All Chapters of 冷酷夫、離婚宣言で愛を暴走: Chapter 461 - Chapter 470

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第461話

前に監視カメラが壊されたのは、時間をかけすぎたせい。しかし今日は詩恩が来てすぐ帰ったばかりだから、痕跡はまだ残っているはず。電話に出た瞬間、時生の冷たい声が響いた。「毎日のように離婚したがってたのに、いざ今日になったら来ないってどういうつもり?」私は一言ずつはっきりと言った。「行かなかったのは、詩恩が来たから。お母さんの病室に長いこといたの。何をしに来たのか、分からなくて」電話の向こうが一瞬で静まり返る。聞こえるのは時生の重たい呼吸だけ。しばらくして、ようやく口を開いたその声には、信じられないという怒りが滲んでいた。「昭乃、詩恩はもういないんだ!なんでまだ彼女を言い訳にして嘘つくんだ?」「嘘じゃないよ」私は落ち着いて言った。「監視カメラの映像がある。今すぐお母さんの病室に来て。見せるから」「今から行く。もし嘘だったら、ただじゃ済まさないからな」時生の声は刺すように鋭く、そのまま電話は切れた。スマホをしまおうとしたそのとき、また着信音がけたたましく鳴る。画面には見知らぬ番号が表示されていた。胸がざわつき、反射的に通話ボタンを押した。電話口から聞こえてきたのは、冷たい若い女の声。「ずっと私を探してたんでしょ。そう、私はまだ生きてる」「詩恩?」私は思わず立ち上がり、声が震えるのも構わず問い詰めた。「どこにいるの?」「あなたの車のナンバー、潮見あ60-03でしょ?」彼女は答えず、私の車のナンバーを口にした。「病院の駐車場にいる。あなたの知りたいこと、今ここで全部答えてあげる」心臓が激しく打つ。とにかく今すぐ真実を知りたい。「分かった、今行く」エレベーターに乗り込み、地下階のボタンを何度も押す。すぐに車庫へ到着した。一歩踏み出した、その瞬間、背後から手が伸びてきて、いきなり口と鼻を塞がれた。もう一方の手で、監視カメラの死角へと引きずられる。全身の力が一気に抜けていく。視界がぐにゃりと歪み始める。数秒もしないうちに、目の前は完全な闇に飲み込まれた。……黒澤家の邸宅。夕方、時生のもとに紗奈から電話がかかってきた。「昭乃は?どこにやったの?」繋がるなり、紗奈が焦った声で問い詰める。時生はうんざりしたように眉をひそめた。「紗奈、それはこっちが聞きたい。昭乃は今日いったい何してたんだ?」
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第462話

時生の心はドンと沈み、思わずスマホを強く握りしめた。けれどその動揺は一瞬で、すぐに激しい怒りに飲み込まれる。――またかよ!彼は鼻で笑いながら言った。「いい加減にしろよ。昭乃、たまには新しい手でも使えないのか?やるならやってみろよ。どうせなら殺せば?やったら二億やる」言い終わると、そのまま通話を切り、スマホをソファに放り投げた。このところずっと、昭乃は彼を苛立たせてばかりだ。叔父と怪しい関係を匂わせて気持ち悪がらせるわ、こそこそ変な小説を書いて優子を振り回すわ、その上、心菜まで自分の父親である彼を避けるように仕向けている。今日はついに詩恩の名前まで持ち出してきた。昭乃がつけない嘘なんて、あるのか?そのとき、隣にいた優子が様子をうかがうように聞いた。「時生、さっきの電話、誰だったの?拉致の話っぽく聞こえたけど……何かあったの?」時生は苛立たしげに眉間を押さえ、気にも留めない様子で言った。「誰って、昭乃に決まってるだろ。自分が拉致されたみたいにして、いきなり一億要求してきたんだ」優子の目の奥に、思惑が当たったような色が一瞬よぎる。だが口ではため息混じりに言った。「昭乃さんって、昔からやり方がうまいよね。私たちじゃ太刀打ちできないし……ねえ、時生、いっそ一億払っちゃったら?あなたにとっては大した額じゃないでしょ。静かにしてもらうためだと思えば」「一億なんて、どうってことない」時生は一語一語、噛みしめるように言った。「でもな、あいつに何度も騙されるのは我慢できない。それに、あいつと高司の関係も……」そこまで言って、吐き気を覚えたように言葉を切ると、話題を変えた。「仏間に行ってくる。夕飯はいらない」立ち上がったところで、春代が慌てて入ってきた。「旦那様、紗奈さんがお見えです。心菜ちゃんも一緒です」時生は眉をひそめた。本当は紗奈に会う気はなかった。だが娘のことを思うと、胸が一瞬でやわらぐ。心菜を外で追い返すなんて、できるはずがない。「通してくれ」やがて春代に連れられて、紗奈と心菜がリビングに入ってきた。心菜は紗奈の手を振りほどくと、、小さな弾丸のように時生のもとへ駆け寄った。「パパ、ママがいないの!パパがどこかに隠したの?」時生の顔から一瞬で優しさが消え、鋭い視線がまっすぐ紗奈に向けられた。「さっき昭乃が、拉致さ
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第463話

