All Chapters of 結婚直前、婚約者は元カノと復縁しようとしている: Chapter 11

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第11話

あれから一年後、大地が私にプロポーズした。場所は、小雨の降る夕暮れの山の頂上だった。彼は夜景を見に行こうと言って、私を山頂の展望台へ連れ出した。車を止めると、目の前に広がる雨に滲んだ街のネオンが、まるで光の海のように揺らめいていた。ふと沈黙が落ちたかと思うと、大地はポケットから深藍色のベルベットのケースを取り出し、私の前で片膝をついた。「知子」雨音と街の喧騒の中、彼の声だけがやけに鮮明に響いた。「昔は誓いなんて重すぎて、自分には背負いきれないと思ってた。でも今は違う。君となら、これからの毎日を大切に積み重ねていけると思ったんだ。僕と結婚してくれ」差し出された彼の手は少し震えていたが、その眼差しは真剣だ。私が一番惨めだった時、片時も離れず寄り添ってくれた人。そんな彼を見ていると、思わずに涙が頬を伝った。私は頷き、涙声で、けれど確固たる意志を込めて答えた。「はい!」結婚式は翌年の春。身内だけの、ささやかで温かい式だった。私はシンプルなウェディングドレスを身に纏い、父の腕に引かれてバージンロードを歩いた。その先には、仕立てのいいスーツに身を包んだ大地が待っていた。彼の優しい眼差しは、過去の辛い記憶を、すべて包み込んでくれるような温かさだった。指輪の交換の際、彼の指先は微かに震えていた。彼は私の耳元で、祈るように囁いた。「知子、僕を選んでくれてありがとう」私は泣き笑いのような顔で頷いた。その瞬間、過去のすべての傷が癒やされた気がした。誓いの言葉が終わり、拍手が沸き起こる。親友たちの祝福の声が響いた。大地の笑顔を見ようと振り向いた時、ふと、入り口の暗がりが目に入った。そこに、亡霊のような男が突っ立っていた。サイズの合わないヨレヨレの古いスーツ。伸び放題の髭に、枯れ木のように痩せ細った体。かつての面影など見る影もなかった。手には薄汚れたビジネスバッグを握りしめ、虚ろな目で私たちを凝視している。かつて愛し、そして深く憎んだその顔には、凍りついたような驚愕と、隠しきれない惨めさだけが張り付いていた。その姿は、街角の浮浪者そのものだった。慎一だ。心臓がドスンと重く沈み、思わず足が止まりそうになった。記憶の中の意気揚々としていた彼の姿と、目の前の男
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