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LOGIN公園のベンチに座り缶コーヒーを手に一息ついていると、公園の入り口に足元がふらついている女性に気が付いた。
(どうしたんだ?) そう思った瞬間、その女性が崩れるように倒れるのが目に入り慌てて駆け寄った。 「大丈夫か!?」 頭を支え声をかけるが応答がなく、顔色も悪いし呼吸も荒い。体は信じられない程熱く、すぐに熱中症だと思い救急車を呼んだ。 幸いなことに救急車はすぐにやって来て、すぐに病院に運ばれた。俺は仕事中という事もあり、病院には付き添わず連絡先だけを渡して、会社に戻った。 会社に戻った後も彼女の事が気になり、仕事を早めに切り上げると運ばれた病院へと勝手に足が進んでいた。 (……今思えば、すでに彼女に惹かれていたのかもしれない) そう思うと、この出会いも偶然ではなく必然だったのかしれない。 病院に着いた頃には処置は終えていて、彼女はベッドの上で規則正しく寝息を立てていた。 「お付き添いの方ですか?」 「え、ああ……」 看護師に声をかけられてなんて答えていいのか分からず、曖昧な返事になってしまった。彼女はやはり、熱中症だった。対応が早かったので大事には至らなかったが、次に放たれた看護師の言葉に耳を疑った。 「あ、もしかして旦那様ですか?お腹の赤ちゃんは無事ですよ」 「は?」 嬉しそうに話す看護師に、目を見開いて驚いた。 「あら?違いました?ごめんなさい。てっきりそうかと思っちゃって」 苦笑いを浮かべながら去って行く看護師の背中を見つめ、すやすや寝息を立てる彼女を黙って見つめていた。妹である桜と同じぐらいの年代なのに、随分と疲れた様な顔をしていると思い、目の下の隈をそっとなぞると、閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
公園のベンチに座り缶コーヒーを手に一息ついていると、公園の入り口に足元がふらついている女性に気が付いた。 (どうしたんだ?) そう思った瞬間、その女性が崩れるように倒れるのが目に入り慌てて駆け寄った。 「大丈夫か!?」 頭を支え声をかけるが応答がなく、顔色も悪いし呼吸も荒い。体は信じられない程熱く、すぐに熱中症だと思い救急車を呼んだ。 幸いなことに救急車はすぐにやって来て、すぐに病院に運ばれた。俺は仕事中という事もあり、病院には付き添わず連絡先だけを渡して、会社に戻った。 会社に戻った後も彼女の事が気になり、仕事を早めに切り上げると運ばれた病院へと勝手に足が進んでいた。 (……今思えば、すでに彼女に惹かれていたのかもしれない) そう思うと、この出会いも偶然ではなく必然だったのかしれない。 病院に着いた頃には処置は終えていて、彼女はベッドの上で規則正しく寝息を立てていた。 「お付き添いの方ですか?」 「え、ああ……」 看護師に声をかけられてなんて答えていいのか分からず、曖昧な返事になってしまった。彼女はやはり、熱中症だった。対応が早かったので大事には至らなかったが、次に放たれた看護師の言葉に耳を疑った。 「あ、もしかして旦那様ですか?お腹の赤ちゃんは無事ですよ」 「は?」 嬉しそうに話す看護師に、目を見開いて驚いた。 「あら?違いました?ごめんなさい。てっきりそうかと思っちゃって」 苦笑いを浮かべながら去って行く看護師の背中を見つめ、すやすや寝息を立てる彼女を黙って見つめていた。妹である桜と同じぐらいの年代なのに、随分と疲れた様な顔をしていると思い、目の下の隈をそっとなぞると、閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
