Tous les chapitres de : Chapitre 41 - Chapitre 50

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41.一緒にいたい。

約2時間の仕事を終えた後、私は今度は自分のクラスの出し物の仕事をしていた。私たち2年の進学科の出し物は、廃校になった過去の鷹野高校から脱出する、という内容の脱出ゲームだ。会場は第二校舎の3階と4階の教室全てで、各教室には、様々な謎が隠されている。その各教室にある謎を解きながら参加者は脱出を目指すのだ。脱出ゲームをスムーズに進行する為に、各教室には、2年の進学科の生徒が1人から多ければ4人ほど配置されていた。ボロボロのカーテンに薄汚れた黒板。並べられた机や椅子は乱雑で、倒れているものさえもある。さらには、古びた教科書やノートまでも散らばっており、もうここは何年も教室として機能していない、とわかる場所に私はいた。私のここでの仕事は、決められた場所で、決められたセリフ、行動をする、というものだ。私は窓際にある椅子に腰掛け、本を読むフリをしながら、参加者がここに来るのを待っていた。すると、何人かの生徒たちが、この教室へと入ってきた。それから私の存在を気にしながらも、探索を続け、私におそるおそる話しかけてきた。「あ、あの…。何かヒントってあったりします?」本から視線を上げると、伺うようにこちらを見る女子生徒と目が合う。私は淡々と決められていたセリフを吐いた。「あの子には好きな人がいた。これを…」それだけ言って、机から一枚の紙を出す。この紙こそが、謎を解く重要な手がかりになるのだ。私から紙を受け取った女子生徒は「ありがとうございます!」と言い、一緒にいた他の生徒とその場を離れた。そしてそれを見ていた他の生徒が、先ほどの女子生徒と同じように私に話しかけてきた。なので、私は全く同じ対応をした。この教室を担当する進学科の2年の生徒は、私しかいない。ひっきりなしに現れる参加者たちに、1人で変わらず対応を続けていると、ようやくその人の波が途切れた。先ほどまで誰かしらいた教室に、今は誰もいない。やっと訪れた休息に、私は息を吐いた。少しくらい休憩しないと、疲れる。ずっと1人で対応し続けるのは、かなり大変だ。「…ふぅ」窓から空を眺め、もう一度息を吐いた。綺麗な晴天が窓の向こうにいっぱい広がっている。さらにその下には、たくさんの文化祭を彩る装飾がされており、生徒たちの頑張りが形になっていた。晴れてよかったな…。「ねぇ、お姉さん」窓の
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42.お礼に。

「お姉さん、お待たせ」いつものように飄々とした態度で再び現れた千晴の手には、何故かクラスメイトの男子生徒がいた。千晴に学ランの首根っこを掴まれている男子生徒は、顔面蒼白でガタガタと体を震わせていた。…一体なんだ、あれは。思わぬ、千晴の再登場に目を細め、眉間にシワを寄せる。颯爽と現れた長身の金髪美人の手に、首根っこを掴まれ、怯えた男子生徒。改めて思う。…なんだ、あれは。何を言えばいいのか、何からツッコミを入れればいいのか、悩んでいると、千晴は嬉しそうに口を開いた。「この人がお姉さんと代わってくれるって」「…へ?ふぇえ?」千晴の言葉に男子生徒が、今聞きました、といった様子で目を見開く。「お、俺、そ、そんなつもりは…」「何?でもアンタ言ったじゃん。助けてくれるって。だから助けてよ」「い、言いましたけれど…」「俺、このままじゃ脱出できないし」「え、ええ。だから俺が…」千晴は淡々と言っている。脅しているような素振りもない。だが、そのセリフ一つ一つが怖いのか、男子生徒の言葉はどんどん弱々しいものへとなっていった。さすがにもう見ていられない。「千晴!やめなさい!今すぐ、中本くんを元の場所に…」椅子から立ち上がり、千晴の元へとずんずんと向かう。そんな私を見て、千晴は表情を変えた。「ねぇ?いいよね?」「は、はいぃ!もちろんでございますぅ!」千晴に笑顔で凄まれて、男子生徒が泡吹いて倒れそうな勢いで返事をする。半泣きになっている彼に、私はかなり同情した。理不尽すぎる。「…だって。だから一緒に行こ、お姉さん?」男子生徒の答えに満足げに瞳を細め、その手からやっと千晴は男子生徒を解放する。「だ、大丈夫?中本くん?」「…だ、大丈夫。ここは俺に任せて。華守くんをどうかお願い…」解放された男子生徒の元へ行き、尋ねると、男子生徒は一粒の涙を流し、笑顔でそう言った。まるで事切れる前のように。男子生徒から千晴の方へと視線を戻す。すると、私と目の合った千晴はその瞳をキラキラと輝かせた。「一緒に行こう」とその瞳が言っている。…おそらく、ああなっている千晴に「1人で行け」と説得するのは不可能だろう。そんなことをすれば、周りを巻き込んで、あの手この手で私をここから動かそうとするはずだ。ここまでされてはもう私の答えは一つだった。「…わ
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43.自覚。side悠里

