会社主催のパーティーでも、二人きりで会うカフェでも。凪は常に、恋人として完璧に振る舞ってきた。でも、渉が自分の行き先に興味を持つことは一度もなかった。そこまで考えて、凪の胸がちくりと痛んだ。でも、同時に、肩の荷が下りたような安堵感を覚えた。彼女はスマホを握りしめ、空に尋ねた。「この結婚がお互いのためのものなら……私は、何をすればいいですか?」「まずは君が選んだ物件を見に行く。そして、俺の妻としての役目を果たせばいい」空は、凪のために車のドアを開けてくれた。その振る舞いは、まるで優しい夫のようだった。運転手はアクセルを踏み、二宮グループの近くのマンションへまっすぐ向かった。しかし、凪はそこへ行く気にはなれなかった。あそこは、二宮グループを手に入れるために選んだ、ただの住まいにすぎない。帰るべき「家」ではないのだ。「先に汐見台へお願いします。今から人に頼んで、荷物をいくつか運んでもらいますから」凪は静かにそう言った。普通なら、運転手はまず空の意向を確認するものだろう。それなのに――自分の言葉に従い、黙ってハンドルを切ってUターンした。なんだか、変な感じ。凪が想像していた空という男は、自分の父親のように独裁的で、渉みたいに何でも支配したがる人間だった。ほんの小さな決定権さえ、誰にも渡さないような男だと。ましてや、彼女に何かを決めさせるなんて。凪の目に一瞬浮かんだ戸惑いを、空は見抜いたようだった。「君は俺の妻だ。飾りじゃない。君の決定は、俺の決定と同じだ」権力も、財産も。空は、そのどちらも彼女に与えることを惜しまないのだろう。ただ、狭い車内で二人の腕が触れ合うことはなかった。愛情だけは、彼もきっと与えることができないのだろう。しばらく呆然としていた凪だったが、ふと、この男と結婚するのも悪くないかもしれない、と思い始めていた。こわばっていた体が、少しずつ緩んでいくのを感じた。車が木漏れ日の美しい並木道に入ったとき、凪はそのタイミングで口を開いた。「私たちの結婚について、いくつかルールを決めておかないですか?」空の口元から、ふっと笑いがこぼれた。だが、車内の空気は急に冷たくなった気がした。「言ってみろ、君の要求を」「結婚式は、三ヶ月後にしてほしいです」今すぐ結婚式の準備を始めるより、一刻も早く二宮グループに戻って
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