手遅れの愛、妻と子を失った社長의 모든 챕터: 챕터 381 - 챕터 390

466 챕터

第381話

「いいよ」遥真はあっさりと答え、視線も揺らさなかった。「どうせ俺は金に困ってないし」そう言い終えると、そのまま通話を切る。「待て」修司が先に口を開いた。「何か用?」遥真の声は淡々としている。「玲奈のことは、もうこっちから連絡しない」さっきの言葉が本気かどうか読みきれなかった修司は、念のため釘を刺すように言った。「その代わり、君も私のことに口出しするな」遥真は返事もせず、そのまま通話を切った。もともと他人のことに首を突っ込む気なんてない。あの一言も、修司への警告に過ぎなかった。それにしても、修司は千尋のことを気にしているくせに、親に決められた婚約者をそのまま受け入れているなんて、どうしようもない。三十分後。水月亭に到着した。リビングでは、玲奈が苛立った顔でソファに座っている。その前には、以前彼女のために手配したボディーガードが二人立っていた。遥真の姿を見つけると、玲奈はすぐ立ち上がり、不満をぶつける。「さっき荷物を運ぶの手伝ってって頼んだのに、二人とも断るの。それどころか、ひどいことまで言ってきた。どうするつもり?」遥真が冷たい視線を向ける。二人は思わず足が震えた。「どうしてほしい?」遥真が尋ねる。「自分の頬を叩いて、跪いて謝るんだ」玲奈はもう取り繕う気もなく、完全に本性のまま言い放った。「俺とあいつらは雇用関係なだけだ」遥真は落ち着いた口調で言う。「そんなことを強制する権利はない」「あなたが言えばやるわよ」遥真はわずかに圧を込めて彼女を見つめた。玲奈は内心ひるみながらも、強気に言い返す。「それとも、『ちゃんと面倒を見る』って言ったのは口だけ?私の代わりに怒ってくれることすらしないの?」「どうしてああいうことを言われたのか、自分で分かってるだろ」遥真はあえて核心までは突かなかった。玲奈の胸が、理由もなくざわついた。……どういう意味?あのボディーガードたちの発言のこと?それとも、自分が罵られた理由のこと?「言わないのは、君の顔を立ててやってるだけだ」遥真は一歩近づく。「だからって、何も知らないわけじゃない」「な、何のこと……」最後まで、玲奈は認めたくなかった。「今の生活をちゃんと守っていれば、今あるものはそのまま手に入れていられる」遥真は静かに言う。「でも欲を出して手
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第382話

「普通なら助けられるけど」遥真は何食わぬ顔で腕を引き抜いた。「でももしあいつと話してるうちに、うっかり自分から心臓を差し出すようなことになったら、さすがに俺もどうにもできない」玲奈はさっきのやり取りを思い返す。話していたのは、ごくありふれた内容ばかり。けれど相手が策略家だと分かった途端、自分が罠にかかっていたんじゃないかと不安になる。「どう処理するか、もう決めた?」遥真が話題を変えた。「入れ替えればいいでしょ」玲奈はもう軽率なことはしないと決めた。遥真は背筋を伸ばして立つ二人に視線を向ける。「聞こえたよな?」ボディーガードたちはまだとぼけている。「俺たちは何も悪くありません。どうして交代させられるんですか」「修司に電話して、直接連れて行かせるか?」遥真はためらいなく嘘を暴き、情けもかけなかった。ボディーガードたち「……!」顔色が一変する。どうして遥真が自分たちの正体を知っている?疑問はあっても口には出さず、二人は大人しくその場を後にした。「これで片付いた」遥真は玲奈を見る。「早く休め。俺はもう帰る」玲奈は思わず聞いた。「泊まっていかないの?」遥真は唇を引き結んだまま、何も答えない。玲奈は慌てて言い繕う。「ちょっと怖くて……夜中に修司の人が来て、私の心臓を取りに来るんじゃないかって」「ここは法治国家だ。修司は無法者じゃない」遥真は淡々と言い、彼女の怯えは気にも留めない。「あいつと関わらなければ、そんなことは起きない」玲奈はまだ何か言おうとしたが、遥真は使用人に二、三言だけ指示を出すと、そのまま出て行ってしまった。遠ざかっていく車を見送りながら、玲奈は両脇に垂らした手を少しずつ握りしめる。胸の奥に、やり場のない感情が溜まっていく。遥真の態度がどんどんそっけなくなっていることに、気づいていないわけじゃない。前はどんな感情も、どんなわがままも受け止めてくれたのに、今は怖いと言ってもそばにいてくれない。世話をすると言ったのに。何一つ、守ってくれていない。考えれば考えるほど、目の奥に暗い感情が広がっていく。ブブッ――突然、スマホの振動音が鳴る。気分が沈んでいた玲奈は出る気になれなかったが、発信者の名前を見た瞬間、眉をひそめた。寝室に戻り、電話に出る。「井上先生?」「玲
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第383話

