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公園の桜

Autor: いのか
last update Última actualización: 2025-09-26 17:13:37

「悪い、俺一度抜けて彼女を家まで送ってくる」

  斉藤は仲間の元に戻りそう言った。

  「彼女?」

  「え、マジ?」

  仲間は興味深かけにきいてきたが斉藤は違うとこたえた。

  「バイト仲間の子、まだ高校生だよ。映画に興味もって欲しくて今日のチケットあげたの俺だから安全に送り届けないとだろ」

  「へぇ」

  「じゃあ1時間位でもどるから」

  仲間にはそれだけ言って春陽の元へ駆け寄る。

  困った様に待つ春陽はどこか小動物のようだった。

  小さな背格好のせいなのか、周囲に怯えた様な態度のせいなのか。

  斉藤は他意もなくかわいいと感じた。

  「お待たせ、行こう」

  ためらいがちで動かない春陽の手をとり歩きはじめる。

  その手にビクッとなった春陽だが素直に斉藤の背後を歩いてついていく。

  「アパートがこのすぐ近くだから一回寄って車で送って行くね」

  わざわざ車をとりにいき送ってもらうなど迷惑だろうとわかっていたが繋がった手を春陽は離せなかった。

  だから。

  「ありがとうございます」

  と、返した。

  ミニシアターをでて商店街の奥に少し入りこむと小さな公園があった。ブランコと滑り台しか遊具はなく、あとはベンチが1つと立派な桜の木が一本だけ立つ。

  その公園の横で斉藤は指を指した。

  「あのアパートだから」

  公園の真向かいにアパートが2つ並んで建っていた。

  アパートの窓は東南にある公園側に向いており、この桜の木が満開になった時にはこのアパートの部屋から絶景が見れるのだろうと春陽は少しうらやましくなった。

  「桜、好きなの?」

  数度桜の木を見上げる春陽に斉藤はきいた。

  --好き?

  桜の開花宣言をきいても、満開になっても桜の花を綺麗だと感じても心をときめかすこともなかった。実際に花見をほとんどした事が無かった。

  ならば何故今年は昼通った公園でも今もこんなに心惹かれるのだろうか?

  桃色の花があんなに心に残るのか?

