あなたの「愛してる」なんてもういらない의 모든 챕터: 챕터 401 - 챕터 410

419 챕터

401話

私の言葉に、お父様とお母様が驚いたように目を見開いた。 そして、じわじわと嬉しそうな表情に変わって行く。 「それは……本当か?」 お父様が嬉しそうに、だけど少しだけ不安そうに私と苓さんに視線を向けた。 私と苓さんはお互い顔を見合わせて笑い合うと、繋いだ手に力を込める。 そして、苓さんがお父様の言葉に答えた。 「ええ、全部思い出しました」 私と苓さんが笑い合う姿を見て、ようやくお父様もお母様もそれが本当なのだと理解してくれたみたいで。 お母様は自分の顔を両手で覆い、嬉しそうに笑った。 お父様も安心したように笑顔を浮かべ、ただ一言「そうか」と告げて頷いた。 苓さんと一緒に家に帰って来て、私と苓さんはお父様とお母様4人で遅い昼食を共にした。 「そう言えば……苓くんの記憶が戻った事は喜ばしい事だが……記憶を失ってから今までの間の記憶もあるのか?」 食事の手を止めて、お父様がふと尋ねる。 すると苓さんも手を止めて、頷いた。 「──はい。問題ありません、全て覚えています。なので、今後の仕事についても何の問題もありません」 それを聞いたお父様は、ほっと安心したような顔になる。 「そうか、それも良かった──」 お父様の言葉の後、苓さんはすっと真面目な表情になると、少しだけ前のめりになって口を開いた。 「……馨熾さん、それで、その……。茉莉花、の……茉莉花さん、のお見合いの件は……」 言いにくそうに告げる苓さん。 苓さんの言葉を聞いたお父様は「そうだったな」とはっとしたように目を開き、私に顔を向けた。 「茉莉花、どうする。先方へは──」 「正式にお断りをお願いいたします。……昨夜、先方と少しだけお話いたしました。……苓さんの記憶が戻った以上、私は他の方と結婚するつもりはありません。……それに、万が一苓さんの記憶が戻っていなくても、今回のお話はお断りする事になっていたと思います」 私は、背筋を伸ばししっかりお父様の目を見返して答える。 そう──。 苓さんの事が無かったとしても、今回のお話はお断りだ。 あんなに私生活にだらしのない方と将来を共に歩ける訳が無い。 私の視線を真っ直ぐ向けられたお父様は「分かった」と頷いてくれた。 ◇ 昼食が終わり、お母様から2人でお散歩でもしてきたら?と提案を受けて、私と苓さんは家の庭を散策する事
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402話

「えっ、ちょっ、苓さん、下ろしてください……っ!」 苓さんは、私を抱きしめたまま縁側に腰を下ろした。 だから必然的に、苓さんは私を膝の上に乗せたまま後ろから私をぎゅうっと抱きしめる。 「んー……もうちょっとだけこうしてくっついていたいです。駄目?」 こてり、と首を傾げて悲しそうな表情を浮かべる苓さん。 そんな風に悲しそうに言われると、駄目とは言えなくて。 「──……、ちょっとだけ、ですよ……?」 「ええ、分かりました」 恥ずかしいけど、嫌じゃない。 それに、苓さんとこうしてくっついていると。苓さんの温もりを感じると本当に苓さんが私の事を思い出してくれたんだ、と実感する。 私たちの間には特に会話も、言葉も無い。 ただ苓さんが私をぎゅっと抱きしめてくれて。 その時間がとても幸せ。 だけど、この幸せに浸っているばかりではいられない。 私は、私を抱きしめてくれている苓さんの手に自分の手を重ね、苓さんを見上げた。 「──苓さん」 「ん?」 私が声をかけると、苓さんは柔らかい笑みを浮かべ、優しく微笑んでくれる。 本当だったらこのまま何も考えず、苓さんと一緒にいる幸せだけを享受したい。 だけど、そうはいかない。 「苓さん……。苓さんが記憶を失うきっかけになったあの事故……その後に、私のスマホにメッセージが届いたんです」 「……メッセージ?」 私の言葉に、それまで穏やかだった苓さんの雰囲気がぴりっとしたものに変わる。 少しだけ体を離してくれて、話を聞く体勢になった苓さんに、私はスマホを取り出して問題のメッセージを開いて見せた。 「多分、これを送ったのは涼子です」 「──こんなメッセージを茉莉花に送ったんですか?」 苓さんの眉間に、皺が寄る。 怒りを顕にした苓さんは、心配そうに私を見た。 「俺が怪我をした後、こんなメッセージを送られて……。茉莉花は酷く傷付いたでしょう?それなのに……俺自身も茉莉花を傷付けて……本当にすみません」 ぎゅっと苓さんが私を抱きしめて謝罪を口にする。 苓さんが謝る必要なんてないのに。 それなのに、苦しそうに表情を歪める苓さんに私は慌てて首を横に振った。 「あ、謝らないでください苓さん!苓さんはむしろ私を助けてくれたのに……!」 「だけど、俺が茉莉花を苦しめて悲しめたのは事実だから……。こん
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403話

