エレベーターに乗り込み、大きく深呼吸をした。冷静になるのよ、水琴。落ち着いて。ドアが閉まりかけたその時――すっと差し込まれた手が扉を遮った。灼也が乗り込んでくる。長身の彼が近づくにつれ、ふわりとシダーウッドの香りが漂ってきた。狭いエレベーターの空間が、あっという間に彼の匂いに満たされていく。水琴は息苦しさを覚え、頬が火照るのを感じてそっと手を当てた。とても熱かった。「熱がぶり返したか?」灼也が心配そうに覗き込み、躊躇うことなく水琴の額に手のひらを当てた。「……いや、熱くはないな」水琴は息をするのも忘れ、硬直した。男の温かく力強い手の感触。その手が離れてズボンのポケットに収まるまで、彼女の視線はずっと彼の手を追っていた。「……熱なんて、ありません」ようやく絞り出した声は、ひどく硬かった。「分かってる」灼也は不意に身を屈め、水琴の顔のすぐ近くで低い声を出した。「……照れてるのか?」「誰が照れてるんですか!」水琴はやり場のない視線を彷徨わせながら、必死に強がった。チーン。到着を知らせる音が鳴り、ドアが開いた瞬間、水琴は灼也の脇をすり抜けるようにして逃げ出し、大慌てで玄関の鍵を開けた。家の中に入ると、ふわりと料理のいい匂いがした。隣の人が夕飯の支度でもしているのだろうか。そう思った瞬間――パッと明かりが点いた。水琴は目を丸くした。鹿耶と紗音が、それぞれ花束を抱えて立っていたのだ。「退院おめでとう!」鹿耶は花束を水琴の手に押し付けるなり、ぎゅっと抱きついてきた。「もうっ!こんな大変なこと、どうしてすぐに教えてくれなかったのよ!」紗音も反対側から抱きついてくる。「水琴お姉ちゃん、ごめんなさい!わたしのせいで……わたしがちゃんと電話に出ていれば、こんなことにはならなかったのに」後から入ってきた灼也が、静かに玄関のドアを閉めた。「水琴は退院したばかりだ。まずは座らせて休ませてやれ」その言葉に、二人は「あっ」と声を上げて水琴から離れ、邪魔にならないよう花束をテーブルの端に置いた。水琴がリビングに進むと、ダイニングテーブルには所狭しと料理が並べられていた。鹿耶も紗音も、料理なんてできるはずがないのに?その時、キッチンの方から泣きそうな声が聞こえてきた。「助けてくださーい!水琴さん、なんとか言ってやってくださいッスよ!こ
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