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彼と彼女と隠し事②

مؤلف: 晴坂しずか
last update تاريخ النشر: 2025-12-26 19:10:04

 神崎の部屋へ入るのは三度目だった。

 室内にいくつかの段ボールが積まれているのを見て、相楽は言った。

「もう引っ越しの準備、始めたんですね」

「うん、少しずつ進めてるんだ。いつ部屋が決まってもいいように」

 答えながら神崎は髪の毛を後ろでゆるく結わえた。

 相楽はローテーブルのそばに腰をおろし、かばんを床へ置く。

「やっぱり広い方がいいですよね。最低でも1DKでしたっけ」

 相楽のアパートでは狭いという話になり、二人は一緒に住む部屋を探しているところだった。

 神崎がキッチンへ立ち、蛇口をひねって手を洗う。

「うん。おれ、いっぱい服持ってるからさ」

「おしゃれですよね、神崎さん」

「ただ古着が好きなだけだよ。でも、コレクター気質なのは認める」

 と、冷蔵庫から食材を取り出して、夕食を作り始めた。

 神崎の部屋は半分近くを服が占めており、棚には可愛くて人気なキャラクターのマスコットが並んでいる。

「もしかしてウカポン、増えました?」
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  • 久我探偵事務所の灯りの下で   灯りの下③

     やわらかな灯りの下でレイは続ける。「誰もぼくを必要としてくれなくて、いらない存在なんだって、悪夢が……」 彼を蝕んでいたのは、いじめられた時の記憶だ。 茶々丸という、社会とのつながりを保つ唯一の理由を失って、迷子になっていたのだ。「だから、変なことすれば、みんなかまってくれるって、思った」 それが帯裏ミステリーだった。「なのに、タケがずるをした。だからムカついた」「すまなかったな。だが、見過ごすわけにはいかなかったんだ」「追いつめてやろうと思った。ぼくをいじめたやつらと同じだと、思ってた」 その言葉には誰も反応できなかった。ただ、璃久が言う。「ボクもそうなんですけど、人って、自分の知っている範囲でしか、物事を捉えられないんですよね。 新しいことや未知のものを、無意識に、すでにある知識や経験にあてはめちゃうんです」 何人かがうなずき、感心してから、レイを見る。「狭かったな、お前の世界。でも、これからはそうはさせないぜ」 間遠はそう言ってレイの肩へ腕を回した。「いつでもここに遊びに来い。神崎はだいたいいるし、オレがいる時なら話し相手になってやる」 レイが小さく嗚咽を漏らした直後だった。「待て、間遠。僕はまだ許していないぞ」 温かくなりかけた空気が一気に冷めた。「ここは僕の事務所だ。最終的な判断は僕がくだす」 正論だった。「まあ、そうだよな。久我ちゃんの言う通りだ」 と、鯉川は缶ビールを開けた。「ボクは部外者なので黙ってます」 璃久はお寿司をいくつも皿に取り、神崎も言う。「その前に浩介の意見も聞いてやってください」「え、自分? あー、えっと」 注目された相楽は困惑しつつも、立ちあがってレイを見た。「正直、許せません。レイのやったことは悪質だし、事情があったからって同情もしません」 相楽の声は大きくてよく通るだけに、レイの心へまっすぐ届くように思われた。「けど、大事なのは過

