All Chapters of 血と束縛と: Chapter 11

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第1話(11)

 和彦の内奥を的確に指と道具で犯す男の背後に立ったのは、高そうなダブルのスーツをこれ以上なく見事に着こなした中年の男だった。四十代半ばぐらいだろうが、一目見て圧倒される存在感を持っていた。  全身から漂う空気は剣呑としており、それでいて威嚇するような攻撃的なものではなく、ただ静かな凄みを放っている。衰えを知らないような厚みのある体つきに相応しいといえた。何より、彫像のように表情が動かない顔は、冷徹そのものではあるが、端整だ。  だが、容貌はさほど重要ではない。男が持つ独特の鋭さや冷ややかさ、年齢を重ねているだけでは醸せない落ち着きが、男の存在自体を圧倒的なものにしていた。  まともな人間ではない。この男だけでなく、この場にいる男たち全員が、普通ではないと和彦は見抜いた。  それを裏付けるように、男が言った。 「総和会、という名前を聞いたことがあるか? ときどきニュースで流れることがあるから、もしかして聞いたことぐらいはあるかもな」  和彦は、体の熱がわずかに下がるのを感じた。  男が口にした『総和会』という名を、確かに聞いたことはある。テレビのニュースや新聞で、ときどき見聞きすることがあるのだ。だが、その名が出るときは、絶対に不気味さや怖さがつきまとう。それというのも――。 「暴力団組織だ。総和会というのは十一の組から成り立っていて、俺は、その一つの組を任されている。もっとも、一般人からしたら、下っ端だろうが組長だろうが、ヤクザはヤクザだ。忌まわしくて、できることなら関わりたくない存在だろう」  男の冷めた視線が、ローションに塗れ、道具を含まされたままの和彦の秘部に向けられる。羞恥心は芽生えなかった。ただ、屈辱に打ちのめされるだけだ。  いきなり拉致されて裸に剥かれ、挙げ句にこんな仕打ちを受けているのだ。理不尽にもほどがある。もちろん、この場でそんな訴えをする無益さと無謀さだけはわかっている。 「俺の背負っている組は、総和会では特別だ。跡目となる人間が限られている」  ここまで言って男が膝を折り、目線の位置を近くした。たったそれだけの動作で、簡素で殺風景な室内の空気が大きく動いたようだった。男がそこにいるだけで、ひんやりとした空気が独特の熱を
last updateLast Updated : 2025-10-15
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