そう言うと、紗奈は心菜の手を引いて、「行こう!」と言った。「待て!」時生の目が冷たく光り、言葉を区切るようにして言った。「君は行っていい。だが娘は置いていけ!」「ここにいたくない!」心菜の声はきっぱりとしていた。さっきからずっと、パパの表情も仕草も、口にした言葉も、全部を見て、全部を聞いてきた。そして、そのすべてを胸に刻み込んでいた。涙の跡でぐしゃぐしゃになった小さな顔を上げ、もうパパとは思えない目の前の男を見つめて、一語一語はっきりと言った。「大嫌い!もう、私にパパなんていない!」時生は頭を強く殴られたように固まり、その場に立ち尽くしたまま、信じられないという顔で娘を見つめた。「な……何を言ってるんだ?心菜、君、何を言ってる?」心菜はもう彼を見ようともせず、紗奈に向かって言った。「紗奈おばさん、行こう!ママも探さなきゃ!」二人が去ってもなお、時生はその場に立ち尽くし、まるで魂が抜けたように動かなかった。優子はそっと時生の腕に手を添え、作り物のような気遣いをにじませた声で言った。「時生、そんなに落ち込まないで。前はあんなに心菜、あなたに甘えていたのに……まさか昭乃さんがあんなことをするなんて。子どもを使ってあなたに仕返しするなんて、本当にひどい。でも大丈夫、これからは私が、あなたとの子どもをたくさん産むから。ちゃんと育てて、きっとあなたに親孝行する子にするよ」時生はまるで何も聞こえていないかのように彼女の手を振り払い、魂の抜けたような足取りでくるりと背を向け、一歩一歩、仏間へと向かっていく。そこだけが、今の彼にとって自分をごまかせる唯一の場所だ。……紗奈は心菜を連れて黒澤家を出ると、そのまま警察へ向かった。しかし当直の警察官は話を聞くと、すぐに表情を引き締めて言った。「本日、確かに人身売買に関わる容疑者を二名逮捕しています。ただ、彼らが売買していた人物が、あなたの探しているご友人かどうかまでは確認できていません」それを聞いた瞬間、紗奈の心臓は喉元までせり上がったようだった。警察官はすぐにその二人の取り調べに向かい、ちょうどその時、別の警察官たちが一人の男を連れて中へ入ってきた。紗奈はその男が、先ほどの二人の供述によって割り出された人物だと知った。ちょうど紗奈が被害届を出していたこともあり、警察官は男
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第464話

