あなたの「愛してる」なんてもういらない의 모든 챕터: 챕터 381 - 챕터 390

419 챕터

381話

私の背後から伸びた手は、迷いなく御影さんの手を掴んでいる。 そして、背後から気遣うようにそっと私の肩に手を置かれて優しく引き寄せられた。 「──小鳥遊……っ、どうしてお前がここに……!?」 苓さん──。 やっぱり、苓さんがここに。 私の肩に置かれているのは、間違いなく苓さんの手だ。 そして、御影さんを止めるように掴んでいるのも、苓さんの手。 だけど、御影さんが言う通り、どうして彼がここに。 そう思った私が振り向くと、そこには。 「小鳥遊さん、に……谷島さん……?」 私の後ろには、苓さんと。そして、谷島刑事が居て。 谷島さんは気まずそうに私に軽く手を上げると、御影さんに顔を向けた。 「……小鳥遊と私は友人でして。……私も小鳥遊も今度開催されるパーティーに参加するんです。それで、パーティーの場に相応しい服を良く知っている小鳥遊に、買い物の付き合いを頼んだんですよ」 谷島さんの説明に、私はなるほど、と納得した。 苓さんならパーティーの参加経験も豊富。 それに、谷島さんも今回のパーティーに一参加者として潜り込む事になっている事は予め聞いていた。 パーティー会場内に、怪しい人物がいないか。 そして、未だ逃亡中の速水 涼子が私を狙って姿を表さないか、それを直接会場で確認と警備に当たる、とお父様から聞いていた。 谷島さんは本職は刑事。 だから、目立たないように参加者に紛れ込むために相応しい服装を苓さんに相談したのだろう。 苓さんと谷島さんは友人同士だから、こうして一緒に買い物に来ていても何の疑問もない。 むしろ、苓さんと谷島さんが今日、私と同じタイミングで買い物に来ていた事が幸いした。 私の肩をぐっと引き寄せた苓さんの力に抗う事はできず、私の背中はそのままぽすん、と苓さんの胸元に倒れ込んでしまう。 その瞬間、先日の光景が一気に私の頭に蘇る。 苓さんの具合がまた悪くなってしまったら──。 また、拒絶されてしまったら──。 その恐怖が蘇り、私は慌てて苓さんから離れようとしたけれど。 ──ぐっ、と苓さんの手に力が籠る。 まるで私を逃がさないとでも言うような苓さんの力強さに、私は驚いて目を見開いた。 背後にいる苓さんを窺い見るけど、苓さんの視線は真っ直ぐ御影さんに向かっている。 「……藤堂さんと御影さんの関係は、もう終わって
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382話

店の出口に真っ直ぐ向かって行く御影さんの背中を厳しい眼差しで見つめていた苓さん。 御影さんがそのまま店から出て行くのを最後まで見送った後、苓さんはそこでようやく出口から視線をこちらに戻した。 「──っ、すっ、すみません……!」 そして、今の状況を目にした苓さんは、慌てて私から手を離し、謝罪を口にする。 「い、いえ……!こちらこそお騒がせしてしまい、すみません。……谷島さんも、ご迷惑をおかけして……」 「いえいえ、気になさらないでください。それより……」 谷島さんはそこで一旦言葉を切ると、私と苓さんに顔を向けてある提案を口にした。 「御影さんが諦めて帰ったかどうか分かりませんから、もし藤堂さんが良ければこの後も俺たちと一緒に回りませんか?」 ◇ 「谷島さんにはそちらの色より、こっちの色の方が……」 「藤堂さんの言う通りだな。淡い色は谷島に似合わない。そっちを試着してみた方がいい」 あれから。 谷島さんの提案を後押しするように苓さんからも同じ事を言われて。 私も、また御影さんが戻って来たら嫌だと思い、有難く2人と一緒に店内を見て回っていた。 今は谷島さんが当日着るスーツを選んでいる所。 私と苓さんの意見は一致していて。 「そ、そうか?じゃあ、こっちに着替えてみる」と満更でもなさそうな谷島さんが新しいスーツを片手に、試着室に消えた。 谷島さんが試着室に入ってしまうと、必然的に私と苓さんの間には気まずい空気が流れる。 さっきまでは谷島さんに似合いそうな別の服を探していたけど、もう今着替えている分で谷島さんの候補はおしまいだ。 どうしよう、苓さんとどんな会話をしよう、と私が手持ち無沙汰で1人気まずさを感じていると、ふと苓さんの声が聞こえた。 「──これ……、このドレス……」 「え……?」 苓さんのぽつりと落ちた呟きに、私は苓さんの方向へ振り向いた。 苓さんが見つめる先には、1着のドレスがある。 黒を基調とした、派手過ぎずシックなデザインのドレス。 だけど、背中が結構大胆に開いており、私はこういったドレスが好みだ。 確か、苓さんと初めて会ったパーティーのドレスも、似たようなドレスを着ていたような気がする。 そんな事を思っていた私の耳に、苓さんの声が落ちる。 「確か……これに似たようなのを、着ているのを見た、ような……」
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383話