「た、確かに……。苓さんの言う通りですね、そうじゃなきゃ、あんなタイミングでメッセージを送れません……」 「でしょう?……谷島にその事を連絡しておきましょう。これから一層、茉莉花の身辺には警戒してもらわないと」 ぎゅうー、と私を抱きしめながら苓さんはスマホを取り出すと、谷島さんに電話をかける。 苓さんが話し出すと、電話の向こうにいる谷島さんの大きな声がスピーカーから漏れ聞こえてきた。 〈お、お前!記憶が戻ったのか!?いつの間に!?〉 「──ちょ、うるさい……。もう少し声を落としてくれ」 〈落ち着いていられるか!藤堂さん、ずっと辛そうだったんだぞ!?だが、記憶が戻って本当に良かったよ。それで、どうしたんだ?〉 「──、その、茉莉花の身辺警護について、だ」 苓さんは、谷島さんと話しながら繋いだ手に力を込めたり、私の指の間を苓さんの長い指がすりすりとなぞる。 それが擽ったくて、だけど苓さんはまだ電話中で谷島さんと話している。 擽ったさに耐えられなくなって、私がぺしぺしと反対側の手で苓さんの足を叩くけど、苓さんは嬉しそうに笑みを浮かべただけで手を離してくれないし、手を止めてくれそうにもない。 「──ああ、そうしてくれ。俺も茉莉花の傍で警戒しておくよ」 そう告げた苓さんは、谷島さんとの話を終え、電話を切った。 私は苓さんを振り返り、心配そうに顔を見上げた。 不思議そうに首を傾げる苓さん。 そんな苓さんに、私は口を開く。 「私の傍にいたら、また苓さんが危険な目に遭うかもしれません……だから……、」 私とはあまり接触しない方が。 それに、苓さんが記憶を取り戻した事は、あまり知られない方がいいんじゃないか──。 そんな私の言葉を遮るように、苓さんは私にキスをする。 突然唇を塞がれてしまい、私はぽかんと苓さんを見上げる。 眉を下げ、寂しそうに笑う苓さんが目に入った。 「……俺が危ない目に遭うのは別にいいんです。それより、茉莉花が怪我をしたり、危ない目に遭う方が耐えられない」 「でも──」 「今回、俺が記憶を失った事故だって、巻き込まれたのが俺だったからあれだけ軽い怪我で済んだけど、巻き込まれたのが茉莉花だったら?もっと大怪我になっていたかもしれない……」 そこまで言うと、苓さんは私をぎゅっと強く抱きしめる。 「俺じゃなくて、茉莉
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404話

