Mag-log in思わず秦の話に聞き入ってしまうが、内奥の入り口に滑らかな感触を擦りつけられ、和彦はビクリと身を震わせる。ヌルリと内奥に入り込んできたものの感触に、覚えがあった。
「んっ」 突然、内奥で小刻みな振動が響き渡り、否応なく官能を刺激される。和彦は腰を跳ねさせるように反応するが、体はしっかりと秦に押さえ込まれた。 指でさらに押し込まれたローターの振動が激しさを増し、和彦の息遣いは妖しさを帯びる。やめるよう言えないのは、秦の言葉に引き込まれるからだ。「わたしは、あいつの価値観だとか、ヤクザの矜持だとかをぶち壊して、泣かせたい。暴力によってじゃないですよ。快感で、そうしたいんです。……そんなことを考えると、興奮するんです。でもあいつは、きっとこういう関係は望まないでしょうね。男を怖がって、その男の中で肩肘を張って生きているからこそ」 秦の告白を、屈折しているとか、おかしいという一言では片付けられなかった。語られる言葉に込められているのは、秦が、〈中嶋〉に向ける倒錯した執着だ。「…賢吾が立ち上がろうとしたが、次の守光の発言で動きを止めた。もちろん、和彦も。「――総和会会長の権限で、先生をここで預かりたいと考えている」「権限、か」 発せられた賢吾の声は、静かではあったが、ゾッとするほど冷たかった。守光もまた、同じような声で応じた。「わしにとって、総和会も長嶺組も、同じぐらい大事だ。そのどちらも守るために最大限の努力と警戒をしなければならん」「ここに置いて、先生の身が安全だと言い切れるのか?」 賢吾の問いかけで、和彦の脳裏を過ぎったのは、南郷の顔だった。反射的に和彦は立ち上がり、長嶺の姓を持つ男二人は、わずかに目を丸くする。頭で考えるより先に、口が動いていた。「……ぼくが、総和会と長嶺組から距離を置きます。この世界の組織とはそういうものだとわかってはいますが、父子間で『権限』なんて単語を使われると、側で聞いているぼくが、心苦しいです。組織同士で難しい事態になるというなら、原因となっているぼくが、長嶺の人間と無関係になってしまえば――」「面倒くさい長嶺の男たちなんて、いらねーか?」 軽い口調で賢吾に言われ、和彦はつい睨みつけてしまう。ムキになって言い返していた。「そんなことは言ってないっ。ただ――……」 さらに言い募ろうとしたところで、守光が片手をあげて制する。そして、子の成果を誇る親のような顔で、賢吾を見た。「わしとお前が争う姿は見たくないそうだ。父子関係で個人的に思うことがあるのかもしれんが、わしがこの先生を気に入っているのは、この性質だ。この先生は、長嶺の男たちを繋ぎ、総和会と長嶺組を繋ぐ。それに、お前の執着心の結果として、さまざまな男たちを繋ぐ。使える男たちを」「――……俺以外の男に言われると、けっこうムカつくもんだな」「狭量な男は嫌われるぞ」 賢吾が苦虫を噛み潰したような顔をする。和彦としては、二人が険悪な雰囲気にならなかったことに素直に安堵すべきなのか、戸惑わずにはいられない。所在なく立ち尽くしていると、守光に促され、ぎこちなくイスに座り直す。「まあ、先生に
「面倒や迷惑っていうなら、それはこっちの台詞だ、先生。俺たちはとっくに、先生に面倒も迷惑もかけ通しだ。いや、そんな言葉じゃ足りない。先生の順風満帆な人生を奪ったんだからな。寝首を掻かれても、文句は言えない」「……そんなこと、ぼくにできるはずがないと、思ってるんだろ」 和彦がきつい視線を向けると、予想に反して賢吾は表情を引き締め、自分の首筋に片手をかけた。「やりたいなら、やっていいぞ。組の跡目はもういるからな。こっちの古狐が睨みを効かせている間は、うちの組にちょっかいを出す輩もいないだろうし、千尋でもなんとかなるだろう」 賢吾が本気で言っているわけではないとわかってはいるが、冗談にしても毒気が強すぎる。さきほどから黙っている守光が、さすがに苦笑を浮かべていた。「自分の父親の前で、よくそんなことが言えるな」「――さすがのあんたも困るか? 