جميع فصول : الفصل -الفصل 40

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31.勧告

奏多sideコンコンッ――――「失礼します、社長、今お話しよろしいでしょうか」社長室のドアがノックされると、秘書の佐藤が俺が返事をする前に部屋に入ってきてデスクに近づいてきた。礼儀やマナーを重んじる秘書の立場である佐藤が返事をする前に入ってくるなんてありえない。その慌てた様子に嫌な胸騒ぎがした。「一体どうしたんだ、何かあったのか?」「大変なことが起きました。こちらを見て下さい。今、我が社のメインバンクである月島銀行から財務状況を確認する外部監査を行う勧告書です」「外部監査だと?一体どうなっているんだ、住吉本体か?それとも関連会社か?監査はいつ行われるんだ?」俺が矢継ぎ早に質問をすると、佐藤は眼鏡のフレームを軽く持ち上げて一呼吸をついた後に一つずつ丁寧に質問に答えていった。「今すぐ対象会社の社長を呼び出せ。外部監査されるなんて一体、どれほど酷い状態なんだ。何か経緯があるはずだ。俺が説明を求めていると伝えてくれ。あと、直近三年分の決算資料を持参するように」「はい、かしこまりました。至急、説明に上がるように申し伝えておきます」「銀行に目をつけられるなんて今後の別グループ会社の心象も
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32.真意と誤解

奏多side「社長、私は貴方を信じて経営を任せていました。それが何故、メインバンクである月島銀行に特別監査をされなくてはいけないのですか? 分かるように説明して下さい」翌日、呼び出した子会社の社長である五十嵐は、俺の顔色を窺うように声を震わせながら口を開いた。その様子は、嘘が見つかってしまった子どものようで俺の神経を逆撫でさせる。 デスクを叩き立ち上がった俺の気配に、五十嵐は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。「……いいですか。こんな重大なことを、当事者である貴方からではなく先方からの『勧告通知』で初めて知ったこちらの立場にもなってください。今回は封書での連絡だったから良かったものの、もし銀行側がこちらに確認の電話を入れて、俺が『把握していない』ことが分かったらどうなっていたか。住吉グループ全体の統制が取れていないと、それだけで心象が悪くなり今後の融資に影響が出るかもしれないんですよ」「申し訳ございません……。実は、海外の取引先からの入金が半年以上滞っている状況でして。過去にも支払いが遅れることはありましたが、最終的には振り込まれていたので特に期していなかったのですが、それが銀行側の不信感に繋がったようです……」「半年? 半年も入金がないのに、これまで一度も問題視していなかったのですか?それで報告をしていなかった? 先方の資金繰りや倒産のリスクはどうなんですか?」「はい……。先方の財務状況や信用調査は定期的に行っていますが問題ありませんで
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33.誠実

奏多side「奏多! 聞いたわよ。月島銀行が監査に来るんですって? 面倒なことになったわね。私のパパから月島銀行の役員に話を通してもらうようにしましょうか?」秘書の制止を振り切って入ってきた麗華は、俺にねだって手に入れたばかりの限定モデルのブランドバッグを乱雑にデスクに置いた。「……なんで監査の件を麗華が知っているんだ。これは住吉の会社の話だ。部外者はむやみに首を突っ込まないでくれ」「部外者ですって?心外だわ。五十嵐社長はパパの古くからの友人よ。そもそも、五十嵐社長が住吉の買収提案を受け入れたのだって、パパの助言があったからこそなんだから、そんな言い方はないんじゃない?」あの買収に星野家が絡んでいたことに戸惑う俺に対して、麗華は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺の座っているチェアを強引に回転させて俺の太ももの上に腰を下ろした。麗華は俺の首に腕を回すと、指先で俺のうなじをゆっくりと撫で、耳元で熱い吐息を漏らした。麗華のつける甘ったるい香水の香りが、仕事場の雰囲気を一気に塗り潰していく。 「パパも困っているなら助けてやってもいいと言っているわ。……ただし、無償というわけにはいかないけれどね。この監査が上手くいったら、私を奏多の会社の役員か監査役として雇ってほしいの。もちろん名前だけの非常勤よ」「&he
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34.GIVE&TAKE

