جميع فصول : الفصل -الفصل 30

38 فصول

21.推しと後輩。

沢村くんも合流して本格的に始まった勉強会。最初は話を全く聞いていない千晴にどうなることやら、と思っていた。しかし、そんな私の不安とは裏腹に、案外千晴は真面目に勉強に取り組み、わからないところがあれば、何度も何度も私に質問してきた。……ただ「わからない」と言う割には、説明を聞けばすぐに理解し、問題を解いていたので、本当にわからなかったのかは少々疑わしいところもある。わざとわからないフリをしていた可能性もあるが、そこには目をつむることにした。真面目に勉強に取り組む姿勢、それが大事なのだ。そして一緒に勉強していた沢村くんも千晴と同じく数学のテスト勉強をしていた。真剣な表情で机に向かう初めて見る推しの横顔。クラスが違うので普段なら絶対見られない貴重な一面に、何度も表情が緩みそうになったことは言うまでもない。沢村くんにときめく胸を抑えつつも、千晴に勉強を教えながら、その合間を縫って、私も自分の勉強を進めた。そんな中、沢村くんはしばしば手を止めて、私にわからない箇所を尋ねてきた。それに答えるたびに「ありがとう、鉄崎さん」と照れくさそうに笑う沢村くんに、何度心臓が爆発しかけたことか。推しの照れ笑いでこの命を散らせるなんて本望すぎる。千晴と沢村くんの勉強を見ながら私も勉強をする。この流れで勉強すること約2時間。あっという間に下校時刻となったので、私たちは一旦勉強を中断し、帰路につくこととなった。校庭の奥、街の向こう側に太陽がゆっくりと沈んでいく。ほんの数時間前までは青かった空も、いつの間にかオレンジ色に染められており、確かに時が流れたことを告げていた。そんな中、私たち3人は、私を挟んで、沢村くん、千晴で横に並び、共に校門を目指して歩いていた。「鉄崎さん、今日はありがとう。すごく捗ったよ」先ほどまでしていた勉強会を思い返していると、私の右隣にいた沢村くんが笑顔で私に話しかけてきた。夕日のオレンジ色を浴びる推しはなんて眩しいのだろう。物理的な意味でも、存在的な意味でも、どちらでも眩しい。「いや、こちらこそありがとう。教えることって自分の復習にもなるし、沢村くんのおかげでいい復習ができたよ」推しが二つの意味で眩しすぎて、私は思わず目を細めながらも、にっこりと笑った。「俺も先輩のおかげで勉強捗ったよ?明日もお願いね、先輩」気怠げに、だが、
last updateآخر تحديث : 2025-12-21
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22.もう少しだけ。

「そ、そういえば!お出かけといえば、沢村くんとのお出かけもとても楽しかったよね!」パンッと空気を変えるために手を叩き、私は努めて明るい声を出す。変な話の振り方になってしまったが、そこを気にしていては話は進まない。「わ、私、初めて家族以外の男の人と2人で遊んだんだけど、本当にあの日は楽しかったし、素敵な1日すぎて忘れられないんだよね。沢村くんがその相手だからすごく緊張したし」「え?緊張してたの?」「うん」なんとか沢村くんにも話に入ってもらおうと、沢村くんとの初デート話を沢村くんに振ってみると、沢村くんは何故かとても意外そうにこちらを見た。え、何故?「…え、あ、そっか。緊張してくれてたのか…」それから何故か噛み締めるようにそう言うと、口元を手で覆い、視線を下へと向けた。その大きな手からわずかに見える沢村くんの頬が少し赤い気がするのは気のせいなのか。「映画のチケットもらえたし、また行かない?」「っ!もちろん!」沢村くんからのまさかの2度目のデートの打診に嬉しさのあまり食い気味に返事をする。次の約束があることほど嬉しいことなんてない。私と沢村くんには未来があるのだ。「次は何観る?」「え、そうだね…。あ、千晴はどんな映画が…」沢村くんの質問に答える前に話の輪を広げようと、千晴の方を見れば、今度は何故か千晴がどこか面白くなさそうにこちらを見ていた。一瞬沢村くんと話していただけなのに。何故千晴は除け者されました、みたいな顔しているんだ。まるで被害者のようなその視線はなんだ!「ねぇ、千晴?千晴はどんな映画を普段見るの?好きな映画とかない?」「…アクションとか。ミステリーも好きかも」「うんうん。なるほどね。沢村くんはどんな映画が好き?」「俺もアクションかな。コメディとか恋愛ものとか、結構なんでも見るかも」「へぇ!じゃあ、私たちみんなアクション映画好きなんだねぇ。私もアクション映画が好きで…」何とかこの3人で話せないかと、2人の間で一生懸命話す私だが、千晴は無表情に、沢村くんはいつもの笑顔で私と話すだけで、千晴と沢村くんが直接話すことはない。結果、私が黙ってしまえば、なんとも気まずい無言の時間が発生してしまうという事態に陥り、私はただただ懸命に2人の間で話し続けるしかなかった。お願いだ、2人でも話を広げてくれ。*****なん
last updateآخر تحديث : 2025-12-22
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23.王子の悩み事。side悠里