俺がいなくなると」 こう言ったときの賢吾の声には冷たい刃が潜んでいるようで、聞いていた和彦が驚いてしまう。一体何事かと思い、父子を凝視する。守光は、穏やかな口調で応じた。「困る、困らないという話ではないだろう。息子を失うということは。それにお前は、長嶺組の大黒柱だ。折れることはもちろん、亀裂一本、入ることは許されん。その点では、千尋は柱どころか、ただの若木だ。すんなり伸びて美しいし、しなやかではあるが、弱い。あれはこれからもっと、わしとお前とで鍛えてやる必要がある」「長嶺組に大事があれば、それは、総和会に細い亀裂が一本入りかねない、ということか」「亀裂一本とは、控えめな表現だな。巨体が傾ぎかねんと、わしは考える」「巨体とは、何を指しているんだ。総和会か、それとも――」 賢吾が意味ありげな視線を、守光に向ける。守光は堂々とその視線を受け、笑った。守光のこの余裕は一体どこからくるものなのだろうかと、和彦は考えていた。賢吾を育ててきた父親としてのものなのか、巨大な組織の頂点に立つ者としてのものか。 無意識のうちに息を詰め、二人のやり取りを見つめていた和彦に気づいたのだろう。ふいに賢吾がこちらを見て、わずかに表情を和らげた。「びっくりさせたな、先
「あんたを、長嶺の本宅に直接送り届けなかったのには、それなりの理由がある。わしに――総和会会長に対して、報告の義務を果たしてほしかったからだ。あんたと佐伯家の人間を接触させることに、多少なりと危険を冒したつもりだ。わしも、賢吾も」 長嶺の男は、甘くはない。 和彦は、賢吾の表情をちらりとうかがう。守光の言葉に異を唱えなかったということは、賢吾も同じ意見なのだろう。ここが総和会の本部である以上、会長である守光を立てなければならないということもあるだろうが、賢吾もまた、長嶺組組長として組織を背負っている責任がある。 和彦が頷くと、賢吾に促されてイスに腰掛ける。正面に、賢吾と守光が並んで座ったが、荒々しさを感じさせない顔立ちと物腰の二人から、圧倒されるほどの凄みを放たれ、和彦は息を呑みつつも、改めて実感していた。 背負い、身の内に飼っている生き物は違えど、この二人は血が繋がった父子で、同じ世界に生きる極道なのだと。 和彦の緊張を感じ取ったのだろう。賢吾がわずかに唇を緩めた。「そう、硬くなるな、先生。いつも俺に世間話をしているように、自分の兄貴と何を話したか、教えてくれればいい。何を聞かされても、少なくとも今は、佐伯家にちょっかいを出す気はねーからな」「……今は?」「長嶺の男から、先生を取り上げようとするなら、こっちにも考えがあるということだ」 本当に話していいのだろうかと、急に不安に駆られたが、男たちが何を考え、もしくは企んでいるのか、和彦に読みきることは不可能だ。口を噤んでいることも。 英俊の怜悧な眼差しを思い浮かべ、覚悟を決めた。放っておいてほしいというこちらの気持ちを無視しようとするのなら、ささやかに牙を剥く権利を与えられても許されるだろうと、誰に対してかそう言い訳をしながら、和彦は口を開く。 英俊から聞かされた内容そのものには、特に驚かされるものがあるわけではない。鷹津が得てきた情報が確かなものであったと裏づけが取れたようなものだ。重要なのは、佐伯家が和彦を必要としていると、英俊の口から告げられたことだ。「ぼくの後ろに誰かがいると、感づいているようだった。だけど――…&hell
**** 日曜日の夕方まで、山の中にある隠れ家で過ごした和彦は、説明もないまま車に乗せられて移動する。総和会との関わりで、必要な情報を与えられないまま連れ回される情況に、さすがに慣れた――というより、諦めてしまった。 だからといって、何も感じないわけではないのだ。 車がどこに向かっているのか、さすがに察してしまうと、これだけは慣れない緊張感に襲われる。車が停まったのは、総和会本部だった。 まだ、総和会の人間に囲まれる状況が続くのだろうかと、表現しようのない不安に心が揺れる。促されるまま車を降り、いつものようにエントランスホールを通って、一人でエレベーターに乗り込むと、四階に上がる。 