Share

15.触れ合う、誓いのかたち

Penulis: 中岡 始
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-15 16:28:57

夜の濃度がさらに深まり、カーテンの隙間に青白い街灯の光がかすかに揺れていた。

岡田の部屋、最後の夜。寝室の空気は、静まりかえったまま、ふたりの呼吸と肌の温度だけがゆるやかに揺れている。

背中合わせだったふたりが、ゆっくりと向き合ったのは、たった今のことだった。

シーツの上、指先と指先が重なる。そのぬるい体温は、どこまでもやさしく、しかしどこか緊張を孕んでいた。

晴臣の手が岡田の頬にそっと添えられる。岡田の瞳がほんの少し揺れて、そのまま静かに瞬きをした。

互いに息を呑みながら、そっと唇を重ねる。乾き気味の唇と唇が、触れ合う瞬間だけ世界の重さが変わるようだった。

シーツがわずかに擦れる音。岡田の腕が晴臣の背をなぞる。その動きはためらいがちで、まるで夢を確かめるようだった。

ふたりは言葉を持たず、ただ呼吸を重ねる。長い夜を通り抜けてきた不安も、過去の荷物も、今だけはすべて遠ざかる。

晴臣が岡田の首筋に唇を落とした。岡田は小さく息を吸い、指先で晴臣の肩を探る。肩甲骨をなぞる動きは、お互いの形を覚え込むような丁寧さを孕んでいる。

肌と肌がすれ違い、下着の隙間から指が忍び込む。岡田の身体が緩やかに熱を帯びる。

「……晴臣」

かすれた声で名を呼ばれる。

晴臣は答えずに、岡田の髪に指を通しながら、その額にやさしくキスをした。

「怖いですか」

岡田は答えなかった。けれど、腕が晴臣の背をぐっと引き寄せる。

ふたりの足が絡み合い、シーツの中の世界は、ふたりだけの温度に満ちていく。

「……ずっとこうやって、一緒に寝れるんかな」

岡田の囁きが、シーツのしわの間に消えていった。

晴臣は、その問いを抱きしめるように唇を重ねる。

首筋、肩、鎖骨。ひとつひとつを確かめながら、晴臣はゆっくりと岡田を包み込む。

「続かせます。僕が、そうしたいんで」

そう返した晴臣の声は、かすかに震えていた。だが、嘘はなかった。

岡田の肌の下、鼓動が速まるのがわかる。

彼らは、お互い

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   27.暮らす、ということ

    朝の光は、カーテンの隙間から静かに滑り込んでいた。白く柔らかなその輪郭は、夜の残り香をすべて押し流すほどに静謐で、澄んでいた。キッチンではコーヒーメーカーの低い機械音が響いている。湯気が立ちのぼり、豆の香ばしさが空気に広がっていく。岡田は無言のままマグカップを取り出し、その手つきはすでにルーティンに馴染んでいた。いつもの場所、いつもの手順、変わらない朝。振り向けば、洗面所の扉が少しだけ開いていて、晴臣がタオルで顔を拭く気配があった。「おはようございます」その声に、岡田は少しだけ遅れて返した。「おはよ」歯ブラシが二本、並んで立てられている。それを目にした晴臣が、さりげなく片方を手に取る。もう一本は、岡田の手の中に。洗面台に立つふたりの肩が、鏡の中で静かに並ぶ。歯磨き粉の蓋を閉める音、コーヒーの抽出が終わる音、朝の音がいつもの順番で鳴る。すれ違っていた時間の中で感じていたわずかな違和感が、今はもう、生活の一部として受け入れられていた。岡田はふたり分のマグをトレイに乗せてリビングへ戻り、テーブルに置いた。ソファの背にもたれかかりながら一口すすると、口の中にひんやりとした苦味が広がる。晴臣も向かいの椅子に腰を下ろし、目を細めてコーヒーを見つめた。「今日も早いんですか?」「うん。新しい企画が佳境で」岡田はうなずいた。必要以上に聞き返すことはしない。ただ、そういう日はまた増えるのだろうと、心の中でだけ思った。「午前中は社内。午後から外回りやな」晴臣は、そうですか、と小さく答える。言葉はそれ以上続かないが、どこか心地よい余白がそこにはあった。玄関に向かうとき、ふたりは同時に立ち上がった。昨日までの緊張が少しずつほどけていることに、お互いが気づいていた。靴箱の上には並んだ革靴が二足。晴臣の黒、岡田のブラウン。並び方すら意識してしまうほど、今朝の空気は繊細だった。岡田がしゃがんで靴を履きながら、ふと口を開いた。「また、すれ違う日もあるかもな」淡々としたその声には、