──もう、茉莉花と離れたくない。 そう話した苓さんは、私の家に泊まる事になった。 苓さんとのお散歩を終え、お母様とお父様との夕食を終えた。 苓さんは少しの間、お父様の書斎で何かを話していたようだった。 その間、私はお母様とお喋りをしていたのだけど、お父様との話が終わった苓さんが戻ってくるなり、今日泊まる事を告げたのだ。 ◇ 「えっと、その……」 私は、自分の部屋でそわそわと落ち着きなく視線を泳がせてしまう。 私の部屋。 私の部屋に、パジャマを着たラフな格好をした苓さんが居る。 「茉莉花?大丈夫ですか?」 「──えっ、う、あ……はい……」 「……茉莉花の実家で、手は出さないから、安心してください」 「──っ、そっ、そんなっ、事を気にしては……っ!」 苓さんの言葉に、私の顔がぼっと熱くなる。 苦笑いを浮かべた苓さんがそのままベッドに向かい、手持ち無沙汰でその場に立ちっぱなしの私に向かって手を伸ばした。 「今日は色々あって疲れたでしょう?そろそろ寝ましょう、茉莉花」 「──うあ、はい……」 窓の外は既に真っ暗。 まだ日付が変わる前ではあるけど、確かに色々あって体はくたくた。 一刻も早く体は休みたい、と言っている。 「明日は、オープン記念の店舗に行ってみましょうか?」 「──っ!本当ですか!?」 「ええ。さっき馨熾さんにもその事を相談していたんです。……あと、これからの事も……」 私がベッドに向かって歩いて行くと、苓さんが優しく私の手を取ってくれた。 話しながら2人で一緒にベッドに入り、横になる。 目の前に苓さんの優しい顔があって、自然と私たちは体を寄せ合った。 私を引き寄せるように苓さんの腕が背中に回り、優しく抱きしめてくれる。 「これからの事……お父様と苓さんは、どんな事をお話したんですか?」 私の質問に、苓さんはそっと顔を寄せると私に軽く口付けをした。 「……ん、俺と茉莉花のこの先について、です。……俺が婿入りする形になるでしょう?」 「──た、確かに、そう、ですね」 婿入り。 その単語に、私の頬は薄っすらと赤く染まる。 なんて事ないように、まるで当然の事のように私たちの将来を語る苓さん。 そんな言葉がこそばゆくて。 「だから、馨熾さんがこの家に慣れるためにこの家で一緒に住まないか、って提案し
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405話

「俺も、色々とやらなくちゃいけない事があるし、すぐにとは行かないんですけど……。だけど、出来るだけ茉莉花の傍にいたいから……だから、あと少しだけ待っていてくれますか?やらなきゃならない事を全て終わらせたら、俺をこの家の一員に入れて下さい」 「──っ、もちろん、もちろんです……!」 苓さんの言葉に、私はこくこくと頷く。 やらなきゃいけない事。 苓さんがしなくちゃいけない事って、一体どれだけあるのだろう。 それに、どんな事を? そんな疑問が頭に浮かぶ。 だけど、苓さんは一緒に住みたい、と言ってくれた。 その事実がとても嬉しい。 「……先延ばしになってしまっていた、苓さんのご両親へのご挨拶も、しなくちゃですね」 「──……、そう、ですね」 私の言葉に、一瞬だけ苓さんの笑顔が固まる。 だけど、それはほんの一瞬だけ。 あれ?と思った時にはすぐにいつもの苓さんの表情に戻っていて。 私が苓さんの顔を見上げると、苓さんは優しい目で私の頭を撫でてくれた。 「もうそろそろ寝ましょうか、茉莉花。明日は少し早起きして、庭を散歩してからカフェを見に行きませんか?」 「ええ、ぜひ!明日も沢山お話しましょうね、苓さん」 「ふふ、そうしましょう」 とろり、と甘く蕩けた苓さんの瞳。 苓さんは私の額に軽く口付けると、そのまま抱き寄せてくれた。 暖かな苓さんの腕の中で。 心地よく私を抱きしめてくれる力強さに、私の瞼は次第にとろんと落ちて行く。 「お休みなさい、茉莉花……」 「ん、お休みなさい苓さん……」 苓さんの優しい声が聞こえ、私は瞼を閉じた。 ◇ 「両親、か……」 すうすう、と寝息を立てる茉莉花を抱きしめ、幸せそうに眠る顔を見つめながら俺はぽつりと呟く。 「あの人達に挨拶なんて……」 本当はしなくていいのに。 だけど、俺と茉莉花の結婚は、お互いの家にとって大きな出来事。 たとえ俺が両親を式に呼びたくなくても、そうはいかない。 「……ああ、くそ」 あんな人達とまた顔を合わせて話をしなきゃならないのか。 それを思うと憂鬱になる。 だけど、茉莉花とこれからも一緒に居るためならば。 俺と茉莉花が幸せになるためならば。 避けては通れない。 「仕方ない、兄に連絡しておくか……」 俺の事になんて一切興味はないだろう。 だからこそ、
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406話