side悠里慌ただしく時間は過ぎていき、あっという間に午後になった。先ほどまでクラスのカフェにいた俺は、今度はバスケ部の出し物の為に、ユニフォーム姿で体育館にいた。バスケ部の出し物は、スリーポイントラインから3回シュートを打つ、というシンプルなスリーポイントシュートゲームだ。3回中1回でもシュートが決まれば、ユニフォーム姿の部員、もしくはジャージ姿のマネージャーとチェキが撮れる、という特典もある。体育館の壁には、部員やマネージャーの写真が、まるでホストクラブのようにデカデカと貼られており、そこから誰とチェキを撮るのか決められるようになっていた。ちなみにうちの部のマネージャーは男なので、写真相手は男しかいない。二日間行われる文化祭の中で、俺の自由時間は、明日の午後だけだった。その午後の時間はもちろん、柚子と過ごす予定になっている。そんなことを考えていると、ふと、先ほど会えた柚子の姿が頭に思い浮かんだ。いつもと変わらない長い綺麗な黒髪をポニーテールにしている柚子。けれど、その格好はいつもとは違い、紺色のセーラーで。…セーラーも可愛かったな。頬を赤らめてこちらを見つめる柚子の姿を改めて思い出し、俺はその可愛さを噛み締めた。最初は本当に最低だが、フラれるつもりで告白した。それがたくさんの人から向けられる俺への好意を止める手段の一つだったからだ。けれど、一緒にいるうちに、いろいろな柚子を一つ一つ知っていくうちに、確実に惹かれていった。きっと少しでも一緒にいたいと思うのも、ふとした瞬間に思い出して可愛いと思うのも、華守相手につい嫉妬してしまうのも、全て柚子が好きだからだ。きっとこの想いこそが〝恋〟なのだ。「悠里、最近、鉄子といい感じじゃん」バスケゴールの下で、お客さんを待っていると、陽平が気だるげな笑顔でそう話しかけてきた。「…そう、かも。これも全部、相談に乗ってくれた、みんなや陽平のおかげだよ」「ん。よかったな」「うん。ありがとう」俺の答えに優しく目を細めた陽平に、俺は改めてお礼を言った。やはり持つべきものは何でも言い合える仲間だ。みんなのおかげで、あの謎のモヤモヤの正体を知ることができたし、どうすればいいのか解決策もわかった。きっとみんなに相談せず、1人で悩み続けていたら、答えに辿り着くまでに相当時間がかかっただろう。
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44.スリーポイントシュート。side悠里