「た、小鳥遊さん……?大丈夫ですか!?」 「──っ、すみません……、大丈夫です……っ」 慌てて苓さんに声をかける。 すると、苓さんは自分の額を手で抑えつつ答えてくれる。 だけど、その表情は全然大丈夫そうに見えなくて。 「た、小鳥遊さ──」 「小鳥遊?おい、大丈夫か!?」 試着を終えた谷島さんが出てくると、頭を抑えている苓さんに気が付き、慌てて近付いて来る。 「いや、大丈夫だ──」 「何を言っているんだ、顔が真っ青だぞ?頭が痛いんだろう?」 「いつもの事だから、すぐに治まる……原因も分かってるから……」 「……取り敢えず今日はもう帰ろう。その方がいい」 谷島さんの言葉に、私も頷く。 「小鳥遊さん、その方がいいですよ。頭痛が頻繁に起きているなら、病院に行って検査をした方がいいです」 「ああ。今日はそうした方がいい。小鳥遊、ほら肩を貸すから」 谷島さんは苓さんに肩を貸しつつ、私に顔を向ける。 「藤堂さんも良ければ私の車でお送りしますよ」 谷島さんは私にそう提案してくれたけど、私はその提案を断った。 「いいえ、大丈夫です。私は……まだもう少しドレスを見て行くので。谷島さん、小鳥遊さんを病院に連れて行ってあげてください」 では、私はこれで失礼します。 そう口にしてその場を離れようとした私。 だけど、そんな私の腕を。 苓さんが掴んで止めた。 「──っ!?」 「……まだ、御影専務が居るかもしれません。……この場に藤堂さんを残して帰る事はできません。ドレスを選ぶって言うなら、俺もここに残ります」 「そんな……っ」 体調が悪いのに、これ以上苓さんをこの場に残しておくことは出来ない。 私は急いで店員を探すと、先程谷島さんが最後に着ていたスーツと、私が気に入ったドレスを取り置いておくことを伝えた。 そして、すぐに谷島さんと苓さんの元に戻る。 谷島さんは苓さんに肩を貸しつつ、申し訳なさそうな表情を浮かべ、私に謝罪をした。 「すみません、藤堂さん。ゆっくりドレスを選びたかったですよね」 「いえ、大丈夫ですよ」 「藤堂さんが乗ってきた車は……」 「護衛に頼みます。今は早く小鳥遊さんを病院に連れて行ってあげましょう?」 私の提案に、谷島さんの手を借りていた苓さんはゆるり、と力なく頭を振った。 「大丈夫です……。本当に……。
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384話

