All Chapters of 聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした: Chapter 21 - Chapter 30

48 Chapters

試験当日

 翌朝、目が覚めても胸の奥が重かった。 鏡に映る顔は、寝不足で少し青ざめている。(大丈夫……昨日、アプリルに教えてもらったんだから……!) 鏡の前で何度も深呼吸し、リボンを結び直す。(私はヒロイン。だから絶対に失敗しない……!) 教室へ行って、やがて試験が始まった。 緊張で手汗をにじませながら、私は答案用紙を前に震えていた。昨夜、アプリルに助けてもらったおかげで頭には答えが浮かんでくる。(大丈夫……やれる……!) すらすらと答えを書いていった。 だからこそ、私は後ろからモニカとその取り巻き達が冷たく見ていたのに、気がつかなかったのかもしれない。「先生! この答案、おかしくありませんか?」 試験が終わって、答案が集められた時、モニカが大声を上げた。「サフィー様、貴女はアプリルの手引きで答えを盗んだに違いありませんわ!」 ざわざわ……と教室が揺れた。 私の顔から血の気が引いていく。「そ、そんなこと……」 私は否定するけれども、声が震えている。 これじゃあ、黒だって言っているようなもの。「待ってください! 彼女は真面目に勉強していました。わたくしが証人ですわ!」 この騒ぎになったのを知ってか知らずか、教室にアプリルが慌てて入ってくる。掃除道具を手にしたまま。 当然、アプリルは弁護している。間違っていない。 でもモニカは鼻で笑っていた。「あなたがルームメイトだからでしょ? 一緒に夜遅くまで勉強していたんですもの、答えを盗んでも不思議じゃないわ!」 周囲の生徒も「なるほど……」と囁き始める。 アプリルの声はかき消されて、私はカンニングをしたことにされようとしていた。 このままどうしようもないのかな。「おやめなさい」 澄んだ声が教室に響いた。 扉のそばに立つグルナさんが、静かに歩み出る。 銀色の髪が光を受けて、彼女の姿はまるで聖女。「サフィー様は潔白です。昨夜、図書室で参考書を探す彼女を見かけました。努力していたのを、この目で確認しています」 生徒達が一斉にざわめく。「やっぱり……」「さすがグルナ様……」 この瞬間、私の疑惑は徐々に晴れていった。 それと共にグルナさん……グルナ様への尊敬と感謝の心で包まれる。「グルナ様……!」 私の胸が熱くなって、手が震える。 アプリルの声は、誰の耳にも届かなかった。
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

拒まれた手

 その夜。 寮の部屋で、アプリルが机の上の蝋燭を灯しながら静かに口を開いた。 炎に照らされた横顔は、かすかに疲れが滲んでいる。「……誤解されて、辛くはないの?」 震える声に、私は一瞬答えを失った。 けれど次の瞬間、唇からこぼれたのは、まるで用意された台詞のような言葉。「大丈夫。だって……グルナ様が信じてくださったから」 ぱちりと蝋燭の炎が揺れる。 その光の中で、アプリルの赤い瞳が大きく揺れた。 けれど彼女は何も言わず、背を向けてしまった。残された沈黙が、重く、苦しい。(アプリルは……私を庇ってくれた。でも信じなかった。やっぱり……信じるべきなのはグルナ様なんだ) 翌日。 授業の合間、グルナ様は忘れ物をした生徒に、自分の道具を貸していた。 その所作はあまりに自然で、優雅でーーまるで花が風に揺れるように。「ありがとうございます、グルナ様……!」 生徒もさっきまで慌てていたけれども、その優しさでもう落ち着いていて、グルナ様に感謝している。 その声に続いて、教室中からため息まじりの憧れが広がる。「本当に聖女みたいだわ……」「彼女が居るだけで空気が清められる」 そんな声が響く中、王子がふと呟いた。「グルナ嬢は本当に素晴らしい方だ。彼女の存在が、学院を清めているようだな」 王子の言葉は重みを持って教室に落ち、誰もが深く頷いた。 私は胸が一気に熱くなる。(殿下までも……やっぱり、私は正しい道を選んでいる……!) 数日後。 廊下でアプリルがそっと声をかけてきた。「サフィー、また勉強を一緒に……」 振り向いた赤い瞳は、どこか寂しげに揺れている。 私は、心臓がちくりと痛むのを覚えながらも、微笑んで首を振った。 一緒に勉強をしたい気持ちは当然ある。「ごめんなさい。今日は……グルナ様のお話を伺いたいの」 アプリルの瞳がかすかに揺らぎ、息を呑む音が聞こえた。 それでも彼女は反論せず、目を伏せて一歩退く。 横顔は、諦めと孤独を帯びている。 けれど私は気づかないふりをして、前を向いた。(仕方ないの……私はヒロイン。ヒロインは聖女と立ち並び、選ばれる存在。”悪役令嬢だった”アプリルに縋るわけにはいかない……) 胸に残る罪悪感を振り払いながら、私は銀の髪を輝かせるグルナ様の影を追い続けた。
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

