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384話

Author: 籘裏美馬
last update publish date: 2026-05-06 19:09:16

藤堂の門の前。

停まった車から、私はドアを開けて降りた。

「谷島さん、送っていただいてありがとうございました。……小鳥遊さんも、お大事になさってくださいね」

私は運転席側に回り、運転してくれた谷島さんにお礼を告げる。

そして、助手席に乗っている苓さんに視線を向けて声をかけた。

2人は私の言葉に頷き、柔らかく微笑んでくれる。

「いえいえ、こちらこそ今日はスーツ選びに付き合っていただいてありがとうございました。後日、パーティー会場でお会いしましょう、藤堂さん」

「ありがとうございます、藤堂さん。また、パーティーで」

谷島さんと苓さんがそう言葉を返してくれる。

さっきに比べて、苓さんの顔色もいくらか良くなっていて、ほっとした。

私は窓から離れ、軽く2人に向かって手を振る。

谷島さんは頷いた後、車をバッグさせる。

苓さんは、私をじっと見つめたまま、私が手を振っているので軽く手を上げて手を振り返してくれた。

車がUターンして、去っていくのを見つめる。

私の視界からあっという間に車が小さくなって、そして見えなくなる。

そこまで見送った私は、家に向き直り歩き出
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  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   384話

    ◇ 藤堂の門の前。 停まった車から、私はドアを開けて降りた。 「谷島さん、送っていただいてありがとうございました。……小鳥遊さんも、お大事になさってくださいね」 私は運転席側に回り、運転してくれた谷島さんにお礼を告げる。 そして、助手席に乗っている苓さんに視線を向けて声をかけた。 2人は私の言葉に頷き、柔らかく微笑んでくれる。 「いえいえ、こちらこそ今日はスーツ選びに付き合っていただいてありがとうございました。後日、パーティー会場でお会いしましょう、藤堂さん」 「ありがとうございます、藤堂さん。また、パーティーで」 谷島さんと苓さんがそう言葉を返してくれる。 さっきに比べて、苓さんの顔色もいくらか良くなっていて、ほっとした。 私は窓から離れ、軽く2人に向かって手を振る。 谷島さんは頷いた後、車をバッグさせる。 苓さんは、私をじっと見つめたまま、私が手を振っているので軽く手を上げて手を振り返してくれた。 車がUターンして、去っていくのを見つめる。 私の視界からあっという間に車が小さくなって、そして見えなくなる。 そこまで見送った私は、家に向き直り歩き出した。 ◇ 藤堂さんの家から大分離れた所まで来て、谷島は近場のコンビニに車を入れると「ちょっと待ってろ」と言ってから車を降りて行った。 俺はコンビニに入って行く谷島をぼうっと見つめながら、未だ軽く痛みの残っている頭を片手で抱える。 「……くそっ」 最近、藤堂さんの夢を毎日のように見る。 夢の中の藤堂さんは、俺が見た事のないくらい可愛らしい笑顔を浮かべていて。 「誰か」に笑いかけている。 その「誰か」が凄く羨ましくて。 憎たらしくて。腹が立って。 あと少しで藤堂さんが笑いかけている男の顔が見える──。 そう思った瞬間、いつも目が覚めるのだ。 あんな風に笑う藤堂さんを、俺は見た事がないはずなのに。 だけど、俺は知っているような気がして。 それに、今日のドレスだって──。 「何だ……一体どこで見た……?」 藤堂さんが、似たようなドレスを着ていた気がする。 だけど、それがどこでだったのかがちっとも分からないし思い出せない。 「──くそっ、早く思い出せよ……!」 もどかしくてもどかしくて堪らない。 それに、腹が立ってどうにかなりそうだった。 藤堂さんに、

