「ん~、美味しい!」シフォンケーキを一口食べた朋美様が相好を崩す。皆さまにお出しするケーキの端っこ。それを、コーヒーカップの準備を手伝っていただいたお礼として朋美様に出した。端材とはいえ味に遜色はないし、むしろ香ばしい味わいで、私自身はこちらも好きだ。それに、朋美様がこれを狙って手伝いを申し出てくださったことも分かっていた。「これ、絶対に武美ちゃんの好みだよ」頬を緩めながら朋美様が言う。フォークで小さく切り分けながら、首を傾げた朋美様。「いつもの美香さんのクリームとは少し違うよね」「ええ。武美様のお好みに合うように少し調整しました」「え、武美ちゃんの好みを知ってたの?」好みを知っていたというか……。「武美様のことは、ここにいらした皆さまの会話でよく耳にしていて、どなたが仰ったかまでは忘れてしまいましたが、武美様がお好きだというケーキを聞いた覚えがあって」知っている店だった。完全に再現はできなかったが、武美様の好みに合うように少しだけ寄せてみた。朋美様の反応を見るに、成功したようだ。「美香さん、親戚の話を覚えているの?」朋美様は少し驚いたように目を丸くする。「まさか、全てを覚えているわけではありません。ただ、重要そうな情報だけを拾って覚えているだけです」それはもう癖のようなものだ。花嶺家では、「言われていないからやらなかった」という言い訳は通用しなかった。むしろ「言ったでしょう」と私のせいにされて怒られて、そのたびに罰を受けた。罰は決して身体的なものばかりではない。私にとって何より重かったのは、自分の時間を奪われることだった。休むことも、考えることも許されず、ただ働かされる時間。その苦しさを知っているからこそ、私は会話を覚えておくようになった。独り言のような呟き。会話の端にこぼれる希望や不満。それらを拾い集め、次に何を求められるかを予測する。そうすることで、ようやく罰を避けることができるようになった。.「はあ……すごいわ。お祖母様が美香さんを気に入る理由が分かる気がする」「ありがとうございます」「というか、最近は他の人たちも美香さんのこと大好きだよね」朋美様は感心したように肩をすくめる。「それはとても嬉しいです」私は軽く微笑む。「だってさ、お兄の婚約のことで愚痴りに来たはずなのに、帰る頃には全
最後更新 : 2025-12-17 閱讀更多