奏多side朝、仕事へ向かうために玄関のドアを開けようとした時、背後から執事の神山が近付いてきた。「奏多様、本日、新調されたオーダーメイドのスーツ十着とシャツ二十枚が届く予定となっております。受け取り後は、奏多様の部屋のクローゼットにお入れしてもよろしいでしょうか? また、以前着用されていたものはどうされますか?」足を止め、神山の方へ振り返り、さほど興味を示さずに即座に返答をした。「前の物は処分してくれ。スーツ以外にも最近使っていないものは、もう用がない。鞄や靴も最近買ったものだけを残して捨ててくれて構わない」「かしこまりました。それでは新しいものはクローゼットに収めて、古いものは一度、外に出しておきます。念のためご確認いただけますでしょうか。もし万が一、残しておきたい品などがございましたら、お教えください」「分かった。今回はクローゼットの中身をすべて出して、徹底的に整理してくれ」俺の言葉に、神山は僅かに眉を動かしたが、すぐに表情を元に戻した。 「承知いたしました。本日と明日、二日かけて片付けを行わせていただきます。それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ」「ああ、行ってくる。あとは頼んだぞ」
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35.暗証番号

麗華side「奏多に送ったメッセージ、既読にはなったけれど返信はないわね。どうせ買ったら駄目なんて言わないだろうし、事後報告でもいいわよね」返事を待ってから購入しようとは一応思っていたけれど、奏多の連絡よりも先に外商が私のマンションに来る時間になってしまった。『限定品』という言葉は、抗えない魔力を持っている。今日を逃したら、次の時にはもう販売されていないかもしれない。私の気持ちは買い一択だった。「星野様、よくお似合いになっておられます。星野様の細くて綺麗なデコルテが、このネックレスを纏うことでより洗練された美しさになりますね」外商の営業担当が流れるように褒め言葉を並べてくる。お決まりのセールストークだと分かってはいても悪い気分はしない。 「こちら頂くわ。いつものように支払いはカードでお願い」「ありがとうございます。かしこまりました。それではこちらに、暗証番号をお願い致します」差し出された端末に、私は忌々しい思いを押し殺しながら4桁の数字を打ち込んだ。「1104」奏多から朝食を準備する代わりに自由に使っていいと渡されたカードだが、暗唱番号を入力するたびに私の神経は逆撫でされる。奏多の誕生日でも、私の誕生日でもないこの数字。それは、前妻である遥の誕生日だった。最初にカードを作ったのが遥のためで、番号を変えるのが面倒だっただけだと奏多は淡々と言っていたけれど、番号なんていつでも変えられるのにそのままにしているという事実が私を不愉快にさせる。私は打ち付けるように4桁の数字を押して確定のボタンを押した。「そうだ、せっかく買ったのだから奏多に見せに行こう。夕食はそのまま住吉家で食べればいいわよね」私は住吉家の運転手を呼びつけ、買ってきたばかりのネックレスをつけて高級車に乗り込んだ。これを見れば、奏多もこの価値がきっと分かるはずだ。玄関にある大きな鏡に目を向けると胸元で揺れるダイヤのネックレスは、シャンデリアの光を反射してまばゆいばかりに輝いていた。「あら、みんなで奏多の部屋に集まって何をしているの?」
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36.手帳

麗華sideガムテープで閉じられていない箱の中には、奏多の荷物とは対照的に地味な色合いのボロボロの服が顔を覗かせていた。​「何、この雑巾みたいな布切れ。こんな服を本当に着ていたというの?……あ、違う。雑巾じゃなくて執務服か。これじゃ、うちの家政婦の方が生地も立派で高価なんじゃないかしら」​私は指先でくすんだ色のワンピースを摘まみ上げた。ボタンの糸が緩んでいるのか、素人が縫い直したような跡がある。見るだけで貧乏くさくて、この家自体の品格が落ちてしまう。「そもそもあの女の荷物を見て、奏多が動揺するはずないのに私ったら何を考えているのかしら。きっと奏多なら一瞥もせずに、『さっさと捨てろ』って冷たく吐き捨てるに決まっているわ」​自分に言い聞かせるように呟き、裾がほつれたワンピースを箱へ放り投げようとしたその時――服の隙間から小さな手のひらサイズの手帳が滑り落ちた。​「……ふふ、何これ」​面白半分で中を覗き込む。そこには、几帳面な文字で、奏多の好みがこと細かに書き留められていた。​「雑炊のように噛み応えのないものはあまり好まない。野菜はじっくり煮込むより少し歯ごたえが残るくらいの火入れを好む」「冬場の寝室は、加湿器の湿度を
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37.理解者