光と影の選択

 試験が終わってから二週間、私は自然と、アプリルと距離を置くようになっていた。 寮の部屋で同じ空間にいるはずなのに、お互いの間に薄い壁ができているような感覚。 彼女が掃除している時も、以前なら「ありがとう」と声をかけられたのに、今はただ横目で見ているだけ。(……ごめん。でも、信じられなくなっちゃった) 胸の奥で小さな棘が疼く。 アプリルは私を庇ってくれた。必死に声を上げてくれた。 でも、それでもみんなは信じなかった。 けれどーーグルナ様の言葉は、一瞬で空気を変えた。 あの聖女のような存在感。誰からも疑われない清らかさ。 それを目の当たりにしてしまったら……どうしても、比べてしまう。「……やっぱり、グルナ様こそが本物なんだわ」 自分に言い聞かせるように呟いて、視線を落とす。 その時、ふと横を見ると、アプリルがこちらを見ていた。 けれどその瞳はすぐに逸らされ、寂しげに伏せられてしまう。「…………」 胸の奥がちくりと痛む。 声をかければよかったのに、唇は動かなかった。(ごめんね……アプリル。だけど、私はヒロインだから。間違った人を信じるわけにはいかないの……) そう自分に言い聞かせながらも、痛みだけは消えてくれなかった。 むしろ心の奥底に、アプリルの影が淡く残り続け、振り払おうとしても視界の端にちらついて離れなかった。 アプリルを嫌いになれない、なりたくない。でもアプリルは悪役令嬢で私がヒロイン。悪役令嬢の言うことを信じてはいけないし、悪役令嬢の言うことは間違っている。 そう思い込もうとすればするほど、胸の奥では『それでもアプリルは優しかった』という記憶が疼いて、私を苦しめた。 信じたい心と、否定しなければならない立場。二つの声が葛藤し、頭の中でぶつかり合い、静かに私を蝕んでいく。(もう、考えたくない……) ジレンマから逃げたい。 そんな気持ちが、無意識に少しずつアプリルと距離をとるようになっていた。 やがて私は、アプリルと完全に距離を置くようになった。「サフィー……少し、話があるの」 呼び止める声は、どこか寂しげに震えていた。 赤い瞳が、何かを言いかけてはのみ込み、沈黙だけを残す。「ごめんなさい。あとにして。今はグルナ様と一緒だから」 私は気づかないふりをして、背を向けた。 その瞬間、アプリルの表情がわず
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