警察官は紗奈を押さえながら、言った。「落ち着いてください。今朝すでに調べましたが、和夫と剛志という二人は、背後にいる売り手の末端に過ぎません。その裏の買い手は、おそらく南洋国側と関係があります」紗奈は完全に崩れ落ち、体から力が抜けた。警察署での聴取を終えると、彼女はすぐに心菜を連れて車に乗り、神崎家へと向かった。さっき警察は全力で捜査すると言っていたけれど、もし昭乃が本当に南洋国へ売られてしまったのだとしたら、一分一秒がそのまま危険につながる。待ってなんていられない。君堂法律事務所の情報網は世界中に広がっていると前から聞いている。今はもう、高司に望みを託すしかなかった。一方、さっき別室で待たされていた心菜は、警察の話を聞いていない。でも、道中ずっと涙を流し続ける紗奈の姿も、ハンドルを握る手が震えているのも、ちゃんと見ていた。心菜も泣きそうになり、声を詰まらせながら聞いた。「紗奈おばさん、ママ……見つからないの?」「そんなことない……」紗奈は喉が詰まり、言葉を出すのもやっとだった。「見つかるよ、すぐに……」そう言いながら、さらにアクセルを踏み込む。心菜はまた聞いた。「じゃあ、これからどこに行くの?」「神崎家よ」紗奈は不安を押し殺しながら、小さな子を安心させるようにやさしく説明した。「高司さん、覚えてるでしょ?きっと方法を考えてくれる」心菜は一瞬きょとんとした。もちろん覚えている。でも、ママがこんな目に遭っているのに、助けに行くのがパパじゃなくて別の男だなんて。パパって、本当に冷たい。がっかりだよ。心菜は胸の中でそうつぶやき、ますます悲しくなった。やがて車は神崎家に到着し、紗奈が事情を説明すると、使用人はすぐに中へ案内してくれた。澄江は夜中に起こされたばかりだったが、とてもやさしい声で聞いた。「紗奈、どうしたの、そんなに泣いて。何があったの?」「おばあちゃん、高司さんはご在宅ですか?」紗奈は声を上げて泣き出し、まずは心菜を家政婦に任せ、それから途切れ途切れに事情を説明した。「拉致」と聞いた澄江は、驚いてよろけそうになる。紗奈は言った。「おばあちゃん、高司さんは?今、昭乃を助けられるのは高司さんしかいないんです!」澄江は気が気でない様子で答えた。「今、高司は海外にいるの。お母さんの治療で一
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第465話

喉が詰まり、高司は数秒言葉を失ったあと、低く押し殺した声で言った。「確認は取れてるのか? 警察には連絡した?」紗奈の泣き声はいっそう激しくなり、絶望をにじませていた。「警察はまったく進展がなくて……どうしたらいいのか本当にわからないんです!お願い、助けてください……あなたならできるって分かってますから!」「わかった」高司は短くそう告げると、電話を切った。バルコニーから戻ると、母を見て言った。「お母さん、亮介をここに残しておくから付き添ってもらって。俺は急用ができた、先に行く」歩き出そうとした瞬間、冬香の弱々しい声が彼を呼び止めた。「高司……また昭乃のことなんでしょ?」彼女はこの息子のことをよく分かっている。自分の抗がん治療の最中に、こんなにも慌てて立ち去らせる存在なんて、あの人しかいない。高司は足を止め、振り返ってやつれた母の顔を見つめると、隠すことなくはっきりと言った。「そうだ」冬香の呼吸が一気に荒くなる。眉をひそめ、何度も繰り返した。「どうしてそんなに昭乃と関わろうとするの? あなたが誰と付き合おうと反対はしない。でも昭乃は時生の妻なのよ!そんなこと、人として許されることじゃないわ!」高司は不快そうに口を開いた。「俺が何をした? 俺と彼女は何もやましいことなんてない。違法でもなければ、道徳にも反していない。もし『人として』の筋が分かってるなら、あのとき、お母さんはあんなことしなかったはずだ」冬香は目を見開いた。高司の言葉は、彼女の一番触れられたくない傷をえぐるようだった。彼女はうなずきながら言った。「だからこそ、あなたに同じ過ちを繰り返してほしくないの!私みたいに一生、人に後ろ指をさされるような思いはさせたくないのよ!」そう言うと、いきなり手を振り上げ、手の甲に刺さっている点滴の針を引き抜こうとした。「それでも行くっていうなら、もう治療なんてやめる!私も一緒に帰るわ!昭乃が毎回どんな『急用』であなたを呼び出してるのか、この目で見てやる!」針先が血管から抜けた瞬間、血がにじみ出て、手の甲を伝って流れ落ちた。高司はその刺すような赤を見つめながらも、止めようとはせず、その場に立ったまま、冷たい眼差しで言った。「俺が前に言ったこと、覚えてるか? 時生の離婚の弁護を引き受けたのが、俺の最後の譲歩だ。そこまではちゃんと
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第466話