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   383話

    「た、小鳥遊さん……?大丈夫ですか!?」 「──っ、すみません……、大丈夫です……っ」 慌てて苓さんに声をかける。 すると、苓さんは自分の額を手で抑えつつ答えてくれる。 だけど、その表情は全然大丈夫そうに見えなくて。 「た、小鳥遊さ──」 「小鳥遊?おい、大丈夫か!?」 試着を終えた谷島さんが出てくると、頭を抑えている苓さんに気が付き、慌てて近付いて来る。 「いや、大丈夫だ──」 「何を言っているんだ、顔が真っ青だぞ?頭が痛いんだろう?」 「いつもの事だから、すぐに治まる……原因も分かってるから……」 「……取り敢えず今日はもう帰ろう。その方がいい」 谷島さんの言葉に、私も頷く。 「小鳥遊さん、その方がいいですよ。頭痛が頻繁に起きているなら、病院に行って検査をした方がいいです」 「ああ。今日はそうした方がいい。小鳥遊、ほら肩を貸すから」 谷島さんは苓さんに肩を貸しつつ、私に顔を向ける。 「藤堂さんも良ければ私の車でお送りしますよ」 谷島さんは私にそう提案してくれたけど、私はその提案を断った。 「いいえ、大丈夫です。私は……まだもう少しドレスを見て行くので。谷島さん、小鳥遊さんを病院に連れて行ってあげてください」 では、私はこれで失礼します。 そう口にしてその場を離れようとした私。 だけど、そんな私の腕を。 苓さんが掴んで止めた。 「──っ!?」 「……まだ、御影専務が居るかもしれません。……この場に藤堂さんを残して帰る事はできません。ドレスを選ぶって言うなら、俺もここに残ります」 「そんな……っ」 体調が悪いのに、これ以上苓さんをこの場に残しておくことは出来ない。 私は急いで店員を探すと、先程谷島さんが最後に着ていたスーツと、私が気に入ったドレスを取り置いておくことを伝えた。 そして、すぐに谷島さんと苓さんの元に戻る。 谷島さんは苓さんに肩を貸しつつ、申し訳なさそうな表情を浮かべ、私に謝罪をした。 「すみません、藤堂さん。ゆっくりドレスを選びたかったですよね」 「いえ、大丈夫ですよ」 「藤堂さんが乗ってきた車は……」 「護衛に頼みます。今は早く小鳥遊さんを病院に連れて行ってあげましょう?」 私の提案に、谷島さんの手を借りていた苓さんはゆるり、と力なく頭を振った。 「大丈夫です……。本当に……。

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   382話

    店の出口に真っ直ぐ向かって行く御影さんの背中を厳しい眼差しで見つめていた苓さん。 御影さんがそのまま店から出て行くのを最後まで見送った後、苓さんはそこでようやく出口から視線をこちらに戻した。 「──っ、すっ、すみません……!」 そして、今の状況を目にした苓さんは、慌てて私から手を離し、謝罪を口にする。 「い、いえ……!こちらこそお騒がせしてしまい、すみません。……谷島さんも、ご迷惑をおかけして……」 「いえいえ、気になさらないでください。それより……」 谷島さんはそこで一旦言葉を切ると、私と苓さんに顔を向けてある提案を口にした。 「御影さんが諦めて帰ったかどうか分かりませんから、もし藤堂さんが良ければこの後も俺たちと一緒に回りませんか?」 ◇ 「谷島さんにはそちらの色より、こっちの色の方が……」 「藤堂さんの言う通りだな。淡い色は谷島に似合わない。そっちを試着してみた方がいい」 あれから。 谷島さんの提案を後押しするように苓さんからも同じ事を言われて。 私も、また御影さんが戻って来たら嫌だと思い、有難く2人と一緒に店内を見て回っていた。 今は谷島さんが当日着るスーツを選んでいる所。 私と苓さんの意見は一致していて。 「そ、そうか?じゃあ、こっちに着替えてみる」と満更でもなさそうな谷島さんが新しいスーツを片手に、試着室に消えた。 谷島さんが試着室に入ってしまうと、必然的に私と苓さんの間には気まずい空気が流れる。 さっきまでは谷島さんに似合いそうな別の服を探していたけど、もう今着替えている分で谷島さんの候補はおしまいだ。 どうしよう、苓さんとどんな会話をしよう、と私が手持ち無沙汰で1人気まずさを感じていると、ふと苓さんの声が聞こえた。 「──これ……、このドレス……」 「え……?」 苓さんのぽつりと落ちた呟きに、私は苓さんの方向へ振り向いた。 苓さんが見つめる先には、1着のドレスがある。 黒を基調とした、派手過ぎずシックなデザインのドレス。 だけど、背中が結構大胆に開いており、私はこういったドレスが好みだ。 確か、苓さんと初めて会ったパーティーのドレスも、似たようなドレスを着ていたような気がする。 そんな事を思っていた私の耳に、苓さんの声が落ちる。 「確か……これに似たようなのを、着ているのを見た、ような……」

