志津は泰然自若(たいぜんじじゃく)としていた。数々の修羅場を潜り抜けてきた彼女には、崩れかけた局面を立て直す術が備わっている。律一人にすべてを背負わせるには、あまりに荷が重い。老体に鞭打ってでも支えようとするのは、拝島グループが半生を捧げて築き上げた、彼女の魂そのものだからだ。「おばあちゃん、僕を信じて任せてくれるなら、必ず事態を収束させます。これまで以上に盤石な組織に変えてみせます」律は静かに、だが熱を込めて語った。「伯父さんのことも、無下にはしません。利益の一部を譲ってもいいと思っています。……何だかんだ言っても、今おばあちゃんの側にいる血の繋がった息子さんは、あの方だけですから」それは律なりの、最大限の譲歩だった。地位や富への執着などない。ただ、志津にだけは顔向けのできない真似をしたくなかったのだ。志津は驚きに目を見開いた後、深く、重い溜息を漏らした。「律、お前がそこまで考えてくれていたなんてね……いいかい、お前はどこまでも私の孫だよ。余計な重圧を感じる必要はないし、ましてや外の噂話なんて気にするんじゃないよ」志津は律の目を見据え、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。「大きな仕事を成し遂げる人間は、瑣末(さまつ)なことに惑わされないものさ。だから何も恐れずに進みなさい。最後は私がお前の後ろに立ってやる」志津の言葉には、かつて鉄の女と呼ばれた頃の覇気が宿っていた。「これでも、私が会社に顔を出せば連中は震え上がるんだよ。お前が手を焼くようなら、この婆さんが直々に引導を渡してやるからね」「ありがとう、おばあちゃん」律の心にかかっていた重たい雲が、ふっと晴れていった。志津のその言葉さえあれば、もう何の迷いもなく腕を振るうことができる。彼が会社で実権を握り、正人たちを牽制してきたのは、決して金銭への執着からではない。身勝手な振る舞いを続ける彼らの目を覚まさせるためだった。長年、正人一家は拝島家の一員としての義務を何一つ果たそうとしなかった。それどころか、かつて会社を私物化し、内部から食い潰しかけたことすらある。もし志津が律にトップの座を託していなければ、グループはとうの昔に崩壊していただろう。昔の律は、それでも「家族だから」と情をかけ、完全に彼らの道を絶つような真似は避けていた。だが、度重なる勝手な振る舞いに、今ではすっかり
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