◇ 藤堂の門の前。 停まった車から、私はドアを開けて降りた。 「谷島さん、送っていただいてありがとうございました。……小鳥遊さんも、お大事になさってくださいね」 私は運転席側に回り、運転してくれた谷島さんにお礼を告げる。 そして、助手席に乗っている苓さんに視線を向けて声をかけた。 2人は私の言葉に頷き、柔らかく微笑んでくれる。 「いえいえ、こちらこそ今日はスーツ選びに付き合っていただいてありがとうございました。後日、パーティー会場でお会いしましょう、藤堂さん」 「ありがとうございます、藤堂さん。また、パーティーで」 谷島さんと苓さんがそう言葉を返してくれる。 さっきに比べて、苓さんの顔色もいくらか良くなっていて、ほっとした。 私は窓から離れ、軽く2人に向かって手を振る。 谷島さんは頷いた後、車をバッグさせる。 苓さんは、私をじっと見つめたまま、私が手を振っているので軽く手を上げて手を振り返してくれた。 車がUターンして、去っていくのを見つめる。 私の視界からあっという間に車が小さくなって、そして見えなくなる。 そこまで見送った私は、家に向き直り歩き出した。 ◇ 藤堂さんの家から大分離れた所まで来て、谷島は近場のコンビニに車を入れると「ちょっと待ってろ」と言ってから車を降りて行った。 俺はコンビニに入って行く谷島をぼうっと見つめながら、未だ軽く痛みの残っている頭を片手で抱える。 「……くそっ」 最近、藤堂さんの夢を毎日のように見る。 夢の中の藤堂さんは、俺が見た事のないくらい可愛らしい笑顔を浮かべていて。 「誰か」に笑いかけている。 その「誰か」が凄く羨ましくて。 憎たらしくて。腹が立って。 あと少しで藤堂さんが笑いかけている男の顔が見える──。 そう思った瞬間、いつも目が覚めるのだ。 あんな風に笑う藤堂さんを、俺は見た事がないはずなのに。 だけど、俺は知っているような気がして。 それに、今日のドレスだって──。 「何だ……一体どこで見た……?」 藤堂さんが、似たようなドレスを着ていた気がする。 だけど、それがどこでだったのかがちっとも分からないし思い出せない。 「──くそっ、早く思い出せよ……!」 もどかしくてもどかしくて堪らない。 それに、腹が立ってどうにかなりそうだった。 藤堂さんに、
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385話

◇ 和風庭園カフェ 〈憩いカフェ〉1号店のオープン記念パーティー開催日は、あっという間にやってきた。 パーティー当日。 藤堂グループの本社社長であるお父様と、副社長、そして本部長の私。 提携を組んでいる小鳥遊建設の社長である苓さんのお兄様、そして部長の苓さん。 協賛してくれている虎おじ様。 私たちは一足先に会場入りしてゲストをお迎えしていた。 ゲスト達から祝福の声が多くかけられ、私やお父様は笑顔でそれに答えて行く。 私のチームの皆も参加してくれていて、皆が私に手を振ってくれる。 私も矢田さん達に手を振り返して、ゲストの対応に戻る。 どれくらい、そうしていただろう。 不意に背後から声をかけられたのと同時、私の肩に手が置かれる。 「藤堂さん、久しぶりですね」 「──っ、あ、相戸さん。確かに、お久しぶりです……」 まさか、彼も参加しているなんて。 だけど、以前虎おじ様が開催したパーティーに相戸さんも参加していたのだから、今日ここに来ていても何の不思議もない。 私は何とか笑みを保ちつつ、相戸さんに向き直った。 「いやはや……色々あったみたいで、大変そうですね」 「ふふ、そうですね。ですが、このカフェのお仕事はとても勉強になりましたわ。今後も2号店、3号店、とオープンしていきますので、ぜひご贔屓にしてくださいね」 相戸さんが口にした「色々あった」とは、違う事を指しているのだろうけど、敢えてそこは仕事の話にすり替える。 きっと、相戸さんは私と御影さん。そして苓さんの事について報道された事を言っているのだろう。 相変わらず相戸さんの視線はねっとりとしていて、その視線が私の全身を蛇のように這っていて気持ち悪い。 私の肩に置いた手で、相戸さんは撫で摩るように私の肩をずっと触っている。 肩や背中が大きく開いたドレスだから、相戸さんのかさついた手のひらの感触がダイレクトに伝わってきて、とても気持ち悪い。 だけど、相戸さんは虎おじ様のお客様でもある。 とても嫌だけど、これくらいのセクハラは日常茶飯事。 笑って躱す事くらい、出来ないといけない。 私は相戸さんに対して失礼にならない程度に彼から距離を取り、やんわりと会話を終わらせようとしたのだけど、相戸さんはそれを分かっていながら執拗く私に話を振ってくる。 「藤堂さんは今、会社の本部長
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386話