side悠里放課後。床を蹴る音、ボールの弾む音、それから部員たちの声が体育館中に響く。そんな熱気の中、俺は今日も部活に励んでいた。テスト週間が終わり、1週間が経った。鉄崎さんと一緒に勉強したおかげで、テスト結果は過去最高で、改めて鉄崎さんの凄さを思い知った。そして、俺と同じように、鉄崎さんのテスト結果もよかったようで、鉄崎さんは嬉しそうに「沢村くんのおかげだよ」と笑いながら報告してくれた。…あの笑顔、可愛かったな。綺麗な黒髪から覗く、柔らかく細められた大きな瞳。緩む口元に少し紅潮した頬。嬉しそうに笑う鉄崎さんを見ると、なぜか心が暖かくなる。風紀委員長としてみんなから恐れられ、鉄子、と呼ばれている鉄崎さんだが、笑うと花のように可愛い。一緒にいればいるほど、知らなかった鉄崎さんの新たな一面を知ることができて、俺は嬉しかった。少しずつ、鉄崎さんの特別になれている気がして。けれど、鉄崎さんにとっての〝特別〟は俺だけではなかった。ーーー華守千晴。彼も鉄崎さんにとってきっと特別な存在だ。その素行の悪さから、学校中の生徒から恐れられ、距離を置かれ、大人である先生たちからも、どこか特別扱いされている、この学校では異質な生徒。そんな彼のことを、鉄崎さんはいつも彼のたった1人の友人として、気にかけており、彼に世話を焼いていた。鉄崎さんは誰にでも平等で優しい人だから。わかっている。そこが鉄崎さんの良さでもある、と。だからいいな、と思える。ーーーけれど。鉄崎さんはアイツのことを、千晴、と名前で呼ぶのだ。彼氏である俺のことは、沢村くん、と名字で呼ぶのに。しかもスマホのホーム画面もアイツとのツーショットで…。これではどちらが鉄崎さんの彼氏なのかわからない。現状にモヤモヤしていると俺にパスが回された。目の前には、2人のディフェンスが立ちはだかる。ああ、こんなこと今考えることではないのに。1人にフェイントをかけて、抜き去り、もう1人を引き連れて、そのままシュート体勢に入る。いつものように軽く放ったボールは弧を描いて…。カンッとリングに当たってしまった。シュートが外れてしまったのだ。いつもならほぼ入るシュートだというに。その後も同じように何度もシュートチャンスはあったが、どのシュートもゴールネットを揺らすことはなかった。**
last updateآخر تحديث : 2025-12-23
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24.約束の練習試合。