  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   26.怒っても、拗ねても

    夕食を終えた食卓には、空の皿が静かに並んでいた。箸はきちんと箸置きに戻され、湯気の消えた味噌汁の椀だけが、まだ食事の記憶を留めている。晴臣が椅子を引いて立ち上がると、岡田もそれに続いた。「片づけ、手伝おか」岡田がそう言ったのは、何日ぶりだっただろうか。「じゃあ、お願いしてもいいですか」晴臣が素直に受け入れると、岡田は少しだけ頬を緩めた。リビングのソファに身体を沈めていた沈黙の時間とは打って変わり、ふたりは台所で肩を並べる。キッチンシンクの蛇口をひねると、水音が立ち上がり、ステンレスの中で反響した。スポンジの泡立つ音、湯気を含んだ食器がカチャリと鳴る音。テレビの音は小さく、遠くの部屋から漏れてくるだけで、今この台所を支配しているのは生活の音だけだった。「…洗剤、減ってきたかもな」岡田がぽつりと呟いた。「今度買ってきます。メモしときますね」晴臣の声も、いつもより自然だった。こうして会話が交わされることが、ひどく久しぶりに思えた。まるで喉の奥で固まっていた石ころが、ひとつずつ転がり落ちていくように、言葉が少しずつ出てくる。岡田は食器を布巾で拭きながら、晴臣の横顔をちらと見た。無言で手を動かす彼の姿は、いつも通り几帳面で、手の動きに無駄がない。けれど、その横顔には、どこかやわらかさがあった。「なあ、晴臣」「はい?」「この前、怒ってごめんな」手を止めずに、岡田が言った。声は静かで、けれど芯があった。「俺も…ごめんなさい。ちゃんと気づけてなかったです」言葉の合間に流れる時間が、ゆるやかにふたりの呼吸を揃えていく。「怒っても、拗ねてもさ…待っててくれる人って…ずるいくらい、優しいなって思った」そう言った岡田の声は、湯気にまぎれて霞んでいた。まるで、湯の温度に包まれるような、そんな感覚。晴臣は布巾で皿の水気を取りながら、ほんの少し笑ってうなずいた。「優しいっていうか…たぶん、課

