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第14話(21)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-01-26 17:00:52

「前に先生に飲ませた薬です。先生が服用している安定剤より、少し効き目が強いですが……それはご存知ですよね?」

 どうしてそんなものを飲ませたのかと、秦を睨みつける。体は確かに眠りたがっているが、悪夢を見たくなくて、和彦は自分に処方された安定剤すら飲んでいなかったのだ。

 秦は、和彦のきつい眼差しを平然と受け止め、愛撫を再開する。胸元に唇を押し当てながら、熱くなって震えているものを再び扱き始めた。もちろん内奥では、ローターが小刻みに、激しく振動している。

「嫌な夢を見て憂鬱になるというなら、誰かに側にいてもらえばいいんですよ、先生」

「……一人でいたいんだ。誰かが側にいると、自分でもわけのわからない感情をぶつけて、相手に嫌な思いをさせそうだ」

「あれだけ大事にされているのに、意外に、甘えるのが下手なんですね」

「余計な、お世話だ……」

 秦が微かに笑い声を洩らし、胸の突起を舌先でくすぐってくる。小さく悦びの声を洩らした和彦は、仰け
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  • 血と束縛と   第48話(31)

    **** 車の後部座席で和彦はぼんやりと、外を流れていく景色を眺める。いくらか散り始めている沿道の桜の花だが、それでもまだ目を細めて見入るほどには美しい。 今ごろ賢吾も、同じように桜の花を眺めているのだろうかと、ふと思う。〈諸事情〉により日程がずれ込んだ総和会主催の花見会は、現在、無事に進行中のようだ。組員宛てに報告が入っており、車内は比較的安穏とした空気が漂っている。 例年、桜が見ごろを迎える前に開催される花見会が、今年は見ごろを過ぎかけた時期に開催される。そのことで何かと探りを入れられた賢吾はうんざりしており、原因のいくらかを負っている和彦としてはなかなか心苦しいところだ。とにかく花見会が無事に終了すれば、長嶺組や総和会に漂っていた緊迫感も薄れるはずだ。 留守番組の千尋は、本宅に来ないかと和彦を誘ってきたが、あいにく今日は予定が入っており、今まさに向かっている最中だった。「――本当に、大丈夫ですか?」 助手席の組員が、ちらりと振り返る。今日の予定が決まってから、何度となく同じ質問を長嶺組の人間からかけられている。和彦は微苦笑で応じる。「信用してほしいと、向こうからの要望だから。それに、どういう相手と場所なのか、組長自身が会って確かめたんだろう?」「帰りの車でその組長が、『掴みどころがなさすぎて、ウナギみたいな男だ』と、珍しく困ったような声でおっしゃられてましたよ……」「それは――」 本当に珍しい。 軽く咳払いをして和彦を気を取り直す。会う前に、不安を煽るようなことは言わないでほしいとは、口に出しては言えなかった。 初対面ではないのだからと自分に言い聞かせているうちに、目的地に着く。オフィス街にある十階建てのビルだった。平日の日中ということもあって通りを行き交う人の姿は多く、悪目立ちしたくない和彦の服装はスーツだ。 ブリーフケースと、手土産のクッキー入りの紙袋を手に車を降りようとすると、組員に念を押される。「我々は近くのコインパーキングに車を停めていますから、何かあればすぐに連絡をください」

  • 血と束縛と   第48話(30)

     秦と会ったとき、指が全部揃っているのか実は気にしていたのだが、杞憂で済んでほっとした。和彦が鷹津と一緒だと知ったとき、賢吾はまっさきに秦に心当たりを尋ねたはずだ。そのときの詳細なやり取りを知りたかったが、秦は笑うばかりで教えてくれない。なんにしても、秦の立場は変わっておらず、商売も順調のようだった。 順調という単語で大事なことを思い出す。和彦は単刀直入に尋ねた。「そういえば、中嶋くんとはどうなんだ」「どう、とは?」 軽く睨みつけると、秦は苦笑を洩らす。「先生はずっと中嶋のことを心配していますね。あいつとは、連絡を取っているんでしょう?」「戻ってきてから取ってはいるけど、なんだか業務報告めいたメッセージばかり届いている。だからこっちも、立ち入ったことが聞けないというか……」「わたしに対してはいいんですか?」 この男も意地が悪い。和彦はテーブルにつくほど頭を下げた。「わかった。もう聞かない。どうせぼくには関係ないことだし――」「すみませんっ。わたしが悪かったです。少し意地悪が過ぎました。……頭を上げてください。向こうから、長嶺組の組員さんが睨みつけてくるんで」 イスに座り直した和彦に、秦はこう告げた。 同居状態は解消した、と。「……一応、半同棲、じゃなかったか」「そこはまあ、つまらないプライドということで、流してください」 和彦が労わるように見つめると、秦は困ったように頬を掻く。「なんだか誤解されているみたいですが、別れたわけじゃないですよ。中嶋の仕事の都合です。今任されている仕事の関係で、あのビルから通うのが大変だそうです。休みの日には、一緒に過ごしてますよ」「だったらいいんだが……」 こちらには何も報告してくれなかったなと、ふと寂しさを覚えたが、もちろんそんな義務は中嶋にはない。もしくは、和彦だから言えなかったのか――。「今任されている仕事って――と、ヤクザがどんな仕事をしているかなんて、軽々に堅気に話すはずがないか」