◇ 翌朝。 私と苓さんが起きて食堂に向かうと、既にお母様とお父様は食事を終えた後だった。 食堂には私と苓さんの姿しかなく、使用人が朝食を運んでくれる。 「少し朝の散歩に時間を使い過ぎてしまいましたね」 「ふふ、大丈夫ですよ。お父様もお母様も、私と苓さんが庭を散歩している姿をここから見ていたみたいです」 「──えっ、み、見ていらっしゃったんですか!?」 くすくす、と私が笑いながら苓さんに言うと、苓さんは慌てる。 実は、ここ食堂から私たちが散歩をしていた日本庭園は良く見えるのだ。 見晴らしが良くて、こんな晴れた日には良く見えただろう。 「お母様も庭園をここから見下ろすのがお好きだから……」 「は、恥ずかしい……。馨熾さんとお母様に見られていたなんて……」 苓さんが恥ずかしそうに自分の顔を片手で覆う。 でも、どうしてこんなに恥ずかしそうにしているんだろう、と私が首を傾げていると、苓さんは覆った手のひらの隙間からちらりと私を見て恥ずかしそうに呟いた。 「俺、ずっと茉莉花を見つめていたんです……。相当だらしない顔をしていたと思うんです……。それを馨熾さんとお母様に見られていたと思うと……」 「苓さんはいつでも格好いいですよ。だから大丈夫です」 「か、格好いいって……」 私の言葉に、苓さんはごにょごにょと口ごもってしまう。 普段は格好いい苓さんが、こうしてたまに見せてくれる可愛らしい姿がとても嬉しくて。 私はふふっ、と声を出して笑ってしまった。 ◇ 「ここから車で30分くらいですね」 「はい、よろしくお願いします苓さん」 朝食後。 食堂を出た私と苓さんは、オープン前のカフェに向かうため、車に乗り込んだ。 苓さんがナビを入れてくれて、凡その到着時間を確認してくれる。 「途中で休憩したくなったら言ってくださいね、茉莉花」 「ありがとうございます苓さん。苓さんも運転に疲れたら休憩しましょう」 私たちは顔を見合わせ、笑い合う。 そうして苓さんはゆっくりと車のアクセルを踏み込んだ。 車の中で談笑していると、あっという間に30分経ってしまう。 藤堂の会社と、苓さんの小鳥遊建設が協力して作った和風庭園カフェ。 その記念すべき1号店に、到着した。 正式なオープンはまだ先。 だけど、取材陣やお得意先のお客様だけを招くセミオー
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407話

「オープン記念のパーティー、大盛況だったみたいですね。SNSでもトレンド入りしていて、凄く話題になっていますよ!」 「まあ、本当ですか?」 「ええ!カフェは普段予約などはしていないのですが、これだけの話題性なら、予約受付をした方がいいんじゃないか、と話が出ています」 「そう、ですね……。初日は沢山のお客様に来ていただきたいですが、メニューの品切れが起こってしまったり、せっかくご来店いただいたのに入れなかったら悲しいですものね。お客様にも申し訳ないですし……その案を纏めて、本社に送ってください」 「かしこまりました!」 にこにこと嬉しそうに話す店長に、私たちは店内を案内してもらう。 フロアは落ち着いた色合いで統一され、和を強調した雰囲気がとても良い。 テーブル席が多いが、中には家族連れも見越して和室風の席も用意している。 それでも店内は狭く感じられないよう、内装にも工夫が凝られていてとても居心地の良さそうなカフェだ。 パントリー内でも料理やドリンクの作り方を教えていて、私と苓さんは邪魔にならない場所で社員がスタッフに教えている場面を見ていた。 「では、お客様の所に運ぶ練習もしましょう。トレーは重いので、あまり乗せすぎず」 「──はいっ!」 アルバイトスタッフは、女性男性半々だ。 トレーにドリンクを乗せた女性スタッフの1人が、私たちに気がついた。 その女性スタッフは、緊張した面持ちで私と苓さんを見て──。 そして、苓さんを見た瞬間にその目が見開かれる。 キラキラとした目を苓さんに向けるのが分かった。 だけど、苓さんからしたら視線を集めるのは慣れっこなのだろう。 女性スタッフの視線に特に気にした様子はなく、店長に色々と質問しているのが見える。 (嫌だ、こんな……嫉妬みたいな感情……) 私が反省していると、私たちの近くを通りかかった女性スタッフが声を上げた。 「──きゃあっ!」 「──うわっ」 その女性スタッフは、苓さんの近くを通り過ぎる時に何かに躓いたようにバランスを崩し、苓さんに倒れ込んだ。 咄嗟に女性スタッフを受け止めた苓さんに、私の胸がもやり、としてしまう。 だが、女性スタッフが倒れ込んでしまったと言う事は、トレーからドリンクの入ったグラスが倒れ、落ちて割れてしまうと言う事。 苓さんのすぐ近くにいた私に、それは
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408話