  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   25.一輪の花を、ただあなたに

    帰り道、晴臣はコンビニのビニール袋を右手にぶら下げたまま、ふと足を止めた。夜風が首筋を撫でていく。空は高く、黒に近い|群青《ぐんじょう》。街灯に照らされた歩道の先に、小さな花屋の明かりが残っているのが目に入った。「まだ、やってたんだな」自分でも気づかぬ声が、吐息にまぎれてこぼれる。時計を見れば、二十三時をまわっていた。通常の営業時間はとっくに終わっているはずだが、シャッターの隙間から中の灯りが漏れている。店の奥で片づけをしていた店主が、こちらに気づいて目礼した。晴臣はビニール袋を持ち直して、迷うように一歩を踏み出した。花屋に入るのは、どれくらいぶりだろう。記憶をたどっても、自分のために花を買ったことはほとんどない。プレゼント用に選んだことは何度かあったが、こうして衝動的に、理由もなく足を向けたのは、初めてだったかもしれない。並ぶ花の中で、ひときわ目を引いたのは、白いガーベラだった。ふわりと開いた花弁が、やさしく静かな光を集めている。派手さはないが、見る者の呼吸をそっと整えてくれるような、そんな柔らかさがあった。「一本で、大丈夫ですか?」店主の問いかけに、晴臣は小さく頷いた。「はい、それで」ラッピングされたガーベラは、小さな紙袋にそっと収められた。温もりの代わりに、花の香りが袋の口からふわりと漂った。晴臣は深く頭を下げて店を出る。家までの道は、あいかわらず静かだった。足音だけがアスファルトに響き、ふと気を抜くと、紙袋の中から花の香りが夜気とともに鼻先をくすぐった。理由は聞かれたら、きっと答えに詰まる。ただ、なんとなく、そうしたかった。それだけだった。リビングの明かりはついていた。玄関を開けても、岡田の声は聞こえない。けれど、テレビの音がほんのわずかに漏れている。無言の沈黙ではなく、生活の音があるだけで、晴臣の肩は少しだけ落ち着いた。「ただいま」自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。奥から返ってきた「おかえり」は、眠そうで気の抜けた声だった。ソファに岡田が横になっている。テレビはつけ

  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   24.必要最低限の声

    夜の帳が落ちる頃、晴臣はようやく帰宅した。靴を脱ぐ音だけが、無人の玄関に控えめに響く。リビングの照明は落とされ、間接照明のやわらかな光が壁の一部だけをほのかに照らしていた。テレビもついていない。岡田の気配はあるのに、その姿は見えなかった。キッチンカウンターに置かれた、ラップのかかった皿。料理は温め直された形跡もなく、盛り付けられたまま、冷めている。味噌汁の鍋にはまだ湯気が残っていた。作られた時間は、そう遠くないのかもしれない。晴臣はそのまま、自分の部屋に向かった。岡田の顔を探すようなこともせず、ましてや「ただいま」と口にすることもなかった。ドア一枚隔てた場所で、岡田はソファに横になっていた。壁越しに聞こえる生活音が、彼の眠りを浅くする。実際にはもう眠ることもできず、ただ目を閉じていたに過ぎなかった。起きてリビングに向かうこともできた。でも、その間にどう声をかけたらいいのか、岡田にはまだわからなかった。あの夜のすれ違い以降、ふたりの間の会話は、必要最低限にまで削られていた。「おはよう」「いってきます」「おかえり」「ありがとう」そのどれもが、機械的な響きを持つようになった。互いを傷つけまいと選んだ言葉のつもりでも、そこに熱や弾みがないぶん、どこか皮膚の上をなぞるだけの温度しか残らない。その翌朝も、晴臣は一足早く家を出た。岡田が目覚めたときには、既にダイニングの椅子が少しだけ引かれたままになっていて、朝食をとった痕跡がそこにあった。カップが一つ、シンクに伏せられている。その脇に置かれた紙ナプキンには、何も書かれていなかった。前までは、手書きのメモが残されている日もあった。今日はそれがない。無言の朝だった。岡田は洗面所で顔を洗い、ベランダのドアを開ける。窓の外は、秋の気配を深く含んだ空気に満ちていた。夏の暑さが残っていた時期は、朝のベランダに出ることも珍しかったのに、今はそのひんやりとした温度が心地よい。冷たい風がシャツの裾を揺らす。岡田はポケットから小さな箱を取り出し、煙草を一本くわえた。ライターで火をつける。たちまち、白い煙が静かに空へと溶けて