side柚子『鉄崎さん、週末空いてる?もし空いてたら、市営体育館で練習試合があるから観に来て欲しいんだけど…』とある日の帰り道。遠慮がちに私の様子を伺いながらそう言った沢村くんに、私は食い気味に「もちろん!」と答えた。そして現在。私は沢村くんとの約束を守る為に雪乃を誘い、雪乃と共に市営体育館へとやって来ていた。我が鷹野高校バスケ部の練習試合を観るために。「推しのバスケ…。ガチバスケ…」体育館内の廊下をぼんやりと見つめる私に、ふわふわとした感覚が込み上げる。今までこっそりとバスケをする沢村くんを観てきたが、きちんとしたバスケの試合を観るのはこれが初めてだった。普段とは違い、勝ち負けにこだわる大事な試合。練習とはいえ、いつも見ているものとは、明らかに違うのだろう。これからそんな真剣な試合に挑む沢村くんを観られるなんて。真剣な試合では一体どんな姿を沢村くんは見せるのだろうか。汗を流しながら必死に声を張り上げ、コート内を縦横無尽に走り回り、試合を支配するその姿。揺れる綺麗な黒髪から覗く、瞳は真剣そのもので…。「…へへ」想像しただけで、笑みが溢れてしまう。急にだらしなく笑い出した私に、雪乃は「怖いわ」と無表情のまま、軽くツッコミを入れてきた。「…どうせ、王子のことでそんな顔になってるんでしょ?」「…え、やっぱ、わかる?」「うん。顔に思いっきり書いてある」呆れたようにこちらを見る雪乃に、私は、はは、と渇いた笑いを漏らす。雪乃が相手だとどうしても気が緩み、思ったことがつい顔に出てしまう。一応他の人の目もあるので、泣く子も黙る、鷹野高校の風紀委員長として気を引き締めなくては。改めてキッと緩み切った顔に力を込め、いつものようにきちんとすまし顔を作る。それから何となく、私の隣でスマホを触る雪乃を見ると、雪乃は表情一つ変えず、誰かとスマホで何やらやり取りをしていた。おそらくお相手は先ほど体育館の入り口で声をかけてきた他校のイケメンだろう。ここに来る時も、『他校のイケメンを捕まえる☆』と、うきうきしていた。そしてその宣言通り、雪乃は声をかけてきたいろいろなイケメンと次々に連絡先を交換していた。その流れで私にも声をかけられそうになったが、そこは雪乃がいるので、そうならないように上手く立ち回ってくれた。ーーー雪乃、本当にすごい
last updateآخر تحديث : 2025-12-24
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25.なぜここに?

「華守学園、何か普通に強そうだったよね」沢村くんと別れた後。2階のギャラリーを目指し、私の横で私と同じように階段を登る雪乃に、先ほどチラリと見えた今日の練習試合の相手、華守学園について話を振る。うちの高校、鷹野高校バスケ部はスポーツ科もあり、いわゆる強豪校の部類だ。地区予選優勝は当たり前で、全国大会での高い成績も目指せる力を持っている。対する今日対戦する華守学園はこの地区では中堅どころで、弱くもないが、決して突出して強いわけでもない高校だった。何故私がここまでうちの地区のバスケ部事情に詳しいのかというと、それはもちろんこの日の為にいろいろと調べたからだ。「そうね。柚子の話的に金持ち学校のボンボンなんてうちの相手にならないんじゃない?とか思ってたけど、そうでもなさそうよね」「ね。普通に大きかったし。上手そうな感じしたよね」雪乃とそんなことを話しながらも、さらに階段を登っていく。その中で雪乃はふと、思い出したかのように口を開いた。「てか、千晴くんの名字と同じよね、華守って」「…え、まあ、そうだね」雪乃の指摘に私は、確かに、と頷く。華守なんて珍しい名前がこんな狭い世界で被るとは。世間は狭いなぁ、としみじみ思う。「千晴くんといえばだけど、この前の勉強会…と言う名の修羅場、どうだったの?柚子?」先ほどまで「バスケ?別に興味ありませんが」といった表情を浮かべていた雪乃が、千晴の話になると急にニヤニヤして楽しそうな表情になる。その愛らしい目は興味でいっぱいだ。なので、私はそんな雪乃に「別に普通だったよ。修羅場になんてならなかったし、みんな成績良くなってたし、いい会だったんじゃないかな?」と淡々と答えた。「…ええ?それ本当?アンタが鈍くて修羅場に気付いてないだけじゃない?」「いやいや。そんなことないって」じとーっと信じられないとこちらを見る雪乃に、苦笑いを浮かべながらも、やっと2階のギャラリーへと着く。それから適当に席を選び座ろうとした、その時。突然、2階のギャラリー内がざわめき出した。「ねぇねぇねぇ。あれってそうだよね?」「私今、幻見てる?」「アイツがいるならいい試合できるんじゃないか?」どうやら華守学園の生徒らしき人たちがコート内の誰かを見て、ざわついているようだ。「え、待って待って。めっちゃかっこよくない?」「何で
last updateآخر تحديث : 2025-12-25
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26. 君の声。side悠里

