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第5話

Author: 深夜の蝋燭
ガチャンという音とともに、グラスが床に割れて、粉々になったガラスの破片が足元に飛び散った。里奈の心も、その砕ける音に衝撃を受け、完全に壊れてしまったかのようだ。

「私、誠と別れたの。あなたたち……末永くお幸せに」

誠はまるで一気に酔いが覚めたかのように、大きく歩み寄って彼女の手首を掴んだ。

「姉ちゃん、誤解だよ……」

「誤解?」

里奈は目を赤くしながら彼の手を振り払った。

「彼女が帰ってくると言うだけで、いつも昼まで寝てるあなたが、朝早く空港まで迎えに行った。彼女の歓迎会のために、私の誕生日なんて完全に忘れてたくせに!

説明するって言ったのに、二人がイチャイチャするのを見せられただけじゃないか?

それに、彼女が送ってきたあの録画……教えてよ、何をどう誤解したというの?」

彼女はただ、あの男の本性をもっと早く見抜けなかった自分が悔しい。

誠はまるで冗談でも聞いたかのように眉をひそめて冷笑した。

「俺はずっと早苗のことを男として見ていたし、誤解されたこともちゃんと謝ったよな?それでもまだこんな憶測で騒ぐなんて、わざと俺に恥をかかせたいのか?」

そばにいた仲間も口を挟んだ。「白野先輩、考えすぎだよ。早苗なんて男の子みたいなもんで、そんなに深く考えるタイプじゃないし、俺たちは本当にただの友達だよ」

「俺の嫁だって早苗のこと知ってるけど、君みたいに疑ったりしないよ」

ただの友情?

「信じられない」

里奈は悲しみを飲み込み、せめて納得のいく説明を求めたい。

しかし次の瞬間、誠は大勢の前で早苗の唇にキスをした。

唇が重なり合う音が、ひどく耳に障った。

「よく見てろよ!」

彼は早苗を突き放し、里奈に向かって叫んだ。「たとえ彼女とキスしても、もっと親密なことをしても、俺は何も感じない!俺が好きなのは君なんだ。それでもまだ証明が足りないっていうのか?」

「そうだよ、白野先輩!」誰かが茶化すように声を上げた。「誠にこれ以上何を証明させたいんだよ!」

こんな「証明」、気持ち悪すぎる!

「あんたたちは口をそろえて『親友の絆だ』なんて言ってるけど、男女としての最低限の線引きすら守れないで、それが『親友の絆』だって言えるの?」

里奈は思わず手でポケットの中のレコーダーを握りしめた。

さっきの言葉の一つ一つが、はっきりと録音されている。

彼らは、自分たちのパートナーはみんな寛大だと言い、里奈は些細なことを大袈裟にしていると非難した。

でも彼女は思った。もしあの女性たちがこの録音を聞いたら、本当に彼らの言うように「寛大」でいられるのか?

痛いところを突かれ、テーブルを囲む人々の顔色が一斉に曇った。

「俺たちはもちろん親友だ!」

誰かがテーブルを叩きながら叫んだ。「十年以上も一緒に食って寝て、やることもやっちゃいけないことも全部経験してきた。たとえ彼女が裸になっても、俺たちは平然と服を着せるくらいできるさ」

「白野先輩、ちょっと器が小さいじゃないか?」

「男同士の混浴だって、同衾だって、誰だって経験あるだろ?もうとっくにアイツは男同然だよ。お前のその疑い深いの、マジで直したほうがいいぜ」

「早苗が初めて生理になったとき、ナプキンをつけてやったのは俺なんだ。そんなことで大騒ぎするなんて……」

……

個室の中で、本当の意味で部外者だったのは、彼女一人だけだ。

ふと彼女は誠が以前言っていた言葉を思い出した。「もしもいつか、俺の仲間たち全員が君に敵意を向けたとしても、安心しろ。どんなことがあっても、俺は必ず君の味方になる」

あの堅い誓いは、とっくに彼自身に踏みにじられて泥のようになった。

里奈はもう一言も発したくなかった。踵を返し、無言で出口へ向かった。

背後から誠の声が響いた。警告と脅しを含んだ冷たい声だった。「姉ちゃん、そのドアを出たら、俺たちは本当に終わりだぞ!

