【三十五歳の女って、どんな匂いだ?】白野里奈(しらの りな)の腰はまだだるく痺れており、全身の汗が冷めやらないうちに、緋村誠(ひむら まこと)のスマホの明るい画面がふと目に入った。「親友グループ」のチャットに、そんなメッセージが投稿されていた。男の熱い胸が再び彼女の背中に押し付け、首もとでの呼吸が荒くなっていく。「いいお姉ちゃん、もう少し付き合って……」里奈は口元をわずかにゆるめ、スマホから視線をそらした。もう三十五歳だ。彼氏のスマホをチェックするような習慣は、とっくにない。考えるべきは、十歳も年下でエネルギーに満ちたこの男を、どう落ち着かせるかだ。二人は夜中までやり続け、里奈は幾度も疲れで意識が途切れたが、目を覚ますたびに、またあの光るスマホの画面が目に飛び込んできた。彼女は消そうとしたが、指先が思わず固まって動かなくなった。誠という調香師には、自分はどんな香りに感じられているのだろうかと、ふと興味が湧いた。指先で軽く上にスクロールすると、彼の返信が針のように突然目に飛び込んできた。【三十五歳の女?加齢臭がするよ】【強い香りのボディソープでごまかさないと、毎回むせ返りそうになる】わずか二行の文字を、彼女はまる三十分も見つめ続けた。アイコンは確かに彼なのに、その文章は見慣れないもので、熱した油のようで、一字一句がじんじんと胸にこたえる。さらに下にスクロールすると、グループのチャット記録が次々と現れた。【最初から年上の女はやめとけって言っただろ?五年も経てば、母性臭さが加齢臭に変わるんだよ】【俺今日付き合った子は十八だ。剥きたての卵みたいにプリプリしててな。誠みたいに年上の女にばかりこだわる奴とは大違いだぜ】【正直、里奈は顔もスタイルも悪くないけど、歳をとりすぎてるよ。どう見てもお前とのカップルは……枯れ木に花だな】それらのからかいは、鈍い刃でじわりと切られるようだった。彼女の心を切り裂き、息が止まりそうだ。普段は「里奈さん」と懐かしげに呼ぶ誠の仲間たちが、陰ではこんな風に彼女を解剖するように批評していたなんて、思いもよらなかった。熱く湿った涙が視界をぼやかし、スマホはパタンと顔に落ちた。部屋は再び暗闇に包まれた。自尊心を踏みにじられる恥辱感がじわりと広がり、彼女は痛みさえ忘れ
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