side悠里コートを半分に分け、練習試合前のアップをする両校。その中でも一際目立つ存在は、俺たち鷹野高校バスケ部の部員からも視線を奪っていた。「…なぁ、あれってうちの華守だよな?」「な、何で、華守学園に華守がいるんだ?」「しかも普通に上手いし…」アップを続けながらも部員たちはちらちらと何度も何度も華守を見る。時には見間違いではないかと、疑わしく、時には何故そこにいるのかと、不思議そうに首を傾げていた。そして俺もまた他の部員たちと同じような視線を華守に向けていた。華守の格好はまさにバスケ上級者のそれで、特にシューズが初心者とは違った。きちんと履き慣らされ、手入れされていることがわかるバッシュなのだ。さらに格好通り、バスケをする姿は上級者そのもので、普通に上手かった。まだ練習しているところしか見ていないが、それでも華守が華守学園内で一番の実力者だということはわかる。華守学園バスケ部は華守がいることで、実力が底上げされているように見えた。今の華守学園はうちの地区では中堅どころだが、華守がいるだけで、上位に入れそうな雰囲気さえもある。練習を続ける華守から視線を外し、自分も練習に身を入れる為に、自分たちのコートへと視線を戻す。ーーーー鉄崎さんにかっこいいところを見せたい。改めて気合を入れていると、俺の足元に華守学園からバスケットボールが転がってきた。俺は特に何も思わず、そのボールを拾う。それからこちらに歩み寄ってきた人の気配に顔を上げた。「先輩、こんにちは」へらりとこちらに笑い、やって来たのは、なんとあの華守だった。華守は表情こそ笑っているが、目は鋭いままで俺を見ていた。俺を殺したいほど憎んでいる、と言われてもなんら不思議に思わない鋭さだ。「…は、華守…くんは何でここにいるの…。しかも華守学園の選手で」拾ったボールを華守に渡しながらも、華守に対して、今まさに疑問に思っていることをそのまま俺は口にする。「柚子先輩にかっこいいところ見せたいから」すると華守は至極当たり前ように淡々とそう答えた。欲しかった答えとは微妙に違う華守の答えに、違うと思うよりも、モヤモヤした感情が勝ってしまう。そのモヤモヤの原因がなんなのかはよくわからないが。そう思っている内に華守はさっさと俺の側から離れ、華守学園側へと自然な流れで戻っていった。
last updateآخر تحديث : 2025-12-26
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27.眩しくて尊い。

side柚子沢村くんから放たれたシュートが綺麗な弧を描き、まるで吸い込まれていくようにゴールへと落ちていく。それから審判のホイッスルが鋭く鳴り響いた。ーーーー得点だ。そう理解した瞬間、会場中が沸いた。 「す、すごい!今の決めるの!?」「かっこよすぎねぇか!」「いいぞー!悠里ー!」鷹野高校の生徒だけではなく、華守学園の生徒までも、先ほどの沢村くんのワンプレーにどよめき始める。そしてそのまま2点リードで試合は終了した。「…〜っ!!!!」おおおおおお、推しが!沢村くんが!かっこよすぎる!さすがすぎる!私は沢村くんのすごさ、尊さ、かっこよさ、存在、全てにやられて、周りと同じように、だが、1人で静かに興奮していたのであった。*****試合終了後、両校が落ち着いたところを見計らって、私は階段を降りていた。もちろん沢村くんに一言声をかける為だ。私と一緒にいた雪乃は今この場にはいない。当初の予定通り、他校のイケメンと合流中だからだ。コート内が見える扉の前まで来て中を覗くと、そこには部員に囲まれて、笑っている沢村くんの姿があった。…やはり、とても、とても、かっこいい。普段の沢村くんもかっこいいが、今日の本気でバスケをする沢村くんもまたいつもと違ったかっこよさがあった。真剣な姿も、光る汗も、華麗なプレーも、何もかもよかった。あんなにも尊く、素晴らしい存在を私は知らない。真剣にバスケをする沢村くんのことを知らなかった今までの私はどうやら人生を半分損していたようだ。ここから沢村くんまで結構距離がある。未だに沢村くんは部員たちと談笑中で、声をかけづらい状況だ。どうやって声をかけよう?と、沢村くんに声をかける方法を模索していると、たまたま沢村くんと目が合った。私と目の合った沢村くんは一瞬、「あ」という表情になり、嬉しそうに目を細める。それから周りの部員たちに声をかけ、なんとこちらにわざわざ駆け寄ってきてくれた。「鉄崎さん、今日はありがとう。ちょっとあっちで話さない?」いきなり目の前まで迫ってきた推し。何と眩しく、尊い存在なのだろうか。「…う、うん」私は早鐘のように鳴る心臓をなんとか押さえて、沢村くんに頷いた。*****沢村くんと2人でやってきたのは、体育館の裏口の外だった。そこには誰もおらず、私たちだけだ。私たちは
last updateآخر تحديث : 2025-12-27
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28.望むこと。

