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40:ファンの境界線

last update Dernière mise à jour: 2025-12-14 15:36:37

「……はぁ」

 昼休みの会社のオフィスにて。私はデスクに突っ伏して、本日何度目かわからない深い溜息をついた。

 周囲では同僚たちがちょっと不審の目を向けている気配がするが、今はそれどころではない。

(やらかした……)

 脳裏に蘇るのは昨夜の記憶だ。お風呂上がりの無防備な彼の姿。私の太ももに乗せられた、ずっしりとした頭の重み。そして、あろうことか朝までそのまま寝かせてしまったという失態だった。

 足が痺れて死んだとか、そんなことは些事だ。

 極めつけは、私の口からこぼれた不敬極まりない一言だった。『私だけのものならいいのに』。

「……死のう」

 ごつんと机に額を打ち付ける。

 何様だ私は。彼は国民的アイドル、綺更津レンなのに。世界中の何百万、何千万人というファンが彼の笑顔ひとつに一喜一憂し、彼の幸せを願っている。それなのに独占したいだなんて。

 彼を一人の男性として見始めたら、それはファンの死だ。神聖な推し活がただの欲塗れな恋愛感情に成り下がってしまう。それだけは絶対にダメだ。

 私はモブとして、キラキラと輝いている推しを応援していたかった。私自身の薄汚れた心はそこにいらない。

「死ぬのはさすがにあれだから。距離感を戻そう」

 顔を上げ、決意を固める。

 今日からは徹底的に「ファン」としての距離感を守る。家政婦としてあるいは飼育員として、彼をサポートすることだけに徹するのだ。

 そして彼がすっかり心身の健康を取り戻したら、放流してあげよう。

 ……違った。身を引いて引っ越しでもしよう。

 それが私が彼にしてあげられる唯一の誠意なのだから。

 夜になると、いつものようにふらりと彼がやってきた。パステルイエローのモチ犬スウェットに着替え、当然のような顔でビーズクッションに座る。

「腹減った」

「はい、すぐご用意しますね」

 私は極力、事務的なトーンで答え

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