和彦が知る限り、守光の住居空間を守るための配慮なのか、四階には人気がないことが多いのだが、今日は違った。エレベーターの扉が開くと、正面のラウンジに数人の男たちがおり、真剣な――というより、緊迫した面持ちで話していた。一瞬、自分は上がってきてよかったのだろうかと困惑した和彦だが、男の一人がすぐにこちらに歩み寄ってきた。守光の身の回りの世話をしている男だ。「お疲れ様です、佐伯先生。会長がお待ちです」「は、い。……あの、何かあったんですか?」 男は曖昧な笑みを浮かべ、守光の住居のほうを手で示す。「行かれたら、おわかりになると思います。先生でしたら大丈夫でしょう」 気になる物言いだが、男たちの様子は、あれこれと質問できる雰囲気ではない。ますます緊張を募らせて、廊下の突き当たりにあるドアの前に立つ。インターホンを鳴らすと、誰何されることなくドアが開き、着物姿の守光が姿を見せる。「大変だったな、先生。さあ、入りなさい」 温和な表情で守光に出迎えられ、和彦は戸惑う。さきほどの男たちの緊迫した様子と、すぐに結びつかなかったからだ。ぎこちなく玄関に足を踏み入れると、そこに、革靴が並んでいた。和彦は、意識しないまま小さく声を洩らす。「さっきから、あんたの到着が遅いと言って、機嫌が悪い。早く顔を見せてやるといい」 守光に促されてダイニングに向かうと、スーツ姿の
「素直になったな、先生」 唇を吸い合う合間に、そんなことを南郷が言う。和彦は弾んだ息を誤魔化すため、抑えた声で応じた。「ぼくが暴れたところで、あなたは簡単に押さえ込めるでしょう。……ぼくは、痛い思いはしたくないんです。痛い目に遭うぐらいなら、多少の不快さは我慢できます」「不快、か。あんたは、弱いんだか、強いんだか、わかんねーな。まあ、今はっきり言えるのは、俺はあんたとのキスを、かなり気に入ってるってことだ」 次の瞬間、南郷が覆い被さってきて、和彦はベッドに仰向けで倒れ込む。また、体に触れられるのかと身構えた和彦に対して、南郷が甘く恫喝してきた。「セックスみたいなキスをしようぜ、先生。俺を満足させてくれ」 唇を吸われて呻き声を洩らした和彦だが、それ以上の抗議も抵抗もできなかった。南郷が大きな手で髪を撫でながら、下唇と上唇を交互に甘噛みしてくる。合間に歯列を舌先でくすぐられ、肉欲の疼きが体の内から湧き起こる。 昨夜からずっと、南郷によって官能を刺激され、鎮まりかけても巧みに煽られ続けていた。南郷は不気味な男だが、〈オンナ〉である和彦の扱いをよく心得ている。恐怖と屈辱と羞恥だけではなく、しっかりと快感を味わわせてくるのだ。「――今、発情した顔になったな」 唇を離した南郷に指摘され、カッとした和彦は肩を押し退けようとする。おどけた仕種で南郷は体を揺らし、和彦のささやかな反抗を簡単に受け流した。ますます和彦がムキになろうとしたそのとき、部屋のドアがノックされた。「南郷さん、そろそろ出発の時間です」 ドアの向こうからそう声がかけられ、おう、と短く応じた南郷があっさりと体を起こした。唇を拭う和彦を見て、気を悪くした様子もなく南郷が言った。「先生ともっと遊びたかったが、俺の時間切れだ。これでも隊を率いていて、何かと忙しい身でな」「……失点がどうとか言ってましたが、本当は、あなたがここに来るほど、切迫した理由はなかったんでしょう」「切迫した理由はなかったが、来る必要はあった。怖い長嶺組長の目が届かない状況なんて、そうはないからな。先生とは、もっと打ち解けてお