柚子から放たれたボールは、俺の予想に反して、確実に入る軌道でゴールへと向かった。そしてそのボールは吸い込まれるように、リングへと落ちていった。柚子が放った綺麗なシュートは、この場を一気に支配し、全員の視線が柚子へと注がれた。「…え、鉄子、バスケ経験者?」「すっげぇ、いいシュートだったな」柚子のシュートに、バスケ部員たちがざわつき出す。部員たちの視線を一身に受けながらも、柚子は気にする素振りさえ見せず、2本目を放った。そのシュートも綺麗な軌道で、リングに当たることなく、ネットを揺らす。その次に放たれたシュートもまた同じだった。気がつけば、体育館中の人たちが柚子のシュートを固唾を飲んで見守っていた。この時点でスリーポイント連続得点を決めた参加者は、柚子が初めてだった。部員でさえも、連続得点はプレッシャーなどから難しい。それを柚子は涼しい顔でやってのけた。「…す、すげぇ」静まり返っていた体育館に誰かの呟きが響く。そしてそれを皮切りに、部員たちは口々にいろいろなことを言い始めた。「うちに女子バスケ部があれば…」「クラブに所属すればいんじゃね?」「鉄子に隙なし、だな」「サイボーグじゃん」誰もが驚き、信じられないといった表情を浮かべ、柚子を讃えている。「柚子、すごいね!今のはなかなかできることじゃないよ?」全てのシュートを見事に決め、涼しげな表情で立つ柚子に、俺は興奮気味で駆け寄った。するとそんな俺に柚子は照れくさそうに、はにかんだ。「えへへ。実はちょっとスリーポイントシュートだけは得意で…」「スリーポイントだけ?」「うん、スリーポイントだけ」おかしなことを言う柚子に首を捻る。スリーポイントだけ得意とかあるのだろうか。スリーポイントが入るなら、普通のシュートも、フリースローもなんでも入るはずだ。なので、〝スリーポイント〟だけが得意なのではなく、〝シュート〟自体が得意、が正解なのでは?柚子の言動を不思議に思っていると、浪川さんがニヤニヤと笑いながらこちらに近づいてきた。それから全ての謎の答えを柚子をからかうように口にした。「柚子、この日の為に夜な夜な近所のバスケットコートで、スリーポイントシュートの練習だけしたんだよねぇ」「…っ。ちょ、雪乃!それは言わないでよ!」「いいじゃん別にぃ。柚子の努力、すごいじゃん?
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45.好きが溢れて。side悠里。

「…あ、あの、今いいですか?ちょっとお聞きしたいことが…」 肩で息をしながら、遠慮がちに柚子を見つめる女子生徒。そんな女子生徒に柚子は嫌な顔一つせず、冷静に尋ねた。「何があったの?」「じ、実は、予算の話と、3年普通科で揉め事がありまして…」一生懸命何があったのか話し出した女子生徒に、柚子は真剣な表情で耳を傾ける。それからしばらく聞いた後、一呼吸ついて、申し訳なそうに俺を見た。「…悠里くん、ごめん。ちょっと、立て込みそうで…」「わかった。すぐに行ってあげて。チェキはあとにしよう」「せっかく私の為に時間作ってくれたのに…。本当にごめん」「いいよいいよ。それよりも早く行ってあげて」「…うん」笑顔で柚子を送り出す俺に、柚子が申し訳なさそうな顔で背を向ける。俺の対応に女子生徒は「あ、ありがとうございます!悠里先輩!」と半泣きで頭を下げ、柚子の隣へと駆け寄った。小さくなっていく柚子の背中を見て、改めて、柚子はすごい人なのだ、と感じる。あんなにも頼りにされて、学校の風紀を守って。可愛いところもあるけど、きちんと仕事をする責任感と強さもある。惜しみなく努力もし、スリーポイントシュートをあそこまで完成させる力もあって…。何て眩しい存在なのだろうか。遠ざかる背中に、俺はまた好きが溢れた。体育館の壁に体を預けて、柚子のことを考えながら、柚子を待つ。そんな穏やかな気持ちでいると、その声は聞こえてきた。「さっきのやばかったねぇ!」楽しそうにはしゃいでいる女子生徒の声が、体育館の開かれた扉の外から聞こえてくる。俺はその声に自然と耳を傾けた。「千晴くんってああいうことするんだね!」「でも、あれは鉄子先輩だけだよねぇ」「そこがまたたまんない!」え。女子生徒たちの会話に胸がざわつきだす。ーーー華守と柚子に何かあったのか。話の内容が気になり、俺は外の声に集中した。一言も聞き逃さないように。「…で、あそこでキスするなんてね!さすがの鉄子先輩もたじたじだったじゃん!」「あれは反則だよねぇ。鉄子先輩も美人だし、絵になるよね、あの2人」「結局どっちと付き合ってると思う?てか、付き合ってて欲しい?」「千晴くん!」「悠里先輩!」楽しそうな女子生徒たちの声に、俺の体温は一気に冷えきった。指先からどんどん感覚がなくなっていく。今の話は現
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46.文化祭二日目。

