颯side「璃子、少し声が大きいよ。周りの人が何事かと思ってこちらを見ている。あまり騒がない方がいい」俺は、遠慮しつつもチラチラとこちらの様子を伺っている周囲の視線に気がついて、璃子の手を取り耳元で小さく呟いた。この場でこれ以上騒ぎを起こすのは、問題しか生まれない。「そうね、ごめんなさい……」我に返るように、璃子は俺の方に顔を向けて謝ったが、顔を前に戻すと驚愕した表情で固まっていた。その視線は玲央よりももっと遠くの人混みの中に向けられている。俺も璃子の視線に合わせるように顔を向けると、心臓が飛び跳ねるくらいの衝撃を受けた。「木村さん……?」「佐奈?」そこに立っていたのは、俺が別れを告げ会社を去ったはずの木村佐奈だった。俺と璃子は、声にならないような声で佐奈の名前を呟くことしかできなかった。佐奈は、華やかなグリーンのドレスを身に纏い、俺たちの言い争いに気がついてじっと視線を投げかけていた。その表情は、悲しむでもなく、怒るでもなく、ただ冷静に状況を見極めているようだった。(佐奈がなぜこのパーティーにいるんだ―――!?)俺の頭
Last Updated : 2025-10-23 Read more