玲奈は、こみ上げてくる怒りを抑えきれなかった。とはいえ、相手と表立って揉めるわけにもいかない。あの人のところへ探りを入れに行ったのが遥真の差し金なのか、それとも別の誰かの動きなのかも分からない。「少し時間をちょうだい。お金は用意する」しばらく考えたあと、玲奈はそう返した。「渡したら秘密は絶対に守って。それと、あなたに接触してきた人の写真も送って」井上先生はあっさり応じた。「問題ないよ」玲奈は念を押す。「このお金は買い切りよ。一度きり。あとからもっと高い額を出す人が現れても、口外は一切しないで」「分かってる」井上先生の返事を聞くと、玲奈は通話を切った。部屋に立ち尽くしたまま、顔にははっきりとした不安が浮かんでいる。六千万……さすがに遥真に直接頼むわけにはいかない。もし資金の流れを辿られたら、あのときのことまで簡単に掘り起こされてしまう。それに、この金を井上先生に渡したところで、より高値を提示されればまた裏切る可能性は高い。なにしろ、前にも一度、二十万円で口止めしたことがあるのだから。考え込んでいるうちに、ふと以前の病院の件が頭をよぎった。真帆はもう調べないと約束したけれど、こちらに話す前に誰かに漏らしてしまう可能性だってゼロじゃない。もし調べているのが柚香の側の人間だとしたら、この秘密は、何があっても知られてはいけない。秘密を守れるのは、死んだ人間だけだ。【週末、ここに来て。お金を渡す】玲奈は位置情報を井上先生に送り、続けて理由も添えた。【前に約束を守らなかったことがあるから、今回は証拠を残す】井上先生からはすぐに返信が来た。【了解】玲奈はトーク画面を閉じ、真帆にメッセージを送る。【前に約束したこと、忘れてない?】その頃、真帆は柚香と電話中だった。メッセージを見た彼女は、そのまま柚香に話す。「なんで急にこんなの送ってきたんだろ」柚香は陽翔の部屋のソファに座りながら尋ねた。「さあね」真帆は横になってパックをしながら、少しこもった声で答える。「たぶん怜人が何か掴んで、焦ってるんじゃない?」そう言い終えた瞬間、真帆は勢いよく起き上がった。「……あ、そっか!」柚香「?」「絶対、あの怜人が重要な手がかりか情報を掴んだんだよ。それで焦って、怖くなって私に連絡してきたんだ」真帆の声が
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第384話

