう言って、こはるは俺たちに背を向けて駆け出した。キャンパスの木漏れ日が、彼女のミルクブラウンの髪をきらきらと輝かせる。だが、その足取りは、いつもの軽やかさを失っていた。足元に広がる影が、まるで彼女の心に巣食う不安を象徴しているようだった。俺は、ヒナと並んで歩く姿を振り向いて確認することが、どうして出来なかった。 こはるとは朝に微妙な雰囲気で、俺とヒナは別れてしまった。だが、俺とヒナの関係は元から仲が良いと知っているはずだ。前回までは“仲の良い友達”だったし、腕に抱きつくほどに仲が良かったわけだから。それに、メッセージを送られてきて見なかったのは悪いとは思うが、ヒナとようやくいい雰囲気になったところだったのだから、仕方ないだろう。 気持ちを切り替えていこう。俺は講義まで時間があるし、図書室へでも行くか……「俺は講義まで時間があるから、図書室へ行ってるな」 隣で俺の腕に抱きついているヒナに声をかける。「うぅぅ……わたしもいくっ」 ヒナは、俺の腕に頬をすり寄せてきた。甘えるような仕草は、以前にも増して愛らしく、俺の心をくすぐる。その小さな体は、俺の腕にぴったりとくっつき、離れようとしない。「あれ? でも、ヒナは講義があるんじゃないの?」 俺がそう尋ねると、ヒナは困ったように眉を下げて、うーん、と唸った。「う、うん。あるぅ。はぁ……」 甘えたような声でそう答え、深い溜息をついた。俺の腕に頬をつけたまま、上目遣いで俺を見つめてくる。その瞳は、講義に行きたくない、と雄弁に語っていた。 「ちょっと離れるだけだし、お昼に会えるから」 俺がそう言うと、ヒナは不安そうな表情から、少しだけ安堵したような顔になった。「ほんとぉ? 絶対だよっ」
Последнее обновление : 2025-10-21 Читайте больше