遠ざかる影

 胸の奥が大きく揺れた。 泣き崩れていた女生徒は、安堵の涙を滲ませながらグルナ様に深々と頭を下げる。その震える肩を、周囲の生徒達が「良かった」と囁き合いながら見守っている。 その光景は、まるで救済の奇跡だった。(あのときも……そう。私を救ったのはアプリルじゃない。誰にも届かなかった彼女の声じゃなくて……世界を一瞬で変えたのは、グルナ様の言葉だった) 思い返すほどに胸が締め付けられる。 アプリルは必死に叫んだのに、誰も耳を貸さなかった。 だけど、グルナ様が一言告げただけで、人々は掌を返したように信じた。 その落差は、残酷なほどに鮮明だった。 光と影。天と地。救いと孤独。 どちらを選ぶべきかなんて、わかりきっているはずなのに……胸の奥では、まだアプリルの姿がちらつく。「サフィー」 名前を呼ばれ、はっと振り向く。 藤色の瞳が真っ直ぐに射抜いてきた。その輝きに包まれた瞬間、胸の痛みが霧のように溶けていく。「あなたも、あの子のように真実を貫ける人ですわ」 静かに、けれど揺るぎない声で紡がれたその言葉。 優しいのに、同時に鋭い刃のように私の迷いを断ち切った。 切り裂かれた心の奥には、甘い熱が流れ込み、抗いようもなく満たされていく。(……そうよ。導いてくれるのはグルナ様。あの人こそ、私が信じるべき聖女。アプリルなんて……影にすぎない) そう思った途端、胸の奥でうごめいていたアプリルの影は、陽光に溶ける霧のように遠ざかっていった。 残ったのは、ただひとつーー光に包まれたグルナ様の姿だけだった。
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

遠ざかる背中

【アプリル視点】 試験が終わった日の夕暮れ、わたくしは廊下の片隅でモップを動かしていた。 窓の外は茜色に染まり、嬉しそうな声が響く。サフィーのものだ。 ふと振り返ると、彼女はグルナの隣に立ち、嬉しそうに微笑んでいた。(……やっぱり、ああなるのね) 胸の奥に針を刺されたような痛みが走る。 わたくしが庇った時、誰も耳を傾けなかった。 でにグルナの一言で、空気はすぐに変わった。 あの奇跡のような光景に、サフィーの瞳はもうわたくしを映してはいなかった。「アプリル、何をしているのかしら」「いえ、わたくしは掃除をしているだけです」 この光景を見続けていたら、グルナに気づかれてしまった。 咄嗟に誤魔化しながら返答をする。「話をしているから、この場所は後ですればいいから」「……分かりました」 わたくしは彼女に追い払われてしまう。 仕方ないのでグルナの居ない場所で掃除をしていく。「アプリル、あっちはもう終わったの?」 ワインレッドの髪に眼鏡を掛けた同僚の侍女、ロータス・ティソが声をかけてきた。「……ええ。すぐに終わるわ」 微笑んで返したけれど、頬は引きつっていた。 雑巾を絞ると、水滴がぽたりと床に落ちる。 音がやけに大きく響き、胸にまで沁みた。(また……置いていかれるのかしら) わたくしはかつて、信じていた人に『信じたかったけれど』と突き放された。 それが破滅の合図だった。 だからこそサフィーには同じ思いをしてほしくない。 その一心で庇ったのにーー今度は彼女自身が、わたくしから遠ざかろうとしている。 掃除の手を止め、赤い瞳が閉じる。 蝋燭の灯りが揺れ、影が壁に伸びた。(でも……いいのよ。わたくしは、破滅した令嬢。どのみち、最後は……) そう思えば、胸の痛みも少しは和らぐ。 ただ、サフィーの笑顔だけがどうしても焼きついて離れなかった。 あの日以来、サフィーの視線が自分から遠ざかっているのを、わたくしは痛いほど感じていた。 以前なら、夜に蝋燭の下で「ここが分からない」と机を覗き込み、わたくしの指導に対して必死に食らいついていたのに。 今は、銀の髪の聖女と称えられる少女の影を追っている。わたくしをーーした少女に。(……やはり、そうなるのね。庇っても、わたくしには誰も信を置かない) 胸の奥がひやりと冷たくなり、手にし
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