  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   23.言わなくてもわかると思っていた

    玄関の鍵が回る音がしたのは、夜の十二時を過ぎていた。岡田は半分眠りの底にいたが、金属音のわずかな響きに、反射的に目を覚ました。寝室のカーテンの隙間から漏れる街灯の光が、天井にぼんやりとした線を描いている。その下で、時計の針が静かに進む音だけが、時間の遅れを告げていた。リビングの方から、スーツの布が擦れる音、鞄を置く鈍い音、冷蔵庫を開ける小さな音が重なって聞こえた。いつもなら、気づかないふりをしてそのまま眠りに戻る。けれど今夜は、どうしてもまぶたが閉じなかった。岡田は枕元の眼鏡をかけ、ゆっくりと体を起こした。足裏が床に触れた瞬間、ひやりとした冷気が肌を撫でた。リビングへ向かう途中、扉の隙間から光が漏れている。その光がやけに遠く見えた。キッチンに立つ晴臣の背中が見えた。スーツのまま、冷蔵庫を開けて中を覗いている。テーブルの上には、ラップをかけたままの夕食。その横に、保温ポットとマグカップ。どれも、岡田が数時間前に並べたままの状態だった。「……遅かったな」声をかけると、晴臣の肩がかすかに揺れた。振り返った顔には、驚きというよりも疲労の色が滲んでいる。ネクタイをゆるめた指先が、どこか不器用に見えた。「起こしてしまいましたか」「いや、音がしただけや。……飯、食う?」晴臣は少しだけ視線を落とした。テーブルの上のラップ越しに見える、冷えた味噌汁と焼き魚。箸は添えたまま、湯気はとうに消えている。「もう食べました。会社で軽く」その答えに、岡田の胸の中で何かが小さく軋んだ。「そうか」それ以上は言わず、ポットの湯で自分のマグにお茶を注いだ。お湯がカップの内側を伝って小さな音を立てる。その音が、やけに耳についた。晴臣はコートを脱ぎ、椅子にかけた。手を洗うためにシンクへ向かう。水が流れる音の

  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   22.会話のない食卓

    雨も降っていないのに、靴の裏が濡れていた。岡田が玄関のドアを開けたとき、廊下にかすかに残る湿気の気配に、ほんの少しだけ足を止めた。傘立てには傘がなく、靴箱の上にあるキーケースの位置も朝と変わっていなかった。その小さな確認に、まだ帰ってきていないんやな、とつぶやかずともわかってしまう。靴を脱いでリビングに足を踏み入れると、昼間閉めたままのカーテンが外光をさえぎり、部屋全体が青く沈んでいた。冷蔵庫の音と、自分の足音だけが耳に届く。テレビもエアコンも、何一つついていない空間に、岡田は深く息をついた。ダイニングのテーブルには、朝に晴臣が置いていった弁当箱が返却されるように置かれていた。空になったそれを手に取り、流しに運ぶ。少しだけ残ったソースの香りが、ほんのわずかに鼻をくすぐった。いつもより二時間早く帰れた。それだけのはずなのに、何をすればいいのかが一瞬わからなくなる。時計の針は午後七時を少し回ったところだった。晴臣が帰るのは、最近では十時を過ぎるのが当たり前になってきている。「新規の案件が始まってて…もうしばらくしたら、落ち着きますから」そう言っていた晴臣の声を思い出しながら、岡田は冷蔵庫を開けた。昨晩作り置きした野菜炒めと味噌汁が、タッパーの中に整然と収まっている。食卓に並べようか、と一瞬思うが、ひとりで食べるには少しだけ虚しく感じた。結局、インスタントのカップ麺に湯を注ぎ、テレビをつけた。音のない部屋にニュースの声が流れ込んでくる。それは、まるでどこか別の場所の出来事のようだった。三分のタイマーが鳴る間、岡田はぼんやりとリビングのテーブルに並ぶコースターを見つめていた。色違いの二枚。晴臣が選んだ、淡いグレーと自分の青。買ったときは、そんな風に選ぶことに微笑ましさを感じたのに、今はただ、整然と「並んでいる」だけに見える。タイマーの音に背を押されるようにして席を立ち、麺を啜る。熱さと塩気が舌を刺激するが、味の記憶はすぐに薄れていった。その夜、晴臣が帰宅したのは十一時を回っていた。玄関の鍵がまわる音がしても、岡田はすでに布団に入っていた。

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status