高司は目を閉じ、指の関節で眉間を押さえつけるように強く揉んだが、頭痛も焦りもまったく消えない。長年、ビジネスの現場や法廷で鍛えられてきた彼は、とっくに冷静さと自制心を身につけ、感情を顔に出さない術を覚えている。それでも今この瞬間、頭の中には昭乃が直面しているかもしれない最悪の状況が次々と浮かんでくる。その一つ一つが鋭い針のように胸を刺し、心臓がぎゅっと縮む。指先は抑えきれずに震えている。そのとき、スマホが突然震えた。画面に冬香の名前が表示されたのを見て、高司はそのまま通話を切り、スマホを助手席に放り投げる。一度深く息を整え、無理やり気持ちを落ち着かせる。そしてハンドルを強く握り、アクセルを踏み込むと、そのまま空港へと車を飛ばした。……その頃、国内では。深夜の警察署の廊下は、白々しい光に照らされていた。真夜中に呼び出され、手がかりを提供するためにやってきた紗奈は、足早に中へ入っていく。取調室のドアを開けた瞬間、そこに時生の姿があるのを見て、思わず足を止めた。――そうだ、今も彼は昭乃の夫。連絡がいくのは当然だ。紗奈は彼のそばまで歩み寄り、冷たい声で言った。「これで信じた? 今回はどう言い訳するの? 私と昭乃が警察と組んで、あなたを騙してるとか言わないの?時生、本当にどうしようもないわね」時生の目は血走り、今にもあふれそうだったが、彼にはもう紗奈とやり合う余裕はなかった。彼は警察官を睨みつけ、一語一語を噛みしめるように言う。「犯人と連絡は取れるんですか? 金ならいくらでも払う、いくらでもです!妻を、無傷で返してほしいんです!」警察官は落ち着かせるように答えた。「時生さん、お気持ちは分かりますが、これはお金の問題ではありません。奥さんを拉致した実行犯はすでに逮捕されています。ただ、その上にいる黒幕、つまり買い手は、国内で人身売買の取り締まりが厳しくなっているのを知っていて、まったく姿を現そうとしません。それに、すでに奥さんは海外に連れ出されている可能性が高く……南洋国方面かもしれません。こちらとしても、国際警察に連絡する必要があります。手続きが複雑で、すぐに解決できるものではないんです」その言葉に、時生は雷に打たれたように固まった。魂が抜けたように、そのまま椅子に崩れ落ちる。俯いたまま、前髪が目元を隠し、か
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第467話

「小林悠斗……」時生がその名前を口にした瞬間、全身がびくっと固まり、そのまま動けなくなった。数年前、黒澤家の勢力を広げるために彼は容赦なく攻め立て、小林家の会社を飲み込んだだけでなく、小林悠斗(こばやし ゆうと)を追い詰め、最後には妻とともにビルから身を投げさせてしまった。当時はただのビジネス競争の結果だと思っていた。まさか自分に返ってくる日が来るなんて、考えたこともなかった。ここ数年、精進料理を食べて仏に祈ってきたのは、詩恩の無事を願うためだけじゃない。自分の手で間接的に背負ってしまった罪を、少しでも償いたかったからだ。それには、昭乃を騙したことも含まれている。けれど、もう仏様でさえ自分を許してはくれないらしい。本来なら自分に返ってくるはずだった報いが、なぜか全部、昭乃に降りかかっている。その瞬間、時生の赤く染まった目の奥に、絶望が広がった。ふと、今日、犯人から電話がかかってきたときの自分の言葉を思い出す。あまりにも冷たくて、残酷なあの言葉。あの向こう側で、昭乃も聞いていたはずだ。どれだけ言い争っても、どれだけぶつかっても、彼女を傷つけたいと思ったことなんて一度もなかった。まして、死なせたいなんて思ったこともない。それでも、ここまで彼女を追い詰めてしまった。彼女は……もう、二度と自分を許さないだろう。頭の中に、昭乃の「助けて」という声が何度もよぎる。それなのに、彼は一度も本気で向き合おうとしなかった。昔、彼女の瞳は喜びで満ちていた。やがて、遠慮がちな期待に変わり、そして最後には、どうしようもない絶望へと変わっていった。本当は全部、わかっていた。それでも、見ないふりをしていただけだ。時生は両手を髪に突っ込み、力任せにかきむしる。指先に力が入りすぎて、関節が白くなる。どうして連れ去られたのが昭乃で、自分じゃないんだ…………夜が明けるまで、二人はずっと警察署で待ち続けたが、何の手がかりも得られなかった。長椅子の両端に、時生と紗奈が離れて座っている。時生は背中を丸め、スマホをぎゅっと握りしめていた。何本電話をかけても手がかりは一つもない。誰に頼ればいいのかもわからない。南洋国に仕事の繋がりも、人脈もない。今は、糸口すら見えない。紗奈も、もう罵る気力すら尽き、追い出すこともで
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第468話

