柊は、今日ここへ来て自分が何を求めていたのか、自分でもよくわかっていなかった。フライテックと紬の問題がすっかり片付いたと聞き、様子を見に来ただけなのかもしれない。あるいは……「昔の僕は、君の処理能力を見くびっていたらしい」柊は紬をじろりと見やり、タバコの灰を軽く弾いてから続けた。「君がトラブルに巻き込まれたばかりの頃、園部さんに詰め寄られていただろう。あのとき、実は長谷川代表に電話したんだ。園部さんはあの人の女なんだから、あの方から一言あれば大人しくさせられるし、君への追及だって止められるはずだと思ってね」彼の見立てでは、あの件は、慎の手が十分に届く範囲の話だったはずだ。なのに……「長谷川代表がなんて返してきたか、知りたいか?」柊は冷笑を浮かべ、紬をじっと見つめた。冷淡な表情の奥に潜む本心を、すべて暴いてやろうとでもいうように。紬は、ゆっくりと眉根を寄せる。こんな話、興味はない。だが柊は紬の反応を待たず、おかしそうに笑った。「『それは彼女自身の問題だ。自分で解決できるならすればいい。俺が口を挟むことじゃない』と、そう言ったんだよ」要するに、「知ったことか」ということだ。これ以上ないほど露骨な、冷淡さと無関心。紬は、微塵も驚かなかった。柊がわざわざこんな話を持ち出す意図も、とっくにわかっていた。慎が自分にどれほど冷酷か、今さら他人の口から聞かされるまでもない。柊を無視し、冷たい顔のまま横をすり抜けて歩き出す。柊はタバコを揉み消し、遠ざかる背中を目で追いながら、低く声をかけた。「あんなやつ、さっさと離婚してしまえばいい。僕は茜の縁談を断る。何もなかったことにする。紬、僕たちには、別の道だってあるはずだ」紬が離婚してくれさえすれば、戻ってきてくれさえすれば……それだけでいい。しかし、返ってきたのは、振り返りもしない完全な沈黙だった。柊はその背中が見えなくなるまでじっと目で追い続け、胸の奥が重く波打つ。心の芯が、刺さるように痛い。いつか、わからせてみせる。紬は二階へ上がった。椅子に腰を下ろし、しばらく気持ちを落ち着ける。階下の柊がもう帰ったかどうかなど、気にも留めなかった。それよりも、柚葉が持ち帰ってきた書類に目を向ける。東陽とアロー・フロンティアとの解約合意書だ。人
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