LOGIN初めて苓さんと会った時のように。 相戸さんの対応に困っている時に、苓さんがまた話しかけて助けてくれた。 私が苓さんの名前を呼ぶと、相戸さんは私の腰を触っていた手をぱっと離した。 そして、こちらに向かってやってくる苓さんを見るなり、顔色を悪くさせて私から1歩距離を取る。 「お話中すみません。……確かあなたは──」 「相戸、と申します。……藤堂さんにご挨拶をしていましたが、挨拶はもう終わりましたので……また、後ほど」 相戸さんは愛想笑いを浮かべ、ぺこぺこと頭を下げるとその場をそそくさと離れて行ってしまった。 良かった……。 苓さんのお陰で相戸さんの対応が終わった。 私は話しかけてくれた苓さんに顔を向けて、お礼を言おうとした。 だけど、苓さんはとても怖い顔をしたまま、相戸さんが去って行った方向を強く睨んでいる。 「──小鳥遊、さん?」 「──っ!は、はい!」 「えっと、助かりました、ありがとうございます。何かご用でしたか?」 私がそう話しかけると、苓さんは気まずそうに目を逸らして小さく呟く。 「いえ……藤堂さんが困っているようでしたから……」 「そうだったんですね、ありがとうございます。困っていたので助かりました」 私がそう伝えると、苓さんは何とも言えない表情で、私をじっと見つめる。 何か言いたいような、迷っているようなそんな表情に見えた。 「……小鳥遊さん?」 「──っ、いえ……」 そこで苓さんは一旦言葉を切ると、私の顔をしっかり正面から見返して照れくさそうにはにかんだ。 「ドレス姿、とても素敵ですね。藤堂さんにとても良く似合っています」 「──っ!あ、ありがとうございます。小鳥遊さんも素敵ですよ」 まさか、苓さんにドレス姿を褒めてもらえるなんて思わなかった。 もう、二度とそんな事は起きないと思っていたから。 だから、嬉しくてついつい笑顔が浮かぶ。 私も苓さんに「素敵です」と伝えると、苓さんは驚いたように目を見開き、微笑んでくれた。 「ありがとうございます……」 相戸さんがもう近くにはいない事を確認した私は、他のゲストの方の対応に戻るため、苓さんに軽く頭を下げてからその場を離れた。 ◇ それから、沢山のゲストの対応を終えるとパーティーが本格的に始まった。 協賛の虎おじ様や、社長のお父様。 そして、小
◇ 和風庭園カフェ 〈憩いカフェ〉1号店のオープン記念パーティー開催日は、あっという間にやってきた。 パーティー当日。 藤堂グループの本社社長であるお父様と、副社長、そして本部長の私。 提携を組んでいる小鳥遊建設の社長である苓さんのお兄様、そして部長の苓さん。 協賛してくれている虎おじ様。 私たちは一足先に会場入りしてゲストをお迎えしていた。 ゲスト達から祝福の声が多くかけられ、私やお父様は笑顔でそれに答えて行く。 私のチームの皆も参加してくれていて、皆が私に手を振ってくれる。 私も矢田さん達に手を振り返して、ゲストの対応に戻る。 どれくらい、そうしていただろう。 不意に背後から声をかけられたのと同時、私の肩に手が置かれる。 「藤堂さん、久しぶりですね」 「──っ、あ、相戸さん。確かに、お久しぶりです……」 まさか、彼も参加しているなんて。 だけど、以前虎おじ様が開催したパーティーに相戸さんも参加していたのだから、今日ここに来ていても何の不思議もない。 私は何とか笑みを保ちつつ、相戸さんに向き直った。 「いやはや……色々あったみたいで、大変そうですね」 「ふふ、そうですね。ですが、このカフェのお仕事はとても勉強になりましたわ。今後も2号店、3号店、とオープンしていきますので、ぜひご贔屓にしてくださいね」 相戸さんが口にした「色々あった」とは、違う事を指しているのだろうけど、敢えてそこは仕事の話にすり替える。 きっと、相戸さんは私と御影さん。そして苓さんの事について報道された事を言っているのだろう。 相変わらず相戸さんの視線はねっとりとしていて、その視線が私の全身を蛇のように這っていて気持ち悪い。 私の肩に置いた手で、相戸さんは撫で摩るように私の肩をずっと触っている。 肩や背中が大きく開いたドレスだから、相戸さんのかさついた手のひらの感触がダイレクトに伝わってきて、とても気持ち悪い。 だけど、相戸さんは虎おじ様のお客様でもある。 とても嫌だけど、これくらいのセクハラは日常茶飯事。 笑って躱す事くらい、出来ないといけない。 私は相戸さんに対して失礼にならない程度に彼から距離を取り、やんわりと会話を終わらせようとしたのだけど、相戸さんはそれを分かっていながら執拗く私に話を振ってくる。 「藤堂さんは今、会社の本部長