高司の目の奥に沈んだ不安は、まるで溶けない墨のように濃く、その奥にわずかな痛みまでくっきりと浮かんでいる。時間が一秒過ぎるごとに、昭乃の置かれている危険は確実に増していく。その焦燥は、彼の理性を押し潰しそうだ。やがてその視線は時生に向けられる。氷のように冷たく、刃のように鋭い、今にも殺しかねないほどの険しさを帯びていた。時生は思わず拳を握りしめたが、真正面からぶつかる衝動をなんとか抑え込む。高司の敵意がわからないはずがない。だが今は、高司の持つ手がかりこそが昭乃を救う唯一の糸だ。ここは耐えるしかなかった。そのとき、高司のスマホが突然鳴り、場の空気が一瞬で張り詰める。彼はすぐに通話を取った。いつもは落ち着き払っている男の心も、このときばかりは強く締めつけられていた。「高司さん、位置は南嶺旧街付近で特定できました。すぐに交渉に入りますか?」「頼む。どんな代償でもいい、無事でいさせろ!」高司の目が鋭く光り、低く言い放つ。「俺が今から向かう。いいか、昭乃さんに傷ひとつつけさせるな!」その様子を見て、時生は勢いよく立ち上がり、後を追う。「昭乃の手がかりが出たのか?俺も行く!」すると高司は振り向きざま、いきなり拳を叩き込んだ。不意打ちを受けた時生は、その一撃に完全に面食らう。続けて高司は彼の襟元をつかみ、歯を食いしばって吐き捨てた。「時生、もう我慢の限界だ。これ以上ついてくるな!」「高司、昭乃は俺の妻だ!行けない理由があるのか!」思わず殴り返そうとしたその腕を、紗奈が横から強く引き離し、怒鳴った。「今さら昭乃が自分の妻だって?拉致されたとき、誰にも助けを求められずにいたとき、あんたどこにいたの?あんたの家のババアと優子にいびられてたときは?今になって手がかりが出たら、しゃしゃり出てきて何?助けたあとでいい顔して、同情でも買うつもり?」息を荒げながら、さらに言葉を叩きつける。「鏡見て出直しなさいよ!昭乃があんたに会ったら、余計に嫌な思いをするだけよ!その薄っぺらい優しさ、優子にでも向けてなさい!」時生は顔色を変え、口を開いたものの、ひと言も言い返せなかった。紗奈は彼にそれ以上構わず、すぐに玄関へ向かう高司を追いかける。「高司さん、私も行きます!」高司は少しだけ声の調子を和らげた。「ここに残って子どもたちを見て
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第469話