「ご、ごめんなさい、苓さん……」 「俺こそすみません……こんな事になるなんて……」 私は顔を真っ赤にしままま、苓さんの腕の中。 店長は大慌てでブランケットを探しに行き、先程苓さんに倒れ込んだ女性スタッフは顔を真っ青にしていた。 そして、先程下品な事を言った男性スタッフ達は、苓さんに鋭い視線で睨まれ、口を噤んでこれまた真っ青になっていた。 「と、藤堂本部長!これで大丈夫でしょうか!?」 「あ、ありがとうございます、足柄店長……」 「いえ、うちのスタッフが大変申し訳ございませんでした……」 足柄店長が持ってきたブランケットを受け取った苓さんは、私を片手で抱きしめたままブランケットを広げ、私を包み込む。 「動かないでください、茉莉花。まず前はこれで隠して……そう。足柄店長、スタッフルームをお借りしてもいいですか?」 「も、もちろんです!ご案内します!」 「ありがとうございます」 にこり、と微笑んで答えた苓さん。 だけどその笑顔がどこか怖くて。 さっきの女性スタッフも、男性スタッフも、苓さんからさっと顔を逸らした。 スタッフルーム前。 足柄店長はスタッフルームを開けて、中の説明をしてくれた。 「こちらがスタッフルームです。中の鍵はこちらで閉まります」 「ええ、分かりました。ありがとうございます」 「では、私はここで失礼しますね。着替え終えたら声をかけてください」 「はい」 足柄店長が去って行く背中を見つめ、私はスタッフルームに入る。 すると、至極自然に苓さんも一緒にスタッフルームに入って来た。 「──えっ!?」 「茉莉花、濡れて気持ち悪いでしょう?脱いじゃってください」 後ろ手でスタッフルームの鍵を閉めた苓さん。 まさか苓さんも一緒に入ってくるとは思わなくって、私は驚きに目を見開いた。 「えっ、え……?」 「俺のワイシャツを着てください」 「あ、ありがとうございます……?」 苓さんは自分が着ていたワイシャツを素早く脱ぐと、私にそれを渡してくる。 苓さんは下に着ていたインナーだけになってしまうけど、シックな色合いのインナーだから上にジャケットを羽織ってしまえば全く気にならなかった。 それどころか、インナーは苓さんの体に沿っているから筋肉の隆起がとても良く分かり、何だかとても色っぽい。 「茉莉花?」 「──
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409話

