「大したことありませんので、」 そう言った声は、自分でも驚くほど弱々しかった。 本当は、体が重くて、喉も痛くて、目の奥がじんじんと熱を持っているのが分かっていた。 でも、大したことないと、言わなければならなかった。 誰かに心配されることが、迷惑をかけることのように思えてしまうから。 立ち上がろうとしたのに、 「だめ」 壱馬さんの手が、私の肩にそっと触れた。 その手のひらの温もりが、あまりにも優しかった。 ああ、だめだ……このまま甘えてしまいそう。そんな危うい感情が胸の奥で静かに膨らんでいく。 「ですが……」 「だめ」 触れたら壊れてしまいそうなものを守るために、そっと手を伸ばすような声だった。 「食事のご準──────」 いつもの癖でそう言いかけた。体調が悪くても、誰かのために動こうとしてしまう癖。 でも、言葉は最後まで続かなかった。 「いいから休んでて」 その言葉は、命令のようで、でもどこまでも優しかった。 壱馬さんの目は真剣で、私の体調を最優先にしているのが伝わってくる。 「で、ですが、今日はドライブに」 声が震えていた。 約束を守りたかった。 壱馬さんとの時間を大切にしたかった。 「それはまた今度。時間はいくらでもあるんだから。ね?」 その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。 私は知っている。 時間は、永遠じゃない。 人との関係も、約束も、いつか終わってしまう。
Last Updated : 2026-02-27 Read more