「ん~、美味しい!」お湯が沸くのを待つ間、朋美様にコーヒーカップの準備を手伝っていただいたお礼として、皆様にお出しする予定のシフォンケーキの切れ端をお出しした。もちろん、これは端材とはいえ味に遜色はないし、むしろ焼き立てに近い分だけ香りも柔らかい。それに――朋美様がこれを狙って手伝いを申し出てくださったことも、分かっていた。「これ、絶対に武美ちゃんの好みだよ」頬を緩めながら朋美様が言う。フォークで小さく切り分けながら、彼女は首を傾げた。「いつもの美香さんのクリームとは少し違うよね。武美ちゃんの好み、知ってたの?」その問いに、私は手元の作業を止めずに答える。「武美様のお名前は、ご親族の皆様の会話の中でよく耳にしておりましたから。武美様がお好きだと仰っていたケーキを、以前に私もいただいたことがありまして……それを思い出して、お口に合えばと思い、少しだけ寄せてみました」「……美香さん、親戚の話を覚えているの?」朋美様は少し驚いたように目を丸くする。まさか、と心の中で苦笑する。「一言一句を覚えているわけではありません。ただ、重要そうな情報だけを拾っているだけです」.それは、昔からの癖のようなものだった。花嶺家では、「言われていないからやらなかった」は通用しなかった。むしろ「言ったでしょう」と叱責され、そのたびに罰を受けた。罰は決して身体的なものばかりではない。私にとって何より重かったのは、自分の時間を奪われることだった。休むことも、考えることも許されず、ただ働かされる時間。その苦しさを知っているからこそ、私は誰かの何気ない一言にも耳を澄ませるようになった。独り言のような呟きや、会話の端にこぼれる希望や不満。それらを拾い集め、次に何を求められるかを予測する。そうすることで、ようやく罰を避けることができた。「はあ……すごいわ。本当に。お祖母様が美香さんを気に入る理由が分かる気がする。……というか、最近は他の人たちも美香さんのこと好きになってるよね」朋美様は感心したように肩をすくめる。「まあ、それなら嬉しいですわ」私は軽く微笑む。「だってさ、お兄の婚約のことで愚痴りに来たはずなのに、帰る頃には全員が『あれ美味しかった』とか『次は何が食べたい』とか言ってるじゃない。実際、リピーター多いし」確かに、と内心で頷く。「蓮司様のご婚約が、ご親族の
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