周囲の話し声が遠くで鳴り響く午後のカフェ。どこか落ち着かない気持ちで店内を見渡し、ようやく窓際の席に座る樹の姿を捉えた。「花澄」私の名前を呼ぶ声が耳に届き、彼が軽く腰を浮かせてこちらを気遣うように手を振る。その仕草一つで、数年前と変わらない樹の温度が伝わってきて、胸の奥がチクリと痛んだ。「樹……待たせてごめんなさい」私は早歩きで彼のもとへ駆け寄る。「謝らなくていいよ。まだ約束の時間にもなってないし。俺が勝手に早く来ちゃっただけだから、気にしないで」樹は困ったように眉を下げて笑い、優しく私を促した。その気遣いは、付き合っていた頃と何一つ変わっていなかった。「……ありがとう」その変わらない優しさが今の私には重くて、視線を伏せたまま椅子に腰を下ろす。カバンを膝の上で強く握りしめ、向き合う覚悟を固めた。「呼び出してごめんね」樹が少しだけ声を落として、私を見つめる。呼び出した彼自身も、この時間が残酷なものになると分かっているはずなのに、それでも会わなければならなかった彼の切実さが伝わってきた。「ううん。私も、ちゃんと話さないといけないと思ってたから」私は努めて静かに、けれどはっきりとした声で答えた。もう曖昧なままにしてはいけない。樹のためにも、私を信じて待っている壱馬さんのためにも。「そっか」短く、重く、樹が吐き出したその言葉は、カフェの喧騒に溶けることなく私の耳元に居座った。彼は一度だけ瞬きをして、私から視線を外す。その僅かな間に、彼が何を飲み込んだのかを想像して、私は指先をぎゅっと握り込んだ。「樹、私──────」本題を切り出し、終わりを告げようとしたその瞬間、私の言葉を遮るように、彼はあえて明るいトーンで言葉を重ねた。「せっかくカフェに来たんだし、まずは何か頼もうよ」「あ、うん。そうだね」不自然なまでに
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