麗華sideドアの前で一度呼吸を整えてから、ノックもせずに奏多の部屋へと踏み込んだ。「奏多、食事を持ってきたわよ。先にご飯を食べるのはどうかしら? 」部屋に入ると、奏多は新しく届いたスーツを確認する様子もなくデスクに向かっていた。生地を保護するための透明なビニールが被せられたままのスーツが物静かに並んでいる。奏多はパソコンの前で、眉間に深い皺を寄せて資料を読み込んでいた。「なんで麗華が運んできたんだ? 俺は家政婦に頼んだはずだぞ」「家政婦さんが忙しそうだったの。奏多がお腹を空かせていたら悪いと思って、代わりに持っていくと言ってあげたのよ」私の話を聞く気もないようで、背を向けたまま作業を続ける奏多。ソファの前にあるローテーブルにそっとお盆を置くと、デスクに座る奏多の後ろに音を立てないように気をつけながら歩み寄り、奏多の広い背中に自分の胸をそっと押し当てるようにして抱きついた。「ねえ、何を見ているの? 私のことも見てほしいな……」少し拗ねたような甘く艶っぽい声で耳元に囁きかけた。突然のことに、驚いて大きく身体をピクリと動かした奏多に吐息を吹きかける。この至近距離で私の香りや肌の温もりを知れば、大抵の男は即座に手を止めて、物欲しそうな顔をして私を
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38.日記

奏多side翌日の金曜日の朝、麗華は屋敷に顔を出さなかった。昨日、集中して取り組みたい仕事をしている最中に麗華が食事を運んできたが、俺が冷たい態度を取ったことで彼女の機嫌を損ねたらしい。ものすごい剣幕で大きな音を立てて部屋を出ていった麗華の姿を思い出す。(麗華は怒って今朝来なかったのか? 俺にも俺の都合がある。社運を賭けた監査を前にして集中したい時に邪魔をされたら誰だって怪訝に思うだろう。麗華だって監査のことは知っているのに俺の気持ちが分からないのか……)結局、昨夜は目処がつくところまで資料を読み込んだため、終わったのは深夜二時半を過ぎていた。少し寝不足気味だ。リビングの椅子に座り、重い瞼をこすりながら、麗華を怒らせて面倒になったと思いながら頭を掻いていると家政婦がお盆を持ってやってきた。「奏多様、お食事をお持ち致しました」今日のメニューは、ライ麦パンのバケットと目玉焼きにハンバーグ。そして、野菜たっぷりの温かいコンソメスープだ。身体を温めるためにスープを一口飲んだ瞬間、スプーンを持つ手が止まった。「このスープは……誰が作ったんだ?」「え……スープですか? シェフが作ったものになりますが、何か問題でもございましたか?」「いや、何でもない。少し気になっただけだ。麗華は今日、ここへ来たのか?」「星野様でしたら、本日はまだいらしていませんが……」家政婦の言葉を聞きながら今度は味わうようにもう一口飲むと、麗華が作るスープに味が似ている気がした。結婚していた頃は、俺の料理を遥がすべて作ってくれていて、遥がいなくなってからは、朝食は麗華が作っていた。夕食はシェフの料理を食べることもあるが、大抵お酒を飲むためにスープを飲むことはほとんどない。出たとしても濃厚なポタージュやボリュームのある参鶏湯などでこんなにあっさりした味のスープは飲んだことがない。初めて飲むスープのはずなのに、どこか懐かしい味がする。(俺が料理をしないから分からないだけで、コンソメスープなんて誰が作っても同じような味になるのか……?)不思議に思いながらも、食事を終えて寝室へ戻る。昨日届いたばかりの、真新しいネイビーのスーツとシャツに袖を通した。「やっぱり新しいものは気分が違うな。スーツはこうして、体型を引き立たせるジャストサイズでなければ」身支度を整えながら、ふとクローゼットに目をや
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39.俺の癖