  • 血と束縛と   第48話(29)

     危うく身を乗り出しそうになった。和彦はアイスティーを一口飲むと、慎重に周囲を見回す。護衛たちは席が取れなかったらしく、少し離れた場所で立ったまま紙コップに口をつけている。「たまたま、か?」「たまたまです。買い物の最中にちょうど連絡があって。あの人も忙しいらしくて、手が足りないときはわたしを頼ってくるんですよ。急ぎだというので、こうして返事をしてるんです」「忙しいって……、無事ということでいいのか?」「今のところ誰もあの人に手を出せません。先生のお父さんが、各方面に釘を刺されたそうですね」「……まだ使い道があるようだ。元悪徳刑事を駒にしようと考えるのは、ぼくの父親ぐらいだろうな」「似ているんじゃないですか。父子で」 皮肉かと思いきや、こちらを見つめる秦の眼差しは優しい。差し出されたフライドポテトを和彦も一個摘まみ上げる。「先生が、鷹津さんと一緒に姿を消したと聞いたとき、わたしが何を最初に考えたかわかりますか?」「鷹津と友人なのを後悔した」 秦はあっさり首を横に振る。「先生と鷹津さんの偽造パスポートを準備しようかと考えたんですよ。写真はどこで入手しようか。送り出す国はどこにしようか。どの業者に偽造を頼もうか――。まあ、あれこれと」 胡散臭いが、品のよさも感じさせる男は、和彦が想像もつかない修羅場を潜り抜けている。前に少しだけ生い立ちを聞いたことがあるが、生まれた国から逃げてきたらしく、他人に国を捨てさせることにも抵抗がないのかもしれない。「鷹津さんから連絡があって、その計画はとめましたけどね」「よかったよ……。ぼくは、何もかも捨てる覚悟なんてつかなかっただろうから」「本当に?」 和彦は曖昧な返事をしておく。「――鷹津さんからの伝言ですが、無茶はせずに待っていろ、とのことです」「待っていろ……」「あの人、各方面にケンカを売っておきながら、戻ってくる気満々ですよ。またわたしは、酒を集られるんでしょうね」 口ではそうぼやく

  • 血と束縛と   第48話(28)

    「まあ、若い頃はずっと、商売をやっている親戚たちを見てきましたからね。なんとなく、自分はそういうのに向いていると思う……思い込んでいるんですよ。現状、面倒なことになっても、後始末をしてくれる当てもありますし。気楽なものです」 サングラス越しに露骨な流し目を寄越され、和彦は乾いた笑い声を洩らす。秦の言う『当て』が誰かわかったからだ。「その気楽さは、図太さの上に成り立ってるものだな」 秦と目的もなくふらふらと店を覗きながら歩いていると、ひときわにぎわう場所に出る。何かと思えば古着がずらりと並んでいる。あまり見かけないデザインのコートがまっさきに目に入り、和彦は反射的に秦を見る。「おや、先生は古着は平気なんですか?」「よほどひどい状態じゃないなら、特に抵抗はないな。……どうしてそう思ったんだ?」「先生はよくても、周りの男性たちが嫌がるんじゃないかと。大事な人には、真新しいものを着てもらいたいと願いそうじゃないですか」 長嶺の男たちにその傾向はあるが、だからといって和彦が選んだものを否定はしないだろう。 秦から離れてハンガーラックにかかっている古着を眺めていて、一着のコートが目に留まる。古い映画の登場人物が着ていそうなトレンチコートで、くたびれた感じではあるが、かなりいいデザインだ。案の定、有名なブランドのものらしく、相応な値段が記されている。衝動買いはやめておこうと、やむなく元に戻した。 代わりに、もっと手ごろな値段のブルゾンを一着買ってから移動する。キッチンカーや売店がなどが並ぶ休憩スペースで、なんとか小さなテーブル席を確保すると、秦はフットワークも軽く食事を買いに行く。 待っている間、手持ち無沙汰となった和彦は、買ったばかりのブルゾンや食器をテーブルの上に広げ、スマートフォンで写真を撮る。少し悩んで、メッセージアプリをタップする。そろそろスマートフォンの扱いには慣れてきたが、気軽なやり取りには難ありと千尋に判断されてしまった。日記代わりにその日の出来事を共有してほしいと言われ、勝手にグループを作られたのだ。 蚤の市で買ったと画像と共に報告すると、さほど待つことなく賢吾と千尋から