誰もが頷く声

 グルナ様と過ごす時間は、まるで光に包まれているようだった。 彼女は常に穏やかで、慈しみ深い。 モニカがどんなに私を陥れようとしても、グルナ様が一言「彼女は潔白です」と言えば、すべて覆される。 誰もが信じ、誰もが頷いて、私を庇ってくれる。 ーーそれはアプリルのときとは正反対だった。(あのとき、アプリルが必死に弁護してくれたのに、誰も耳を貸さなかった。でも、グルナ様が言うと、みんなが一瞬で信じた) グルナ様には力がある。(……やっぱり、グルナ様って私の導き手よ。アプリルは悪役令嬢) そんな思いが、日ごとに私の中で大きくなっていった。 昼休み、庭園の中央に人だかりが出来ていた。 私も行ってみると、二人の生徒が人だかりの中に居た。 小さな盗難騒ぎが起きたらしい。 見知らぬ女生徒が泣きながら否定しているけれど、周囲は『証拠がある』と口々に責めていた。「落ち着きなさい。彼女は無実です」 そのとき、群衆が静まり返った。 白銀の髪が陽光を受けて輝きながら、グルナ様がゆっくりと歩み出たのだ。「彼女は盗んでなどいません。わたしが証人ですから」 ただ一言。 それだけで空気が変わった。先程まで鋭く非難していた生徒達が、次々と「そうかもしれない」「グルナ様がおっしゃるなら」とうなづき始める。 私は少し離れた場所から、その光景を呆然と見ていた。 胸の奥に、アプリルが必死に弁明していた日の記憶がよみがえる。あのとき彼女の声は、誰の耳にも届かなかったのに。(……やっぱり違う。グルナ様は声を上げれば世界が従う。アプリルはどれだけ叫んでも、誰も信じなかった) まるで光と影。 私の足は自然と、光の方へ向かっていた。
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

囁きに導かれて

 黄昏の中庭。 夕陽が石畳を赤く染めていて、儚さと美しさを出していた。 私の影もこの場所を彩らせている。 そんな場所にもう一つ影がやってきた。「……サフィー、少しお時間をいただけますか」 アプリルの声は静かで、それでも真剣さを出していた。「なにかしら?」 私はちょっと緊張しながら、話を聞くことにする。「グルナ様のことです」 アプリルは迷いなく言った。「どうか……あの方を信じすぎてはなりません。彼女は、かつてわたくしを破滅へと追いやった張本人です」「……!」 私の心臓が跳ねる。 昨日も、今日も、グルナ様は聖女のように皆を導いていた。 その姿と、アプリルの言葉がどうしても結びつかない。どうして彼女がアプリルを破滅に追いやるのよ。 アプリルが自滅するならまだしも……「嘘よ……そんなはずないわ」 震えながらも私はアプリルに言葉を返す。「嘘ではありません!」 アプリルは一歩踏み出して、私の手を掴んだ。「わたくしは二度と同じ過ちを繰り返させたくないのです。どうか目を覚ましてください!」 サフィーの胸は大きく揺れる。(アプリルの言葉は必死で……真実みたいに響く。でも、それを認めたら……私が”間違ったヒロイン”になる。”ヒドイン”と呼べる存在になっちゃう) 私は思いっきりアプリルの手を振り払った。「もうやめて、アプリル。あなたはーー嫉妬しているだけよ!」 おそらく、私の言葉はナイフみたいに鋭くアプリルの心を傷つけている。それでもいい、アプリルは悪役令嬢だったんだから。「……サフィー」 アプリルの声は小さく震えて、沈黙した。(本当は……嫌いじゃない。むしろ優しい人だって知っている。でも……信じるのはグルナ様。だって私はヒロイン。間違っていたとは認めるわけには……いかないのよ……!) 夕陽の中で私達の影は交わらず、決して届かぬ距離を広げていった。 寮に戻ったあとも、胸の奥がざわざわして眠れなかった。アプリルはもう眠っている。顔を見ることは出来なかったけれど。 窓辺に腰をかけて夜空を見上げると、星はきらめいている。 異世界なので星座はどうなっているのか分からないけれど。 けれど、そんな星の光はどこか遠く、冷たく感じられた。(アプリルは……私を守ろうとしてくれた。あの言葉も本気だったのかもしれない。でも……認めたら、私は
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