「…お、恐れ多い、です。私なんかが沢村くんを下の名前で呼ぶなんて…」あの沢村くんのことを気軽に下の名前で呼ぶなんて、例え沢村くんからのお願いであっても、どうしても私には無理な話だった。沢村くんからのお願いに応えられず、罪悪感でいっぱいになる。そんな私を沢村くんは少し困ったように見つめた。「柚子は俺の彼女なんだし、恐れ多くなんてないよ?」「…え、あ、そうだけど。で、でも…」なかなか首を縦に振れない私を見て、沢村くんの表情がどんどん曇っていく。私がそうさせてしまっているのは百も承知だ。けれど、恐れ多くて本当に下の名前で呼べないのだ。だが、推しである沢村くんにあんな表情をさせてもいいのか。……良いわけがない。良いわけがないだろう。呼ぶ、呼ぶぞ。私は推しの名前を呼ぶぞ…!何とか沢村くんの名前を呼ぼうと、口をパクパクさせる。しかしなかなかその決意は声にならず、もどかしかったが、ついにその時はきた。「ゆ、ゆう、ゆ、悠里くん…!」「っ!」やっと私から発せられた推しの神々しい名前。私の言葉に沢村くん…いや、悠里くんは、その表情を一気に明るくさせた。「…ありがとう、柚子」嬉しそうに目を細め、私の名前を呼ぶ悠里くんに胸が暖かくなる。大変だったが、呼べてよかった。やはり、推しは笑っていなければならない。推しの幸せが私の幸せなのだから。「柚子、あと、もう一つお願いなんだけど…」嬉しそうに笑っていた悠里くんが再び言いづらそうに口を開く。今度は一体どんなお願いなのだろう、と先ほどとは違い、少し身構えていると、悠里くんから案外簡単なお願いが出てきた。「…柚子のスマホのホーム画面、今、華守との写真だよね?それを華守との以外に変えて欲しいんだ」そこまで言って、悠里くんは「勝手に覗いてごめん」と本当に申し訳なさそうに謝罪した。だが、私は勝手に覗かれたとは全く思っていなかった。人のスマホのホーム画面など、一緒にいればどこかのタイミングで目に入る時もあるだろう。そんなことよりも、悠里くんからのお願いが先ほどとは違い、とても簡単なもので私は安堵した。これならいくらでも叶えられる。「ホーム画面ね。あれ、勝手に千晴が変えてきて、変えても変えてもあれにするから面倒くさくてそのままにしてたんだよね」そう言いながら私は服からスマホを取り出す。そ
last updateآخر تحديث : 2025-12-28
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29.突然の来訪者。