「俺がお前の旦那になる」 床に押し倒され、真剣な眼差しで見下ろしてくる煌に、ドキドキと鼓動が早まる。「……え?」 心臓の音を誤魔化すように、笑顔を引き攣らせ冗談ぽく見せるが、煌の瞳は変わらない。(本気……なの?) キュッと喉が鳴る。 煌と一緒になれば、今悩んでいること全て解消される。結花も煌には慣れているし、一時は煌が父親だと思っていた程。自分の子ではないのに、幼い頃から変わらず愛してくれる。(……だけど、本当にいいの?) 脳裏に思い浮かぶのは奏の顔。(なんでこんな時まで……) 私も大概、根に持つ人間なんだなと思い知る。 今の私じゃ煌とは釣り合わない。こんな中途半端な気持ちのままではこう言うにも失礼だ。 そう結論付けて「あの」と口を開いた。「──なぁんてな。冗談だ」 「は?」 クスッと笑う煌を見て、思わず間の抜けた声が漏れた。「本気にしたのか?」 「――ッ!!」 悪戯に笑う姿を見て、ようやく揶揄われたということに気が付いた。「もう!なんなのよ!」 「あははは!揶揄ったのはそっちが先だろ?お返しだ」 そう言いながら、軽く頭を指で弾かれた。「さて、俺は風呂にはいってくるよ」 逃げるように浴室へと向かう煌に「もぅ」と頬を膨らませて怒って見せるが、本音はホッとしている。だって、あんな煌の表情始めて見た。 いつもの優しい雰囲気が蠱惑的で妖艶なものに変って、初めて煌を『兄』ではなく『男』なんだと気付かされた気がして、身体の熱が未だに冷めてない。「勘弁して……」 柚は膝を抱えながら呟いた。 *** ザー…… 煌は、熱の籠った身体を冷やすように冷水のシャ
奏は、あれからも柚の帰りを待ち続けた。 「一度警察に相談した方がいいんじゃないか?」 事情を知った煌から掛けられた言葉。 「何かあってからじゃ遅いだろ?」 心配してくれるのは有難いが、警察沙汰は不本意というか、そこまでは望んでいない。 奏に限って乱暴なことはしないと思ってはいるが、今の煌に話したところで聞く耳持たないだろう。 心配してくれるのは嬉しいが、子供じゃないんだから……って思いもあり、面白くなさそうに眉間に皺を寄せた。 「そうだ。お前今日から俺ん家に泊まれ」 「は!?」 「別に驚くことじゃないだろ」 「いや、驚くでしょ!」 当然のように言われたが、これが驚かずにいられるはずが無い。確かに何度か泊まりに行ってはいるが、今回は訳が違う。 「仕事終わったら着替え取りに行くぞ」 「ちょっと勝手に決めないでよ!」 流石に強引過ぎると文句を口にすると、立ち去りかけた煌の足が止まった。 振り返ったその表情は真剣で、思わず怯んでしまった。 「……いい加減気付けよ……」 「え?何?」 ボソッと言われて聞き取れなかった。 「俺が心配なんだよ。黙って言うこと聞とけ」 小さい子を宥めるように、柚の頭にポンッと軽く手を置きながら伝えてきた。 子供扱いされムッと頬を膨らせませたが、煌はクスッと軽くはにかむと、自分の仕事へと戻って行ってしまい文句も答えも言えずじまいになってしまった。 *** 仕事を終えた柚がロビーへ降りると、先に仕事を終わらせていた煌が待ち構えていた。 「もぉ」
「パパが……事故で──」 「え?」 その日、父が亡くなったことを知った。 亡くなったのは一月ほど前で、出産を控えた私には言えることが出来なかったと聞いた。「ごめ……ごめんなさい……本当は、早く報せるべきだった……」 受話器越しからでもその疲労感と消失感が伝わってくる。涙ながらに語る母を宥めるのが精一杯で、とても子供が生まれた事を報告できる様子じゃなかった。 遥乃自身も、悲しくないはずがない。電話を切り、一人になった所で声を殺して泣いた。(うぅ……パパ……ごめん……!ごめんなさい!) 最後の最期まで我儘で自分勝手で……それでも、パパは愛してくれた。なのに私は……! 大好きな父の最期を看取れず、全てが終わってから知った親不孝な娘。そんな娘が幸せになれるはずがない。「ふぇ……ふぇ~……」 鳴き声にハッとした。小さくとも力強く鳴き声を上げ泣く生まれたばかりの愛娘を目にして、母の言葉を思い出した。『もし、私達に何があっても貴女は強く生きるのよ。お腹の子の親は貴女しかいないの。産むと言う覚悟があるのなら、絶対幸せにしてあげなさい』 その通りだ。私には生きる理由がある。幸せにすると約束したのだから。 顔を上げた遥乃の瞳は先ほどとは打って変わって、瞳に強い灯が灯っていた。 ――その後、父が亡くなった実家は、一気に傾きそのまま事業は廃業となり多額の借金を背負う事となった。破産手続きで借金の方は何とかなったが、それでも全部は返しきれず生活の方は一変した。 今までのような豪華な生活は出来るはずもなく、母は大きく広かった屋敷から1Kの小さなボロアパートに引っ越し、近所のスーパーで生まれて初めて仕事を始めたと聞いた。 そんな母を放っておけず、帰国すると伝えた事もあったが、それを母が拒絶。「言ったでしょ?私達に何かあっても強く生きなさいと。今は貴女も大変な時期でしょう?こっちの事は心配いらないから……」 明らかに疲
