All Chapters of 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら: Chapter 21 - Chapter 30

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22.予定外の再会と戸惑う二人

佐奈sideエメラルドグリーンの華やかなドレスに身を包み、私は父と一緒に都内のホテルで開かれるパーティーに参加していた。今日の参加者は、日本を代表する企業の経営者やその親族が集まる。二十代の子どもを持つ経営者にとっては、自分の子どもの縁談相手を見繕うためのある種の婚活の場だった。婚活と言っても動くのは本人ではなくあくまで親で、子どもの私たちは簡単な自己紹介をしてニコニコと笑っていることを求められる。(大手商社に勤めて颯からプロポーズされて、この親同士の婚活に自分が関わることはないと思っていたんだけどな……。)一通りの挨拶を済ませて、やっと父から解放された矢先の事だった。シャンパンを片手に持ちながら会場の後方で目立たぬように静かに周囲を見渡していると数メートル先が何やら騒がしくなっていた。関わるつもりはなかったが、シャンパンを貰うためにカウンターへ行こうと視線を少しだけ向けると、よく知っている人物たちがいてその場に立ち尽くしていた。視界に移ったのは、私がかつて四年間付き合った恋人で婚約していた颯と、颯の新しい婚約者で社長の孫娘である七條璃子だった。璃子は颯の腕をガッチリと掴みながら、同い年くらいの男性に何か喋っている。「――――私は、玲央のところになんか絶対戻らないから」璃子が声を少し張って叫ぶように言うと、颯は璃子の手を取り耳元で何か囁いている。璃子も、颯の方
last updateLast Updated : 2025-10-24
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25.颯の思い描く未来と将来の誓い

佐奈side長い一日が間もなく終わろうとしている。父に連れられて行ったパーティーでの出来事が、まだ生々しく心に残っていた。「はあー疲れた。今日は散々な日だったな……」バスタブに足を伸ばしながら、颯たちと再会したときのことを思い出していた。玲央が口にした言葉、璃子の焦り、そして颯のあの情けない呆然とした顔。「颯は、璃子に玲央という婚約者がいたけれど、一緒になりたかったから気にせずアプローチをして奪略を狙っていた。そして、それが上手くいったから私を振って、なおかつ邪魔だったから璃子に頼んで退職するように圧力をかけてきたってこと?何それ……」頭の中で情報を整理すると、この説明が一番自然でしっくりくる。しかし、それはこの話が全部真実だった場合だ。私には、颯が人を不幸にしたり、蹴り落してまで自分の願望を優先する人間には思えなかった。他人の婚約者を奪うだなんてもっての他だ。(出世したいとかよく言ってたけれど、汚い手を使うようなタイプではないと思うんだよな。)四年間付き合って仕事も彼の補佐をして、誰よりも近くで颯を見てきたと思っている。颯は、認められたいと張り切って仕事に打ち込んでいた。でもそれは、自分を認めてもらいたいという承認欲求や向上心からくるもので、いつも周りのおかげと感謝することを忘れない誠実な人だった。浮気を疑ったことも一度もない。
last updateLast Updated : 2025-10-27
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26.ぬるま湯からの脱却

佐奈side「……あの言葉も、出世のために英語ができる私を手放さないための計算だったのかな。颯のこと、そんな人だとは思いたくない。思いたくないけれど……結果的に捨てられたのは変わらないんだ」湯船の中で、私は自分に言い聞かせるように呟いた。そう、私は捨てられた――――玲央や璃子の話が真実かどうかなんて、もうどうでもいい。ただ一つ確実なのは、颯は私より璃子を選んだ、ということ。その事実は、どんな事情や理由があったとしても変わらない。人は、社会は、結果で判断する。例え、模擬試験の結果がよくて合格基準を余裕で満たしても、本番体調不良で試験を落としたら、その背後にどんな事情があろうとも、その人は他の受験者と同じ『不合格者』という括りにされる。そう、結果がすべてなのだ。だから颯にどんな事情があったとしても、颯は私より璃子を選ぶ何かしらの魅力があったのだろう。去った理由は後付けでどうにでも変えられる。「愛よりキャリア」、もっと言えば「愛より金」、それが彼が出した最終的な答えだ。「はー、せっかく仕事も変えて心機一転したんだから、もう考えるのやめよう。」長く湯船に浸かっていたせいで、身体を少し出すと外気が肌に触れてすこしひんやりとした。出るのを躊躇したが、このままぬるま湯に浸かっているのは、現状維持に甘んじたり、過去の傷に
last updateLast Updated : 2025-10-28
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27.爆発する不信感と佐奈の幻影

