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115:落ちぶれた女王

last update تاريخ النشر: 2025-11-27 11:38:32

※ここからは番外編になります。

 東京の本社での、あの嵐のような対決から数ヶ月が過ぎた。智輝の祖父エドワードの介入によって、氷の女帝とまで呼ばれた鏡子がようやく結菜と樹の存在を受け入れてからのことである。

 玲香は、父親から手切れ金代わりに与えられた東京の高級マンションの一室で、一人で暮らしていた。

 智輝との婚約は正式に破棄された。父親からも勘当同然の扱いを受け、銀行での籍も失った。婚約解消の慰謝料を請求されなかっただけ、マシというものである。

 かつてあれほど華やかだった社交界からの誘いも、今ではぱったりと途絶えている。

 マンションの部屋は高級だが、どこか荒れていた。飲み終えたワインのボトルが、テーブルの上に無造作に転がっている。

(全て、あの女のせい……。あの女さえいなければ、私は今頃、桐生智輝の妻として、皆に羨望されていたはずなのに……!)

 彼女は未だに自分の過ちを認めず、全ての原因を結菜に転嫁し

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  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   155

    「ハコモノを作って満足するのは、古い企業のやり方だ。結菜の言う通り、現場に血の通った支援でなければ意味がない」「は、はい。申し訳ありません」 佐々木が慌てて頭を下げる。 智輝は結菜に向き直り、柔らかく微笑んだ。「結菜。君のやりたいことを、もっと具体的に彼らに教えてやってくれ。KIRYUの技術は、君の理念を実現するための裏方にすぎないんだから」 結菜は深く深呼吸をした。 予算の大きさに気圧されてしまったが、大事なのはお金だけではない。 智輝の信頼に応えるため、結菜は言葉を紡いだ。「はい。私がやりたいのは、現場で頑張っているボランティアの方々を支援することです」 結菜はテーブルの上の分厚い企画書を脇に押しやり、身を乗り出した。「どう読めば子供が喜ぶか、専門家としてノウハウを教えるワークショップを開きたいです。それから、ただ本を送るのではなく、子供と対話が生まれやすい絵本を私自身が厳選して届けたい。そして……本を読んでほしい施設と、読み手であるボランティアを繋ぐ仕組みを作りたいんです」 若い佐藤が目を輝かせて身を乗り出してきた。「それなら、マッチングアプリの開発が有効ですね! ボランティアの需要と供給を可視化して、ノウハウを共有するオンラインコミュニティを作れば、全国規模での支援が可能です」「ええ、それです! そういうシステムがあれば、現場はとても助かります」 結菜と佐藤のやり取りを見て、佐々木もようやく状況を理解したように頷き始めた。「なるほど……。ハードではなく、ソフトの支援。さらにITによるインフラ構築を行う、総合的な事業です。確かに、我が社の強みを活かした新しい形の社会貢献と言えますね」 智輝が満足げに頷く。「決まりだな。佐々木、佐藤。ゼロベースで企画を練り直してくれ。この財団の理念は『本を通じた対話で、子供たちの心と未来を育む』だ」「承知いたしました。すぐに新しいチームを編成し、結菜代表の知見をシステムに落とし込みます」

