美羽は、海斗の姿をじっと見つめていた。その目には、何とも言えない感情が宿っている。この子は、あまりに中野家の顔立ちだ。「ええ、海外で産んだんです」凪は海斗の背中をそっと押して美羽の前へと促した。「海斗、美羽おばさんにご挨拶しなさい」「美羽おばさん、こんにちは」「まあ、かわいいですね」美羽は海斗の頭をなでた。「海斗くんのお父さんはどなたですか?もしかして、私の知っている方でしょうか」黙って成り行きを見ていた綾は、その言葉に顔を上げて凪の方を見た。凪は息子に視線を落として言った。「この子もいつかは父親の籍に入りますから。その時になれば、美羽さんにも自然とわかりますよ」「そうですか。その時は、お祝いさせていただきますね」もちろん、これは美羽の社交辞令に過ぎなかった。二宮家の令嬢である凪が、未婚で子を産み、家を追い出された。深く考えなくても事情は察せられた。しかも子供の顔は中野家の人間によく似ている。父親は湊しかあり得ない。時系列で考えると、婚約解消の前にはもう妊娠していたのだろう。当時の凪はまだ湊の婚約者だ。彼の子供を身ごもっても、おかしいことではなかった。美羽は思わず綾に同情した。凪は不倫相手というわけでもなく、今のところ二人の家庭をかき乱すそぶりもない。むしろ、堂々としているくらいだ。これでは綾がいくら腹を立てようと、悔しい思いを飲み込むしかない。もっとも、上流階級の家では、愛人に子供を産ませること自体、珍しい話ではなかったが。表沙汰になりさえしなければ、何事もなく丸く収まるのだ。美羽はさらに少し世間話をすると、長居はせずに席を立った。綾がエレベーターホールまで見送ると、美羽は綾の手をそっと握った。「綾ちゃん。湊が元気なら、他のことは大したことじゃないわ」綾は戸惑って聞き返した。「美羽さん、何のことですか?」美羽は声を潜めて言った。「おバカさんね、子供のことよ。私たち女は、少しくらい目をつぶらないとやっていけないのよ」「美羽さん、何か誤解されているみたいです」綾は離婚を望んではいたが、愚かではなかった。美羽がこうしてカマをかけてくるのは、海斗が湊の子供だと確信したいからに違いない。もし自分がそれを認めれば、湊のだらしなさを裏付けてしまうことになる。夫婦は一心同体
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