  春陽自身わからなかった。

  「わかりません、ただ……」

  ただ。

  「今年の桜は綺麗だな、と」

  春陽の答えに斉藤は笑った。

  「まだ数輪しか咲いてないよ?」

  「そうですね」

  春陽はもう一度桜の木を見上げた。

  見上げる春陽の瞳に斉藤はクスリと笑みながら。

  「満開になったらまたみにおいで、花見客もいないからこの桜の木を独占できるよ」

  満開になった姿を見てみたいと春陽は思った。

  駐車場に着くと斉藤は1台の黒い軽自動車の横に立ち「どうぞ」と助手席のドアを開けてくれた。

  香織もゆり子も、家族は誰も免許をもっていなかったし、タクシーは贅沢品であるため乗った事がない。車両で乗った事があるのは通学に使うバスくらいであった。

  それなのに年も近い男性の車の助手席に乗るなんて。

  春陽の心臓は爆発しそうなほど早鐘をうった。

  助手席に座りシートベルトを締めると、斉藤も運転席に乗り込み車を発車させた。

  --近い。

  車という密室のなか思った以上の距離の近さにトートバッグを両手で抱きしめ固まったまま流れる車窓を見て気分を紛らわせるしかなかった。

  あっという間にバイト先のコンビニ駐車場へ車が停められた。

  「本当にここまででいいの?」

  コンビニからならば歩いて5分もかからず家に着く。

  なので春陽はコンビニで降ろしてほしいとたのんでいた。

  「大丈夫です、家は近いですから」

  「もう暗いから家の前まで送るのに」

  3月で18時になろうとしている空には既に幾つか星が輝いていたが。

  「22時まで仕事した後も私はここから歩いて帰ってますよ?ひとけもある場所ですからまだまだ安全です」

  心配してくれる斉藤の存在が嬉しくて春陽はクスリと笑って言った。

  「それもそうだよね」

  学校でも部活動などあればこの程度の時間に帰宅する中高生は沢山いる、否小学生でもいるだろう。

  過剰に心配してしまったと斉藤は少し頬を赤らめる。

  「後ででいいから今日の感想きかせてくれると嬉しいな」

  春陽はコクリと首を縦に振った。

  「時間があったら」

  「それじゃあ、気をつけて」

  春陽は車を降り斉藤に「ありがとうございました」とお辞儀をした。

 そして路地へ消えていくのを斉藤はそのまま車内で見送っていた。

  ブーブーブー……

  サイドに置かれたスマホが鳴る。

  スマホ画面には谷直樹(たになおき)と表示されている。

  斉藤はスマホを手にとると「はい」と応える。

  「無事に送れたのか?」

  「あぁ、今降ろしたところ」

  「オレらは先に誠さんの車で店に行っているからお前も早く来いよ」

  本当ならばミニシアターから全員揃って目的地の店へ行く予定だったが斉藤が一度抜けた為、残りのメンバーで移動する事にしたらしい。

  「すぐ行く」

  そう言って電話を切った。

  斉藤はこのまま店まで車に乗って行ってしまおう、とギアをDに入れアクセルを踏んだ。

 目的地の店は春陽を送ってきた途中にある公園近くにあった為それ程かからずに着いた。

  店前の駐車場へ車を停め店の入口まで行く。

  店といっても外灯は一切ついてないので静まりかえっている。しかし斉藤は躊躇うことなく扉に手をかけそれを引いた。

  「ホントに早かったな!」

  先程電話してきた直樹が手を挙げた。

  「たいした距離を送ってきたわけじゃないからね」

  「バイトの女の子?わざわざ送るなんてな」

  ニヤリと笑い言ったのは潮沢柚(しおさわゆず)だった。

  「慶司の優しさだろ」

  柚に苦言したのは野村誠(のむらまこと)だった。

  「慶司も来たし、飯食おうよ」

  お腹を空かせた広瀬翔(ひろせしょう)はキッチンに目をむける。キッチンから両手に料理の盛られた皿をもった正木廉(まさきれん)が現れる。

  「まずは、乾杯だよな」

  柚は6つのコップに炭酸水をそそぐと、

  「1年ぶり、6人揃ったことに!」

  コップを1つ持ち掲げる。

  「乾杯」

  残り5人もコップを手にして掲げた。

  カチン、カチンと。それぞれコップを重ねた。

  長い間同じ時間を過ごしてきた6人は1年前に別々の道へ行くことを決めた。しかし1年経ってもその友情が変わらないと確かめる。

  「でも、まさか慶司がコンビニでバイトするとはな」

  「バイトには絶対無縁のヤツだと思ってた」

  「家庭教師とかでもよかったと思うけど?」

  わざわざバイトの底辺と言われるコンビニを選ばなくても慶司は学歴はしっかりしていたはずである。そのことをここにいる全員が知っている。

  「廃棄食べれるからな」

  慶司は自然に言った。

  「は、廃棄!?」

  翔は驚きの声をあげる。

  「慶司、お前本当にご両親から勘当されているのか?」

  誠は憐れむように慶司を見る。

  「なら、これから廉の店で働かせてもらえばいいじゃないか?賄いが出るだろ?な、廉!」

  誠は廉に振向き言った。

  廉は冗談?と誠に目を向ける。

  「慶司みたいな常識知らずを雇えるわけないでしょう?」

  廉は冷たく言い放つ。

  「せっかくオープンさせる店を潰したくない!」

  真顔で言う廉に誠以外はうんうんと頷いた。

  「悪いけど、1年も一人暮らししているしバイトだってはじめてもうかなり経つんだからな。何が常識で何が非常識なのかわかる位成長してる……自炊だってしているんだからな」

  買い物もした事なかった子供ではもうない。

  他人が自分の為に尽くすものだと思う子供ではもうない。

  「ボンボンな慶司も苦労を知ったか?」

  柚は明るく笑って慶司の肩をポンポンと叩いた。

  「苦労なんて思ってない、自分がやりたかった事の為に選んだことだ」

  1年前の別れも、親からの勘当も、短い時間でも夢をおいたかったから選んだ。それらを苦労などと言えない。

  「慶司は映画制作の夢を今回の1本に賭けるんだろ?」

  誠が真顔でたずねる。

  来年、今日のミニシアターで自分の作品を流す。

  その為にこの友情に協力を求めた。

  ステージが違えどこれからまた1年6人で同じ夢を追う。

  「俺の夢と、お前らの夢の為に1年をかけるさ」

  慶司は真剣に応えた。

  「オレらの協力があるんだから最強だろ?」

 柚はニヤリと笑う。

  「1年後はまたここで祝おうか」

 直樹は廉の肩をポンと叩く。

  「廉の奢りでな!」

 翔が言った。

  6人の夜は飽きることなくながれていった。

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    ウィルモットでゆっくり食後のドリンクを飲んでいると廉がやってきた。「これ。試作のプリンだけど食べてみて」「プリン、2個ある……」春陽と舞の前にそれぞれ2つのプリンが置かれた。「こっちのプリンは卵と牛乳と砂糖だけで作ったいわゆる昔ながらのプリン。こっちは卵黄と牛乳、生クリームと砂糖で作ったプリン。どちらがいいか決めかねてて。2人の意見聞こうとしているんだ」春陽と舞がそれぞれプリンを口にするのを廉は横で見ている。「もうすぐ春休みだし、公園が賑やかになると子供連れの客が増えるから作ってみたけどどちらがいいかな?」「私ならこっちが好きね」舞はトロっとした生クリームを使ったプリンを選んだ。「渡辺さんは?」ゆっくり味わっている春陽もトロっとした柔らかな生クリーム入りを美味しいと思ったが。「私はこっちが好きかな、コレに生クリームとチェリーがのっていたら最高」まさしく「昔ながら」のプリンだった。子供の頃に母と祖母3人で行ったレストランで食べた懐かしい味がした。食後に出される生クリームと缶詰の真っ赤なチェリーがのったプリンがとても好きだった。「懐かしい味がする」懐かしい風景を思い出して春陽の口元に笑みが溢れた。「そう、よかった」「まあ、私も硬めのプリン好きだからいいんじゃない?」「え、私も生クリームのプリンすきだよ?」舞の言葉に春陽が慌てて言ったが、舞が言った意味を理解して春陽が言ったわけでは無かった。--まだまだまったく眼中に入ってないわね。春陽の反応に舞はニコニコと笑っていた。「それじゃあ、そろそろ出ようか」気分がいいウチにさっさと帰ってしまおうとする。「そうだね」しばらくおとなしくしていた桜もさすがにそろそろぐずりだすかもしれない。ベビーカーを覗き込むと桜はまだスヤスヤと寝息をたてている。「桜ちゃん、まだ寝てるね。ならもう一杯何か飲む?」廉の言葉に断りの言葉を返したかったがプリンのおかげで何か飲みたいのが正直な感想だった。「なら私はコーヒー」遠慮と言う言葉は存在しないとばかりに頼んでいる。ウィルモットによく来店するようになり、廉からたまにサービスをしてもらいながら話しをするようになってこの感じが続いている。「じゃあ私はアイスコーヒーで」空いたコップをトレーにのせて廉は一度奥に戻って行った。「まったく、気があるなら

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