選ばれたヒロイン

「グルナ様、お菓子を作ってきたんです」 私は異世界にある食材で、グルナ様へ手作りのお菓子を渡した。 とはいえ、元の世界にもあるものばっかりだけれども。 それだけでも美味しいお菓子を作るのは可能だし、私だって作ろうと思えば作れる。差し入れで作ったこともあるし。「まあ、ありがとう。いただくわ」 グルナ様は美味しそうに食べていた。さくさくと少しずつ食べている。 食べている様子も美しい。「美味しかったわ」 食べ終わると、私に微笑んでくれた。「いえ! グルナ様が喜んでいただけてなによりです!」「これは殿下に渡しても、宮廷で出されるお菓子と遜色ありませんわ」 遜色ない…… それって、私のお菓子が宮廷のもの並って事。 嬉しい!「そんな……たいそうなお言葉を!」 これはグルナ様にもっと気に入れたよね! だから王子にもっと近づけるかも。「貴女は素晴らしい才媛ね」「あ、ありがとうございます!」 こんなに褒めてくれるなんて。 グルナ様は本当に私を気に入っているんだ。「サフィーさん……アプリルの事、どう思いますか?」「え……?」 不意に名を出されて、私は言葉を詰まらせた。 アプリルは私を何度も庇ってくれた。夜遅くまで勉強を教えてくれたこともある。 でも、殿下に優しくされる彼女の姿を見てからはーー胸の奥に黒いものが渦巻いている。「……殿下と、仲が良さそうで」 思わず、本心が零れた。 グルナ様は小さく頷き、憂うような表情を浮かべる。「そう……わたしも気になっていたのですが、アプリルは婚約を破棄されたはずなのに、殿下に取り入ろうとしている。普通なら身を慎み、二度と殿下に近づかないはずです」「…………」 ちくりと胸が痛む。「もしあの方が再び”地位”を求めるなら……貴女こそ危うい立場に置かれるでしょう」「わ、私が……?」 もしかしてアプリルが私を陥れようとするのかな。 それとも逆に私をメイドにでもするのかな。「でも、心配しないで。わたしは貴女の味方です」 白銀の髪が揺れ、柔らかな笑みが向けられる。 それだけで胸が熱くなった。「グルナ様……!」「あなたは、わたしが見てきた中でも稀に見る真面目で優しい少女ですわ。手作りのお菓子からもそれが伝わってくる。だからこそ、誰かに利用されたり、邪魔されたりしてほしくないのです」 そ
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