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   381話

    私の背後から伸びた手は、迷いなく御影さんの手を掴んでいる。 そして、背後から気遣うようにそっと私の肩に手を置かれて優しく引き寄せられた。 「──小鳥遊……っ、どうしてお前がここに……!?」 苓さん──。 やっぱり、苓さんがここに。 私の肩に置かれているのは、間違いなく苓さんの手だ。 そして、御影さんを止めるように掴んでいるのも、苓さんの手。 だけど、御影さんが言う通り、どうして彼がここに。 そう思った私が振り向くと、そこには。 「小鳥遊さん、に……谷島さん……?」 私の後ろには、苓さんと。そして、谷島刑事が居て。 谷島さんは気まずそうに私に軽く手を上げると、御影さんに顔を向けた。 「……小鳥遊と私は友人でして。……私も小鳥遊も今度開催されるパーティーに参加するんです。それで、パーティーの場に相応しい服を良く知っている小鳥遊に、買い物の付き合いを頼んだんですよ」 谷島さんの説明に、私はなるほど、と納得した。 苓さんならパーティーの参加経験も豊富。 それに、谷島さんも今回のパーティーに一参加者として潜り込む事になっている事は予め聞いていた。 パーティー会場内に、怪しい人物がいないか。 そして、未だ逃亡中の速水 涼子が私を狙って姿を表さないか、それを直接会場で確認と警備に当たる、とお父様から聞いていた。 谷島さんは本職は刑事。 だから、目立たないように参加者に紛れ込むために相応しい服装を苓さんに相談したのだろう。 苓さんと谷島さんは友人同士だから、こうして一緒に買い物に来ていても何の疑問もない。 むしろ、苓さんと谷島さんが今日、私と同じタイミングで買い物に来ていた事が幸いした。 私の肩をぐっと引き寄せた苓さんの力に抗う事はできず、私の背中はそのままぽすん、と苓さんの胸元に倒れ込んでしまう。 その瞬間、先日の光景が一気に私の頭に蘇る。 苓さんの具合がまた悪くなってしまったら──。 また、拒絶されてしまったら──。 その恐怖が蘇り、私は慌てて苓さんから離れようとしたけれど。 ──ぐっ、と苓さんの手に力が籠る。 まるで私を逃がさないとでも言うような苓さんの力強さに、私は驚いて目を見開いた。 背後にいる苓さんを窺い見るけど、苓さんの視線は真っ直ぐ御影さんに向かっている。 「……藤堂さんと御影さんの関係は、もう終わって

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    「──ひっ」 「俺は茉莉花の知り合いだ。そのドレスを貸してくれ」 ぞわり、と背筋に悪寒が走る。 どうしてここに御影さんが──。 だけど、御影さんにその事を問うよりも早く御影さんの大きな手のひらが私の腰を掴んだ。 「──ちょっ」 「俺のスーツと色をリンクさせよう。茉莉花にはこの色がとても映えるだろう」 「ちょっと、御影さん……っ、離してくださいっ!」 「ああ、店員に止めてもらおうとしても無駄だぞ?御影家はこの店のスポンサーだ。店員には俺を止められない」 「な、なら護衛を──っ」 「あっちも無駄だ。茉莉花の護衛は、茉莉花に危害を加えようとしている相手じゃないとな?俺は別に茉莉花に危害を加えるつもりはない。それより、あいつらを呼んで俺を追い出すか?俺は知り合いの茉莉花と話していただけなのにそんな事をされたら、俺だって面子がある。それ相応の対応はさせてもらうぞ?」 「──っ」 そして、御影さんは楽しげに私の耳元で呟いた。 「護衛が俺を摘み出してみろ。俺は護衛会社に抗議するぞ。そうしたら、あいつらは職を失うかもしれないな?」 「──さいってい!」 「何とでも言えばいい」 笑いながら、私の腰を強い力で抱いている御影さんの足は止まる事なく動き続ける。 私がいくら足を踏ん張って抵抗しようにも、所詮は男と女。 力の差は歴然。 私の足は、御影さんに無理矢理引っ張られるような形で試着室に向かって行ってしまう。 私の護衛が、背後で動く気配がした。 その瞬間、私の頭の中でさっきの御影さんの言葉が蘇る。 彼だったら、本当にやりかねない──! 私は顔だけを後ろに振り向かせ、護衛に向かって首を横に振る。 「大丈夫だから、待機していて」そう、ジェスチャーで伝えると、護衛は未だに心配そうな表情で私を見ている。 私はもう一度頷いてから、顔を前に戻す。 店員にも、止めてもらう事は期待できない。 護衛にも、御影さんを止めさせる事はできない。 御影さんを止めたら、きっと護衛の2人は仕事をクビになってしまう。 「本当に、汚い男だわ……っ」 「はっ、強気な茉莉花も良いな。興味をそそられる。だが、試着室に入ってもそんな強気の態度でいられるのか?俺の前で下着姿になるんだぞ?」 「あなたの前で着替えなんてしません……っ!離してください、帰ります……!」