◇ 藤堂の門の前。 停まった車から、私はドアを開けて降りた。 「谷島さん、送っていただいてありがとうございました。……小鳥遊さんも、お大事になさってくださいね」 私は運転席側に回り、運転してくれた谷島さんにお礼を告げる。 そして、助手席に乗っている苓さんに視線を向けて声をかけた。 2人は私の言葉に頷き、柔らかく微笑んでくれる。 「いえいえ、こちらこそ今日はスーツ選びに付き合っていただいてありがとうございました。後日、パーティー会場でお会いしましょう、藤堂さん」 「ありがとうございます、藤堂さん。また、パーティーで」 谷島さんと苓さんがそう言葉を返してくれる。 さっきに比べて、苓さんの顔色もいくらか良くなっていて、ほっとした。 私は窓から離れ、軽く2人に向かって手を振る。 谷島さんは頷いた後、車をバッグさせる。 苓さんは、私をじっと見つめたまま、私が手を振っているので軽く手を上げて手を振り返してくれた。 車がUターンして、去っていくのを見つめる。 私の視界からあっという間に車が小さくなって、そして見えなくなる。 そこまで見送った私は、家に向き直り歩き出した。 ◇ 藤堂さんの家から大分離れた所まで来て、谷島は近場のコンビニに車を入れると「ちょっと待ってろ」と言ってから車を降りて行った。 俺はコンビニに入って行く谷島をぼうっと見つめながら、未だ軽く痛みの残っている頭を片手で抱える。 「……くそっ」 最近、藤堂さんの夢を毎日のように見る。 夢の中の藤堂さんは、俺が見た事のないくらい可愛らしい笑顔を浮かべていて。 「誰か」に笑いかけている。 その「誰か」が凄く羨ましくて。 憎たらしくて。腹が立って。 あと少しで藤堂さんが笑いかけている男の顔が見える──。 そう思った瞬間、いつも目が覚めるのだ。 あんな風に笑う藤堂さんを、俺は見た事がないはずなのに。 だけど、俺は知っているような気がして。 それに、今日のドレスだって──。 「何だ……一体どこで見た……?」 藤堂さんが、似たようなドレスを着ていた気がする。 だけど、それがどこでだったのかがちっとも分からないし思い出せない。 「──くそっ、早く思い出せよ……!」 もどかしくてもどかしくて堪らない。 それに、腹が立ってどうにかなりそうだった。 藤堂さんに、
「た、小鳥遊さん……?大丈夫ですか!?」 「──っ、すみません……、大丈夫です……っ」 慌てて苓さんに声をかける。 すると、苓さんは自分の額を手で抑えつつ答えてくれる。 だけど、その表情は全然大丈夫そうに見えなくて。 「た、小鳥遊さ──」 「小鳥遊?おい、大丈夫か!?」 試着を終えた谷島さんが出てくると、頭を抑えている苓さんに気が付き、慌てて近付いて来る。 「いや、大丈夫だ──」 「何を言っているんだ、顔が真っ青だぞ?頭が痛いんだろう?」 「いつもの事だから、すぐに治まる……原因も分かってるから……」 「……取り敢えず今日はもう帰ろう。その方がいい」 谷島さんの言葉に、私も頷く。 「小鳥遊さん、その方がいいですよ。頭痛が頻繁に起きているなら、病院に行って検査をした方がいいです」 「ああ。今日はそうした方がいい。小鳥遊、ほら肩を貸すから」 谷島さんは苓さんに肩を貸しつつ、私に顔を向ける。 「藤堂さんも良ければ私の車でお送りしますよ」 谷島さんは私にそう提案してくれたけど、私はその提案を断った。 「いいえ、大丈夫です。私は……まだもう少しドレスを見て行くので。谷島さん、小鳥遊さんを病院に連れて行ってあげてください」 では、私はこれで失礼します。 