side柚子昨日は最高の1日だった。推しからのファンサに次ぐファンサ。吸血鬼カフェでの吸血鬼な悠里くん。バスケ部の出し物でのユニフォーム姿の悠里くん。オムレツを私から食べ、チェキ撮影まで。まるで夢のような1日で、さらにはカップルコンテスト出場の名誉までいただけるとは。全てが最高で、最強。素晴らしい。悠里くんのことで頭がいっぱいだ。けれど、その中に、千晴の姿もあった。昨日の千晴は心臓に悪かった。無茶を言ってそれを通す姿はいつも通りで、呆れてしまったが、まさか最後の最後におでこに、…キ、キスをしてくるとは。あんなこと、誰にもされたことなどない。初めてだった。近づく千晴の顔は美しく、迫る金髪は輝いていて。そっと触れられた唇の柔らかさと熱が、今も消えてくれない。嫌というほど何度も何度も繰り返し、あの場面を鮮明に思い出してしまう。「…んんっ」また思い出してしまったあの場面に、私は軽く咳払いをして、ぶんぶんと首を横に振った。千晴はただの後輩だ。何を意識しているんだ。あれはきっと千晴なりのお世話になっている先輩に対する変な愛情表現なのだ。大金持ちのボンボンなら、今まで海外で過ごす時間もあったはず。そこでそういったスキンシップの方法を学んだのかもしれない。その結果、あの場面でキスをかましてきたのだ。ーーー全く、心臓に悪いやつだ。仲の良い相手が私しかいないので、日本人の適切な距離感をいまいちわかっていないのだろう。先輩としてきちんと正しい距離感を教えなければ、今後千晴の周りに死人が続出してしまう。「柚子?どうしたの?」1人で忙しなく顔色を変えていると、隣にいた悠里くんが心配そうに私を見た。「あ、いや!何でもない!ちょっと考え事してて!」なので、私は、そんな悠里くんに慌てて首を振った。決して心配されるようなことはない、と。文化祭2日目の午後。私と悠里くんは、さまざまな出し物で賑わっている第一校舎の廊下を歩いていた。ずらりと並ぶ各教室には、それぞれ工夫を凝らした装飾がされており、たくさんの生徒や外部のお客さんたちで賑わっている。定番であるお化け屋敷のクラスの装飾は、暗く不気味に、少し歩いた先にある縁日のクラスは、和風で懐かしく、その向こうにある美術部の展示は、美術館をイメージした落ち着いた白で統一されていた。歩く先
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47.お願いです!先輩!

カップルコンテストの掲示板から離れた後、私たちは限られた時間を目一杯楽しんだ。お化け屋敷は苦手なので入らなかったが、縁日に行ってヨーヨー釣りをしたり、美術部の展示物を見たり。いろいろなところを見て回り、クレープを食べ終えた私たちが次に向かった場所は、第二体育館にある、超大型迷路だった。 「面白かったね、悠里くん」そして第二体育館の超大型迷路から出た私の第一声はこれだった。「だね。ちょっと難しいのがまたよかったよね」それに悠里くんは笑顔で応えてくれる。そんな悠里くんに私は続けた。「うん。わかる。普通の迷路とはちょっと違う要素があるのがわくわくしたよね」「本当、それ。あの選択するところとか、ちょっと凝っててすごかったし」「わかる…!私も刺さった、あれ!あとその後の…」先ほどまで楽しんでいた迷路の感想を笑顔で言い合いながら、私たちは体育館の外を何となく歩く。私たちが今まさに楽しんでいた、3年普通科の〝超大型迷路〟は、本当になかなか面白いものだった。ただの迷路ではなく、所々にいろいろなギミックがあり、一筋縄ではいかないようになっていたのだ。行き止まりだと思っていた場所が押してみると扉になっていて進めたり、アイテムを揃えると、新たな道ができたり。初めての体験に、私は高揚していた。「…ふふ」笑顔で話し続ける私に、突然、悠里くんがおかしそうに目を細める。何の脈略もなく笑った悠里くんに、首を捻ると、悠里くんは柔らかく笑った。「…ごめん、柚子が可愛くて、つい」手の甲で口元を隠して笑う悠里くん。輝いて見えるのは、太陽の光を浴びているからなのか。推し、相変わらず尊い。「あ!いた!」悠里くんの笑顔に尊さを感じ、世界に感謝していると、少し遠くの方からそんな声が聞こえてきた。「…て、鉄子せ、じゃなくて、鉄崎先輩!」それからその声は私を後ろから呼び止めた。一体、誰に突然呼び止められたのか。私を呼び止めるのは、大体風紀委員の生徒だ。トラブル対応や、聞きたいことなどで、文化祭期間中、何度も何度も彼らに声をかけられてきた。だが、今、私に声をかけている者は、風紀委員の生徒の声でない。不思議に思いながらも、振り向くと、そこにはやはり面識のない女子生徒が2人立っていた。「きゅ、急に声をかけてごめんなさい!けど、緊急でして!」「た、助けてく
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48.舞台本番。

