バンッ!諒助が書類を叩きつけるように閉じると、苦々しげに顔を歪めた。それを見た彰人は、空気を変えようとすぐさま話を振る。「そういえば不思議だよな。ウォーカーヒルはずっと記理子さんと諒助さんが管理していて、和久さんなんて滅多に顔を出さないのに。今日に限って誰かを連れ立って現れるなんて」すると、別の誰かが茶化すように笑いながら口を挟んだ。「まさか、例の告白動画のせいじゃないだろうな?」冗談めかした、冷やかしの声だった。けれど、諒助はそれを反射的に切り捨てる。「ふん、まさか。兄さんが茜に興味を持つはずがないだろう。それに、茜が愛しているのは俺だ」茜は自分に一途だ――それだけは、疑いようのない事実。そう断言しながらも、脳裏をよぎる最近の彼女の態度に、諒助は不快そうに眉を寄せた。その時、小気味よいドアベルの音が響いた。秘書の聡史がドアを開けると、ワゴンを押したスタッフが入ってくる。「中野副社長が手配なさったお料理です」「ああ」諒助は立ち上がり、彰人たちにも勧めた。席に着くと、スタッフの手によって次々と豪奢な皿がテーブルに並べられていく。周囲の面々は、一口食べるなり「さすがだ」と絶賛の声を上げた。だが、諒助だけは二口ほど口に運んだだけで、すぐにフォークを置いてしまった。何かが決定的に物足りない。その様子を、聡史は見逃さなかった。「……厨房へ行き、作り直させます」諒助は頷き、短く応じた。……茜はオフィスへは戻らず、そのまま総料理長の部屋へと足を運んだ。夜に控えた宴会のメニューを、どうしても再確認しておきたかったのだ。今回は外国人客が多く、アレルギーや宗教上の食事制限が極めて複雑だからだ。まさかそこに、諒助の秘書である聡史がいるとは思ってもみなかった。聡史は茜の姿を認めると一瞬だけ表情を強張らせたが、次の瞬間にはその唇に勝ち誇ったような嘲笑を浮かべた。茜と諒助が付き合っていた頃から、聡史が彼女に敬うそぶりなど一度もない。今さら関わり合うつもりもなかった。彼を視界から外すと、茜は料理長のデスクへ向かって真っ直ぐに歩き出す。献立について尋ねようとしたその時、聡史が遮るように手を上げ、茜を指差した。「わざわざ料理長の手を動かすまでもありませんよ。彼女にやらせれば
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