初めて苓さんと会った時のように。 相戸さんの対応に困っている時に、苓さんがまた話しかけて助けてくれた。 私が苓さんの名前を呼ぶと、相戸さんは私の腰を触っていた手をぱっと離した。 そして、こちらに向かってやってくる苓さんを見るなり、顔色を悪くさせて私から1歩距離を取る。 「お話中すみません。……確かあなたは──」 「相戸、と申します。……藤堂さんにご挨拶をしていましたが、挨拶はもう終わりましたので……また、後ほど」 相戸さんは愛想笑いを浮かべ、ぺこぺこと頭を下げるとその場をそそくさと離れて行ってしまった。 良かった……。 苓さんのお陰で相戸さんの対応が終わった。 私は話しかけてくれた苓さんに顔を向けて、お礼を言おうとした。 だけど、苓さんはとても怖い顔をしたまま、相戸さんが去って行った方向を強く睨んでいる。 「──小鳥遊、さん?」 「──っ!は、はい!」 「えっと、助かりました、ありがとうございます。何かご用でしたか?」 私がそう話しかけると、苓さんは気まずそうに目を逸らして小さく呟く。 「いえ……藤堂さんが困っているようでしたから……」 「そうだったんですね、ありがとうございます。困っていたので助かりました」 私がそう伝えると、苓さんは何とも言えない表情で、私をじっと見つめる。 何か言いたいような、迷っているようなそんな表情に見えた。 「……小鳥遊さん?」 「──っ、いえ……」 そこで苓さんは一旦言葉を切ると、私の顔をしっかり正面から見返して照れくさそうにはにかんだ。 「ドレス姿、とても素敵ですね。藤堂さんにとても良く似合っています」 「──っ!あ、ありがとうございます。小鳥遊さんも素敵ですよ」 まさか、苓さんにドレス姿を褒めてもらえるなんて思わなかった。 もう、二度とそんな事は起きないと思っていたから。 だから、嬉しくてついつい笑顔が浮かぶ。 私も苓さんに「素敵です」と伝えると、苓さんは驚いたように目を見開き、微笑んでくれた。 「ありがとうございます……」 相戸さんがもう近くにはいない事を確認した私は、他のゲストの方の対応に戻るため、苓さんに軽く頭を下げてからその場を離れた。 ◇ それから、沢山のゲストの対応を終えるとパーティーが本格的に始まった。 協賛の虎おじ様や、社長のお父様。 そして、小
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387話

「──御影さん!?どうして、ここに……。御影ホールディングスには招待状を送っていないはずですが……?」 私が彼を睨み付けつつそう口にすると、御影さんは何が面白いのか笑みを浮かべつつ、私と距離を縮めるように近付いて来た。 「招待状なんてどうとでも出来る。俺は御影家の人間だ。それに、跡継ぎでもあるからな」 「……っ、卑怯な手を使ったんですね!」 「何とでも言え。それより、こっちに来い」 「──ちょっと!」 御影さんに手を掴まれ、人気の少ない通路に連れて行かれてしまう。 だけど、大声を上げればすぐに人がやって来てくれるような場所だ。 角からはパーティー会場の賑やかな声や、明るい光が漏れ出ているのが分かる。 それに、この通路には人気が少ないとは言え、全くの無人にはならない。 時折給仕のスタッフが通りかかるのが見えた。 その事にほっとした私は、目の前に立つ御影さんをキッと睨み付ける。 「私はあなたと話したい事なんてありません。手短に済ませてもらえますか」 「──ふん。全く、いつまでも強情な……。先日の話の続きだ。俺と結婚しろ、茉莉花」 「……どうして私があなたと結婚しなきゃいけないんですか。私は藤堂の跡継ぎです、あなたと結婚なんてしません」 「俺と茉莉花の間に子供が生まれたらその子供を跡継ぎにすればいい。藤堂と御影に跡継ぎは必要だから、茉莉花には最低でも2人は子供を産んでもらう事になる」 淡々と話される言葉に、私は呆気に取られてしまう。 どうして私が御影さんと結婚しなくちゃいけないのか。 それに、簡単に子供を産めなんて言うけれど。 「私はあなたと結婚するつもりも、あなたなんかの子供を産むつもりもありません。話は以上ですか?もう戻ります」 「──待て!俺がこれだけ譲歩してやっているのに……!俺以上に条件の良い相手なんていないだろう!だから、見合いなんてやめろ!」 「──っ」 御影さんも、私がお見合いをする事を知ったのだ。 だから突然こんな厚顔無恥な話をし出したのだと分かる。 私は御影さんを押しのけ、パーティー会場に戻るために足を踏み出しつつ、御影さんの提案を断る。 「お断りします。私はお見合いをするし、あなたとは結婚しません」 「──〜っ、俺には、お前しかいないんだよ!どうしてそれが分からない!」 「私以外にも条件の良い
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388話