  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   154

     隣の佐藤がタブレットを操作し、大型モニターにスライドを映し出した。「まず目玉となるのが、全国の児童養護施設や小児病棟への『年間十万冊の絵本一斉寄贈プロジェクト』です。KIRYUの強力な物流網を使えば、あっという間に全国へ本を行き渡らせることができます。マスコミへのPR効果も絶大です」 スライドが切り替わり、今度は近代的な建物の完成予想図が映し出された。「さらに、KIRYUの最先端技術を集結させた『スマート児童図書館』の建設。顔認証での貸し出しや、AIによるおすすめ本案内など、話題性抜群のハコモノです。総予算は……」 佐々木が誇らしげに数字を並べ立てる。 しかし、結菜の気分は少しずつ重くなっていった。膝の上のスカートの生地を、半ば無意識に握りしめる。 確かにすごい計画だ。大企業でなければできない規模の支援だろう。 けれど、結菜の心には少しも響かなかった。(本を10万冊ばらまいて、立派な建物を建てるだけ。……それは私がやりたいことじゃない) 結菜は隣に座る智輝をちらりと見た。彼は無表情のまま、結菜の反応を待っているようだった。 結菜は1つ咳払いをして緊張を追い払うと、勇気を出して口を開いた。「佐々木部長。素晴らしいご提案ですが……少し、私の考えていることとは違います」 佐々木は言葉を遮られて、目をぱちくりと瞬かせた。「違います、と申しますと? 予算規模にご不満が?」「いいえ、お金の問題ではありません。本を10万冊寄付しても、それを子供たちに読んであげる人がいなければ、本はただの紙の束になってしまいます」 結菜の声のトーンがわずかに高くなる。 司書としての現場の記憶が、彼女の言葉に熱を帯びさせていた。「AIが本をおすすめしてくれても、それだけでは足りないんです。読み聞かせというのは、大人が一方的に本を読み上げる作業ではありません」 モニターの綺麗な完成予想図から視線を外して、結菜は佐々木の目を見据えた。

  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   153

    「あのね、智輝さん。私……」 言うべきか悩んだ。 今の生活に不満があるわけではない。 智輝の妻としての立場を全うしたいし、樹と柚葉の母としてしっかり向き合いたい気持ちもある。 でも。「うん?」 智輝は結菜を見る。 その愛情深い表情に背中を押されて、結菜は思い切って続けた。「もう一度、本に関わる仕事がしたいの。司書として、図書館で……」 口に出してしまうと、それはひどく自分勝手な願いに思えた。 今の結菜は、KIRYUホールディングスのCEO夫人だ。 海辺の町にいた頃のような、ただのシングルマザーではない。 近所の図書館にパートタイムの司書として応募したところで、警備や体面の問題で桐生家にも迷惑がかかる。 智輝の妻としての立場がある。それは十分に理解しているつもりだった。(でも、この気持ちに嘘はつけない) 智輝はコーヒーを一口飲むと、カップをテーブルに置いた。結菜の顔をまっすぐに見つめる。「いいじゃないか。結菜がやりたいことなら、俺は全力で応援するよ」「でも……私がこの辺りの図書館で働くのは、現実的じゃないでしょう? お義母様たちにも心配をかけてしまうし」「なら、自分で作ればいい」 智輝は事もなげに言った。「自分で?」「ああ。結菜の豊富な知識と経験を活かせる、『児童書読み聞かせ財団』を立ち上げよう。KIRYUホールディングスのCSR活動、つまり社会貢献事業の一環としてバックアップする。それなら、セキュリティも資金も何の問題もない」「えっ」 突拍子もない話に、結菜は目を見開いた。 手に持っていたカップの湯気が頬に当たり、我に返る。 財団の立ち上げなど、想像もしていなかった規模の話だ。「そんな……。私なんかが、会社の力を使って財団のトップに立つなんて。身の丈に合っていないわ」

  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   152:結菜の新しい夢

     桐生邸のサンルームには、明るい陽光がたっぷりと降り注いでいる。 結菜は柔らかな毛足の絨毯の上に座り込み、厚紙でできた仕掛け絵本を開いていた。 膝の上には、1歳になった娘・柚葉がちょこんと座っている。 結菜は絵本のページをめくり、紙のつまみを引き出した。「ほら、柚葉。うさぎさんが、ばぁ!」「きゃあ!」 茂みの絵柄から飛び出したウサギに、柚葉は弾けるような笑い声を上げた。 小さな両手を叩き、ふっくらとした頬をピンク色に染めている。 結菜は娘の柔らかな茶色の髪を撫でた。ベビーローションの甘い匂いが鼻をくすぐる。 穏やかで、満ち足りた午後だ。窓の外では、美しく手入れされた庭園の木々が風に揺れている。 結菜はふと、絵本から顔を上げて壁際を見つめた。 そこには天井まで届く大きな本棚がある。エドワードの蔵書である洋書や雅臣の植物図鑑の隣に、結菜が少しずつ買い集めた児童書がずらりと並んでいた。 絵本のページをめくるたびに、インクと新しい紙の匂いが立ち上る。 その匂いを嗅ぐと、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような、懐かしい感覚を覚えた。(……本に囲まれた場所で、また働きたいな) 海辺の町の市立図書館で司書として働いていた日々が、鮮やかに脳裏に蘇る。 カウンター越しに、利用者と会話を交わした。 彼らにぴったりの本を探して、書庫に入り浸ることもあった。 書庫のひんやりとした空気とカビ臭さも、今は懐かしい。 子供たちに絵本を読み聞かせた時、たくさんの瞳がきらきらと輝いていたのを思い出す。 柚葉の出産を機に東京へ越してきてから、結菜は育児と家庭のことに専念してきた。 樹の小学校の行事の他に、桐生家の一員としての付き合いもおろそかにはできない。忙しくも充実した毎日だった。 けれど柚葉がよちよちと歩き始め、少しだけ手がかからなくなった今。 結菜の心の底に眠っていた「司書としての自分」が、熱を帯びて目を覚まそうとしていた。