「いいよ」柚香は顔も上げずに断った。「自分のことやってて」遥真は無理に引き止めなかった。その後、二人は言葉を交わすこともなく、柚香と陽翔が車に乗って病院へ向かうときになって、ようやく遥真が一言だけ口にした。「何かあったら連絡しろ」病院へ向かう車の中。陽翔は柚香のそばに身を寄せた。「ママ」「なに?」陽翔は小さな顔を見上げて言った。「お願いがあるんだ」柚香はやさしく微笑む。「言ってごらん」「今日から、パパと一緒に寝てもいい?」陽翔は、パパが嫌な人だってわかっている。でも、もうすぐいなくなる。だから、少しだけでもあたたかさを残してあげたかった。「もちろんいいよ」柚香は彼の頭をなでた。「そういうことはあなたの自由。自分で決めていいの」しかし、そのあたたかさを、あの人は少しも望んでいない。かわいいパジャマを着て、陽翔がベッドに潜り込んだ瞬間、遥真はためらいもなく追い出した。陽翔が抗議すると、遥真はその小さな頭をつついて言った。「このベッドで寝ていいのは、俺の奥さんだけだ。関係ないやつはあっち行け」陽翔が用意したささやかなぬくもりは、あっけなく消えてしまった。遥真は、息子の様子がいつもと違う理由もわかっていた。きっと柚香と話がついて、一緒に出ていくことになったから、せめて埋め合わせをしようとしているのだろう。けれど、彼が求めているのは埋め合わせなんかじゃない。そもそも、本気で二人を手放すつもりもない。せいぜい、数日遊びに出るくらいなら構わない。結局は、戻ってくるんだから。それから数日。柚香は毎日病院で安江のリハビリに付き添い、遥真は会社で働いては残業を重ねる。二人の生活は、いつの間にか以前の形に戻っていった。言い争いもなく、衝突もなく、ぎくしゃくした空気もない。そんな日々が続いたあと、柚香は彼に、一通の退職通知を送った。すぐに電話がかかってくる。「仕事、辞めるつもりか?」そのとき柚香は、母親のリハビリに付き添っていた。医者に連れられていろいろな動作をしているのを見届けると、少し静かな場所へ移動して電話に出た。「うん。違約金は払う。これからは、母の看病に専念したいの」「最初に関わったゲーム、最後までやりたくないのか?」遥真の声は低い。「やりたいよ」柚香は正直に答えた。「でも、人
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第385話

「ここにいないのか?」弘志は柚香が答えないのを見て、そう続けて尋ねた。「いるよ」柚香は胸の中の疑問を押し込み、「こっち来て」弘志はそれ以上何も言わなかった。彼女の態度を咎めることも、きつい言葉を投げることもなかった。まるで一瞬、昔の優しかった父親に戻ったみたいで、あの後の、利益ばかりを追って鋭くなった弘志とは別人のようだ。リハビリセンターに着くと、安江はちょうど今日のトレーニングを終えたところだった。今は短い距離なら普通に歩けるけれど、長くは無理らしい。「来たのね」弘志を見ると、軽く声をかけた。「うん」弘志は感情をうまく抑えている。安江「病室で話しましょ」弘志「わかった」おとなしくてまるで小動物のような様子の弘志を見て、柚香の頭の中には疑問符が並ぶ。これ、本当にこの前まで暴走してたあの弘志?病室に入ると。弘志はきちんと椅子に座り、言った。「俺を呼んだのは、離婚の話だろ」「うん」安江は頷いた。「いいよ」弘志は揉める様子もない。「これまで柚香のこと、面倒を見てくれてありがとう。あの子の子ども時代も青春も、あたたかいものにしてくれた」安江は淡々と言った。「それは当然のことだ」弘志の負の感情はすっかり消えていた。「お前は俺に資金を出して会社を立ち上げさせてくれて、名声も利益も手に入れさせてくれた。なら俺が子どもに父親らしいことをするのは当たり前だ」それは結婚前から決めていたこと。要するに利害の一致であって、感謝どうこうの話じゃない。「もしあの時、あなたの言うことをちゃんと聞いていれば、意地を張らなければ、会社があんなことにはならなかった」弘志は今になって深く後悔していた。自分の慢心と、何の役にも立たないプライドを。女に頼って成功した、と思われるのが嫌で、後になっては意地を張り続けた。安江が何度も止めようとしたのに、「関係ない」と怒鳴りつけ、これから先は一切口出しするなとまで言った。「人はみんな、遠回りするものよ」安江は落ち着いた口調で言う。「経験だと思えばいい」「……ああ」弘志はうなずいた。「午後、時間ある?」「ある」「じゃあ午後に行こうか。柚香が言ってたけど、書類の確認で手続きが完了するまで一か月くらいかかるんだろ?」「そうらしいな」そこまで言って、弘志はふと視線を
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第386話

