小山田の言葉には、心からの敬意がにじんでいた。 小夜子は困ったように微笑む。「そんな、大層なことではありません。私はただ……もったいないお化けが怖かっただけですから」「お化け、ですか?」「はい。実家では食べ物を粗末にすると、本当に怖いお化け……いえ、厳しい罰がありましたので」 小夜子の言葉に、小山田は涙ぐんだ顔でくしゃりと笑った。 厳しい罰というのを軽い冗談だと思ったようだ。「……かないませんな。これからも、ご指導お願いします」 小山田はもう一度頭を下げ、部屋を下がっていった。『小夜子! お前、こんなに食材を余して! もったいないと言えば何度分かるの!』 小夜子の脳裏にヒステリックな義母や義姉・麗華の声が蘇る。 言いがかりのような八つ当たりは、白河家では日常茶飯事だった。『お前は野菜の皮だけ食べていればいい!』 そのおかげで料理に工夫をするようになったわけだが。 小夜子は軽く頭を振って、嫌な思い出を追い出した。(もったいないお化けは本当に怖かったわ。痛くて怖くて、でも泣いたらもっと痛い目に遭って。あの人たちから離れられて、今は本当に幸せ) ふすまが閉まる音がして、部屋には隼人と小夜子の二人だけが残された。 静けさが戻る。 隼人は手酌で日本酒をグラスに注ぎ、一口飲んだ。長く息を吐く。「……完敗だ」 独り言のように、ポツリと呟いた。小夜子は給仕の手を止めた。「旦那様?」「俺の負けだと言ったんだ」 隼人はグラスを回し、透明な色の液体を見つめた。「俺はあいつらの無駄に高いプライドをへし折って、力尽くで従わせるつもりだった。リストラをして、恐怖で支配するのが一番早いと思っていたからな」 彼は顔を上げ、小夜子をまっすぐに見た。その瞳にはいつもの冷徹さではなく、どこか熱っぽい光が宿っている。
Last Updated : 2025-12-20 Read more