よく考えてみろ。君にこれから何回の「五年」がある?俺以外に相手になってくれる人がいると思う?」

室内に嘲るような笑い声が広がった。

その瞬間、彼女が捧げた五年の愛は、嵐に吹き散らされた花びらのように、無残に散っていった。

里奈は目を閉じ、苦い涙が心に染みるのを感じながらも、足を止めることなく、振り返ることもせずに個室を後にした。

長い廊下を、彼女はゆっくりと時間をかけて歩いた。だが、最後まで誰一人として追いかけてくる者はいなかった。

五年前のあの嫌がらせは、彼女に深い心の傷を残した。それ以来、彼女は一人で眠ることができなくなった。

この五年間、誠はどんなに遅くまで残業していても、どんなに遠くへ出張していても、必ず彼女のもとへ帰ってきて寄り添ってくれた。

しかし今、彼は丸二日間も家に戻っていない。一本の電話すらない。

里奈は夜通しで荷造りをし続けていた。

部屋の隅には、二人で北極にオーロラを見に行ったときに使ったテントが置かれ、壁には一緒にスカイダイビングをしたときのパラシュートが掛けられている。戸棚には二人で手作りしたペアの陶器のカップが並んでいる……

彼女はかつて、「カップルがしたいこと999項目」のリストを作ったことがある。

今、残っているのは最後の一項目だけ。二人の縁は、ついに尽きてしまったのだ。

この数年、彼がやりたいと言ったことは、彼女はすべて一緒に挑戦してきた。

彼女は思いもしなかった。自分に強い独占欲を抱いていたあの「忠実な子犬」が、いつか自分の手を離す日が来るとは。

箱の底を探っていると、鍵のかかった木箱が目に留まった。

彼女は自分の誕生日、誠の誕生日、二人の記念日、さらには付き合ってからの日数まで試してみたが、どれも鍵は開かなかった。

ふと脳裏に浮かんだのは、あのSNSの背景画像に映っていたぼやけた数字の列だった。

彼女は最後の望みをかけて、それを入力してみた。

カチッという音とともに、鍵が開いた。

里奈の胸は一瞬で締めつけられ、まるでパンドラの箱を開けてしまったかのように、隠されていた秘密が一斉にあふれ出た。

中から現れたのは、分厚い手紙の束だった。すべて早苗が書いたものだった。小学生の頃のたどたどしい「好きだよ」から、中学生時代の少女が初めて恋を知る繊細な想い、そして大人になってからの熱く濃密な愛情へと……

十数年の歳月、すべての手紙は無傷のまま大切に保管されていた。

いくつかは開いたままで、折り目の部分が毛羽立っている。何度も開いては丁寧に撫で伸ばされたことがうかがえる。

ここ数年、彼女はよく彼が収納部屋にこもるのを見ては、「昔のことによくこだわるね」と笑っていた。

けれど今になってようやく気づいた。あの深夜の「整理」は、思い出に浸っていたのではなく、まさにその品物を通して早苗を想っていたのだ。

スマホが一度鳴った。誠の仲間がSNSに投稿していた。

写真には、五人が山頂の温泉でふざけ合っている様子が写っていた。早苗は裸のまま誠の腕の中に座り、声を上げて笑っている。二人の体はぴったりと寄り添い、まったく遠慮が感じられなかった。

足の底から頭の先まで一気に冷たさが走って、その痛みは骨の髄まで染み渡るようだ。

彼が甘い言葉をささやき、親密な時間を過ごしていたその間も、心にいたのは終始別の誰かだったのだ。

彼女は完全にバカにされていた。

スマホの着信音が突然鳴り、里奈は反射的に電話を取った。

電話の向こうでは長い沈黙が続き、彼女が切ろうとしたその瞬間、早苗の声が聞こえた。

「誠、これだけ借りがあるけど、どうやって償うつもりなの?」
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