「私もお金持ちの旦那がほしいな、こういう生活、一度は味わってみたい」「やっぱりお金があるっていいよね」絵理は柚香の表情の変化に気づいた。「ああいう噂話なんて気にしなくていいよ。あの人たちはあなたじゃないし、あなたが抱えてる問題や大変さなんて分かってないんだから」「はい」柚香は小さく返した。原栄ゲームに来て一番の収穫は、たぶん絵理や彩乃のような友達に出会えたこと。けれど、きっと一緒に歩けるのはここまでなんだと思う。「絵理お姉さん」柚香はやっぱり我慢できなかった。「ん?」少し複雑な表情で彼女を見る。「私のこと、責めないですか?」絵理はまるで妹に接するみたいに優しかった。「何を責めるの?」「この間ずっと真剣に教えてくれて、いろいろ面倒も見てくれたのに、結局こんな後始末を全部押しつける形になっちゃって……」柚香は申し訳なさを感じていた。でも、どうしても両立できないこともある。「あなたはちゃんと責任を取る人でしょ。本当に追い詰められでもしなきゃ、こんな選択しないって分かってるよ」絵理の言葉は本心だった。柚香は彼女が見てきた中でも一番手のかからない子だった。「あんまり考えすぎないで」柚香は「ありがとうございます」と言って、帰る前に、ぎゅっと絵理を抱きしめた。必要な手続きを全部終えてから、遥真のいるオフィスへ向かい、その紙を差し出してサインを求めた。遥真は迷いもなく署名し、何事もなかったように紙を返しながら言った。「ここで少し待ってて。仕事が片付いたら、一緒に病院に行こう」柚香は聞いた。「違約金は?」「払わなくていい」柚香「……?」彼がここに赴任してきた当時、退職しようとした自分が違約金は必ず払う必要があると言われたのを、柚香ははっきり覚えている。「違約金なんてただの条項だよ。実際に適用するかどうかは会社次第」遥真は少しも後ろめたさを見せずに言った。「あの時は、君を引き止めたくてわざと脅しただけ」柚香は怒る気にもならず、静かに聞いた。「もしあの時、母が目を覚まさなかったら、そのお金はやっぱり払わなきゃいけなかった?」遥真は目を上げ、少し黙ってから、嘘はつかなかった。「……そうだ」柚香はサイン済みの退職届を手に、そのまま背を向けて歩き出した。違約金なんて結局、自分を引き止めるための手段だった。あの頃
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第387話

「遥真」安江が声をかけた。柚香を見ていたときの、あの目つきを彼女は見逃さなかった。遥真はちらりと視線を向ける。「お義母さん」「ちょっとこっち来て、話そう」遥真は歩み寄って腰を下ろした。安江は一見ていねいな口調だったが、言っていることはなかなか鋭い。「前に話した件、どう考えてるの?」「答えは変わりません」遥真は言った。「柚香は俺の妻です。離婚するつもりはありません」安江は静かに問いかける。「たとえ、あの子があなたといて幸せじゃなくても?」「幸せにできるよう、努力します」安江はじっと彼の目を見つめる。「努力しても、やっぱり幸せになれなかったら?」「そのときになってから考えます」遥真は表情を変えずに言い、話題をさりげなく変えた。「それより大事なのは、昭彦さんと親子として認め合うかどうかです。聞いたところでは、昭彦さんは蒼海市に戻ってから、その準備を進めているらしい」安江「私には関係ないわ」遥真「柚香は昭彦さんの娘です」安江の目は淡々としていた。「証拠は?」遥真は一瞬言葉に詰まる。「私的な親子鑑定なんて、裁判ではそのまま通用しないわ。仮に訴訟に持ち込んでも、結果は負けるだけ」安江はきっぱりと言った。「この件に関して、彼に勝ち目はないわ」遥真は何も言わなかった。これはただの探りだ。柚香がその父親を受け入れるつもりがあるのかを見極め、今後に備えるためだ。安江はその考えに気づいていたが、あえて指摘はせず、付け加えた。「でも、もしあの子に嫌な思いをさせる人がいるなら、彼を利用してでも守るつもりよ」遥真は顔を上げた。――お義母さん、ちょっと頭が切れすぎじゃないか?「利用って何のこと?」柚香が高橋先生との話を終えて戻ってきたところで、その言葉を聞き、少し不思議そうに目を瞬かせた。「何でもないわ」安江は柚香をこういう駆け引きに巻き込まなかった。「あとで家事代行を何人か手配して、家をきれいにしておいて。来週退院したら、そのまま帰れるように」柚香はぱっと表情を明るくした。「うん、わかった」「柚苑には専属の栄養士とリハビリのスタッフがいます」遥真がすぐに口を挟む。「そのまま戻れば大丈夫です」「結構よ」安江は娘が受けた仕打ちをはっきり覚えている。「持ち主がころころ変わるような家に興味はないの」遥真
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第388話