揺らぐ信頼、遠ざかる背中

 翌日、図書室。 静寂を破るように、扉が開く。グルナ様が優雅に入ってくると、室内の生徒達は一斉に顔を上げて、憧れの視線を注いだ。 私も同じく顔を上げる。「まあ……グルナ様!」「今日も本当にお美しい……」 グルナ様はにこやかに頷いて、誰にでも分け隔て無く声をかけていく。 でもそんなグルナ様の笑顔が、アプリルの姿を見た途端に凍りついた。「……まだ学院に居座っていたのね、アプリル・ブラチスラバ」 アプリルは読んでいた本を閉じ、静かに立ち上がる。 今は休憩時間なのかな。本を読んでいたことは。「学ぶことは禁じられていません」「禁じられていないからといって、資格があるわけではないわ。今の貴女は学院に奉仕するメイドのはずよ」 グルナ様の声は冷たく鋭くて、周囲の空気を張り詰めさせる。「……メイドとはいえ学ぶことはあります」 アプリルも反論していた。「断罪された者が、ここで何を学ぶというの? あなたの存在そのものが、この学院の汚点よ」(……グルナ様?) 私は思わず固まってしまう。 あんなに優しいはずなのに、アプリルにだけどうしてこんなに冷たいの……? でも……グルナ様の話からしたら……「失礼します……」 アプリルは唇を噛み、それ以上の反論もせずに本を抱えて図書室を出ていった。彼女が静かに立ち去る音が消えると、残された空気は不思議なほど清らかに感じられた。 清らかな空気の中、グルナ様は微笑みを戻した。「ごめんなさい。少々お見苦しいところを見せてしまって」 みんなに謝罪をして、笑顔を見せて清らかさをより高めていく。「サフィー」 グルナ様は今度は私に近づいて、私の方にそっと手を置いた。「惑わされないで。あの人は、自分の罪を隠すために必死になっているだけなのよ。あなたは”真実”を見抜く目を持っている……だから信じて」 その言葉が、心の奥に甘く溶け込んでいく。 不安も疑念も、全て拭い去ってくれるようで……(そうよ、私はヒロイン。私の未来は、この方が導いてくれる)「……はい、グルナ様」 私は頷いた。 図書室の窓から射す光の中、グルナ様は”聖女”の微笑みを浮かべる。「貴女はこの学院に……いえ、この王国にはなくてはならない存在。だから、間違った選択は取らないで」「もちろんです」 こんなに信頼してくれるなんて。 私はさっきの事
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

聖女の教室

「ねえ、今度の試験はどうかしら?」 次の試験が近づいたある日、グルナ様が私の事を心配していた。 前のカンニング疑惑があってから、グルナ様も気にかけているのね。「難しいかもしれません……」 勉強をしているけれども、流石にアプリルから教えてもらったら、またカンニングって言われるかもしれない。 モニカだってバカじゃないし、もっと巧妙な手を使ってくるかも。 だから一人で勉強をしないといけない。 十分に頭の中に詰め込めるか不安だけれど。「でしたら、わたしが教えてあげましょうか?」「本当ですか!?」 それだったら、絶対に言われない。 グルナ様から教えてもらったっていえば、誰だって疑うわけない。 モニカだってグルナ様が不正をしているって言えば、モニカが破滅するだろうし。そんな事を言われたくないと思う。「お言葉に甘えて……」「ふふ、勿論ですわ」 という事で、私はグルナ様と一緒に図書館で試験勉強をすることにした。「サフィー、ここう考えると答えにたどり着けますわ」 丁寧に導くグルナ様の声。 その一つ一つの言葉が、宝石のように胸に積み重なっていく。「わぁ……そうなるんですね」 私は素直に感嘆の声を漏らす。 とても丁寧で、分かりやすい。 これだったら試験でも高得点を取りそう。 すると近くの生徒達が「グルナ様に教わるなんて羨ましい」「やっぱり聖女ね」と囁き合った。 頬が熱くなる。(アプリルに教えてもらったときは、疑われただけだったのに……グルナ様だと、褒められるんだ……!) 心の中で、その差は残酷なほど鮮明だった。「ありがとうございます」「良いの。貴女が試験で上位になれるなら、いくらでも協力してあげるから」 私に教えてくれた事も苦になっていなくて、微笑みながら私へ無償の慈悲を見せていた。 それが私には嬉しくてたまらない。「嬉しいです!」 ふと、近くにアプリルがやってきた。 掃除道具を持っていて、掃除をするためにやってきたみたい。図書室でも他の場所はあるはずなんだけれども。「邪魔よ。アプリル・ブラチスラバ」 グルナ様はアプリルに冷たい目を見せている。 私には絶対見せない、氷のような視線を。「いえ、わたくしは順番通りにしておりますので」「でしたら、他の場所をしなさい。勉強の邪魔をするつもりなの?」「勿論そんなつもりは
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status