  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   151

    「あの子だけ、この家で瞳の色が違う。いつかそのことで、結菜さんと柚葉ちゃんが疎外感を感じて、気に病んでしまうのではないかと」 鏡子の告白に、結菜は目を見張った。 完璧を求める彼女が、そんな些細な感情の機微を気に留め、孫や嫁の心を案じていたなんて。「でも、杞憂でしたね」 鏡子は、柚葉が走り去った扉の方へ視線を向けた。「あの子は、少しも卑屈になっていませんでした。ただ、お姫様になりたいという純粋な気持ちから、違いを悔しがっていただけ。結菜さんが愛情たっぷりに、まっすぐに育ててくれたおかげです」 その眼差しに、かつて結菜を震え上がらせた「氷の女帝」としての冷たさは少しもない。 そこにあるのは、家族を深く慈しむ、一人の祖母としての温かい愛情だけだった。(この人は、きっと……) 結菜の胸の奥に、温かいものが込み上げてくる。(元々、こういう優しい人だったんだ。桐生家という大きな家と、会社を守るという重い責任を果たさなければいけないという思いが強すぎて……心を武装していただけで) 冷たい仮面の下に隠されていた、不器用だけれど深い愛情。 今はもう、大人になった智輝が立派に会社を切り盛りしている。 結菜という妻を得て、孫が2人もいる。どちらもとてもいい子だ。 エドワードが療養先から戻り、相談に乗ってくれる。 それらのお陰で、鏡子は重責を下ろせた。 だからこそ彼女は素顔を見せている。 それに気づけたことが、結菜は何よりも嬉しかった。 結菜が温かな眼差しで微笑み返すと、鏡子もまた、ふっと口元を緩めた。「結菜さん。先ほどのネックレスだけでなく、私のコレクションで気に入ったものがあれば、遠慮なく言ってください。差し上げますよ」「えっ! そんな、とんでもないです!」 結菜は慌てて両手を振った。 鏡子は少しだけ苦笑する。寂しそうでもあり、納得したような笑みだった。「私はもう、引退が近い