安江が退院したその瞬間、柚香以外でいちばん喜んでいたのは高橋先生だった。無事に回復したことも嬉しかったし、柚香のあきらめない努力が報われたことも、本当に嬉しかった。気づけば、あっという間に月末になっていた。その日の夕食後、安江と柚香は庭をゆっくり歩いていた。一見すると毎日楽しそうにしているのに、どこか思いつめた様子の娘を見て、安江は口を開いた。「私もだいぶ回復したし、近いうちに行く?それとももう少ししてからにする?」柚香は足取りをゆるめながら言う。「……本当に蒼海市に行くの?」「うん」柚香は複雑そうな顔をした。「そこ、嫌いだったんじゃないの?」「前はね。でも今は、特に何も思わない」安江は正直に答えた。蒼海市に行くことは、ちゃんと考えた上で決めたことだ。教育、医療、起業や就職。蒼海市は京原市に次いで、どれもトップクラスの環境がそろっている。柚香は思わず聞いた。「どうして?」もし自分と陽翔のために、無理に気持ちを押し殺しているのだとしたら……母にこれ以上無理をしてほしくなかったし、まだ傷が癒えていないのに、わざわざそれをえぐるような場所に行ってほしくなかった。「昔は意地っ張りでね。嫌いな人がいる場所には戻りたくないって思ってたの」安江は包み隠さず話した。「でも今は違う。悪いのはあの人たちでしょ?どうして私のほうが逃げなきゃいけないの。むしろ、あの人たちこそ私に会ったら気まずくなるべきじゃない?」若いころは、ずいぶん意地を張っていた。その気持ちを、気づけば中年になるまで引きずっていた。しかし、柚香がいろいろなことを経験してきたのを見て、さらに昭彦が遠くからわざわざ会いに来たことで、ようやく気づいた。どこに住んでいても、大切な人はそばに来てくれるし、嫌な相手だって結局は関わってくる。それなら、環境のいい場所で、大事な人たちと一緒に、余計なことを気にせず暮らしたほうがいい。「お母さんと弘志おじさんの離婚手続きが終わったら、そのあとで出発しよう」柚香は静かに言った。自分の離婚がうまくいかなかったから、せめて母には同じ思いをさせたくなかった。「そうね」話はそれでまとまった。それからの数日、柚香は何事もないように振る舞って過ごした。遥真は毎日やって来て、同じ部屋で寝て、毎日「愛してる」と繰り
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第389話