そう口にしてその場を離れようとした私。 だけど、そんな私の腕を。 苓さんが掴んで止めた。 「──っ!?」 「……まだ、御影専務が居るかもしれません。……この場に藤堂さんを残して帰る事はできません。ドレスを選ぶって言うなら、俺もここに残ります」 「そんな……っ」 体調が悪いのに、これ以上苓さんをこの場に残しておくことは出来ない。 私は急いで店員を探すと、先程谷島さんが最後に着ていたスーツと、私が気に入ったドレスを取り置いておくことを伝えた。 そして、すぐに谷島さんと苓さんの元に戻る。 谷島さんは苓さんに肩を貸しつつ、申し訳なさそうな表情を浮かべ、私に謝罪をした。 「すみません、藤堂さん。ゆっくりドレスを選びたかったですよね」 「いえ、大丈夫ですよ」 「藤堂さんが乗ってきた車は……」 「護衛に頼みます。今は早く小鳥遊さんを病院に連れて行ってあげましょう?」 私の提案に、谷島さんの手を借りていた苓さんはゆるり、と力なく頭を振った。 「大丈夫です……。本当に……。
店の出口に真っ直ぐ向かって行く御影さんの背中を厳しい眼差しで見つめていた苓さん。 御影さんがそのまま店から出て行くのを最後まで見送った後、苓さんはそこでようやく出口から視線をこちらに戻した。 「──っ、すっ、すみません……!」 そして、今の状況を目にした苓さんは、慌てて私から手を離し、謝罪を口にする。 「い、いえ……!こちらこそお騒がせしてしまい、すみません。……谷島さんも、ご迷惑をおかけして……」 「いえいえ、気になさらないでください。それより……」 谷島さんはそこで一旦言葉を切ると、私と苓さんに顔を向けてある提案を口にした。 「御影さんが諦めて帰ったかどうか分かりませんから、もし藤堂さんが良ければこの後も俺たちと一緒に回りませんか?」 ◇ 「谷島さんにはそちらの色より、こっちの色の方が……」 「藤堂さんの言う通りだな。淡い色は谷島に似合わない。そっちを試着してみた方がいい」 あれから。 谷島さんの提案を後押しするように苓さんからも同じ事を言われて。 私も、また御影さんが戻って来たら嫌だと思い、有難く2人と一緒に店内を見て回っていた。 今は谷島さんが当日着るスーツを選んでいる所。 私と苓さんの意見は一致していて。 「そ、そうか?じゃあ、こっちに着替えてみる」と満更でもなさそうな谷島さんが新しいスーツを片手に、試着室に消えた。 谷島さんが試着室に入ってしまうと、必然的に私と苓さんの間には気まずい空気が流れる。 さっきまでは谷島さんに似合いそうな別の服を探していたけど、もう今着替えている分で谷島さんの候補はおしまいだ。 どうしよう、苓さんとどんな会話をしよう、と私が手持ち無沙汰で1人気まずさを感じていると、ふと苓さんの声が聞こえた。 「──これ……、このドレス……」 「え……?」 苓さんのぽつりと落ちた呟きに、私は苓さんの方向へ振り向いた。 苓さんが見つめる先には、1着のドレスがある。 黒を基調とした、派手過ぎずシックなデザインのドレス。 だけど、背中が結構大胆に開いており、私はこういったドレスが好みだ。 確か、苓さんと初めて会ったパーティーのドレスも、似たようなドレスを着ていたような気がする。 そんな事を思っていた私の耳に、苓さんの声が落ちる。 「確か……これに似たようなのを、着ているのを見た、ような……」
私の背後から伸びた手は、迷いなく御影さんの手を掴んでいる。 そして、背後から気遣うようにそっと私の肩に手を置かれて優しく引き寄せられた。 「──小鳥遊……っ、どうしてお前がここに……!?」 苓さん──。 やっぱり、苓さんがここに。 私の肩に置かれているのは、間違いなく苓さんの手だ。 そして、御影さんを止めるように掴んでいるのも、苓さんの手。 だけど、御影さんが言う通り、どうして彼がここに。 そう思った私が振り向くと、そこには。 「小鳥遊さん、に……谷島さん……?」 私の後ろには、苓さんと。そして、谷島刑事が居て。 谷島さんは気まずそうに私に軽く手を上げると、御影さんに顔を向けた。 