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第31話

Penulis: 甘寧
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-24 16:00:42

 遥乃は顔を真っ赤に染めながら、奏の『印』を隠そうと服で覆った。恥ずかしいはずなのに、期待が込められた視線を向けてくる。

(堪らないな……)

 他の連中は知らない、僕だけが知る遥乃の顔。

 奏はそっと頬に手を当てると、ゆっくりと顔を近付けた。遥乃は一瞬、戸惑った顔をしたが、僕を受けいるように黙って目を閉じた。

 二人の息が重なる。熱く甘い時間……

 遥乃の口から答えは聞けなかったが、なんとなく何を言いかけたのかは分かっている。

『それは結婚も?』

 正直、遥乃と出会う前までは結婚なんてどうでもよかった。いつものように親の決定にいい返事をして、決められた相手と添い遂げるつもりだった。

 だが、遥乃のいない未来なんて考えられなくて……いざとなれば、両親とぶつかる覚悟は出来ていた。

 それなのに――……遥乃は僕の前から消えた。

 いくら探しても見つからず、心に大きな穴が開いたようだった。それでも、いつものように変わらぬ日常はやってくる。

 もう毎日がどうでも良くなっていた奏は両親の決めた大学に進み、言われるがままに医者になっていた。傀儡のような人生だと失笑するぐらいに……

 そうなると、次は結婚だ。家柄と容姿に釣られて絡んでくる女性は多くいたが、どうしても付き合う事が出来なかった。

(どうせ付き合った所で、相手は決められている)

 まあ、それでいいと思っていたある日、患者として目の前に現れた柚の姿を見て、忘れていた感情が少しずつ戻ってきていた。

 そして……···初めて親に反抗した。

 腕に抱いた遥乃を目にした両親は不快感を前面に出していたが、構わずその場をやり過ごした。だが、家に帰ってからが大変だった。

「奏!どういうことだ!」

「どうって、知っての通りだけど?」

 実家に呼び出され、言ってみれば怒りを露わにしながら机を叩きつける父親

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