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   灯りの下②

     レイは理解しがたいと言った顔をする。「でも、いなかったじゃないか」「うん、ここしばらくは忙しいみたいで、顔出してないな。けど、そもそもはゆるく体を動かすのが目的だ」 駅前のベンチから人が減り、夜の静けさが漂い始める。「たとえばサッカーをやりたい人がいたら、同じくやりたい人を集めてやる。 だいたいは休日の数時間で、長時間の拘束はしないのがルールだ」「何、それ……」「人数が多いと試合になることはあるけど、勝ち負けにはこだわらない。 スポーツを楽しみたい人だけが集まってるからな」「……意味分からない」「レイにとってはそうかもな。でも、居心地のいい場所ってのは、かならずどこかにあるものなんだよ」 間遠は経験から知っていた。「伊上がそれを作ってくれて、オレはまたスポーツを楽しめるようになった。 だから、あいつにはめちゃくちゃ感謝してるんだ」 辺りが薄暗くなり、駅前の明かりが存在感を増す。「それでさ、話は少し変わるんだけど、今度はオレが居場所を作ってやれないかって思ってる」「……」「レイ、オレがお前の居場所になるから、来いよ」「来いって、どこに?」 戸惑うレイに間遠はまぶしい笑みを向けた。「決まってんだろ、久我探偵事務所だよ」 意外にもレイは嫌がらなかった。 間遠は扉を開けて中へ入るようにうながし、レイがおずおずと室内へ足を踏み入れる。「お待ちしてました!」 と、開口一番に言ったのは名城璃久だった。 数歩進んだところでレイが立ち止まる。温かい視線ばかりではないことに気づいたのだろう。 実際、久我と相楽はまだ納得していない様子であり、鯉川も困惑顔だ。 にこにこと笑っているのは璃久だけだった。「や、やっぱり帰る」 視線に耐えかねたのか、怯えた様子を見せたレイへ、神崎が声をかけた。「あなたのために用意した料理、無駄にする

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   灯りの下①

    「これ、レイのいたずらっすよね?」 間遠桜はそう言ってスマートフォンの画面を久我健人へ見せた。 映っていたのはメッセージアプリのスクリーンショットだ。内容は間遠に対する悪口だった。「送られてきたのか?」 と、久我が眉間にしわを寄せるが、間遠は言った。「璃久ちゃんへの嫌がらせの後、しばらく何もなかったんで、忘れられてなくてよかったです」「……それで?」「今度はオレと遊びたいんだな、って返信しました」「傷つかなかったのか? あんな悪口を言われてたんだぞ」 間遠はスマホを操作しつつ、ちらりと久我を見やった。「別に。だってレイの捏造だってバレバレですし」「そうなのか? だが、どう見てもあれは……」 久我が困惑するのは当然だった。 大学の陸上部の仲間たちが、怪我をして走れなくなった間遠を嘲笑する内容だったからだ。 間遠は自信満々ににかっと笑う。「明らかなミスを犯してるんすよ、あいつ」 そして鯉川宗吾を振り返った。「鯉川さん、今送った画像の解析、お願いします」「明らかなミスしてるって言ってなかった? おじさんがやる意味ある?」「無視するのも可哀想でしょ。とにかく、お願いしますね」 と、間遠は自分の席へ戻った。 鯉川は久我と顔を見合わせて首をかしげるが、間遠はかまわずに今日のスケジュールを確認し始めた。 調査から戻る頃に、またレイからメールが届いていた。 今度は音声ファイルが添付されており、間遠は久我の前で再生した。 古い音声ということにしたいのだろう、ノイズが入っていて聞き取りにくいが、部員たちが間遠の悪口を話しているのが分かった。「すっげーな、レイって。こんなもんも作れるのか」 と、間遠が感心すると、久我は微妙な顔をした。「これも捏造か?」「当然っすよ。っつーか、何か勘違いしてるっぽいな」「どういうことだ?」