颯sideパーティー会場で周りと別れてから、俺たちの間には重く冷え切った空気が漂っていた。玲央に言われたこと、見せられた写真、そして何より佐奈の冷たい視線が頭から離れない。「今日の本郷さんのことだけれど、璃子、しっかり話を聞かせて欲しい。本郷さんとどんな関係なんだ?三か月前の本郷さんの誕生日を一緒に祝うほどの仲だろ?隠さないで教えて欲しい」リビングに入ってすぐに璃子に問いただすと、璃子は目を合わせず面倒くさそうな口調で答えた。「隠すも何も、玲央とはもうとっくに別れていて婚約者でも何でもない。しつこくつきまとってくるのは玲央の方よ。」「しつこくつきまとってくる?とっくに別れたそんな相手と、今も会って記念日を一緒に過ごしているのか?写真からはとてもそんな様子には見えなかったぞ?」「だから、婚約することを報告するために会って誕生日だから仕方なく笑ってやったのよ。その時の写真をいかにもな説明をつけて、あなたに話したんでしょ」璃子が苛立ちを隠さない声で反論することに、俺もつられそうになったが必死で気持ちを抑えて話題を変えて、璃子の話を聞き出そうとした。「本郷さんはみんなの前でも堂々と婚約者と言っている。まだ気持ちがあることくらい璃子にも分かるだろう?そんな相手と会っているのか。分かっていてやるのなら、璃子のやっていることは生殺しだよ。本郷さんが可哀想だ」
last updateLast Updated : 2025-10-29
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29.昇格の代償と、再びの戸惑い

「松田颯殿、試験に合格したためマネジメント職の昇格をここに証明する」一年半後、俺は無事に昇格試験に合格をした。この試験は難易度が高く一発合格は稀らしい。これで璃子の婚約者としてだけでなく、実力も伴っていることを社内に示すことが出来て、ようやく一安心していた。「松田君、よく頑張ったね。璃子が見定めた人物だけのことはある。」社長室に呼ばれて部屋に行くと、社長は俺の合格証書を満足そうに眺めている。俺を褒めているのか璃子の先見の明を褒めているのか分からない言葉を俺にかけてきたので、俺は苦笑をして聞き流した。「試験にも合格したことだし、これで璃子との結婚の話も進められるな。顔合わせや挨拶もしなくてはな。ご両親に、来月以降の予定を聞いてみてくれ」「はい……」試験勉強を頑張ったのは、璃子との結婚を認めてもらうためではなく、自分自身を認めてもらうためだった。合格の副賞として付いてきた結婚の話が、俺の胸に重くのしかかっている。「どうした、何か浮かない顔をしているな」社長に直接聞くべきか迷ったが、璃子の親族は社長以外、俺は知らない。璃子と社長、そして璃子の母親の間で認識のズレがないか事前に確認しておきたかった。「あの……璃子の親は、
last updateLast Updated : 2025-10-30
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30.選択肢と消去法

社長は電話を切ると、先程の怒りの様子は一切なく淡々とした口調で答えた。「璃子の母親から直接話を聞いた。本郷玲央、自動車メーカーHONGOの御曹司らしい。璃子の母親と本郷氏の父親が高校からの同級生で、以前話が出たことはあったそうだが、本人たちに任せているため、どうなっているかは知らないとのことだった。」(知らないと言うのは、本当だろうか?璃子と玲央をかばうため、璃子の母親が嘘をついた可能性もあるぞ。社長は、この様子だと璃子と玲央が本当に付き合っていたことは知らなそうだな)社長が知らないということは、璃子も玲央もこの件を隠していたということだ。不信感は募る一方だが、社長の威圧感の前ではそれ以上追及できなかった。「そうですか……。今さらですが、なぜ私を選んでくれたのでしょうか。私を選んだのは社長ですか、それとも璃子ですか?」「璃子だ。私は璃子にこの会社の後継者となれそうな人材との結婚を願っていて、常々璃子に言っていた。私からも気に入った人物がいたら璃子に話をしていたが、その中で璃子は君を選んだんだ。」(璃子が選んだというけれど、それは選択肢の中から俺を選んだまでということか?俺が良かったわけではなくて、単に消去法という可能性もあるかもしれない。もしかしたら、俺は璃子にとってその程度の相手だったのかもしれない……)佐奈は、他の男に目をくれることなく、どんな時も俺を信じて側にいてくれた。だが、璃子にとって俺
last updateLast Updated : 2025-10-31
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