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53:破られた小切手

last update 公開日: 2025-12-21 10:34:25

 冬の鎌倉は凛とした寒さと静けさに包まれていた。

 午後1時、海からの風は冷たいが空は高く澄み渡っている。

 閑静な住宅街の一角にある重厚な門の前で、隼人が足を止めた。

「ここだ」

 彼は門の奥にある広大な敷地をにらむように見上げた。

「この大河原(おおがわら)邸の土地さえ手に入れば、アーク・リゾーツの『鎌倉ヴィラ計画』は完成する。プロジェクトの成否を握る最後のピースだ」

 隼人は隣に立つ小夜子を一ちらりと見た。

「お前を連れてきたのは、茶飲み話の相手くらいにはなると思ったからだ。前回の旅館のように、頑固な年寄りの懐柔でもしてみせろ」

 それは妻に対する言葉ではない。便利な道具、あるいは機能的な潤滑油として期待する、冷徹な経営者の言葉だった。

 けれど小夜子は静かに頷いた。

「承知いたしました」

 彼女にとって、期待されることは喜びであり、役割を与えられることは安らぎだったからだ。

 隼人はそんな彼女に一瞬だけ眉をしかめたが、
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    「そうだよな。実加ちゃんの言う通りだ」 ベテランの清掃員が、大きくうなずいた。「俺たち、ちょっと浮かれすぎてたかもしれない。よく考えたら、見ず知らずの連中がいきなり倍の給料払うなんて、裏があるに決まってる」「あんな連中に、このホテルを乗っ取られるのはごめんだね」「そうよ。このホテルは社長と総支配人と、それからあたしたちが作ったホテルなんだから」「みんなで頑張って、今の経営陣を支えようぜ。こんな詐欺みたいな話に負けてたまるか」 スタッフたちの表情から不安の影が消えて、晴れやかなものに変わった。 さらに、消えた不安の代わりに強い結束の光が宿り始めていた。 疑心暗鬼の霧が晴れて、1つのチームとしての活力が戻ってくるのが、声のトーンから手に取るようにわかる。「ウチらが今できるのは、今まで通り仕事をきちんとこなすことだけ。お客様に真心込めたサービスを提供しようぜ!」 実加が言うと、周囲から次々と賛成の声が上がった。 通路の陰でその様子を聞いていた小夜子は、安堵の息を長く吐き出した。(信じてくれてありがとう。ええ、あなたたちの居場所は、私が絶対に守り抜きます) 小夜子は踵を返し、社長室へと歩き出した。パンプスが床を叩く音が、先ほどよりもずっと力強く軽やかに響く。 内部の足場は固まった。 従業員たちの心は、もう二度とグラン・ヘリックスの甘い罠には揺らがないだろう。 社長室のドアを開けると、隼人が窓際から振り返った。 彼の表情も、どこかスッキリとしている。 どうやら、彼が担当した部門のチーフたちへの説得も上手くいったようだ。「小夜子、そっちの様子はどうだった?」「完璧です、隼人さん。翔吾さんのレポートと、実加さんの言葉のおかげで、スタッフたちの迷いは完全に吹っ切れました。もう、内部が崩れる心配はありません」 小夜子は隼人の隣に並び立ち、窓の外を見下ろした。「ああ。これでようやく、後顧の憂いなく反撃に転じることができる」 隼人の目に

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