静奈は無意識に少し頭を下げて彼に合わせたが、耳の裏が制御不能に熱くなるのを感じた。マフラーを結び終えると、彼女は視線を上げ、竹政にもう一度別れを告げた。「竹腰局長、ではお先に失礼します。本のこと、本当にありがとうございました」竹政はただ頷き、静かな視線を二人に落としていた。謙は片手で静奈の少ない私物を持ち、もう片方の手で極めて自然に彼女の手を握り、入り口へ向かって手を引いて歩き出した。二人が背を向けた瞬間、竹政の胸の奥底に、前触れもなく重苦しい窒息感が広がった。その感覚は鋭くはないが、重くて、吸い込む空気が薄くなっていくようだった。静奈を研究センターへ送る車内は、温かい空気に包まれていた。静奈はあの貴重な専門書を胸に抱き、自ら口を開いた。「さっき竹腰局長が病院に来たのは、退職した昔の上司のお見舞いのついでだそうです。この本をくださったんですが、私の今の課題にすごく役立つんです。どうお礼をしたらいいか分からなくて、後日お食事をご馳走すると約束しました」彼女は横を向き、運転席の謙を見た。その瞳は清潔で隠し事がなかった。「その時、謙さんも一緒に来てくれませんか?」ハンドルを握る謙の指が微かに締まった。男の直感として、彼は竹政の出現に警戒心を抱いていた。彼が静奈に向ける目的は、絶対にそんなに単純なものではない。「ついでのお見舞い」など、ただの口実に過ぎない。だが静奈の今の問いかけは、一掬いの温泉水のように、彼の心底に静かに芽生えていた微かな不安を一瞬で溶かした。彼女は本当に素晴らしい女性だ。恋愛感情においては少し鈍感で、遅いかもしれない。だが彼女が与えてくれる信頼と尊重は、これほどまでに直接的で貴重なものだ。彼女は「少し向き合ってみる」と約束してくれた通り、最も包み隠さない方法で、他の異性との付き合いを彼の前に開示してくれたのだ。この不器用だが誠実な境界線の引き方は、どんなに言葉を尽くした保証よりも、彼を安心させた。彼の口角に柔らかな弧が浮かび、声には温かみが帯びた。「分かった」彼は一呼吸置き、自然な口調で言った。「ただ、静奈。俺はこれからの二日間、潮崎に戻らなきゃならないんだ。どうしても自分で処理しなければならない案件がいくつか溜まっていてね。俺が戻ってきてから、一緒に
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