◇ 「……はぁ」 小さくため息を零す。 「小鳥遊、露骨に嫌そうな顔をするな」 「仕方ないだろ、谷島。香水臭いし、勝手に体に触れようとしてくるし……最悪だ」 隣に立っている谷島に、俺はぶつぶつと文句を零す。 こう言った場所は、昔から苦手だ。 小鳥遊家の一員として、パーティーに参加しなきゃならない場面は昔から多くあった。 だけど、その度に女性達から囲まれ、体に触れられ、体を擦り寄せられる。 その度に俺の体にはぞわぞわとした悪寒が走り、気分が悪くなる。 「──っ」 俺は、無意識の内に藤堂さんを探してしまう。 彼女も、とても美人で可愛らしくて、目を引く女性だ。 だから、さっきのように変な男に絡まれてやしないだろうか──。 怖い思いをしていやしないか──。 そんな事を考えつつ周囲を見回す。 すると、俺の視界に一際輝く女性を見つけた。 「──谷島、少しここを離れる!」 「おいっ!速水はまだ見つかっていないからな、周囲には気をつけろよ!」 谷島の声が背後から聞こえる。 俺は軽く手を上げてそれに答えると、足早にある方向に向かった。 藤堂さんの手を掴み、無理やり歩いていく姿──。 あれは、御影 直寛だ。 「あの男……またっ!」 無意識に、俺の口からはそんな言葉が漏れ出る。 「また」って一体どう言う事だ。 御影専務は、過去にも同じような事を茉莉花さんにしただろうか? 「……?」 ほんの些細な違和感。 だが、俺はそんな違和感を気にもとめず、茉莉花さんが連れ去られた方向に向かって足を速めた。 「だから、見合いなんてやめろ!」 御影専務の低い声が人気の無い場所から聞こえてくる。 「……っ、見合い……っ」 ずきり、と俺は自分の頭が再び痛み、すぐ横にある壁にもたれかかった。 「このままだと、藤堂さんが……、茉莉花さんが、見合いをする……?」 さっき、相戸と言う男が茉莉花さんに絡んでいる姿を見てから違和感を感じていた。 過去、同じような光景を見た気がする。 だけど、それがいつだったか全く思い出せない。 その時、俺はどんな行動をした? 茉莉花さんは、どんな表情をしていた? 混乱している俺の耳に、藤堂さんのはっきりとした声が届く。 「お断りします。私はお見合いをするし、あなたとは結婚しません」 芯の通った、しっかり
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389話