朝倉遥乃の家は元々裕福で、それこそ奏と釣り合いの取れるほどの豪商だった。 両親も仲が良く、遥乃自身もそんな両親の事が大好きで憧れだった。「私も、パパみたいな人と結婚する!」それが、私の幼い頃の口癖だった。 両親はいつも笑っていたが、パパみたいに優しくて温かくて、家族の事を大事にしてくれる人と結婚するのを夢見ていた。 だが、夢は夢。現実はそう甘くなかった。 私が愛した人は、自分の事を本当に愛してくれていたんじゃなかったと知った時は、この世の全てを恨んだ。 悲しくて、悲しくて……憎かった。 それでも生きてこれたのは、自分の胎に芽生えた小さな命を守る為。その為だけに生きてきて、生まれたばかりの結花を見た時、自然と涙が溢れてきた。これから一生、なにがあってもこの子だけは守ってみせると改めて決意したのを覚えている。 そう思うと、私のママも私を生んだ時、そう思ったのかな……とかいろんな想いが溢れてきた。 壊れそうなほど小さい手を握り、ようやく訪れた穏やかで幸せな時間を噛みしめていた。「あ、そうだ。ママ達に知らせないと」 海外に渡米する時は、驚いてはいたものの、私の意見を尊重して許してくれた両親。胎に子供がいるという事は誰にも伝える気はなかったが、移住して暫く経って落ち着いたころに煌と桜に両親にだけは伝えた方がいいと説得され、連絡をしてみた。内心では怒っていたと思うが極めて冷静に話を聞いてくれた。 父親については少し追及された。「ごめん。それだけは言えない」 「相手はこの事を知っているのかい?」 「……」 「遥乃。子供を育てるって言うのは簡単なことじゃない」 「分かってる」 だけど、奏に何て言えばいいの?貴方の子ができましたって?『は?冗談じゃない』『君とは遊びだったんだから』『子供は諦めてくれ』 そう言われるのがオチ。そんな事になったら、私はもう立ち直れない。この世に生きる意味
遥乃は顔を真っ赤に染めながら、奏の『印』を隠そうと服で覆った。恥ずかしいはずなのに、期待が込められた視線を向けてくる。(堪らないな……) 他の連中は知らない、僕だけが知る遥乃の顔。 奏はそっと頬に手を当てると、ゆっくりと顔を近付けた。遥乃は一瞬、戸惑った顔をしたが、僕を受けいるように黙って目を閉じた。 二人の息が重なる。熱く甘い時間…… 遥乃の口から答えは聞けなかったが、なんとなく何を言いかけたのかは分かっている。『それは結婚も?』 正直、遥乃と出会う前までは結婚なんてどうでもよかった。いつものように親の決定にいい返事をして、決められた相手と添い遂げるつもりだった。 だが、遥乃のいない未来なんて考えられなくて……いざとなれば、両親とぶつかる覚悟は出来ていた。 それなのに――……遥乃は僕の前から消えた。 いくら探しても見つからず、心に大きな穴が開いたようだった。それでも、いつものように変わらぬ日常はやってくる。 もう毎日がどうでも良くなっていた奏は両親の決めた大学に進み、言われるがままに医者になっていた。傀儡のような人生だと失笑するぐらいに…… そうなると、次は結婚だ。家柄と容姿に釣られて絡んでくる女性は多くいたが、どうしても付き合う事が出来なかった。(どうせ付き合った所で、相手は決められている) まあ、それでいいと思っていたある日、患者として目の前に現れた柚の姿を見て、忘れていた感情が少しずつ戻ってきていた。 そして……あの日初めて親に反抗した。 腕に抱いた遥乃を目にした両親は不快感を前面に出していたが、構わずその場をやり過ごした。だが、家に帰ってからが大変だった。「奏!どういうことだ!」「どうって、知っての通りだけど?」 実家に呼び出され、言ってみれば怒りを露わにしながら机を叩きつける父親