柚香の胸がぎゅっと締めつけられたが、表情は平静を装って答えた。「そんなにその話ばかりするの、私に離れてほしいの?」「違う」遥真は真っ黒な瞳に真剣さを宿したまま言った。「ただ、怖いだけだ」「その日、時間があるかまだ分からないの」柚香ははっきりした返事を避け、目を合わせないまま続ける。「お母さんと役所に行って、そのあと買い物もしなきゃいけないし。全部終わって時間ができたら、また連絡する」「分かった」柚香は小さくうなずき、そのまま立ち去ろうとした。「柚香」背後から遥真に抱きしめられ、顎が首元に埋められる。「嘘つかないで。それに、俺のそばから離れないで」柚香は唇をきゅっと結んだ。――気づいてるの?「俺、怒ると自分でもどうなるか分からないんだ」耳元にかかる温かい息に、思わず体が震える。「真帆や怜人が、君のせいで何かあってもいいのか?」「どういう意味?」柚香は振り返って彼を見た。「昨日の夜、君が何も言わずにいなくなる夢を見たんだ」遥真の言葉は半分本気で半分嘘だ。「すごく腹が立った」柚香は不安を押し隠すように、わざと怒った口調で返す。「夢の話なんて私に関係ある?じゃあ私が、あなたが玲奈と結婚して子どもまでいる夢を見たら、あなたに文句言っていいの?」「俺は彼女と結婚なんてしないし、感情的に関わることもない」遥真は彼女の目をまっすぐ見つめた。「君は?俺のそばから離れないって、約束できるか」柚香の両手に、じんわりと冷たい汗がにじむ。――騙すべき?騙さなければ疑われる。でも騙したら、そのあと何をされるか分からない。「どうして黙る」沈黙に刺されるように、遥真の声が低くなる。「本気で離れるつもりか?」「違う」柚香は決めた。騙すしかない。最初の一歩すら踏み出せなければ、その先なんて語れない。「同じこと、何度も答えたくないだけ。前と同じ、答えは変わってない」曖昧な言い方を許さず、遥真は言う。「ちゃんと答えろ」柚香は眉をひそめて彼を見る。「君のお母さんが弘志と離婚したあと、君は俺のそばを離れるのか」その問いに、柚香は初めて彼に嘘をついた。「離れない」「本当か?」柚香は彼を横目に、そのまま歩き出す。「信じるかどうかは、そっちで決めて」「信じる」遥真はそう言うと、本当に信じた。その日の深夜、彼はすぐに電話を
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第390話

「本気で嫌なら、理由の一つくらい作って海外出張に行けばいいでしょ」凛音は物事をはっきり見抜くタイプだ。「海外の支社だって、やることはいくらでもあるはずだし」時也「……」時也は本音を隠さない友人だった。「僕が行ったら、あいつどうするんだよ」凛音はふざけた顔でからかう。「それで片想いしてないって言うの?」「これは純粋な友情だって!」時也は変な噂を背負う気はなかった。「僕がいなくなってあいつに何かあったらどうする。ひとりで抱え込ませるわけにもいかないだろ」前だって、あいつが柚香と落ち着いたのを見届けてから、やっと安心して海外に行ったんだ。なのに今、柚香とこじれたら、あいつの世界、また崩れるんじゃないか。「あなたがいなきゃ生きていけないってわけでもないでしょ?」凛音はこういうことに関しては誰よりも冷静だ。「あなたが思ってるほど弱くないよ。今の彼は、自分自身であるだけじゃなくて、夫であり父親でもあるんだから」時也「?」それで?凛音はひとつ問いを投げた。「じゃあさ、あなたは?同じ立場なの?」時也は食いついた。「は?僕?違うに決まってるじゃん」凛音「うん」時也はますます訳がわからなくなった。意味を聞こうとしたそのとき、凛音はさっさと帰れと言わんばかりに追い出しにかかる。時也は厚かましくも帰らず、この数日はここに居座るつもりだった。何かあったとき、すぐに彼女を連れて行って、あの重い空気を少しでも和らげるために。凛音は相手にする気もなく、そのまま部屋に戻って寝てしまった。19日。柚香は陽翔を連れて安江と一緒に離婚届受理証明書を受け取りに行った。弘志も素直に応じ、10分もかからず手続きは終わった。手にしたその証明書を見つめながら、弘志は苦く笑い、安江に言った。「ひとつ聞いてもいいか?」安江は陽翔の手を引きながら答える。「どうぞ」弘志は一度柚香に目をやってから尋ねた。「……柚香の父親は、誰なんだ」「少なくとも10分前までは、父親はあなただけだった」安江はけじめのつけられる人間だ。この先はひとりで、その両方の役割を担っていくつもりだ。弘志は一瞬言葉を失い、胸の奥にさまざまな感情が込み上げた。「もしも、あのとき、全部お前の言う通りにしていたら……橘川グループは倒れずに済んで、俺たち家族も、それなりに幸
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