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   379話

    ◇ 慰労会から、あっという間に時間が過ぎた。 あの日、慰労会の日に私は苓さんとの関係を白紙に戻す選択をした。 もう、苓さんとの関係はこれからは仕事上でのお付き合いのみ。 今はまだ全然辛くて、仕事で苓さんの顔を見る度に泣きそうになってしまうけど。 きっとこれも時間が解決してくれる。 「……苓さんが、私以外の女性と幸せになってくれればいいわ」 だけど、と考える。 藤堂グループは小鳥遊建設と今回のカフェ事業で良きパートナー、取引相手になった。 だからきっと、今後も小鳥遊建設との仕事は続くだろう。 そして、私は藤堂の跡継ぎだから。 冠婚葬祭には、私もきっと招待されるだろう。 「苓さんの結婚式とかにも……きっと招待されちゃうだろうなぁ……」 はは、と乾いた笑いが漏れてしまう。 かつては苓さんとの将来がごく身近にあった。 「それなのに……今はこんなに遠いなんて……」 人生、何があるのか分からないものだ。 私が物思いに耽っていると、それまで走っていた車が停まった。 「茉莉花様、到着しました」 「ありがとうございます」 「ご連絡をいただけましたら、店前までお迎えに上がりますね」 「ええ、お願いします」 私は運転手に告げてからドアを開け、車から降り立つ。 今日は、大事な日だ。 虎おじ様が企画してくれた、今回の和風庭園カフェの1号店オープン記念のパーティー用のドレスを買いに来たのだ。 ドレスを新調する必要があったため、この店にやって来た。 私が店に向かって歩いて行くと、私の少し後ろを護衛が2人ほど遅れて着いてくる。 今日はドレスの試着があるため、護衛の1人は女性だ。 試着中に狙われる、と言う事も少なくないらしい。 試着中は下着姿になる事から、抵抗しにくい。 だから今日は女性護衛に試着室の中まで入って来てもらうつもりだ。 護衛の人達は、とても真面目で私の視界に入らない程度の距離から付かず離れず着いて来てくれている。 何かが起きてもすぐに対応出来る距離に、すぐ護衛がいると言う安心感。 だから私は久しぶりに純粋に買い物を楽しむ事にした。 ドレス選びなんて、久々だ。 どんなドレスが今は流行っているのか、店員から聞き、お勧めだったり、私に似合いそうなドレスを選んでもらう。 店員と相談しながら私は当日に着るドレスの候補を3

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   165話

    藤堂の、歴史は古い──。 そのため、家に関する資料はとても多い。 だけど、重要な資料は書斎には保管されていない。 お父様か、お祖父様が厳重に管理しているから、許可を頂かないと、閲覧ができない。 私は書斎の扉を開き、入室する。 「ここは、昔から埃っぽい……変わらないわね」 多少咳き込みつつ、私は本棚を見上げる。 藤堂本家の家系図が並べられている、棚。 藤堂の歴史が記された本の、棚。 そして、歴代当主の個人的なプロフィールが書かれた本の、棚。 色々な資料が沢山ある中で、私は過去藤堂と取引を結んだ企業や、個人などが記録されている本を見つけてそれを取り出した。 「この中に、必

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   163話

    ただ、気の弱い子なんだ。と、そう思っていた。 長年、そう信じ込んでいたのだ。 それなのに、それが全部演技だったの……?嘘、だったの……? そう考えると、私は愕然としてしまった。 「ああ言う女性は、自分を弱者に見せるのがとても上手いです……。そして、異性の懐に潜り込む……」 「異性、の……」 「ええ。潜り込んだのは……茉莉花さんも、もうお分かりですよね?」 苓さんの言葉に、私はこくりと頷いた。 そんな事をしてまで涼子が近づきたかったのは、ただ1人しかいない。 「分かります……御影さん、ですよね?」 私がそう言うと、苓さんが真っ直ぐ私を見つめ深く頷いた。 そして、口を開く

    last updateLast Updated : 2026-03-27
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    「苓さんっ!」 私を揶揄うようにくすくすと笑う声がスマホ越しに聞こえる。 低くて、甘い苓さんの落ち着いた声に、私は素直に頷いた。 「そうなんです。早く苓さんの声が聞きたくって」 苓さんが息を飲んだのが分かる。 私が、苓さんに想いを伝える事を躊躇わなくなってから。 私が苓さんに素直に気持ちを伝えると、こうして苓さんが照れて黙ってしまう事が増えた。 その様子が、何だかとても可愛らしく思えてしまって。 大人の男性に可愛い、なんて言っ

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   171話

    「れっ、苓さん……!?」 どきり、と心臓が一際大きく跳ねる。 苓さんにファスナーを上げてもらおうか、と一瞬頭に過ぎったけれど、その考えをすぐに消し去る。 今のドレスは、背中がかなり大きく開いているドレス。 しかも、今はファスナーも閉めれていないから、前面も……腕を離したらドレスが下に落ちちゃう。 胸元も顕になってしまうし、下半身だって──。 そこまで考えた私は、苓さんに向かって答えた。 「だ、大丈夫です苓さんっ。その……店員さんを呼んでもらってもいいですか?」 「店員ですか?何か困ってるなら、俺が手伝いますよ……?」 「その、……ファスナー、なので……」 「……俺が、上

    last updateLast Updated : 2026-03-27
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