  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   150

     黒い布地の上に鎮座していたのは、大粒の宝石があしらわれたネックレスだった。 透き通るような深い琥珀色。光の加減で黄金色にも、濃いチョコレート色にも見える、神秘的な輝きを放っている。「これが、トパーズという宝石です」 鏡子がネックレスをつまみ上げると、金のチェーンがしゃらりと軽やかな音を立てた。 窓からの光を反射して、トパーズが柚葉の顔を優しく照らす。 光は柚葉の瞳に差し込んで、彼女は少し眩しそうに目を細めた。「わぁ……」 柚葉の瞳から涙が引いた。代わりに、好奇心と感嘆の光が灯る。 小さな口をぽかんと開けて、目の前で揺れる美しい宝石にすっかり夢中になっていた。「きれいでしょ? 柚葉ちゃんの瞳は、この宝石と同じ色をしているのですよ。とても高貴で、美しい色だわ」「ゆずのおめめ、これとおんなじ?」「ええ、そうよ。だから、泣く必要なんてどこにもないの」 鏡子の優しい言葉に、柚葉は自分の目元を小さな手でこすった。 トパーズのネックレスに向かって、おずおずと手を伸ばす。「これ、ゆずの?」 純粋な欲求に、結菜は慌てて口を挟んだ。 子供には明らかに高価過ぎる品物だ。「こら、柚葉。そんな高価なもの、おねだりしちゃ駄目よ」 しかし鏡子は結菜を制するように軽く手を上げると、柚葉に向かって微笑んだ。「今はまだ、柚葉ちゃんには少し大きすぎるわね。でも……」 鏡子はネックレスを小箱に戻し、パチンと蓋を閉めた。「あなたがもう少し大きくなって、素敵な大人の女性になった時、お祝いにプレゼントしましょう。それまで、ばぁばが大事に預かっておくわ」 その提案に、柚葉の顔がぱあっと明るく輝いた。 涙の跡が残る頬を上気させ、満面の笑みを浮かべる。「ほんと!? やくそくだよ、ばぁば!」「ええ、約束です」 柚葉は鏡子の首に小さな腕を回し、ぎゅっと抱きついた。

  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   63:見えない価値

     町の噂が結菜への称賛に変わったという報告は、玲香のプライドをずたずたにした。「あの女が、町の英雄ですって……?」 東京の自室で、玲香はタブレットに表示された地方紙の記事を睨みつけ、低く呟いた。智輝のプロジェクトの成功が、憎い結菜の名声を高めている。その事実が我慢ならない。 彼女は受話器を掴むと、父親の銀行で地方の案件を管轄する役員の番号を呼び出した。「私よ。例の町の、図書館の件だけれど」「これは綾小路様のお嬢様。本日はどのようなご用件で?」 相手が恐縮する声がスピーカ

    last updateآخر تحديث : 2026-03-25
  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   64

     専門知識を持つ結菜が外れたことで、古文書のデジタル化作業は滞っていた。 プロジェクトルームに集められた臨時スタッフたちは、高解像度モニターに映し出された古書の画像の前で頭を抱えている。「この『みぎは』って、どういう意味だ?」「前後の文脈からすると、季節のことのようだが……」 ミミズが這ったような崩し字と、現代では使われない独特の言い回し。彼らの知識では、解読は不可能に近かった。「なぜ、こんなに時間がかかっているんだ」 報告を受けた智輝は、苛立ちを隠さずにプロジェクトル

    last updateآخر تحديث : 2026-03-25
  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   37

     智輝が宿泊する、町の最高級ホテルのスイートルームにて。 部屋に戻った智輝は、感傷に浸る代わりにすぐに行動を起こした。スマートフォンを取り出し、東京本社の筆頭秘書に電話をかける。その声に、私的な感情は一切含まれていない。「俺だ。例の図書館プロジェクトの件、スケジュールの前倒しを検討しろ。一切の遅延は認めん」 淡々と指示を続ける。「現地スタッフとの折衝は、すべて君を通せ。例外はない」「かしこまりました」 一瞬の間を置いて、最も重要な指示を低い声で付け加えた。「特に、早乙女結菜という司

    last updateآخر تحديث : 2026-03-21
  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   11

    「いやぁ! やだよぉ! 気持ち良すぎて、おかしくなっちゃう!」「おかしくなってくれ。どんな君であっても愛している」「やだぁ! あっ、あぁんっ、ああぁっ!」 結菜の体重がかかる分、智輝のペニスが深く突き刺さる。まるで串刺し。 快楽に溺れて喘ぐ結菜の姿はひどく扇情的で、智輝の熱も高まっていく。 ナマでこすれ合う粘膜は、強い刺激をもたらした。(駄目だ。出る) 我慢は限界だった。ゴム無しで中に出してしまえば妊娠の危険が高いのは分かっていたが、もう止められそうにない。 結菜が身を沈めたタイミングに合わせて、腰を強く突き入れる。こつん、と、深い部分に当たったのが分かった。「ひあっ――!

    last updateآخر تحديث : 2026-03-17
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