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ③

     璃久は膝を立てて三角座りをした。ぎゅっと膝を抱き、顔を埋めるようにして考える。 昨日、間遠が言っていた。ネットで拡散された写真を消すのは、いたちごっこだと。 璃久は悲しい気持ちになりながら言った。「終わりがないことをやっている自覚、ありますか?」「ああ、あるよ」「それでも、やめられないんですか?」「やめられないね。どうしても、俺がやらなきゃって思っちまう」 鯉川は立ち上がり、台所へ行くと冷蔵庫を開けた。 缶ビールを取り出し、その場でごくごくと飲み始める。「俺の両親はある意味、賢かったんだ。そういう写真に高値をつけても、買う人間がいることを知ってた」「……」「でも、それがあいつの……違うな、俺の人生までもを壊しちまったんだ」「もうやめてください、鯉川さんっ」 璃久が声をあげると、鯉川が冷めた目を向けて自嘲する。「璃久ちゃんには分からねぇよな、俺の気持ちなんてよ」「分かりません。でも、鯉川さんのやってることが、リストカットと同じだってことくらいは分かります!」 鯉川が目をみはり、璃久は震えそうになる足で立ちあがった。「もう許してあげてください。自分のこと、許してあげて……っ」 ぼろぼろと涙がこぼれ、頬を伝い落ちていく。「鯉川さん、もういいでしょう? もうそんなに自分をいじめなくても、いいはずでしょう?」「……贖罪だとしても?」「そんなの、自己満足じゃないですかっ。 もういない人に向けて罪滅ぼしをしたって、満足するのは自分だけじゃないですか!」 言ってからはっとした。「違う、満足なんてしない。するわけがないんです」「……」「だって、鯉川さんは満足しようとしてないでしょう? 行為が目的になってて、結果を見ようとしてないんです」 鯉川が小さく笑った。「すごいな、璃久ちゃんは。そうだ、俺は満足なんてしな

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ②

     鯉川がシャワーを浴び終えた頃、璃久も足の踏み場ができる程度には片付けができた。「ごめんね、璃久ちゃん。ありがとう」 と、濡れた髪のまま鯉川が戻ってきて、璃久はゴミ袋を部屋の隅へ積む。「別にいいんですよ。それより、みなさんから話は聞きました。大丈夫ですか、鯉川さん」 璃久がじっと鯉川を見つめると、彼は視線をそらした。「ごめん。でも、やらなきゃいけないんだ」「ハッキングして写真を消してるんでしょう?」 間髪をいれずに璃久が問うと、鯉川はパソコンの方を見て返す。「六年前に自殺した娘さんなんだ。 ネットのおもちゃにされてて、ひどいのだとディープフェイクまで作られてた。消したいって思うのは当然だよ」「だからって、鯉川さんが無理をしてまで、引き受ける必要はあるんですか?」 鯉川はため息をつき、奥の部屋からペットボトルのミネラルウォーターを取ってきた。「座って話そう。これ、飲んでいいよ」「ありがとうございます」 ペットボトルを受け取り、璃久は座卓のそばに腰を下ろした。 鯉川も座卓を囲んで左側に座り、キャップを開けて水をごくごくと飲む。しばらく水分補給すらしていなかったようだ。 半分ほど飲み干してから、鯉川は口を開いた。「昨日はドタキャンしちゃって、ごめん」「いえ、また今度にすればいいだけですから」「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、おじさんには話したくないことがたくさんあるんだ」「もしかして、ボクに帰れって言ってますか?」「……ごめん。せっかく来てくれて悪いけど、部屋も片付けてもらっちゃって悪いけど、できれば早く帰ってほしい」 いつもより伸びた無精髭が痛々しく見えた。普段の軽口は影すらなく、鯉川は弱々しい顔をしていた。「嫌です、って言ったら?」 鯉川がのぞきこむように璃久の目を見る。「璃久ちゃんって、可愛い顔して押しが強いんだよね」 からかうような口調ではなく、むしろ自信の情けなさを反映したような台詞だった。 璃久もミネラルウ

