由奈が電話を取った瞬間、向こうから久美子の泣き叫ぶ声が飛び込んできた。「由奈、浩輔が……浩輔が大変なの!」頭の中が真っ白になる。耳鳴りだけが響き、他の音は何も聞こえなかった。由奈はそのまま車を走らせ、中央病院の救急救命室へ駆け込んだ。廊下では久美子が椅子に崩れ落ち、嗚咽を漏らしている。傍らには文昭が、暗い顔で黙って座っていた。たった数日しか会っていないのに、文昭のもみあげが白くなり、まるで十歳も老け込んだようだった。由奈は通りかかった看護師を掴むようにして訊いた。「手術室にいる人に……何があったんですか?」「殴打による頭蓋内出血でショック状態だそうです。今、中井先生が手術中です」――殴打?留置所で殴られた?そんなはずない。由奈は手を離し、全身が震えながら立ち尽くした。しばらくすると、彼女はふらつく足で手術室へ突入する。医師たちは一瞬ぎょっとしたが、彼女の顔を見て事情を察する。「池上先生、どうしてここに?」「彼は……私の弟です。私も手伝います、助けさせてください!」そう言いながら、手術服に着替えようとしたその時、助手の一人が前に出て止めた。「池上先生!規則では、自分の家族の手術はできません。中井先生を信じてください!」「信じてないわけじゃない。ただ……じっとしていられないんです」由奈の視線は横たわる浩輔へ吸い寄せられる。「この状態じゃ無理ですよ。池上先生、あなたがいつも言ってたでしょう?医者は冷静でなければならないって。今の池上先生冷静に見えますか?」その言葉に、由奈の動きが止まった。心拍モニターの規則的な波形を見て、唇を噛む。「……すみません、取り乱していました」「無理もありません。ご家族ですからね。外で待っていてください」由奈は深く頭を下げ、ゆっくりと手術室を後にした。廊下で待つ久美子が、震える声で問う。「由奈……浩輔は……」「大丈夫。必ず助かるわ」その言葉に、久美子はかろうじて気力を取り戻す。「留置所の中でよ?監視もあるのに、どうしてこんなことに……!」文昭は沈黙したまま目を伏せる。その顔には、すでに答えを知っている者の影が差していた。――留置所の中で、なぜこのような悪質な事件が起きたのか。それを黙認したのは誰なのか……由奈の脳裏に、ひとりの名前が閃く。次の瞬間、彼女は無言で
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