「森川社長はもうすぐ着きますよ。すぐ後ろにいますから」と文男が笑って答えた。「あの元夫になる男、確かに悪くない。海城市じゃ名の知れた存在だしな」聖也が小声で彼女に言った。知佳は彼をちらりと見た。すると聖也は正直に続けた。「本来なら今回の提携は、実力で言えば間違いなくあっちの会社のものだった。けど……」「お兄ちゃん、それって身内びいきで筋を通さないってやつなの?」知佳は心根は優しかったが、馬鹿ではなかった。だからといって、聖也の金を拓海の会社の連中みたいなクズどもに渡すわけにはいかない。聖也は彼女を一瞥した。「知佳ちゃん、あの会社の生死は君の一言で決まるんだ」知佳は目の前で意気揚々としている数人を見つめ、考え込んだ。「高いビルだって、何もないところから建つ。建てるのは大変だが、崩れるのは一瞬だ」聖也は意味深に言った。二人は誰にも知られていないのをいいことに、そこでひそひそと陰口を叩き続けていた。だがすぐに、それもできなくなった。彼らを知っている人間が来たからだ。五人が連れ立って歩いてきて、あちこちで賑やかに挨拶を交わし、知佳と聖也の前に差しかかると足を止めた。「知佳さん!」声をかけたのは、新吾の妻の馨だった。知佳は笑って、「馨」と言った。実のところ、彼女は馨とほとんど付き合いがなかった。会った回数だって玲奈より少ないくらいだ。なのに、どうして今こんなに積極的に声をかけてくるのか分からなかった。「先に来てたんだ?ほら、私たちと一緒にいようよ」馨が誘った。馨という人のことは、知佳も昔から噂で聞いていた。玲奈とは性格が違って、気が強くてさっぱりしたタイプだという。新吾は彼女を少し怖がっていて、むしろ尻に敷かれていた。馨は彼女がまだ迷っているのを見ると、自分から手を差し出した。「おいでよ。拓海もあとで来るし、身内は身内で固まってたほうがいい」知佳は馨の急な親しさに慣れなかったし、そもそも今の自分は、拓海の会社の人間たちとはもう身内ではなかった。本当は一緒にいたくなかった。だがそのとき、結衣がわざわざ前に出て、「馨姉さん……」と言った。「姉さんって呼ばないで。あんたより私のほうが年下なの!」馨は容赦なく結衣の言葉を遮った。一ミリも損をしたくないタイプだ……とはいえ、結衣は新吾や文男たちと同級生で
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