そこから私はあっという間にお姫様に仕立て上げられた。今、私が問題なく着ている水色と白色のパンツスタイルのドレスは、最初は男子生徒が着るものだったので、私にはかなり大きかった。だが、進学科の生徒たちは、私でも着られるようにと手を必死に動かし続け、何とか形にしてみせた。またいつもポニーテールにしている髪は、今は綺麗にまとめられており、頭には綺麗なティアラまである。生徒たちの手によって、軽く化粧までされて、私は誰がどう見ても、〝お姫様〟になっていた。「…う、うぅ。せ、先輩、本当にすみません…」全ての準備を終え、舞台裏に立っていると、本当に顔色の悪い男子生徒が、泣きながら謝罪してきた。その謝罪してきた生徒は、まさに昨日バスケ部の出し物のところにいた、あの顔色の悪い生徒で、何故彼があの時死にそうな顔をしていたのか、今になって理由がわかった。プレッシャーに耐えられなかった生徒とは、悠里くんの後輩である、バスケ部の彼だったようだ。「お、俺、ちゃんと裏方で先輩のサポートしますから…。本当、すみません」泣きじゃくる男子生徒に私はポンッと肩を叩いた。「大丈夫よ。あとは任せなさい」「ぜ、ぜんばーい!!!!!」力強い私の言葉に、ぶわぁ!と、また男子生徒は泣き出す。そんな男子生徒に困ったように笑っていると、突然、舞台裏が静まり返った。先ほどまでの喧騒がまるで嘘かのように、何も聞こえない。泣いていた男子生徒でさえも、それをやめ、ある場所に視線を奪われていた。この場にいる生徒たちが皆、視線の先で息を呑む。「先輩」全員の視線を奪っていた存在、千晴は嬉しそうに私の名前を呼んだ。いつもの金髪ではなく、ふわふわの黒髪から覗く、綺麗で美しい顔。スラリとした高身長に、周りの目を引くモデルのようなスタイル。ただでさえ、精巧な人形のような見た目の千晴が、白と金の王子様服を身にまとうことによって、その美しさに磨きがかかり、どこか浮世離れした存在になっていた。私は千晴を見て、何故、急にこの場にいた全員が息を呑んだのかわかった。私も気がつけば、周りの生徒たちと同じように千晴に視線を奪われ、息を呑んでいた。静かに心臓が脈打つ。何故なのかわからないが、千晴を見ていると、緊張してくる。千晴におでこへキスされた時と同じような感覚に、私は首を捻った。今はドキドキするような
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49.お姫様にキスを。