「た、小鳥遊さん……!?」 「すみません藤堂さん、大丈夫ですか?」 私は、ぶつかってしまった自分の鼻を押さえて頭上を見上げる。 すると、そこには苓さんが居て。 私はびっくりしてすぐに苓さんから離れようとした。 だけど──。 ぶつかってしまった私が倒れてしまわないよう、苓さんは私の腰に腕を回して抱きとめていてくれていた。 かっ、と私の頬が朱に染まる。 力強い苓さんの腕。 抱きとめられる安心感、苓さんの懐かしい香り──。 それらが一気に頭の中にぶわり、と蘇る。 だけど、これは縋っちゃいけない温もりだ。 私は苓さんから離れようと胸に手を当てて力を込めた──。 だけど──。 「──っ!?」 ぎゅっと苓さんに抱き寄せられた、気がする。 「え……っ」 信じられなくて。 私が声を漏らすと、苓さんははっとして私の事を慌てて離した。 「すみませ──」 「また、お前か小鳥遊……!」 苓さんと御影さんの怒りに満ちた声が重なる。 御影さんの声が聞こえた瞬間、苓さんは私を庇うように背に隠すと、真っ直ぐ御影さんを見据えた。 「こんな人気の無い場所に藤堂さんを連れて来て、何をしているんですか御影専務」 それに、と苓さんは言葉を続ける。 「御影ホールディングスには招待状は送っていない。……速やかにお帰りください」 「……っ、お前には関係ない。これは、俺と茉莉花2人の話だ。俺と茉莉花だけにしか分からない、大事な話だ……!」 御影さんの言葉に、苓さんが私に振り向く。 そして、御影さんに向けるような冷たくて低い声じゃなく優しい声と表情で問いかけた。 「……こんな事を言っていますが、本当ですか藤堂さん?」 苓さんの言葉に私ははっきりと首を横に振った。 「いいえ。彼の勝手な言い分です。話す事なんて無いです」 「そうですか……。藤堂さんはこう言っています。お帰りください」 私の言葉を聞いた苓さんは頷くと、再び冷たくて鋭い視線を御影さんに向けてはっきりと言い放つ。 そして、苓さんは御影さんの答えを聞く前に私の手を引いて歩き出した。 「──おいっ!待て……!」 私と苓さんの背中に御影さんの声が追いかけるようにかけられる。 だけど、私の手を引いて歩く苓さんの足は止まる事は無かった。 ◇ 「た、小鳥遊さん、小鳥遊さん……っ」 「──っ
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390話

聞き馴染みの無い声に名前を呼ばれて、私はすぐに思考を切り替える。 笑みを浮かべて呼びかけられた背後に振り向いた。 「──はい」 「ああ、やはり藤堂さん。初めまして、屋久島 透です。お話を受けて、ぜひ今日この場所で藤堂さんとお話をしたかったんです。……茉莉花さん、とお呼びしても構いませんか?」 にこり、と笑う男性。 屋久島 透(やくしま とおる)と名乗った人は、お父様から伝えられていた私のお見合い相手の名前だ。 その人物が挨拶に来てくださった。 私は苓さんに向かって軽く頭を下げると、屋久島さんに向き直った。 「初めまして、お会いできて光栄です。ええ、構いませんよ」 「ああ、良かったです。もしよろしければ、あちらのソファでお話でも?」 「ええ、移動しましょうか」 私は屋久島さんのエスコートに身を任せ、その場を離れる。 ゆったりと私をエスコートしてくれる屋久島さんは、確か私より4つ歳上だったはず。 屋久島家の次男で、跡継ぎの長男は既に結婚して子供もいる。 次男の透さんは29歳になっても結婚などはせず、女性との噂が絶えない方だったと記憶している。 硬派とは真逆の、軟派な方。 遊び人。 女性との噂が絶えない。 そんな話しか無い方だけど、今回私とのお見合い話を受けてくれるなんて、とても意外だった。 「何か飲み物を取ってきます。アルコールは大丈夫ですか?」 「ええ、平気です」 「少しお待ちくださいね」 屋久島さんは私をソファまでエスコートすると、笑顔で飲み物を取りに行ってくれる。 そんな彼の行動を目で追っていると、視界の端に私がさっきまでいた場所が映った。 そこには、まだ苓さんが立っていて。 私がいる方向に顔を向けているのが離れていても、分かる。 どきり、と私の胸が跳ねた瞬間、屋久島さんがグラスを片手に戻ってきた。 「お待たせしました、茉莉花さん」 「ありがとうございます」 グラスを私に渡してくれると、屋久島さんは私の隣に腰を下ろす。 思っていたよりも距離が近くて、私と屋久島さんの肩が触れ合ってしまう。 その感触と、嗅ぎ慣れない屋久島さんの香水。そして、体温。 それらに違和感しかなくて。 失礼だけど、私は早くこの時間が過ぎてしまえばいいのに、とグラスを口に運んだ。 ◇ 俺の事を1度も振り向かないで去って行く
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