男たちの顔を思い浮かべたあと、和彦はつい苦笑する。賢吾の思惑通りなのか、自分は男たちへの情で雁字搦めになっていると、改めて痛感していた。そのうち自分は、男たちへの情で溺れ死んでしまうのではないかと、ありえない想像までする。 ここで和彦は、眉をひそめる。何かの拍子に脈打つように強い頭痛がして、吐き気まで伴い始める。そのため、ドアがノックされても、返事をする気にもなれなかった。何より、相手が容易に推測できた。 案の定、遠慮なくドアが開き、新しいポロシャツに着替えた南郷が姿を見せる。手には、ミネラルウォーターのボトルと、小さな箱を持っていた。「食堂に置いてある救急箱に、鎮痛剤があった。飲むだろ、先生」 あんなことをしておきながら、何事もなかったように声をかけてくる南郷に対して、やはり不気味さを感じる。それと、戸惑いも。猛烈な怒りを抱くには、肉体的にも精神的にも疲れていた。当然、意地を張る気力もない。 和彦は頷くと、慎重に体を起こす。傍らに立った南郷から受け取ろうとしたが、当の南郷は、ボトルと鎮痛剤の箱を、枕元に放り出した。からかわれたと思った和彦は、南郷を軽く睨みつけてから、ボトルに手を伸ばそうとする。すると、ベッドに腰掛けた南郷にその手を掴まれた。「頭が痛いと言っていたが、熱もあるんじゃないか。顔が赤い」「……陽射しにあたって、火照っているだけです」「陽射しだけか?」 揶揄するように言った南郷につい鋭い視線を向ける。和彦の反応をおもしろがるように唇を緩めた南郷は、鎮痛剤の箱を開け、シートを取り出した。大きなてのひらに錠剤を二つのせて、こちらに差し出してきたので、和彦は錠剤を受け取って口に入れる。さらに南郷はボトルを手に取り、和彦の見ている前で自分が口をつけた。 意味ありげな眼差しを寄越された和彦は、伸ばされた南郷の手を一度は押し退けたが、あっさりと肩を抱かれて引き寄せられる。「んっ……」 南郷の唇が重なり、冷たい水をゆっくりと口移しで与えられる。少しだけ唇の端からこぼれ落ちたが、和彦は微かに喉を鳴らし、鎮痛剤と一緒に呑んだ。 和彦が抵抗しなかったことで気
「……別に。あんたの過去に興味はない」 「賢い奴だな。危険な蛇の尾を踏まないよう、余計なことは耳に入れたくないってことか」 「サソリの尾だって踏みたくない。あんたも、長嶺組長も、物騒すぎるんだ」 「俺は物騒じゃないだろ。あんなに丁寧にお前を抱いてやったんだ。けっこう、紳士なつもりだぜ」 言葉とは裏腹に、和彦の体はソファに押し倒され、傲慢に鷹津がのしかかってくる。きつい眼差しを向けると、それ以上の眼差しの鋭さで言われた。 「あまり、俺と長嶺を同類で語るなよ。同じ悪党ではあっても、俺とあいつは敵対関係であることに変わりはない。手を組む気はな
ヤクザの実態も謎が多いが、この男もまた、謎が多い。気にはなるが、うっかり踏み込むつもりはなかった。「その道を左に曲がってくれ」 和彦の指示通りに車が左に曲がり、すぐに、懐かしい建物が視界に飛び込んでくる。「ここですか?」「ああ。来客用のスペースが空いているから、そこに車を停めたらいい」 駐車場に車が入り、エンジンが切られる。秦はすぐに車を降りようとしたが、シートベルトを外した和彦は、すぐには動けなかった。「先生、大丈夫ですか。顔色が少し悪いですよ」 シートに座り直した秦が身を乗り出し、顔を覗き込んでくる
**** ラウンジのイスに腰掛けた和彦は、つい物珍しさから、辺りをきょろきょろと見回す。これから行われる結婚披露宴に出席するため、続々と招待客が集まり始めていた。 和彦の年齢ともなると、友人・知人の結婚披露宴に出席するのは一度や二度ではないため、特別珍しいイベントというわけではない。ただ、ヤクザの組長の〈オンナ〉となり、しかも、その組長の名代として出席するのは、もちろん初めてだ。 だからこそ、一体どんな場所で、どんな人たちを集めて行われるのかと身構えていたのだが――。 和彦が今いるのは、有
このとき、三田村にきつく手を握り締められ、危うく和彦は痛みに声を洩らしそうになる。それでも落ち着いた素振りで言葉を続けた。「組長は、あの物騒な男を飼うつもりらしい。いや……、ぼくに、飼わせるつもりなんだ。手荒に扱える番犬を持ったらどうだと言われた」 三田村の横顔には、もう表情らしいものは浮かんでいなかった。「拒否する権利はあると言われたが、あの組長のことだ。素直に聞き入れてくれるとは思わない」「先生の気持ちは、どうなんだ」 和彦は目を見開いて三田村を凝視する。三田村は、静かだが、凄みのある目をしてい