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ①

     日曜日の夕方、新宿の繁華街から少し離れた喫茶店で、名城璃久は間遠桜と向かい合っていた。「それで、鯉川さんに何があったんですか?」 たずねる璃久へ間遠は困ったように笑う。「オレも久我さんから聞いた話なんで、くわしいことは分からないんだけどさ」 と、前置きをした。「先週の金曜日だから、一昨日だな。依頼の相談があったんだけど、久我さんは断ったんだ。明確に法に反するから、って」「その依頼っていうのは?」「確か、娘の写真がネットで拡散されてて、それを消してもらいたいって話だった」「写真を消す?」 璃久が首をかしげると、間遠はアイスコーヒーを一口飲んだ。「拡散される原因になった一人を見つけることはできても、警察はすでに拡散された写真を消すことまではできねぇんだ」「そうなんですか?」「その写真が投稿されたサイトの運営者を通さないとならないし、時間がかかる。削除要請が通っても、その写真を保存した別の誰かがいて、また投稿するかもしれない。つまり、いたちごっこなんだよ」「ああ、なるほど……」「他に写真を消すとしたら、それこそハッキングするしかない。でもそれは犯罪だから、久我さんは断ったんだ」「それで?」「けど、鯉川さんが引き受けたらしい。それも、個人的にな」 璃久はびっくりして目を丸くした。「いくら止めても聞かなかったそうだ。なんか鯉川さん、怖い顔してたって久我さんは言ってたな」 間遠の目に心配の色が浮かび、璃久は言った。「実は今日、鯉川さんと食事をする予定だったんです。でも、ドタキャンされちゃって」「マジかよ、あの鯉川さんが?」 間遠が驚き、璃久は返す。「ボクもびっくりしちゃいました。だから、何かあったのかなと思って、間遠さんに連絡したんです」「そういうことだったか。となると、写真の削除をちまちまやってるのかもしれねぇな」「そうなりますよね。何だか心配です」 と、璃久は伏し目がちにテ

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   おもいあい③

     到着した警察に事情を話し、ようやく神崎は解放された。「約束通り、おれが送っていきます」 と、伝えると、女性は「お願いします」と、頭をさげた。今は神崎しか信じられないからだろう。 コンビニを出て歩き始めたところで、彼女がぽつぽつと話し始めた。「あの、あたしが、お兄さんに声をかけた理由、なんですけど」「何ですか?」 彼女は神崎のかばんをちらりと見た。「かばんにウカポンがついてたから、なんです」 はっとして見おろすと、確かにウカポンのマスコットをさげていた。 ついこの前まで家の鍵につけ

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   おもいあい②

     相楽は週に三回、ジムに通っている。仕事が遅く終わった日でも、トレーニングだけは欠かさないという。 そうしたストイックなところを、神崎はかっこいいと思っていた。だからこそ相楽を応援し、彼のために何でもしてあげたかった。 その日も相楽は仕事終わりにジムへ向かい、神崎は一人で帰路についていた。 コンビニの前を通りがかると、ふと甘いものが食べたくなった。 相楽は筋トレに励んでいるため、常日頃からお菓子をひかえている。 神崎も自然と彼の食生活に合わせており、ここ最近はまったくスイーツを食べていなかった。「ちょっとくらい、いい

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   愛と馬鹿と盗聴器①

    「所長」 神崎寿直に呼ばれたかと思いきや、メモを差し出されていることに気づいて久我健人は驚いた。 メモに目を走らせると「盗聴されています」の文字。 久我は無言で神崎を見あげてから、そっとメモを受け取った。裏返しにしてボールペンで書きこむ。「どこにある?」 神崎はすぐに給湯室を指さし、新たなメモを見せた。「この前おれが一人でいた時、ビルの配管に異常があるとかで点検するためにって業者が入ってきたんです」 久我は納得して筆談をやめ、口で返した。「なるほど、そういう

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   猫と桜③

    「この度は久我探偵事務所にご依頼いただき、ありがとうございました」 玄関先で間遠が頭をさげると、古川大貴も深々と礼をした。「こちらこそ、ありがとうございました」「それでは、失礼します」 と、間遠は玄関の戸を開いた直後、ふと立ち止まった。――広大な庭、目を楽しませてくれるさまざまな緑。「どうかしましたか?」 後ろから古川大貴が怪訝そうに声をかけてきて、間遠は振り返る。「箱の中に入っていた写真の意味、分かったかもしれません」「え?」 間遠は一歩外に出て、桜の木を見つめた。「

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