「うわっ、びしょびしょ……」 ドリンクは、甘い炭酸の物もあったのだろう。 服がベタベタになってしまっているし、服から香る臭いも甘ったるい。 下着にまで染み込んでしまっていて、軽く下着に触れると指先がベタついてしまった。 苓さんが貸してくれた服にも、ドリンクがついてしまいそう、と申し訳なく思いつつ、袖を通す。 するとふわり、と苓さんの香水の香りがした。 「──っ」 「茉莉花?」 私がぴたり、と止まったからだろうか。 不思議そうに苓さんが顔を覗き込んでくる。 苓さんのシャツは、まだ少し温もりが残っていて。 それに、全身苓さんの香りに包まれているから、まるで体を苓さんに抱きしめられているように感じてしまって──。 「──〜っ」 私の顔はきっと真っ赤に染まってしまっている。 そんな私の顔を見た苓さんが、喉を鳴らしたのが分かった。 「……ずるいな。そんな顔をしないで下さい」 「──え?……んっ」 苓さんの掠れた低い声がすぐ近くから聞こえてきて。 あまりの近さと、苓さんの言葉に私が顔を上げると、私の頬を優しく包み込んだ苓さんが唇を重ねてきた。 頬を優しく包んでくれているのとは違い、キスは凄く激しくて。 酸欠になってしまい、私の足から力が抜けた所でようやく苓さんが口を離してくれた。 「──はっ、は……」 「すみません。つい」 「もっ、もう……!ばかっ」 「帰ったらいっぱいしましょうね、茉莉花」 にこにこ、と嬉しそうに笑いながら苓さんは最後にもう一度私の唇に軽くキスをすると、すっと真顔になった。 そして、スタッフルームの施錠を解くと扉を開けた。 「……後は、メインの庭園ですね」 「え、ええ。見て回りましょうか……」 私と苓さんがスタッフルームから出てくると、先程の女性スタッフや男性スタッフ達はさっと私たちから顔を逸らし、離れた所に行ってしまった。 男性スタッフには気まずい思いをさせてしまって申し訳ないな、と思っていると私と苓さんが出て来た事に気が付いた足柄店長がこっちにやって来る。 「藤堂本部長、小鳥遊部長」 「足柄店長。お待たせしてしまいすみません」 「いえ!むしろスタッフが大変申し訳ございませんでした。お洋服はクリーニングに出させていただき、後日お送りいたしますね」 そんな事までしなくていいのに、と断ったけ
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410話

「足元気をつけて、茉莉花」 「ありがとうございます苓さん」 店内から庭園に出る時、段差がある。 それにいち早く気が付いた苓さんは私に手を差し出してくれた。 苓さんの手を取って段差を降り、外に出る。 私は背後の段差をじっと見つめた。 そんな私に気が付き、苓さんが不思議そうに話しかけてくる。 「茉莉花?どうしました?」 「いえ……」 私は、次に店内に向ける。 そして先程の段差にも目を向けて、次に目の前に広がる素晴らしい庭園に顔を向けた。 庭園は、飛び石が配置されている箇所やそのまま歩いて散策出来る平らな道がある。 平らな道は綺麗に整備されていて、石や砂利なども取り除かれていた。 「何かございましたか、藤堂本部長?」 足柄店長が不安そうに私に話しかけてきて、私は自分が黙り込んでじっと立ったままなのにはっと気が付いた。 「あっ、すみません足柄店長。その、1つ気になって……」 「何かございましたか!?」 焦ったように声をかけてくる足柄店長に、私は先程感じた疑問を口にした。 「店内や、庭園はバリアフリーが進み車椅子や足が不自由な方も安心して利用出来ますね」 「ありがとうございます!その部分はとても拘らせていただいております!」 嬉しそうに笑顔を見せる足柄店長。 だけど、私は申し訳ないと思いつつ言葉を続けた。 「だけど……さっきみたいに、店内から庭園に向かう時、ちょっとした段差がありますね。そこにはスロープの板などをオープン前に設置する予定ですか?」 「──ああ、確かに。後、店内のお手洗いに続くスペースにも段差がありましたね。お手洗い自体は車椅子の方も安心して利用出来る十分なスペースがありましたが……」 「ええ、そうですよね。介助の方がいたら安心ですが、お1人でご来店いただいたお客様にも不自由なくご利用いただきたいので……」 そこまで話した私と苓さんは、足柄店長に視線を向ける。 すると、足柄店長の顔色は良くなくて──。 がばり、と私達に頭を下げた。 「も、申し訳ございません……!細部まで確認しておりませんでした。ご指摘、大変感謝いたします!直ぐに手配いたします!」 「あっ、だ、大丈夫ですよ。そんなに焦らないでください。スロープ板はすぐに手配出来そうですか?」 「もし配送の関係でオープンまでに取り寄せが難しいようでした
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