試合の日は日曜日だ。試合があるため、この週末、知佳は家に帰らず、貴久と約束して、翌日いっしょに会場へ行く準備をしていた。ところが、女子寮を出た途端、知佳は貴久が木の下で待っているのを見つけた。手には、リボンのロゼットをひとつ持っていた。「なにそれ?」思わず声を立てて笑った幼稚園の発表会でもらう、ごほうびみたいじゃない?貴久も笑い、そのロゼットを彼女に差し出した。「本日の試合でいちばん活躍する選手、菅田知佳さんに贈呈。みなさん、拍手ー」そう言うと、彼は自分で拍手を始めた。知佳は可笑しくて、笑いながら言った。「もういちばんって決めちゃうの?配るなら試合のあとでしょ?」「君がいちばんだよ」貴久は彼女のキャンバスバッグに、そのロゼットを結びつけてやった。言ってみれば、けっこう似合っていた。この年頃でそんな飾りを胸に付けるのは、さすがに気恥ずかしい。でも、こうしてキャンバスバッグに結ぶと、なんだかこのバッグがちゃんとした可愛さをまとった。「これ、限定デザインだね」彼女はまた声を上げて笑った。十数年後から戻ってきた彼女は、朱莉のファッション感覚に影響されていて、これはこれで本当に商品化できそうな気さえした。でも、貴久はどうしたんだろう?なんでこんな子どもっぽいロゼットをくれるの?朝の光の中、貴久は笑みを含んだまま言った。「ただいま発表します。菅田知佳ちゃんは今回の公演でいちばん素晴らしい小さな役者さんです」知佳の笑みが固まった。このロゼットの出どころを思い出したのだ。小さいころの彼女は踊るのが大好きだった。ダンス教室ではもともとセンターを任されていたのに、新学期になって受講料を払わなければならなくなり、両親が払ってくれなかったせいで、彼女は続けられなくなった。その学期、ちょうど教室がテレビ局でグループダンスを披露することになっていて、もちろん彼女はその舞台に出られなかった。教室の子たちが戻ってきたあと、先生はみんなの出来を褒めて、一人ひとりにリボンのロゼットを配った。そんなものが子どもにとってどんな意味を持つかなんて、今の年齢から見れば幼稚だ。けれど、あのときの彼女は、みんなが胸にロゼットを付けて満面の笑みを浮かべているのを見て、胸の奥がひどく寂しくなった。ロゼットのためでもあり、好きだった踊りのためで
اقرأ المزيد