奏多side午後三時、ブラインドの隙間から冬の低い陽光が差し込み、デスクの上に細長い縞模様を描いている。用事が終わって社内に戻った俺は溜まっていた決裁書類に目を通していたが、デスクの引き出しに仕舞い込んだあの『黒い手帳』の存在が頭から離れなかった。コンコンッ――――ノックの音と共に秘書の佐藤が入ってくるのが見えて、キーボードを打つ手を止めて平静を装いながら椅子を回転させ頭を上げた。きっと佐藤が来た理由は、今夜の監査チームとの会食についての報告だろう。「社長、今夜の件ですが……」 「ああ、急で悪かったな。それで、場所はどこに決まったんだ?」予想通りのワードに胸を高鳴らせながらも声や表情に出ないように注意して聞き返すと、佐藤は端正な顔立ちを微かに曇らせて手元のタブレットから視線を上げた。「その件ですが、月島銀行側に打診したところ、丁重にお断りされました。取引先との会食や金品の授受は、会社の規定により厳格に禁止されているそうです」「禁止? 彼らだって社外の人間と食事に行くことくらいあるはずだろう。それに金銭の授受なんてしない」「会食が全くないと
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