奏多side寝室のクローゼットで発見した手帳を手に持ち、もう片方の指で文字をなぞる。1月18日 奏多は年明けの会食続きで少し疲れ気味の様子。家での食事は、脂っこいものは避けて、湯豆腐にして大根おろしとポン酢のタレを出した。消化にいい食材:大根、山芋、キャベツ1月23日 朝起きたら奏多が喉が痛いようでだみ声だった。奏多が喉が痛い時は風邪の前兆のケースが多いから注意しなくちゃ。朝はにんじんとりんごのジュースを急遽追加。夜は蓮根をたっぷり使ったメニューにした。喉が痛い時:大根、蓮根、蜂蜜2月24日 奏多がおかわりをしてくれた。この味付けが好きみたい。忘れないようにメモに残しておこう。他に代用できる料理も考える!3月12日 年度末の時期で忙しいみたい。今年は業績の件で悩むこともあったから責任を感じているのかも。人に弱音を出すのが嫌いだから言わないと思うけれど、最近、胃を抑える時が多いからストレスを感じているかもしれない。「なんだこれ。日記というより俺の観察ノートじゃないか……」乾いた笑いが漏れた。ページをめくっても、めくっても、書かれているのは俺のことばかりだ。いつ、どんな顔で食事をしていたか。どの料理を何口食べたか。悩みを抱えていたり緊張をすると俺が無意識に胃を押さえる癖まで遥は見逃していなかった
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40.紛失

奏多side土曜日、朝食を終えて着替えを済ませてからクローゼットの中を見渡すと、一昨日届いたばかりの新品のスーツと鞄だけが美しく並んでいた。ゆとりの感じられる風通しのいいクローゼットは、見ていてとても清々しい。「さて、神山に移動させた荷物の場所を聞いて確認するか……」階段を降りて執事の神山を探すと、電話をしている最中だった。受話器を両手で持ち、時折深く頭を下げながら対応していてまだ時間がかかりそうだ。「奏多様、いかがなさいましたか?」神山の様子を伺っていた俺に、古くからこの屋敷に仕えている家政婦の一人が声をかけてきた。「ああ。一昨日からクローゼットの整理を頼んでいたが、出した荷物がどこにあるか知っているか?捨てる前に中身を一度、自分の目で確認しておきたくてな」「それでしたら、私もお手伝いいたしましたので分かりますわ。二階の客室に一時的に移動していますので一緒に着いてきて頂けますか」家政婦の後について階段を昇り、麗華の部屋の向かいにある客室へと入った。部屋の中には、二十箱近い段ボールが所狭しと置かれている。「……こんなに荷物があったのか。中身は何があるか分かるか?」「ええ。奏多様のクローゼットは定期的に入れ替えを行ってまいりましたが、全ての荷物を出すのは実に五年ぶりでございました。気がついたら、これほど溜まっておりましたのね」五年前、それは遥がこの家を出ていった年だ。「そうか。昨日、少し見た時に書物が入っていたんだが……その箱はどこにある? あれが俺の部屋から出てきたものなのか、もう一度確認したい」神山が嘘を吐くはずはない。だが、あの『会計六法』を料理と掃除しか能がなかったはずの遥が持っていたなんてどうしても信じられなかった。俺は平静を装いながら、探りを入れるように家政婦に問いかけた。「本でございますか? それでしたら、確かこちらの方にひとまとめにしたはずです。向かって左側が奏多様の衣類。右端の奥にある五箱は奏多様のものではなく、はる……」そこまで言いかけて、家政婦はハッと口元を抑えた。「遥」の名前を言いかけて、主である俺の前では言わない方がいいと思ったのだろう。気まずい沈黙が流れると、家政婦は少しだけ動揺しながら一つずつ箱を開けていく。すると、二つ目の箱を覗き込んだ時に、首を傾げて不思議そうに呟いた。「あらっ? この箱に
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