オークションの品々が次々と運び込まれ、やがて照明がゆっくりと落とされていく。紬が今夜身に纏っている紫のシフォンドレスは、暗がりの中でほのかな銀光を帯び、静かに揺れていた。「……美しい」「え?」聞き間違いかと思い、紬は隣に座る男を横目で見た。理玖は思わず漏れた本音に内心で舌打ちしながら、何食わぬ顔でグラスを手に取る。「……何でもない」紬はなおも数度、彼を盗み見た。だが特に変わった様子もないと確信すると、再び視線を戻し、出品物へと意識を向けた。先ほどの筆よりも高額な品はあったが、最終落札の熱気は、あの一件には遠く及ばない。紬は、かつてネットや書籍で一目見て心を奪われた絵画の数々を実際に目にし、静かな感動に浸っていた。惜しむらくは手持ちの資金が心もとないことだが、それでも目の保養ができただけで十分だった。一方で、あの正体不明の1番ボックス席の入札者は、今もなお執拗に価格を吊り上げ続けている。いくつかの品では、もはや天井知らずの独走に入っている気配さえあった。最終展示のセクションに入ると、主催側が無償提供されたジュエリーの一部をテーブルに並べ、来場者に披露し始めた。その中に、一つの赤玉石のブレスレットがあった。色艶はしっとりと古雅でありながら、透明度は驚くほど高い。それを目にした瞬間、紬の瞳が大きく揺れた。――あれは……お母さんのブレスレット。あの日、両親が不慮の交通事故に遭った際、警察から返却された遺品の中から、いくつかの身の回り品が不可解にも消えていた。このブレスレットは祖母から母へと受け継がれたもので、母は片時も離さず身に着けていたはずだ。紬はてっきり、事故で失われたものだと思い込んでいた。だが今、それは傷一つない姿で、静かに展示台の上に鎮座している。内側の隅に刻まれた、注意深く見なければ気づかないほどの小さな傷跡。間違いない、母のものだ。紬の胸に、千々に乱れる思いが押し寄せる。――どうして……お母さんのブレスレットがここに?あの事故には、当時から不審な点が多すぎた。そして、あの日、明が口にした言葉。それもまた、何か裏があることを示唆していた。激しい頭痛が、紬を襲う。ここ数日、成哉との離婚騒動に振り回され、この件を危うく棚上げにするところだった。
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