あの素晴らしすぎる練習試合から数日後。平日の夜、私は自分の部屋でくつろぎながらスマホの画面を見ていた。スワイプしても、スワイプしても、出てくるのはデートの時に死ぬほど撮った、私の推しである悠里くんの写真だ。整った顔立ちも、爽やかな笑顔も、黒いサラサラな髪から覗く優しげな瞳も。全部全部、尊く、眩しい。推しの神々しさに、ついついだらしない表情を浮かべていると、スマホの画面に悠里くんではない人物が現れた。異様に整っている顔立ちの美人、千晴だ。スマホの画面に映っている千晴はキラキラと輝く夜のメルヘンランドを背景に、私と共に笑っていた。私とお揃いのバケハとサングラスを身につけて。「ふふ」その写真を見て思わず頬が緩む。それからあの特別で楽しかった1日に私は思いを馳せた。どのアトラクションも待ち時間0分で体験でき、疲れたらVIP専用の特別なラウンジで休める。アトラクションはどれも楽しく、日常を忘れさせ、ラウンジの食べ物や飲み物は全てチケットに含まれている為、食べ飲み放題でどれも最高に美味しかった。きっとあの特別な体験は今後一切できないものだろう。そこに千晴がいて、私はとても楽しいと思えた。特別を1人ではなく、2人で味わえたことによって、さらに最高の1日を過ごすことができた。素行は悪いし、学校のルールもろくに守らないし、マイペースでめちゃくちゃなやつだけど、ちゃんといいところもあるやつなんだよね、千晴は。メルヘンランドでも、私が行きたい、と言えばどんなアトラクションにでも付き合ってくれたし、苦手らしいお化け屋敷でも私を守るように歩いてくれていた。まっすぐ曲げずに思ったことを相手に伝えられる素直さもあるし、本気でスポーツに打ち込む熱意や強さもある。みんなももっと私のように千晴のいいところを知れば、あんなふうに怖がることもなくなるだろう…と言いたい。だが、実際は千晴には申し訳ないが、胸を張ってそうだとは言い切れないのが現状だった。結局は千晴のあの周りを圧倒する態度、素行の悪さが、今の千晴の現状を招いているのだ。少なくとも学校生活の中では100%千晴が悪い。千晴の評判が悪いのも、怖がられているのも、全部千晴のせいだ。周りの誰も悪くない。千晴のことをたまたま深く考えていると、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。ご近所の佐藤さんでも来たのだろう
last updateآخر تحديث : 2025-12-29
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30.お嬢様、襲来。

気が付けば私は、私の小さな部屋の丸テーブルを挟んで、千夏ちゃんと向き合って座っていた。そんな私たちの様子を、私の部屋には入り切らなかったゴリマッチョスーツたちが、扉の外、廊下から鋭い視線で見張っている。異様な空気に包まれるこの部屋の丸テーブルの上には、マイペースなお母さんが当然のように用意した暖かいお茶があった。マイペースだが、行動力のあるお母さんに、ただただすごいなぁ、と感心してしまう。…いや、違う違う。そこではなくて。「本当にこんなところに人が住んでいるのね…」状況をまだあまり理解していない私の目の前で、突然千夏ちゃんが興味深そうにそう呟く。まるで異世界にでも迷い込んでいるような千夏ちゃんの様子に、私はつい聞いてしまった。「…こんなところって?」「こんなところはこんなところよ。こんな小さな家に人が住めるわけないと思っていたの。ここはまるでうちの愛犬、ラブちゃんのお家だわ」「…はぁ」戸惑いながらも喋り出した千夏ちゃんにやはり理解が追いつかず、間の抜けた返事をしてしまう。我が家は全く小さくないし、一般的な家の大きさだ。お父さん、お母さん、私、3人で住むには十分すぎる広さがあるし、何不自由なく生活してきたつもりだ。それをわんちゃんの家と同じだと言うとは、一体どのような価値観、感覚の持ち主なのか。「でもこのサイズが本当は一般的なのよね。一応、一般常識として教えられてはいたけれど、実際に見て、足を踏み入れると、圧巻ね。驚いたわ」「…そうですか」私の適当な返事を全く気にも留めず、私の部屋を隅から隅まで観察する千夏ちゃんに、私は若干表情を引きつらせた。千夏ちゃんは間違いなく、思考が一般人のそれとは違うようだ。そこまで考えて、ふと、千夏ちゃんの兄である千晴のことが頭をよぎった。千晴は華守学園出身で、どうやらスーパー金持ちらしい。つまり妹である千夏ちゃんも当然、スーパー金持ちであり、こういう感じになってしまっているのだろうか。「日本を牽引する華守グループの跡取りであるお兄様の選んだお相手が一体どんなお方なのかとわざわざ見に来たのだけれど…。まさかこんな家に住むようなお方だったなんて…」気が付けば、何故か千夏ちゃんは憐れむように視線を伏せ、大きなため息をついていた。明らかに失礼な態度を取られていることはわかっている。だが、そんなこ
last updateآخر تحديث : 2025-12-30
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