そこまで言うと、紅葉(もみじ)は私の頬を軽く叩いて言った。「でもね、うちに来れば、あんたの値段は一億の十倍にしてあげる。ちゃんと従えば、だけどね」そう言った直後、彼女のそばにいた大柄の男が近づいてきて、私の頬を撫で回した。よだれが今にも垂れそうな顔で、こう言う。「紅葉さん、この女、どう見ても何も知らなそうっすよ。どうせなら、俺たちでちょっと遊ばせてもらって、分かるようになってから客取らせたほうがよくないですか?」「触らないで!」私は必死に叫び、頭を振ってその男の手を振り払おうとした。けれど恐怖で声はかすれ、うまく出ない。それでも、どんな抵抗も無駄だった。彼女はタバコに火をつけ、ふっと笑って言う。「昭乃ちゃん、ここに来たらね、簡単に帰れると思わないこと。ちょっと教えてあげないとね、うちのルールを」そう言うと、後ろにいた男たちに目配せした。じりじりと近づいてくる、下卑た笑みを浮かべた男たちを見て、私は必死に首を振った。「やめて……やめて……お願い、放して……」心臓が張り裂けそうで、絶望が全身に広がっていく。どうせ何を言っても無駄だと分かっていても、私は本能的に許しを乞うしかなかった。禿げた男の手が私に触れようとしたその瞬間、私はぎゅっと目を閉じた。このあと踏みにじられたら、どうやって死のうか、そんなことまで考えてしまう。こんな場所で一生辱めを受けるくらいなら、いっそ死んだほうがましだ。そのとき突然、彼女の手下の一人が慌てて飛び込んできて、大声で叫んだ。「紅葉さん!待って!この女、買い手がついた!」男たちの動きがぴたりと止まる。禿げ頭の男が不満げに振り返った。「なんだよ、今からってとこだったのに!」彼女は眉をひそめ、吸いかけのタバコを灰皿に押し付けながら確認する。「買い手?そんなはずないでしょ。さっきボスから連絡あったじゃない、取り締まりが厳しいから、売買は一時停止って」手下は頭をかきながら、困惑した顔で言った。「俺も不思議なんすけど……上から直々に電話があって。この女、ただ者じゃないから、すぐに整えて送り出せって。それに、買い手が出した金、四十億ですよ。紅葉さんには半分入るって」その言葉に、彼女の艶やかな顔に一瞬、驚きが走った。信じられないものを見るように私を見つめ、呟く。「へえ……思ってたよりずっと高
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第470話

窓の外は、溶けない墨のように濃い夜。風に乗って、遠くからかすかな犬の鳴き声が吹き込んでくる。紅葉はその買い手の要求を覚えていて、私を手下の男たちに任せたら手加減できないかもしれないと考えて、わざわざ何人かの女を呼んで身支度を整えさせた。縄をほどかれた私は抵抗しようとした。いっそ死のうとも思った。けれど、紅葉に頬をひっぱたかれてこう言われた。「いい?これ以上大人しくしないなら、もうこの取引を無しにするよ!一人の男に渡されるのと、何人もの男に弄ばれるの、どっちがいいか、自分でよく考えな!」涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。私はもう逆らえなかった。体を洗われたあと、今度は何だかわからない透明な液体を無理やり飲まされた。……そのあと、私はヨーロッパ風の内装の部屋に連れて行かれた。ベルトの金具が肌に食い込んで、全身がひりつくように痛い。私はそのまま全身をベルトで縛られていた。やわらかい大きなベッドの真ん中に寝かされ、体には薄いシルクの掛け布団が一枚だけ。女たちは出ていくとき、わざと明かりを消した。「大物へのサプライズだ」とでも言うように。その暗闇が、余計に恐怖を増幅させる。次に入ってくるのはどんな人間なのか。痛めつけることを楽しむような狂った男じゃないか、そんなことばかり考えてしまう。そのとき、鍵が回る音が急に響いた。全身の血が一瞬で凍りつき、私はぎゅっと目を閉じた。拳を握りしめ、爪が手のひらに深く食い込む。それでもどうすることもできない。ただ、この先に待つものを受けるしかなかった。男の足音が、遠くからゆっくりと近づいてくる。落ち着いた足取りで、少しの乱れもない。荒い息遣いは聞こえない。むしろ、その歩き方にはどこか穏やかで上品な雰囲気さえあった。それが逆に、怖かった。見た目は穏やかでも、その裏に歪んだ欲望を隠している人間なんて、いくらでもいる。やがて彼は私のそばまで来て、両手をベッドについた。マットがわずかに沈む。私は息を止めた。心臓は胸を突き破りそうなほど激しく鳴っているのに、涙さえ出るのを忘れていた。次の瞬間、「パチン」と音がして、天井のライトが一気に点いた。まぶしさに思わず目を細める。そして目の前の人の姿がはっきり見えたとき、私は驚きで目を見開いた。死の間際に見る幻覚かと思ったほどだ。高司が、
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