「……小鳥遊と私は友人でして。……私も小鳥遊も今度開催されるパーティーに参加するんです。それで、パーティーの場に相応しい服を良く知っている小鳥遊に、買い物の付き合いを頼んだんですよ」 谷島さんの説明に、私はなるほど、と納得した。 苓さんならパーティーの参加経験も豊富。 それに、谷島さんも今回のパーティーに一参加者として潜り込む事になっている事は予め聞いていた。 パーティー会場内に、怪しい人物がいないか。 そして、未だ逃亡中の速水 涼子が私を狙って姿を表さないか、それを直接会場で確認と警備に当たる、とお父様から聞いていた。 谷島さんは本職は刑事。 だから、目立たないように参加者に紛れ込むために相応しい服装を苓さんに相談したのだろう。 苓さんと谷島さんは友人同士だから、こうして一緒に買い物に来ていても何の疑問もない。 むしろ、苓さんと谷島さんが今日、私と同じタイミングで買い物に来ていた事が幸いした。 私の肩をぐっと引き寄せた苓さんの力に抗う事はできず、私の背中はそのままぽすん、と苓さんの胸元に倒れ込んでしまう。 その瞬間、先日の光景が一気に私の頭に蘇る。 苓さんの具合がまた悪くなってしまったら──。 また、拒絶されてしまったら──。 その恐怖が蘇り、私は慌てて苓さんから離れようとしたけれど。 ──ぐっ、と苓さんの手に力が籠る。 まるで私を逃がさないとでも言うような苓さんの力強さに、私は驚いて目を見開いた。 背後にいる苓さんを窺い見るけど、苓さんの視線は真っ直ぐ御影さんに向かっている。 「……藤堂さんと御影さんの関係は、もう終わって
ただ、気の弱い子なんだ。と、そう思っていた。 長年、そう信じ込んでいたのだ。 それなのに、それが全部演技だったの……?嘘、だったの……? そう考えると、私は愕然としてしまった。 「ああ言う女性は、自分を弱者に見せるのがとても上手いです……。そして、異性の懐に潜り込む……」 「異性、の……」 「ええ。潜り込んだのは……茉莉花さんも、もうお分かりですよね?」 苓さんの言葉に、私はこくりと頷いた。 そんな事をしてまで涼子が近づきたかったのは、ただ1人しかいない。 「分かります……御影さん、ですよね?」 私がそう言うと、苓さんが真っ直ぐ私を見つめ深く頷いた。 そして、口を開く
翌日。 土曜日の夜に、そのパーティーは開催された。 私は苓さんに迎えにきてもらい、苓さんの運転する車で会場入りした。 会場は、都内にある高級ホテルのフロアをまるまるワンフロア貸し切ってのパーティーだ。 「茉莉花さん、手を」 「ありがとうございます、苓さん」 苓さんの手を借りて車を降りる。 すぐにホテルの人間が苓さんの車の傍に来て、頭を下げた。 「頼む」 「かしこまりました」 苓さんは車のキーを渡し、私は苓さんの腕に自分の腕を添えた。 「行きましょうか、茉莉花さん」 「ええ」 こくり、と頷いて苓さんと一緒にホテルに入った。 フロアの前で招待状を渡し、会場に足を踏み
自分の言葉が、私に届いていないと思ったのだろう。 御影さんは、もう一度。 今度は、はっきりと分かりやすく問う。 「言い掛かり……?涼子の事、ですか?」 まさか、御影さんが私の怪我の心配をするなんて思わなくって、私は唖然としてしまう。 今、私が話しているのは本当に御影さん本人なの? 偽物じゃない、の? それとも、御影さんは何かを企んでいるの
藤堂の、歴史は古い──。 そのため、家に関する資料はとても多い。 だけど、重要な資料は書斎には保管されていない。 お父様か、お祖父様が厳重に管理しているから、許可を頂かないと、閲覧ができない。 私は書斎の扉を開き、入室する。 「ここは、昔から埃っぽい……変わらないわね」 多少咳き込みつつ、私は本棚を見上げる。 藤堂本家の家系図が並べられている、棚。 藤堂の歴史が記された本の、棚。 そして、歴代当主の個人的なプロフィールが書かれた本の、棚。 色々な資料が沢山ある中で、私は過去藤堂と取引を結んだ企業や、個人などが記録されている本を見つけてそれを取り出した。 「この中に、必