まずは観客に背を向けて、両膝をつくと、私は千晴が眠っている棺桶を覗き込んだ。「お姫様は白雪王子を見て思いました。何と、美しい方なのだろう、と」ナレーションは止まることなく、予定通り進んでいく。そのナレーションに合わせて、改めて、私はじっと千晴を見た。色とりどりの花に囲まれて眠る千晴は、どこか幻想的で儚かった。正直棺桶内は観客席からはあまり見えない。ここまで精巧に作られているのは、きっとクラスメイトたちの趣味からなのだろう。長いまつ毛が白い肌に影を落とし、その可憐さに拍車をかけている。相変わらず、黙ってさえいれば、美しい子だ。千晴の美しさに見惚れながらも、私は練習通り、棺桶の蓋に手を置いた。それからゆっくりと、千晴に顔を近づけた。キスをするフリをするだけ。わかっているのに、心臓が早鐘を打つ。どんどんそれはスピードをあげ、今にも壊れてしまいそうだ。照れるところではない。これは演技だ。そう言い聞かせて、目を閉じた。頬に熱を感じながら。「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました」ナレーションに合わせて、キスをするフリをし終え、ゆっくりと顔をあげる。今の体勢が観客に背を向けるもので良かったと、心の底から思う。きっと今の私の顔は、真っ赤で、人様には見せられない。「すると、何ということでしょう。呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」それから今度は千晴が、ナレーションに合わせて、ゆっくりと上半身を起こした。「素敵なお方、どうか私と結婚を…」そんな千晴の手を取り、私は続ける。しかしナレーションの途中で、何故か千晴は私に迫ってきた。吐息が当たる、そんな距離。そこからまっすぐと千晴に私の瞳を覗かれて、ゆっくりと私の唇に千晴の唇が重ねられる。私のおでこにも触れた、あの熱だ。「…っ!」キスされた。数秒して、私はやっと状況を理解した。一瞬だけ触れた唇は、熱を帯びたまま、名残惜しそうに離れていく。「「「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!!」」」次に会場を包んだのは、殺人事件でも起きたのではないか、と思うほどのとんでもない叫び声だった。間違いなく、数名は倒れているのでは?と、心配になる熱を背中に確かに感じる。この千晴の突然の行動に、ここまで予定通り進められていたナレーションも、さすがに止まってしまっていた。そして私は顔を真っ
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50.私の一番星。

輝く星空の下。グランドの上空には、色とりどりの生徒お手製の提灯が吊るされており、お祭りのような雰囲気が広がっている。文化祭の全てのプログラムを終えた生徒たちは、ここで、後夜祭という名の打ち上げをしていた。灯を灯された提灯の下には、テーブルが並べられており、軽食や飲み物がある。それを楽しむ生徒たちの視線の先には、メインステージがあり、そこでさまざまな催し物が行われていた。まず、行われたのは、生徒会による文化祭の結果発表だ。各部門の最優秀賞に選ばれたのは、出し物部門は、普通科三年の超大型迷路で、部活部門は、バドミントン部の占いの館だった。この結果を聞いた時、「悠里くんのクラスの吸血鬼カフェが最優秀賞じゃないのかぁ」とちょっと残念に思ったが、確かにあの迷路はなかなか面白かったので、納得できた。そして、最後。舞台部門なのだが、何と千晴たちのクラスの白雪王子が最優秀賞に選ばれた。あの盛り上がり方、おそらくぶっちぎりだったのだろう。結果を聞かずとも、何となくそうなのだろうとは思っていた。結果発表が終わった後、次に行われたのは、有志によるバンドのライブだった。この後はダンス部がダンスを披露するらしい。ステージ上のライブに、盛り上がる生徒たちの背中を見ながら、私はほっと一息ついていた。いろいろあったが、大きな問題もなく、無事終えられた。文化祭中の風紀委員長としての荷がやっと下りた瞬間だった。私は今、あの生徒たちの喧騒の中にはいない。生徒たちの喧騒の後ろ、少し高いところに用意された小さな個室のような場所で、悠里くんと2人でいた。何故個室のような、と表現したのかというと、悠里くんといるここは上下左右、後ろが木の壁に囲まれており、ステージの見える前方だけ壁がなく、空いているからだ。空いているそこからはグランド全体を見渡せるようになっていた。横にはカーテンもあるので、閉めれば、プライベートな空間にもできるようだ。この個室にぴったりと収まる2人掛けのソファに、私たちは肩を並べて座っていた。この小さすぎるソファでは、どうしても悠里くんと肩が触れ合ってしまう。それもタキシード姿の悠里くんと、だ。私と悠里くんは見事、ベストカップルに選ばれていた。その特典として、今、推しである悠里くんはタキシード姿で、私と共にカップル席にいてくれている。悠里くんが
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