  • 血と束縛と   第48話(27)

    **** この男と一緒にいると、目立って仕方ない。 開いたパンフレットから視線を上げた和彦は、隣を歩く秦を見遣る。薄い色のサングラスをかけた秦は、いかにもジムで鍛えていそうな体躯を白いシャツで包み、首元には派手めのスカーフを巻いている。しばらく会わない間に髪色は、金髪に近い薄茶色から落ち着いた濃い茶色へと変化しているが、髪色程度でこの男の持つ華やかさが陰ることはない。 春の陽射しをまるでスポットライトのように浴びながら、秦は端麗な美貌に機嫌よさそうな笑みを浮かべている。さきほどから、すれ違う女性たちから熱っぽい眼差しを向けられているが、一切頓着していない。和彦は、珍妙な生き物を観察するように、秦を見ていた。 外を歩くのでラフな服装のほうがいいですよとアドバイスされ、素直にTシャツの上からパーカーを羽織り、キャップを被ってきたのは和彦だ。駐車場で秦と相対したとき、文句の一つでも言ってやりたかったが、『ラフ』の基準が自分とは違うのだと、納得しておくことにした。 日曜日ということもあって、イベント施設の広い敷地内はどこも人で溢れかえっている。年に二回、春と秋に開催される大規模な蚤の市ということで、出店者も客も気合いが入っているのだろう。陽気のよさも加わり、熱気でのぼせてしまいそうだ。 大きなテントがいくつも設置され、ジャンルごとに区分けされた商品が店ごとに並べられている。パンフレットに描かれた地図を頼りに移動して、まず向かったのは食器を扱う一角だ。案の定、秦は北欧食器が並ぶテントの前で足をとめたが、和彦はさらに先にある、作家本人が出店している食器が気になる。ワインのつまみを並べるのにちょうどよさそうな長方形の皿を、腰を屈めて眺めていたが、せっかくだからと購入する。 気楽な買い物の和彦とは違い、秦は真剣な顔で食器を選んでいる。今回、蚤の市にわざわざ足を運んだのは、仕入れを兼ねているらしい。だったら店の従業員を同行させたほうがよかったのではないかと思わなくもないが、二人きりで会うとどうしても周囲が身構えるため、こういう開放的な形が秦にとっても都合がいいのだろう。 なんといっても――と、和彦はさりげなく少し離れたテントに目を向

  • 血と束縛と   第48話(26)

     そんな男を煽りたかったわけではないが、ささやかな悪戯心を抑えきれなかった。背に軽く爪を立て、滑るように動かす。ビクリと身を震わせた三田村の理性は、簡単に崩れた。「あっ」 大きく両足を広げられ、何も言わないまま三田村がその中心に顔を埋める。興奮のため緩く勃ち上がっていた和彦の欲望は、あっという間に熱い口腔に含まれていた。 きつく吸引された次の瞬間には、濡れた舌が絡みついてくる。和彦は上擦った声を洩らしながら、ビクビクと腰を震わせる。無意識に片手を伸ばして三田村の髪をまさぐると、より深く欲望を呑み込まれる。口腔全体で締め付けられ、包み込まれて、一方的に快感を与えられる。さらに柔らかな膨らみを優しく揉みしだかれると、下肢から力が抜けてしまう。 すでに透明な涙を滲ませている先端を、愛しげに三田村に吸われる。羞恥もあるが、それを上回る期待に逆らえない和彦は、おずおずと自ら足を抱え上げ、すべてを自分の〈オトコ〉に晒す。 柔らかな膨らみに舌を這わせながら、三田村が唾液で濡らした指で内奥の入り口をくすぐる。ささやかな刺激でも和彦は声を洩らし、腰の辺りから痺れるような疼きが広がっていくのを感じる。「はっ、あぁぁ――……」 内奥に指が挿入されてくると、食い千切らんばかりに締め付ける。三田村は和彦の反応を確かめながら、もどかしいほど慎重に指の数を増やし、内奥を広げていく。「三田村っ……」 焦れた和彦が堪らず呼びかけると、顔を上げた三田村がわずかに首を傾げる。「痛むか、先生?」「……痛いことを、まだしてないだろ」 和彦が拗ねた口調で答えると、微苦笑で返される。「それは……よかった」 ぐうっと三本の指が付け根まで押し込まれてきて、息を詰める。和彦の感触を堪能するように、内奥を撫で回された。そのたびに襞と粘膜を刺激され、官能を呼び起こされる。内奥全体が淫らに収縮し、体温が上昇していく。 喘ぐ和彦に誘われるように三田村が顔を寄せてきたので、和彦から頭を引き寄せ、口腔に舌を差し込む。濃厚な口づけの間に、

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